【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
いざ書き始める前にググったら、もう蛍飛んでないじゃないですか(怒)
そういうわけで新しいプロットを考える気にもなれず、作中人物に丸投げしたのがこの話。
8月21日(日)夏休み29日目
夏らしい爽やかな天気だった。
俺と英梨々は荷物とお土産を東京に送り、できるだけ軽装で旅を続けていた。英梨々は白い大きな帽子に、ノースリーブの白いロングワンピース。これぞ夏のヒロインといった正統な衣装を着ていた。手にはピンクゴールドのクラシックな腕時計をしている。
俺たちはローカル線に乗って揺られている。英梨々は北海道ミルクキャラメルを俺に一粒くれた。俺はそれを口に放り込んだ。甘い香りが口いっぱいに広がって美味しい。英梨々はゴミを回収しポシェットにしまった。
「倫也。大変」
「どうした?」
「蛍。もう飛んでないみたい」
「えっ・・・」
「北海道の蛍は7月の下旬がピークで8月の中旬にはいなくなるって」
「そっかぁ」
「どうしましょ」
「どうしましょ」
英梨々の夏休みの予定表には、今日は『蛍鑑賞』とだけ書いてあった。そういうわけで朝から何も考えずに電車に乗っているわけだが、すでに目的を失っている。こうなったら蛍の養殖場でも見学にいくか考えたが、ここは潔く無計画を反省し進路を変更すべきだろう。
「倫也。大変」
「どうした?」
「スマホ。つながらなくなった」
「あうち」
そして、さすが北海道である。あたり一面何もないところを電車は走っている。電波が届かないようだ。こうなったら、アナログで目的地を探すしかないわけだが、車内広告も少ない。地元企業の宣伝と、雑誌の宣伝ぐらいしかなかった。
「倫也。北海道と言えば?」
「カニ」
「じゃあ、カニ漁船乗ってらっしゃいよ」
「いきなり彼氏を売るなよ・・・カニは獲りにいくものじゃなくて、普通は喰うものだろ」
「海鮮は昨日食べたじゃない」
「肉もくったけどな」
「他には?」
「札幌ラーメン?」
「麺類は昨日食べたわね」
「クラーク」
「あれは男女不平等よね」
「どうだろ・・・あとは、小樽のガラス細工とか、函館の五稜郭とか」
「観光かぁ」
「不服?」
「行ったことあるのよね。あたし」
「ふむ。あとは向日葵畑とか、ラベンダー畑なんかも有名だよな。ラベンダーがいつ咲くか知らないけど、向日葵は今頃咲いているんじゃないか?」
「それいいわね」
俺は立ち上がって、壁に貼ってある電車の路線図を見上げる。
「で、英梨々。向日葵畑ってどこにあるんだ?」
「そんなの知るわけないじゃない。あんた調べたなさいよ」
「わかったよ・・・スマホつながってねぇな」
「はぁ・・・」 英梨々が深くため息をついた。
とりあえず進路的には空港に近づいている。蛍鑑賞を終えたらそのまま飛行機で帰る予定だった。
「なぁ、小樽でガラス細工を体験するとかどうだ?」
「あたしの芸術的創造性は火曜日に発揮されるのよ。絵ならいつでも描けるけど」
「難儀な能力だな・・・ガラス細工綺麗だけどな」
「地方にあって、東京にないものを探す方が大変よ?確かに小樽は観光地でガラス細工のお店が多いけど、だからといって、東京やネットで手に入らないわけじゃないわよね」
「それをいっちゃあ・・・」
「とにかく、あたしは街の観光なんてする気分じゃないのよ」
「だったら、あのまま湖の周りを散策しても良かったと思うが」
「昨日したでしょ。牧場は那須で飽きるほどいったわよ。今更、牛の乳しぼり体験だとか、乗馬だとか、うさぎ抱っこコーナーだのできると思う?もう高校三年生なのよ」
「普通の高校生なら楽しく遊ぶだろ。お前が観光しすぎなんだよ」
「とにかく、向日葵畑って決めたんだから、あんたなんとかしなさいよ」
「車掌さんに聞くか」
「そうね。それしかないわよね。倫也が聞いてらっしゃいよ」
「そういうのは英梨々の方が親切に教えてもらえると思うぞ」
「もう、しょうがないわね」
英梨々が先頭車両にいって、運転手のいるドアをノックした。ローカル線でのんびりしているせいか、それとも英梨々だからなのかは分らないけど、英梨々はそのまま運転室に入って車掌とお話をしている。
ローカル線は2両編成。型はかなり古い。床が木製で、座椅子は緑色の布だがあちこちがすれて色が変色している。古いのは否めないが、だからといって不衛生な印象は受けない。レトロ車両として大切にされてきたのだろう。ガタガタとよく揺れて、昭和の情緒が残っている。扇風機が動いていて冷房はないようだ。
しばらくして英梨々が戻ってきた。
「わかったわよ。向日葵畑」
「ここから近かった?」
「あっち」
英梨々が示した方向は、列車の進行方向と反対だった。
「じゃあ、反対車線に乗り換えないといけないのか」
「一番早くても、3時間後だってさ」
「無理だな」
「本数が少なすぎるのよね。赤字路線なんでしょけど。それでね、このまま行った先に何かないか聞いてきたのよ」
「それで」
「蛍鑑賞ができる公園があるって」
「それ、俺らが目指してた場所じゃね?」
「そうなのよ。『蛍はもう飛んでないみたいなんですけど』って言ったら、『そうなんですか?』ですって」
「そっか。案内の人じゃないし・・・しょうがないな」
「それでね、このまま終点まで行って、本線に乗り換えてから空港に向かいましょ」
「帰るのか?」
「うん。もういいわよ。倫也がど~しても、どぉ~しても、小樽に行きたいなら、寄ってもいいけど」
「いや、いいよ。帰ろ」
「うん」
向日葵畑見学に修正できなかった。この車両には俺と英梨々しか乗っていない。もう一つの車両には2人ほどおじさんとおばさんが乗っていた。
電車は広いところを走っているせいか、ゆっくりに感じる。長閑な田園風景が広がっていた。稲作じゃないかもしれない。コーンかな?
「倫也、牛がいるわよ。牛」
「どこ?」
「ほら、あそこらへん。放牧しているのかしらね?」
「個人の敷地なのかな、柵の範囲がえらく広いな」
「こういう自然な感じの牛はいいわね。触りたいとは思わないけど」
「喰いたいとかは?」
「ぜんぜん。だいたいあれは乳牛でしょ」
小さな川が流れている。付近では子供たちが遊んでいた。近くに民家がないので、ずいぶんと遠くまで自転車で来ているようだ。行動半径が都会の子供よりも各段に広いのかもしれない。熊とか出ないんだろうか?
英梨々は白いミュールを脱いで、長椅子に反対方向に正座して座った。
「おまえなぁ・・・小学生じゃないんだから」
「いいじゃない。誰も見てないし」
「そんなに景色面白いか?」
「だって、どこまで人間が開発して、どこから自然なのかよくわからないじゃない。ほら、鹿も見えるし」
「嘘?」
「ほら」
確かに遠くに鹿らしきものが見える。ということは、この辺りはもう人がいないのかもしれない。草原が広がっている。民家も見つからない。どんだけ広いんだ北海道。
「鹿はどう?喰いたいとか思う?」
「思わないわよ。小さい鹿なら飼ってみたいとは思うけど」
「またまた、そんなあざとい発言しなくていいぞ」
「べ・・・別に、あざとくなんかないわよ!ほら、可愛いしデッサンにちょうどいいじゃない」
「よくわかんねぇなぁ」
たわいもないどうでもいい話をしながら時間をつぶす。外を見るのが飽きたのか、英梨々が正面に座り直した。ミュールは履かずに、足をぶらんぶらんとさせている。
「暇ね」
「暇だな」
「やっぱり、ホテルの周辺で時間をつぶした方がよかったかしら?」
「そしたら、もう一度あの海鮮焼きそば食べられたかもな」
「あら、そうね・・・」
「過ぎたこと言ってもしょうがねぇけどさ」
隣に英梨々がいる。それだけで十分な気もする。よし、しょうがないから彼氏らしいところを見せつけてやろう。
俺は右腕を英梨々の右肩にまわした。
「なにしてんのよ」
「ちょっとワイルドなイメージで」
「暑いのよね」
「だなぁ」
エアコンが付いてない。窓はどこも10センチ程度開いていて、扇風機だけは回っていた。風が通るのでそこまで蒸し暑くはない。不快ではない夏らしい暑さだ。だからといってベタベタと触れ合う気になれないのはわかる。
英梨々は俺の左肩に頭を傾けて、ちょこんと乗せた。英梨々の日向の匂いがする。
「他にすることもないのよね。スマホも通じないし」
「だな。こういうのもけっこう楽しいけどな」
「別に楽しくはないわよ?」
「そっか」
今がどの辺なのかよくわからない場所で、俺も英梨々も退屈しながら、目的も持たずに2人で電車に揺れている。
2人で過ごす夏休みだから、俺は英梨々にそっとキスをした。英梨々は何も言わず瞳を閉じていた。
電車は心地よくガタガタ揺れていて、ときどき土と草の匂いが窓から風と一緒にはいってきた。
(了)
いかなる状況でも対応する、万能英梨々オチ。