【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
8月23日(火)夏休み31日目
今日は暑さが一段落して過ごしやすい陽気だった。日が傾き始めた午後の3時頃、俺は英梨々の家にお邪魔している。
庭ではパラソルが開かれ、白い丸テーブルとイスが並べてあり、そこには細川さん夫妻が私服で座っていた。
「さぁ、やるわよ。倫也」
「これは・・・」
「海鮮焼きそばの完全再現に決まってるでしょ」
「ほうぅ・・・」
今日はガラス細工か何かをするのだと思っていた。英梨々の芸術的創造性は火曜日に発揮されるのではなかったか。なぜに海鮮焼きそば。よほど気に入っていたらしい。見渡すと準備だけはだいぶできていた。
バーベキュー台には鉄板が敷かれている。長テーブルには氷の上に海鮮食材が並び、野菜、麺、調味料がある。
とりあえずTVの料理対決にでてきそうな豪華な海鮮に目を見張る。殻付きのホタテと牡蠣。有頭海老はたぶんブラックタイガーで大型だ。イカもいて透き通るぐらい鮮度がいい、というかうねうねと動いていて気持ち悪い。タコは足だけだったがでかい。これだけ集めるのにどれくらいの費用がかかるのか検討がつかない。
「いい?倫也。妥協は許さないわよ。究極にして至高の海鮮焼きそばを作るから」
「そっか、楽しみにしとく」
「はぁ?あんたバカじゃないの?死ぬの?倫也が作るに決まってるでしょーが」
「無理」
「諦めたらそこで試合は終了よ」
「始まってすらいないけどな」
「検索ぐらいしなさいよ」
「しょうがねぇなぁ・・・ホタテの殻の剥き方っと」
「そこから!?」
「あたりまえだろ、英梨々知ってるのかよ」
「知ってるわよ。隙間にナイフをいれて貝柱を切るのよ。しゃっしゃっとね」
「ほうぅ、やって見ろよ」
ちなみにホタテも海老も生きています。イカは・・・死んでて欲しいが元気だ。バットの上から逃げようとしている。海老が時々ピクンッと動いている。
英梨々がホタテを1つ手にもってナイフを滑り込ませると、貝殻が閉じてナイフが挟まった。もうナイフは動かない。
「・・・倫也」
「な?だから、素人には無理だから」
俺と英梨々が食材と格闘している時、若いメイドさんが皿に何やら盛り付けたものを、細川さんのテーブルに置いている。グラスにはビールが注がれていた。どうやらつまみを提供してくれたらしい。
「なぁ英梨々。厨房にはもしかしてコックさんがいるのか?」
「今日はパーティーじゃないからいないわよ」
「誰が作ったんだ?」
「海部さんじゃないかしら」
「じゃあ、手伝ってもらおうか」
「嫌よ」
「・・・小百合さんって料理は」
「人並みね。でも、こういう生の食材は扱えないわよ」
「なら、潔く細川さんに頼もうか」
「なんで、ゲストに頼まないといけないのよ」
「だって、このままじゃ進展しないぞ」
「・・・」
英梨々は細川さんのところへ行きニコニコしながらお願いしていた。そもそも細川さんができるか謎だったが、たぶんマルチな才能の持ち主だから可能だろう。執事は万能と相場が決まっている。
細川さんがこちらにきてペティーナイフを選ぶと、素早くホタテと牡蠣を処理し全部の貝が開いた。それからイカを取り出し、まな板の上でさばいていく。皮を器用に剥くあたりの手つきがプロだ。
イカを細くきって、一部を皿に盛り付け、ホタテの一つから貝柱を取り、それもスライスして盛り付けた。牡蠣はレモンと塩を振っている。それらをもって自分の席に戻った。うん。「生で喰うんかい!」と心でツッコミをいれておく。海老は処理していないから、このままでいいのだろうか。
「これで下準備はだいたいできたわね」
「野菜があるだろ」
「一応、キャベツと人参と玉葱をいれようと持っているけど、倫也、切れるかしら?」
「玉葱の皮ぐらいなら剥けるけど・・・」
「ほんと役立たずよね」
英梨々が今度は細川夫人を連れてきてお願いをしている。こちらは主婦らしい手つきで野菜を切っていった。その間に英梨々は炭に火をつけた。ニンニクみじん切りの瓶をあける。鉄板が温まったら調理開始だ。
「倫也、炒める手順は覚えた?」
「ああ、まずは野菜をよく炒めて水分を飛ばす。次に海鮮と麺を入れ、酒で少し蒸し焼きにする。その後に合わせ調味料で味付けをする」
「そうね。言うのは簡単よ」
「それにしても麺が多い気がするけど、何人前あるんだ?」
「10人前よ」
「そんなに?」
「一応、まかない飯を兼ねるから」
澤村家4人、細川夫妻、メイド長の海部さんと、さっきのメイドさん1名。あと俺か。ふむふむ、10人前でちょうどいいかもしれない。
「お嬢様。野菜はこのくらいでよろしいかしら?」
「はい。ありがとうございました」
「いいのよぉ。楽しそうで何よりだわ」
手には、ついでに作ったサラダスティックを持っている。ディップソースまで作っているから、かなり手早い。それをもって夫人もテーブルに戻った。
夫妻の座っているテーブルの足元に、いつのまにかノラ猫が来ている。どうやらこの猫はパーティーのたびにおこぼれをもらいに来る猫のようだ。ホタテをもらってムニャムニャいいながら食べている。さぞかし美味かろう。
「じゃあ、倫也。そろそろ行くわよ」
「おう」
「まずは油ね」 英梨々が油を鉄板に流し込む。
「そんなもんじゃね?」
「次は?」
「野菜とニンニク」
「ニンニクはこんなもんかしら?」
「もうちょい多くていいんじゃね。だれか監修ついてもらったほうがいいかも」
「・・・いいわよこれで」
英梨々がスプーンで二杯分のニンニクのみじん切りを淹れた。油で焼けていい香りがする。キャベツ、ニンジン、玉ねぎを投入。俺が右手に菜箸、左手にフライ返しもって炒めていく。火力もなかなかでている。
「こんなもんでいいか?」
「いいんじゃないかしら」
「じゃ次だ」
「次なによ」
「なんだっけ?そろそろ麺じゃないか?」
「じゃあ、麺の投入いくわよ~」
鉄板に麺が投入された。最初は固まっているので炒めにくい。
「お嬢様」
「うわっ」俺は驚いた。いつの間にか海部さんが後ろに立っていた。
「なにかしら?」英梨々はちょっと不機嫌になる。そろそろお世話になっているのだから慣れろ。
「いったんは酒か水をいれて麺を蒸しましょう。魚介も投入した方がよい出汁がでます」
「わ・・・わかってるわよ」
「よし、じゃあ英梨々、魚介もいれちゃえ」
「ちょっと倫也。イカが気持ち悪くて触れないんだけど」
「じゃ、かわれ」
俺と英梨々がドタバタとし始める。
「失礼!」
海部さんがまな板ごと持ち上げ魚介を投入し、酒を手早く振りかけて蓋をした。手早い。あっという間の早業だ。
「ちょっと、邪魔しないでよ、海部さん!」
「これも究極にして至高の海鮮焼きそばのため」海部さんは真顔だ。
「・・・」
「クスクスッ」
「ちょっと、倫也!?なんで笑ってるのよ」
「いやいや、なんだかんだ仲良くなっているなと思って」
「なってないわよ!」
喧噪に我関せず、海部さんは腕時計の針を見つめ、しゃがんでは炭の火力を見ていた。凝り性な性格と見た。
「そろそろです」
「了解」海部さんの合図で俺は蓋を開けた。磯のいい香りが広がった。
俺は手早く炒めていく。全体的にまざったら、ここで調味料の投入だ。
「よし、英梨々。合わせ調味料の投入だ!」
「どこにあるのよ?」
「あれ?」用意してなかった。塩と胡椒。あとは鶏ガラスープの素だっけ。どれくらい入れるのだろう。検索しないと・・・
「倫也。炒めないと焦げるわよ」
「そろそろ、調味料いれないと」俺は慌てた。
「失礼!」
再び海部さんが身を乗り出してきて、塩、胡椒、鶏ガラスープの素を適当に入れている。加減は大丈夫だろうか。
「ここで良く炒めてください。特に魚介は鮮度がいいですが、焼きムラのないように・・・」
「はい」
「倫也、次は?」
「なんだっけ?」
「ちょっと、あんた何忘れているの。これで完成?」
俺は一生懸命炒めている。けっこう暑い。暑い上に熱い。もう一人のメイドさんが氷水のはいったグラスを渡してくれた。俺はそれを一口飲む。なかなか気が利く子だ。名前なんていうんだろう。20代前半で童顔だった。
バイトのメイドは何人かいて、入れ替わりもあるので、なかなか覚えられない。
「ゴマ油ではありませんか?」海部さんが指摘した。
「それだ。英梨々、ごま油で仕上げて終わりだ」
「OK.これね」英梨々がゴマ油をドボドボとかけていく。
「お嬢さま、かけすぎです」
「あら、そう?サービスよ」
「よし、完成だな!」
「いえ、味を確認なさってください」
「あっはい」
俺は菜箸で少しつまみ、英梨々が構えた皿にのせた。海部さんにも少し味を見てもらう。俺も食べたがこれがなかなかどうして、美味しかった。
「いいんじゃないかしら?」
「だよな」
「もうひと塩でしょうか、なにか足らないです」
「そう?」
俺は手が空いたのでレシピを確認した。
「レモンを絞るってさ」
「なるほど」
それぞれの皿に焼きそばを盛り付け、カットレモンを添えた。英梨々が細川さんのところへ運ぶ。小百合さんもいつの間にかきていて、一緒にビールを飲んでいた。
「パパはまだ帰ってこないから、取り合分けてラップしておくわ」
「こんなもんでいいか?」
「うん」
英梨々がラップをかけると、メイドさんが屋敷の中へ持っていった。
テーブルは二つあったので、俺たちとメイドさん達の席かな?と思ったが、海部さんは2皿分を持って屋敷の中へと運ぶ。戻ってきたところで一緒に食べましょうと誘ったら、それはできないという。まぁ、そういうものなのだろう。彼女らは仕事中だ。合間か休憩時間に食べてもらえればいい。公私のけじめは難しい。
俺と英梨々はテーブルに座ると、メイドさんがグラスに入った麦茶をもってきた。俺はお礼をいうと、笑っていた。今日の童顔のメイドさんは愛嬌があって可愛い。
「いただきます!」と、英梨々が言った。俺も手を合わせる。
食べてみると、これがまぁほんと美味い。
「これは英梨々、究極かもしれん」
「あら、やだ。美味しいわね」
「自信なかったのかよ」
「あるわけないでしょ。まぁだいたいは海部さんのお陰よね」
「味付けしてもらったしな」
今はメイドさんが全体を見ている。調理台の片づけもはじめていて仕事にぬかりがない。温かいうちに食べればと思うがしょうがない。ときどきこちらを見ている。裏に下がるとグラスのビールを新しくもってきて、細川さんの空いたグラスを下げた。手慣れたものだ。
「英梨々。美味しいわよ。ほんと旅をさせたかいがあったわ」
小百合さんもご満悦である。そして発言が若干親バカである。細川さんからも褒めてもらった。
海部さんが戻ってきて、英梨々に「美味しかったです。ごちそうさまでした」といった。どうやら屋敷の方で食べてきたらしい。やはり、熱いうちに食べるのも礼儀だろう。いつのまにかメイドさんは屋敷に戻っている。今頃たべているに違いない。
「青のり入ってないのは気楽でいいわね」
英梨々はつまらないことをいって、満足気に笑っていた。
塀の上では猫が毛づくろいしていた。猫のお腹もふくれたらしい。
(了)
ニンニクをちょこっといれ、ゴマ油をどぼどぼかけただけで、焼きそばを作った気になっている英梨々がほんとカワイイ。