【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
まだ未練たらたらの倫也と、サブヒロインとして仕事をこなす恵。
恵の心情に関しては、チラ裏まで読んできた読者にはわかるかもしれない。
8月27日(日)夏休み36日目
翌朝。俺の体調は最悪だった。頭が痛い。喉が痛い。咳が出る。
「39.5度。トモ死ぬかも」
「おう・・・そんなことよりもだな・・・ゴホッ、ゲホォ。美智留はライブ行け」
「言われなくても行くけど、ちょっと心配だなー」
ちょっとだけかよ!?ここは、「ライブどこじゃないよ!」って優しく俺を看病するところじゃないの?何39.5度って、死ぬの?
「お前に風邪うつしたら、ゲホゲホッ、ごめんな」
「ああ、大丈夫、あたしは風邪ひかないから、ほら、美少女は風邪ひかないっていうし」
「バカの自覚あるんだな・・・」
「もう、無理してツッコミしなくていいから、トモはベッドで寝なよ、布団は干しておくから」
「頼む」
ベッドの方に移動した。時刻は7時。とてもこのまま起きられそうにない。今日は一日寝るしかなさそうだ。
美智留が近所の自販機でスポーツドリンクを何本か買ってきてくれた。枕元に並べる。
「誰か看病頼もうか?」
「平気・・・ゴホッ」
「平気じゃなそうだけど、まぁいいや。死ぬ前にあたしともう一発やっとく?」
「あのなぁ・・・」
「なんてね。今はもう澤村ちゃんいるもんね」
美智留が部屋から出ていった。俺はスポーツドリンクを飲み横になって目を瞑った。だいたいなんだよ『もう一発』って、まるで昨晩もやったみたいな言い方しやがって・・・
ふらふらしてて、頭が回らない。
誰か看病か・・・詩羽先輩じゃ足でまといで悪化しそうだ。出海ちゃんははりきってくれそうだが、こちらが逆に疲れるかもしれない。適任なのは1人いるわけだが・・・連絡する勇気もなければ、頼れる義理もなし・・・
※ ※ ※
頭の上がひんやりとして気持ちいい。
俺が目を開ける。俺の部屋の天井が見える。遮光カーテンから漏れる光と、デスクの明かりだけが部屋を薄っすらと照らしていた。
「あっ、ごめん。起こしちゃったかな」
少し高く澄んだ声がした。声のした方に顔を向けると、おでこの上のタオルが落ちた。体を動かそうとしたが重くてだるい。
視線の先に加藤がいた。
優しい目元で無表情。眉はしっかり手入れがされていて、オシャレで可愛いのに目立たない。ボブカットの髪に赤いピンをさして左耳を見せていた。一言でいうと可憐。こんなに体調がひどくたって胸がドキドキする。
「加藤・・・」
「ほら、上を向かないとタオルが落ちちゃうから」
俺は上を向いた。隣で氷水のカランカランという音がする。それから、またひんやりとした感触がおでこにのった。どうやら、そこにタライの氷水を用意したらしい。冷えピタよりもずっとひんやりしていて気持ちがいい。
「起きたついでに、薬も飲んだ方いいんじゃないかな」
「ごめん。ゴホッ・・・来てくれたんだな・・・ゴホッ」
「あんまりしゃべらない方がいいよ。声も枯れているし」
「ああ、すまん」
「安芸くんのご両親は?今日は日曜日だよね」
「週末は法事でな・・・ゲホッ」
「また、それ」
頭の上のタオルをひっくり返した。ずいぶんと熱があるようですぐにタオルが温くなる。
「39.5度。救急病院に行った方がいいかも」
「平気。ゲホッ」
「薬飲む?」
「飲む」
「何か食べる?空腹よりも何か食べてからの方がいいと思うけど」
「食欲ない」
「お粥は?」
「わから ゴホッゲホッ ・・・ない」
「うーん」
加藤の声だけが聴こえる。とても耳に心地いい声で囁くように話している。この声だけを聴いても俺は幸せな気分になる。風邪をひいて良かった・・・
「なぁ、加藤」
俺は右手をブランケットから出して、おでこのタオルを抑えた。もう温かい。それを抑えて落ちないようにして、加藤の方を見た。
加藤はマスクをしていなかった。無表情なのに可愛い。笑うともっと可愛いのに加藤はあまり笑わない。しばらく加藤の笑った顔を見ていなかった。最後に笑った顔を見たのはいつだろう。
「マスクした方がいいぞ」
「そうだね」
本当はマスクなんてして欲しくなかったけど、そうは言ってはられない。加藤はバッグからマスクを取り出すと、俺の顔にマスクをした。
「加藤!?」
「じゃ、とりあえず作ってくるから」
「ああ、ゴホッ。頼む」
ふぅ・・・、マスクが暑いのでずらした。加藤もけっこうお茶目なところはあるが、真顔なので冗談なのか本気なのかいまいちわからない。俺はそのまま目を閉じて、ゆっくりと体を休めた。頭のタオルがもう熱い。
加藤がタオルをまた交換してくれた。ひんやりとして気持ちがいい。音を聞くとそのあと部屋から出ていったようだ。
俺はまた、眠りに落ちた。
※ ※ ※
カラコロと心地良い音がしている。
また頭がひんやりとした。目を開けると、加藤がタオルを取り換えてくれていた。
「安芸くん。できたよ」
「ああ、悪いな」
「起き上がれる?」
「大丈夫」
足をおろして一度ベッドに座った。頭がクラクラする。加藤の作ってくれたお粥はテーブルの上に置いてあった。俺は下のクッションに座ろうと、一度立ち上がろうとしたら、ふらついて足がもつれ、加藤の方へ倒れてしまった。
ガタンッ
しばし静寂。
「あの、安芸くん・・・」
「ごめん・・・加藤」
「こんなラノベ主人公のお約束みたいなことはいいから、どいてくれるかな」
俺は加藤に覆いかぶさるようになってしまった。体の一部が加藤の胸の膨らみを感じていた。・・・でかい・・・
とりあえず横に倒れて、加藤から離れた。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?救急車呼ぼうか?」
「平気。ゴホッ。加藤のお粥を喰うまでは死にきれん」
「お米を茹でただけだよ」
「それでもだ」
俺は立ち上がってテーブルの前に座った。お粥の他に梅干しが用意されていた。頭がズキズキと痛い。
起きたせいかトイレに行きたくなったので、もう一度立ってトイレに行こうとした。
「トイレ行ってくる」
「大丈夫?」
「もし、大丈夫じゃないっていったら?」
「いってらっしゃい」
「だろ」
ふらつきながらも、壁をつたって下に降りた。トイレをすませ、手を洗い、ついでに歯も磨いておいた。加藤もいることだし口臭も気になったので、口臭予防薬で口もすすぐ。
別にキスするわけでもないのに。
階段を這うように上りなんとか部屋に戻るが本当に辛い。寝ていた方が良さそうだ。
「加藤、ごめん。やっぱり寝るよ」
「だから、薬を飲んだ方がいいよ」
「そうだな」
「そのためには、一口二口でいいから、何かお腹に入れた方がいいよ」
加藤の言い分はわかるけれど、いかんせん辛いのだ。俺はベッドに倒れ込む。
「安芸くん。横向いて」
「どうした?ゴホッ」
「口開けて」
加藤がスプーンにお粥をすくっている。
「あーん」
「だいたい甘えすぎだし、そういうのは彼女にしてもらうものじゃないかな」
なんだかんだいって、加藤が一口食べさせてくれた。このシチュエーションを全力で楽しモウ・・・
「あーん」
「・・・もう」
俺はまた口を開けた。雛鳥にでもなった気分だ。加藤がまた食べさせてくれる。
「あのさ、安芸くん・・・」
「あーん」
「甘えすぎじゃないかな?本当は起きて食べられるでしょ?」
「あーん」
「ずるいなぁ」
なんだかんだで、加藤は俺にお粥を食べさせてくれた。そのあと、渡された薬を飲み、コップの水で流し込む。。
「残りはラップして冷蔵庫いれて置くから、また後で食べられたら食べて」
「うい」
「あと、冷蔵庫にあったジュース飲んでいいかな?」
「そりゃ、どうぞ適当に飲んでください」
俺は寝がえりをうって上を向いた。加藤がまたタオルを替えてくれた。
ひんやりして心地いい。目を閉じる。
だめだ、本当に辛い。泣きたい。
※ ※ ※
ふと目が覚める。部屋はだいぶ暗くなっていた。どうやら外は日が沈んだらしい。
俺のデスクに明かりがついていて加藤が座っていた。本でも読んでいるのかな。
ベッドから起き上がりペットボトルで水分を補給する。さっきよりはだいぶ体が楽になってきた気がする。トイレに行こうと立ち上がった。
「安芸くん、起きた?」
「ああ、ちょっとトイレいってくる」
「気を付けてね」
下に降りてトイレをしませ、手と顔を軽く洗う。小腹が空いたので冷蔵庫を開けてお粥を取り出し、レンジで少し温めた。上にもっていくのもだるいので、リビングのテーブルに座って食事を済ませる。なんでもないただのお粥だったが美味しかった。
もう座って自力で食べられるぐらいまで回復した。
「安芸くん、ご飯食べたいなら運んであげたのに」
「ありがとう。でもここで食べれたから。うまかったよ。ごちそうさま」
「ただのお粥だってば。どう体調は?」
加藤が上から降りてきて、様子をみにきたようだ。食事して戻るのが遅くなり、心配をかけてしまったかもしれない。
「だいぶよくなったよ。もう一度薬を飲んで寝れば大丈夫そう」
「そう良かった」
「こんな遅くまでごめんな」
「しょうがないよ」
夜の7時を過ぎていた。そろそろ夕食の時間だろうに。
「加藤。もし何か食べていくようなら、出前でもとってな」
「ううん。そろそろ帰るよ」
「駅まで・・・送ってやれないけど」
「うん。平気だよ。・・・通いなれた場所だし」
ズキッとその言葉に胸が痛んだ。
そうだ。去年までは加藤は何度もうちにきていて、何度か泊まっていった。ゲーム作りの名目で俺たちはとても仲が良かった。
英梨々と付き合ってからは距離ができてしまった。それはしょうがないことなのはわかっているつもりだ。
今は出会った頃以上に2人の間は距離がある。加藤が意図的にとっている距離で、俺が縮めることのできない距離。こんなにそばにいるのにとても遠い。
俺は食べ終わった器を運ぼうとしたら、加藤が洗い物まで全部してくれた。
「さてと。じゃあ、また学校でね」
「ああ、うん。ありがとうな」
「咳も止まったみたいだし、良かった」
「そういえば、そうだな。喉もそんなに痛くないかも」
上へ戻った加藤がバッグを持って降りて来た。今日の加藤は実に加藤らしいピンクと白の装いだった。玄関まで送る。
「あとさ、あんまりこんなこと言いたくないけど」
「ん?」
「ちゃんとしたもの食べた方がいいよ?冷蔵庫に野菜がはいってないし、ゴミはコンビニ弁当のものばかりだし」
「はははっ、よくみてるな。大丈夫、ちゃんと外食もしているから」
「それ、ぜんぜん大丈夫じゃないから」
名残惜しい。加藤には帰って欲しくなかった。もちろん、そんなことは口にだして言えない。
「帰らないでくれ」と頼んだら、朝までそばにいてくれるかな・・・
加藤が玄関の扉をあけて、「バイバイ」といって出ていった。手もふらないし、愛想もなかった。
結局加藤の笑顔は見ることができなかった。
※ ※ ※
洗面所で歯を磨き、キッチンで薬を水で飲んだ。
「あっ!ああ~、加藤ぅぅ・・・!」
キッチンにガラスビンが洗って伏せてあった。
ドクペの瓶だ。英梨々にもらったレトロなドクペの瓶。夏の最後に飲もうと思ってとっていたのに、どうやら加藤が飲んでしまったらしい。
・・・しょうがないか。文句を言える道理もなし。
部屋に戻った。まずはスマホを探した。デスクで充電してあった。電源が落ちている。加藤が電源を切ったのかな。着信等で音が鳴る時があるし、気をつかってくれたのかも。
ベッドで横になって、スマホのスイッチを入れる。暗い部屋にスマホの明かりが広がる。LINEにはメッセージがたくさん入っていた。ほとんどが英梨々のもので、内容は暇をうったえるものが多かったが、こちらの心配もしているようだった。英梨々からの着信履歴も多数あった。
< ごめん英梨々 寝てた
> そうどう具合は?
< だいぶ良くなった気がする でも明日も寝てないと無理そうだな
> なら無理しないで寝てなさいよ
< そうする 英梨々の方はどうだ?
> 平気よ 元気で暇なぐらい 明日退院するから お見舞いにいってあげるわよ
< まぁお前も無理するなよ
> うん でも倫也そういう時は『はやく会いたい』って言うべきじゃないかしら?
< そうだな。じゃあ、また明日な
> また明日
< はやく君に会いたい
> べ・・・別にあたしは倫也になんて会いたいわけじゃないんだからね。ふん!
英梨々のテンプレのようなツンに俺は笑ってしまった。そういえば加藤は笑わなかったが、俺も笑う余裕がなかったな。
俺がこうやって笑ってるぐらいだから、英梨々も今、笑っているのかな?
< ツンはわかった。デレは?
> バカ。とにかく倫也も早く風邪直しなさいよね
< そうだな
> 風邪だと・・・キスできないでしょ
< ナイスデレ
> バーカ
なかなかチャットが辞められなくて、それから少しくだらない時間を2人で過ごした。
英梨々の笑顔が見えてくるようだった。
君に会いたい。
(了)
美智留はマイペース。
出海ちゃんは軽い。
加藤はこの重さが。