【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
ところでこの作品プロットは、日付に『風鈴』と書いてあり、内容に『風鈴制作』と書いてあった。
なめてんのか。このプロット作ったやつちょっとこっちこい。と思いつつ出来上がった作品。
意外とちゃんと着地しているあたりは、もはや英梨々に他ならない。
7月26日(火)夏休み3日目
今日の英梨々は黄色を基調としたアロハシャツに大きなサングラス。昭和のチンピラを思わせるような恰好をしていた。恥ずかしいことに、俺もおそろいの青いアロハシャツ、おでこにサングラスを乗せている。英梨々としては休暇中のハワイの芸能人をイメージしているらしいが、周りから浮いていることこの上ない。ベージュの短パンに履き心地のいいビーチサンダルまでそろえている徹底ぶり。
英梨々が予約した『風鈴絵付け教室』なるものに行くことになった。
炎天下を駅まで歩く時、すでに暑くてブーブーと文句を言っている英梨々をなだめ、コンビニでガリガリ君を食べさせてあやし、今やっと冷房の効いた電車に落ち着いたところだ。まったく世話が焼ける。
「風鈴の絵付けって、ガラスにマジックで塗るだけだろ?」
「そうだけど、ちょっと違うのよ」
「何が」
「ガラスと塗料が」
「へえぇ・・・」
英梨々に渡された資料を読む。風鈴のガラスにもランクがあって高価なものほど音色が高く、音がいいらしい。塗料はガラス専用の透き通ったものや、不透明色にしたいときはマニキュアを使うらしいのだ。全部を買いそろえるか、教室に参加するかで英梨々はずいぶんと迷ったようだが、絵の具ばかり種類が増えても大変ということで、教室参加に決めたようだ。参加費は1万円。
「高くね?」
「でも、人気で予約が大変だったのよ。高価な風鈴ってそれだけで一万円近くするのもあるし、妥当だと思うわよ」
「へぇ・・・」
「あんたさっきから、『へぇ・・・』しか言わないわね」
「いや、ぜんぜん詳しくないし、わからんからな」
「実際に風鈴を触って、聴き比べてみたらわかるんじゃないかしら?」
「英梨々はわかるのか?」
「さぁ・・・だから参加費払って体験するんじゃないかしら」
「なるほど」
ちなみに参加費1万円は税込み価格。2人で2万円。費用は全額英梨々持ち。ここでバイトしている俺が自分の分ぐらい負担してもいいが、それをすると英梨々のやりたいことができなくなる。こっちの財布事情に合わせないといけなくなるからだ。
お嬢様の育ちの英梨々に生活の不安はもちろんない。売れっ子同人作家として年収はすでにサラリーマン以上。。もちろんお小遣いとして使い放題。金銭感覚はすでに高校生のものでなく、別に散財したり、無駄遣いしたりはしないが、こういう美術系イベントには金を惜しまない。道楽者といったらいいのだろうか。
そういうわけで俺は素直に甘える。将来ヒモになりそうだなと思いながらも、交通費は自分もちで、ガリガリ君ぐらいは英梨々に買っている。いや、その方がヒモっぽいか。
「はい、これ」
「ども」
英梨々がくれたのはハイチューのレモン味。俺は包装をとって口に放り込む。甘酸っぱい香りが広がる。そのゴミを英梨々が回収し鞄にしまった。
地元のローカル線はのんびりと走り、カタカタとよく揺れる。
※ ※ ※
風鈴教室には10名が参加していた。小学校の図工室みたいな場所で、大きな木の机が4つほどある。参加グループも4組だったようでちょうどいい。俺と英梨々は後方左の席に座り、まずは授業を受けた。英梨々はサングラスをハンドバックにしまい、真剣に耳を傾ける。
ガラスの講義と一緒に風鈴の制作現場が映像で流れた。吹きガラスの逸品もので色など塗らなくてもすでに完成度が高い。
いくつか用意された風鈴を実際に体験しながら音を鳴らしてみる。確かに一つ一つの音が違う。見た目でなく音色で選ぶのもいいらしい。叩く棒でも音色が代わり、やはり金属だと高音になるが、木だと少しだけぬくもりのある音色になる。
俺みたいな無粋な人間だと聴き比べてうちに、どうでもよくなってきてしまう。風鈴はしょせん風鈴などという感想を抱くのは、俺にはきっと芸術的な才能が欠けているからなのだろう。
そこから一つを選んで絵付けする。俺は無難に透明のものを選んだ。形も丸いものだ。少しデコボコさせたものや、多角形を思わせるような形のもある。
英梨々は、薄い水色のひび模様のある風鈴を選んだ。クラックガラスと言うらしい。それだけですでに美しいのは素人でもわかる。
「ついつい値踏みしてしまうわね・・・」
「値段わかるのかよ」
「だいたいよ。手間のかかるガラス加工は値段が高くなるのは当然でしょ」
「どう手間がかかっているかなんてわからん」
「だって、倫也のその普通のガラスより、こっちの方がどう作っているかわからないでしょ?」
「そうだな」
「そういうことよ」
「へぇ・・・」
それぞれ一つずつ選んで席に戻る。各テーブルの箱にはたくさんのマーカーとマニキュアが用意されていた。それから絵付け用の小さなお皿や、小筆もある。なかなか本格的なのである。
「俺、マジックだけで十分なんだけど・・・」
「別に好きにしなさいよ」
「この皿ってもしかして、マニキュアの色を混ぜるのか?」
「そうよ。まずは色作り。次に実際に塗ってみて発色を確かめてから調整ね」
「へぇ・・・」
「何を描こうかしら」
「見本とか、作品の本とかあるみたいだぞ」
「うん」
見本が用意されていて、わからないところを質問すると手順を教えてくれるようだ。しかしまぁ、マジックで好きに塗る分には問題ない。ここに来ている人もすぐに塗り始める人がいる。見本を見て考えたり、本を読んで作品を探したり、人それぞれだ。
ぼんやりと自分のガラスを眺めて考えこんでいるのは英梨々だけだった。
途中から、風鈴教室に取材が来た。地元ケーブルTV局らしく、スタッフはカメラマンと音声さんの2人のみ。夕方のニュースコーナーで使うらしい。「制作風景を撮らせてもらっていいですか?」と質問され、みんなが許可をしていた。俺も別に構わないが、英梨々はすでに作品作りに集中していて、撮影スタッフに気が付いていない。
マニュキュアを開けて少量ずつ皿に塗って色を確かめている。俺はスタッフさんに「OKです」と、代わりに返事をしておいた。
集中しはじめると周りが見えなくなるのは、ある種の才能だと思う。撮影スタッフも別に声をかけたりしないで、カメラを静かに回していた。
金髪ツインテールの美少女ともなれば、おいしい素材だろう。カメラマンが遠目にさっきから英梨々を撮っている。当の本人はいつ気が付くか楽しみだが、まったく気が付く様子がない。
俺は撮影が気になったが、気にしていてもしょうがないので絵付けを開始する。中心から放物線の模様を3色で線をいれて完成だ。なかなかの出来栄え。風鈴の絵付けに何をそんなに悩めるのか俺には理解できない。クリエイターとしての才能が絶望的にないのかもしれない。
英梨々は小さな小筆でガラスに絵を描き始めた。小皿には数色がすでに用意されていて、マジックを使うつもりはなさそうだ。真剣な表情でガラスと向き合っていると職人に見えなくもない。が、残念なのはアロハシャツを着ていることだろう。ほんとがっかりで、それらしき作業着なら画面映えもしただろうに。まぁアロハシャツも可愛いのだけど。
俺は自分の作業が終わったので、いったん席を立ってトイレにいって時間をつぶす。それから、他の人の作品を見てまわった。どれもこれも風鈴である。線、水玉、花柄、そうそう奇抜なものが描けるわけでないし、ゴタゴタとかけばガラスの風合いが失われる。みんな適当なところで完成させたが、英梨々だけはまだガラスと向き合っている。
いつの間にか、カメラマンが英梨々の後ろにいて手元を写していた。英梨々自身を十分に撮れたので。次に制作しているところを撮っているのだろう。
先生が絵付けの終わった人から、紐と舌(ぜつ)と呼ばれる風鈴にあたる棒の部分を選んでもらっていた。紐も組み紐でいろんな色が用意されていて上等なのがわかる。舌(ぜつ)の部分も素材がいろいろあった。金属製よりもガラス製のものが見た目もよく人気のようだ。紐の下に短冊をつけて風で揺れるようにしたら完成。
俺は適当に選び、適当に完成させる。シンプルなデザインのシンプルな風鈴。ガラスがいいせいか高価な逸品物に見えなくもない。充分満足する。
英梨々のところはまだカメラが密着していた。カメラマンも同じ体勢のまま大変だなぁと思ったのと、こっちの舌(ぜつ)の制作は撮らなくていいのかと心配になったが、撮影に夢中らしい。
俺がそばに戻ってみてみると、英梨々はカットされたスイカと皿を描いていた。これがなかなかどうして緻密で、スイカはみずみずしく見える。風鈴のもつガラスの風合いを空にでも見立てたのか、スイカは大きすぎずあまり主張していない。この絶妙な構図。
小筆を使う繊細な動作は、いささか夕方のニュースには不釣り合いかもしれない。
英梨々が筆をおいて、大きく息を吐き出した。これで完成らしい。
「倫也~」と俺を呼びながら、カメラマンの方に振り返っていた。それからカメラに気が付いて固まっている。カメラマンはカメラを上げて英梨々の顔を写す。英梨々はよくわからないまま作り笑顔を作って、風鈴を見せている。この辺はもう天性の才能なのか、産まれてこの方ずっと美少女でカメラ慣れしているからなのか、よくわからない。
「英梨々。次はこの舌(ぜつ)っていうのを組み立てて完成だぞ」
「はーい。で、このカメラは何かしら?」
「今日のニュースの撮影だってさ」
「そう。驚くじゃない。声ぐらいかけなさいよ」
「まったくだ」
英梨々が風鈴をもって、先生のところに用意されている紐や舌(ぜつ)を選び始める。カメラマンが後ろをついていく。もはや専属カメラマンみたいになってんじゃねーか!と心の中でツッコミをいれる。英梨々のそれっぽい質問がぎこちなく、番組を意識したとたんにポンコツになっているあたりが、いかにも英梨々だ。
英梨々の風鈴が完成したところで、音声スタッフから、みんなの風鈴とコメントを撮影したいと言われた。1人ずつカメラが周り、コメントを撮っている。
いよいよ英梨々の番だ。風鈴片手に作り笑顔で誤魔化し、コメントに迷っている。
「彼氏さんと一緒にどうですか?」と音声スタッフが言った。
その言葉を聞いて、せっかくの英梨々のよそ行き用の作り笑顔は崩れ、顔が赤くなり、口は波みたいに歪んで照れている。せっかくの仮面美少女が台無しで、アロハシャツもあってか、どうみても不審者で、なんていうか、まぁいつも残念美人の英梨々だった。
そんな英梨々を見て、俺はクスッと笑ってしまう。
「倫也ぁ~」と英梨々が困った声で俺に助けを求めるが、俺は知らん顔していた。周りのみんなもスタッフも笑っていた。
英梨々の手元の風鈴の音色が上品に揺れて、高い音色が涼し気に鳴っていた。
(了)
ちり~ん♪