【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
子供の頃に迷子になるぐらい広い屋敷を訪れたことがある。
あれはいったいどこだったのだろう?
7月27日(水)夏休み4日目
日差しの下に、白い大きな帽子をかぶった英梨々が立っている。黒いサングラスをかけ、俺の部屋を見上げていた。
英梨々が迎えに来たので俺は下へと降りて外へ出た。
暑い。日差しで溶けそうなぐらい暑い。
こんな日は冷房の効いた家でゴロゴロ・・・じゃない、勉強をすべきだと思うが、英梨々に誘われてでかけることになった。
英梨々は黒いノースリーブにデニムの短パンを履いている。足元はラメの入った派手なミュールだ。体にフィットしたノースリーブは、さすがのペタンコ英梨々とはいえ、胸元のふくらみがはっきりとわかる。まぁ、中にパットが何枚か入っているかもしれないが・・・プロポーションはとてもいい。
英梨々が風で飛ばないように手で帽子を抑えているので脇が見える。もちろん毛の処理はしている。ノースリーブの袖口が広いので、英梨々の下着がチラリと見えた。色は同じく黒だが、ノースリーブのはっきりとした黒よりは、少しばかりチャコールグレーに近い気がした。
デニムのジーンズはところどころ解けていて、白い糸が見える。これはそういう仕様なのだろう。そういうわけで、全体的には元気な女の子の印象だ。白い太もももが露わになっていて、いつにもよりはずっとセクシーに見える。
「今日も暑いわね」
「まったくだ。こんな日はでかけなくてもいいんじゃないか」
「しょうがないでしょ。竹下さんに呼ばれたんだから」
「誰だよ・・・」
「竹下さんは竹下さんよ。行けばわかるわよ」
「俺の知り合いに竹下さんはいないが・・・」
英梨々がくるりと踵をかえして歩き始めた。俺はその左側に並んで歩く。手をつなぐには少し暑すぎる気がした。どうしたものか悩む。隣に並んでいると、英梨々の袖口から見えるわずかな下着がチラチラして気になる。どうも欲求不満のようだ。そのうち慣れるだろうが。
手をそっと差し出して、英梨々の指にぶつかった。英梨々が俺の方をみて少し首をかしげ、それから俺の指を少し握るような感じで手をつないだ。英梨々の手の方が俺よりも少し冷たい。
「で、竹下さんのところに何しにいくんだよ」
「庭掃除」
「庭掃除・・・って、雑草を抜いたり、枯れ葉を集めたりか?」
「そうね」
英梨々の家の方へ坂道を上っていく。英梨々の屋敷は洋館で塀も高い。門は立派で威圧感すらある。個人所有とは思えないほど立派で、横浜にある異人館のように見学料をとれそうだ。
その横を過ぎて、さらに丘を登るように歩いていく。この上は高台で立派な豪邸が多い。いわゆる金持ちの住む地域で、道路などは普通のコンクリートと違って、タイルになっている。商店街でもないのにこの仕様である。途中の道にはポールが立っていて車両通行止め、ここからは私道になる。むやみに車は入れない。私道とはいえ、車が十分に通れる幅がある。
ときどき英梨々が俺の指に指を絡めて遊んでいる。
「あんた、爪を切った方がいいわよ」
「ああ、そうだな」後で切ろう。
道なりに進むとだいぶ緑が多くなってくる。どの家も庭を持っていて、木々が植わっていた。今は緑が濃い時期で、日陰を作ってくれてありがたかった。左手に古めかしい石垣が現われる。ところどころデコボコしていて苔が生えていた。盛んにセミが鳴いていて、木漏れ日から照らす地面が眩しいぐらい輝いている。夏だ。
その石垣が終わると、木でできた古めかしい門があった。表札には「竹下」とある。どうやらここらしい。
「この屋敷のことだったのか・・・」
「だから、知ってるっていったでしょ」
「知っているには知ってるが・・・竹下さんは知らないぞ」
近所なので子供の頃にこの辺りまで遊びに来た。自然が残っているので虫が獲れたのだ。
英梨々がチャイムを押す。「澤村です」と挨拶をする。しばらくしてから、横の勝手口が開いた。白髪のおばあちゃんが出てきた。割烹着を着ていて品もある。今時、割烹着なんてサザエさんの舟さんぐらいしか見かけないが、これが実に良く似合っていた。
中に案内される。玄関が広い。下駄箱の上には民芸品が並んでいて、お約束通り魚をくわえた木彫りの熊もいる。
英梨々がサンダルを脱ぎ横にそろえた。俺もそれのマネをして脱いだ靴を横にそろえた。
廊下の床は磨きあげられていて、ピカピカしている。和室に通されると、そこからは一面の庭が見えた。縁台もある。昭和にタイムスリップした気分になった。
女性と英梨々がお話をしている。英梨々が座って持ってきた和菓子のお土産を渡した。なんだか礼儀正しい。俺の知っている作法の知識は、畳の縁を踏まないことぐらいだった。こういう真面目な教養あるお嬢様の側面も英梨々にはあるようだ。
女性が部屋から出ていって、俺はやっとほっとする。なんだか温泉旅館にでも来たような気分になる。
「そんなに緊張しなくていいわよ」
「だから、誰なんだあの人」
「あの方がここの持ち主で、旦那様はもう他界されているのよ」
「知り合い?」
「そうね。政治家よ。父の仕事上の親交あるの。倫也も竹下夫人とうちのパーティーでお会いしていると思うわよ」
「記憶にないなぁ」
「無関心なだけよね」
「そんなもんだろ。それで、一人暮らしの女性の手伝いに来たのか?」
「名目はね。でも、別に本当に庭掃除はしなくて平気よ。見ての通り手入れが行き届いているでしょ?プロの庭師が出入りしているから」
「そうだな。じゃあ、なんでここに来たんだ?」
部屋には冷房が付いていなかった。古い扇風機が回っているだけだった。ただ、そんなには暑くないのはなぜかと思ったが、庭に小さな池と小さな滝があるせいかもしれなかった。鹿威しも時々カコンッとなっている。見事な和風庭園だ。
再び部屋の襖が開いて、女性がお盆にグラスの入ったお茶をもってきてくれた。青いガラスの皿には水羊羹がのっている。きっとすごく偉い女性なのだろうけど、割烹着のせいか女中さんに見える。
「ほんと、お嬢様もよく来てくださいました」
「いえいえ、こちらこそ無理な頼みをしてしまって」
「ご両親もお元気でしょうか?」
「ええ、無駄にピンピンしています」
英梨々が女性と雑談している。俺は、「いただきます」と言ってグラスのお茶を飲んだ。麦茶だった。少し濃い気がするが香りも高い。茶の味などわからんが、もしかして高級品なのだろうか・・・
和菓子を食べていいものかわからず、英梨々が口にするまでは様子をみる。粗相があってはいけなそうだ。
英梨々が持ってきたバックから小さな箱を出した。これは昨日の風鈴の箱と同じだ。テーブルの上に置き、箱を開ける。わたの上に英梨々のスイカの風鈴が乗っていた。涼し気で綺麗だ。こんな場所でそんな風に出されると、なにやらすごい品物に見えてくる。
「あら、素敵」
「気にいっていただければ幸いです」
女性の声が少し高くなった、風鈴を見て目を少し輝かしていた。さっきよりも少し若々しく見えた。表情や声で印象がずいぶんと変わるもんだ。
「手に取っていいかしら?」
「是非」
女性がその風鈴を手にして、まるで品定めしているみたいに眺めている。それから手に持って音を鳴らした。チリーンという音がなる。音には余韻があった。
2人の会話を横で聞いていた。英梨々が何事もなく和菓子を口にしたので俺も食べる。上品な甘さの餡で舌ざわりもよかった。
会話から察するに、英梨々がこの方に風鈴を選ぶ約束でもしていたようだ。そこでこの品を贈るつもりらしい。女性は少し遠慮していたが、それを喜んで受け取った。英梨々とは親交がそれなりにあるのだろう。
「倫也、そこにかけてみてくれる?」
「OK。でも何か踏み台あるか?」
障子の上の鴨居に釘が打ってあった。俺はそこに英梨々の風鈴をかけた。釘に紐をかけるのがなかなか大変だった。
かけ終わると、風鈴が風で揺れて、ときどきチリーンと弱い音を出す。あんまり風が強いところよりも騒がしくなくていいかもしれない。
「前の風鈴も気に入っていたのだけど、落としてしまってねぇ」
「ちょっとかけにくいですよね」 俺が相槌を打つ。落としてしまうのもわかる。
「ええ、そうでしょう?また落としてしまっても申し訳ないし」
「少し、いじっていいですか?」
風鈴は夏の間つけっぱなしにするようなものではない。夕暮れになったらしまうのがマナーだ。毎日かけたりしまったりするには、さっきの釘とこの風鈴の紐ではやりにくい。
俺は工具箱を借りて中を見る。先の丸いフックを見つけた。釘をぬいて、ネジ式のフックと取り換えた。風鈴の先には金属の輪っかを取り付ける。これで取り外しが楽になる。今度は大丈夫だろう。
実際に女性にもやってもらったが、今度はスムーズにできた。そんなに高い場所ではないので、踏み台があれば大丈夫そうだった。女性に感謝の言葉をいただき、俺は少し照れてしまう。
「では、ゆっくりしてらしてね」
「はい。少しの間お借りします」英梨々が答える。
女性がまた部屋から出ていった。英梨々が足を崩している。座布団があるとはいえ正座したままで疲れたらしい、行儀悪く足をマッサージしている。マッサージを俺がしてやるには生足すぎて無理だ。デニムの短パンが短すぎて、隙間から下着が見えそうになったので、俺は目をそらして立ち上がった。人の目がなくなったとたんに、英梨々が無防備になるのはなんとかならないのだろうか。もっとも警戒すべき相手は俺だと思うのだが・・・
「倫也。そういうわけで、ここで少し絵でも描いて過ごすから」
「ほい」
「スマホゲーでもして、時間つぶしててよ」
「ほい」
英梨々がバックから小さなスケッチブックを取り出した。レターサイズのものだ。筆箱には何種類かの鉛筆が入っている。エンピツはどれもナイフで削ったもので、歪な形をしている。
縁台の方に移動して、足を庭の方にブラブラさせながら、英梨々はスケッチを始めた。蚊取り線香があるが火はついていない。まだ蚊の出る時間ではないが、もしかしたら何か除虫処理しているのかもしれない。
庭のサンダルを履いて、俺はぷらぷらと歩いてみる。掃除するようなものは何もなかった。英梨々は庭のデッサンをさせてほしいという口実でここにきて、お礼に風鈴を渡したのかもしれない。俺には掃除といった。円滑に運ぶための方便なのだろう。別に問題があるわけじゃない。
縁台でスケッチをしている英梨々の顔が真剣になる。部屋の中に風が流れ込んで風鈴が揺れて鳴った。畳に置いた白い帽子のリボンが少し揺れる。
のどかな夏のひとときだ。
女性と英梨々の関係性ははっきりとはわからない。血縁ではないが祖母と孫といった印象を受けた。おそらくは幼少の、あるいは産まれる前から英梨々のことを知っているのかもしれない。
それと俺のことを話題にしなかったし、英梨々は紹介もしなかった。俺は名乗りもしなかった。それは礼儀としてはおかしいのかもしれないが、それでいいような気がした。たぶん、英梨々はすでに俺のことを話ししていたのだ。女性も何も質問してこなかったし、俺を褒めるようなこともしなかった。英梨々の性格をよく知っているのだろう。
でも英梨々がこうして、この場所に俺を連れて来たということは、女性に俺を紹介しにきたということだ。そして、俺からすると英梨々のプライベートの少し深い部分を知った気がする。オタクで腐女子。それが素の飾らない英梨々だと思ったが、今日の英梨々も英梨々の一面だ。
ここが英梨々にとって大切な場所なのはわかる。だから、素直に嬉しく思った。少し緊張するけど。
※ ※ ※
俺は英梨々の隣に腰を掛けた。スケッチブックを覗くと見事な絵が描いてある。ツインテールのリボンは青色で、髪と一緒に揺れていた。英梨々の日向の香りがする。なんだかとても愛しく思う。
「なぁ英梨々」
「ん?どうしたの倫也」
英梨々が鉛筆を止め、俺の方をみた。大きなサファイヤブルーの瞳がきらきらしている。こうしてみると改めて美人である。肌も透き通るように白い。しみもないし、にきびもない。眉は手入れが行き届いている。
「キスしよっか」
鹿威しがカコンッとなった。日本庭園はいいなぁ。
「あらあら、どうしたのよ。自慢の童貞力は」
英梨々が照れるかと思ったが、照れて舞い上がったのは俺だ。英梨々の返しに何も反応できなかった。
手を伸ばして、英梨々の髪に触れる。髪は柔らかいシルクのように手の上をすべって落ちていく。顔を近づけると英梨々も顔を近づけてきて、瞳を閉じてくれた。
そっと、少しだけ唇を重ね、すぐに離れた。英梨々の唇の柔らかさを感じるよりも早く、ほんの少しだけ触れるようなキス。
風鈴の優しい音色。
(了)
縁台でスケッチをする英梨々の横で、倫也は爪切りをする予定だった。
伏線も回収せずにキスするとか、主人公としての自覚に欠けると思う。