【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
いろいろあって、舞台はマンガ喫茶になりました。
実際のマンガ喫茶がどうなのか知らないので、そこら辺はテキトーでお願いします。
7月28日(木)夏休み5日目
エアコンの効いている部屋でイスに座りながらマンガを読み、時々仕事をするだけでお金がもらえる。そんなバイトがあったらなぁ・・・
「あるわよ」
「えっ、あるの?」
「ええ、楽しいかどうかはわからないし、楽なのかも知らないけど」
「まじで、紹介して!」
「いいわよ。でも紹介する以上、しばらくは勤めなさいよね」
「おう」
俺がそんなダメ人間の鑑みたいなことをぼやいていたら、英梨々が仕事を紹介してくれたのは先月の話だ。
マンガ喫茶。
駅前から徒歩10分と少し遠いビルの5階にあった。ちなみにビルの名前は澤村第五ビル。英梨々の親族か何かの所有物なのだろうか。あんまり深くは立ち入らない。
俺が面接に行くと、あっさりと受かった。
木曜日の週1でシフトに入る。時給は1200円と好待遇だった。ただしワンオペ。ワンオペというのは、店内に一人しか従業員がいないということだ。
高校生一人に店を任せるとか法律に抵触するのではないかと思ったが、細かいことは気にしない。
研修は一日で終わった。仕事内容は受付がメイン。オーダーが入れば冷凍食品を裏の電子レンジでチンをして提供する。散らかったマンガは片付ける。監視カメラがついていて、一応モニターのチェックをするのも仕事。万引き防止対策らしい。個室が3部屋あって、そこにも監視カメラがついていた。
インタネットの利用もできるが、利用する場合はお客様の身分証明書をコピーする。仕事はそれぐらいで、簡単だった。日中にお客様はほとんど来ることがなく、多くても10人程度の常連さん。夜になると宿替わりに使う人もいるらしい。個室の横にレンタルシャワールームがある。
張り切って何かをすることもないので、マンガを読みながらでいいらしい。すごい。
俺にとってここは天国かもしれない。
店長は別のフロアで働いているので、何かトラブルがあればすぐに来てくれる。
俺は午前10時のから18時までの8時間、休憩1時間を差し引いた実働7時間勤務だ。これで日当8400はおいしい。1時間の間にお客がこない時間も多かった。こんなので店が成り立つのか不思議だったが、それは俺の関知するところではないだろう。
※ ※ ※
「いらっしゃいまっ・・・なんだ英梨々か」
「なんだはないでしょ、なんだは。誰が紹介したと思ってんのかしらね」
「すまん」
英梨々が遊びに来た。朝から来るとか、こいつ暇人なんだな。
「ご利用コースはいかがいたしますか?」
「えっと、フリーの8時間お得コースで」
「2800円なります」
「はい。これ」
英梨々が財布から一万円札を出した。俺はおつりを渡す。俺の知る限り、8時間コースを朝から頼むバカは英梨々だけだ。普通は1~2時間を息抜きに使う。マンガ喫茶はフリードリンクなので普通の喫茶店よりもお得に時間を潰せたりする。うちは1時間600円と良心的価格。延長は30分ごとに300円だ。
この8時間コースは夜用だ。終電を逃した人が利用するための料金でカプセルホテルよりも安い価格になっている。従って、8時間ぶっ通しでマンガを読む人はあまりいない。
「個室空いてる?」
「個室は空いているけど、別料金だぞ」
「少しだけ借りたいのよ。いいでしょ?」
「何につかうんだよ」
「あんたねぇ。彼氏なんだから少しは融通しなさいよ」
「わかったよ。汚すなよ」
俺は英梨々に個室の鍵を渡した。英梨々は夏らしい白いロングワンピースを着ていた。髪型はツインテールで銀色に光るリボンをつけていた。清楚な印象を受ける。およそマンガ喫茶にはふさわしくない。オープンカフェでカフェオレでも飲んでいれば絵になりそうだが、本人はあまり気にしていないのかもしれない。
英梨々がしばらくして個室から出てきた。それを見て俺は、「おまえ、バカか?」と言った。
「しょうがないでしょう。こうじゃないとマンガ読む気がしないのよ。コンタクト疲れるし」
「なら、その恰好でくればいいだろ」
「これるわけないでしょ」
そう。英梨々が着替えた。緑のジャージ上下。髪をほどき、黒ぶちメガネ。いやいや、それはもう腐女子モードの恰好じゃないか。場には合っているけどさ。だいたい夏にジャージって。
「まさか、ここの往復のためだけにおしゃれしてきたのか」
「おしゃれだなんて、倫也も褒め上手~」
「そこに反応する!?」
「流石に駅前まで、この姿は恥ずかしいわよ」
「いや、さっきの姿のまま過ごせばいいだろ・・・」
「コンタクト疲れるのよ。さっきも言ったわよね?」
「いやいや、なら、さっきの服装のままメガネにすればいいだろ?」
「はぁ?あんたバカなの?あのワンピースに合うメガネを探さないとでしょ。あんたには女のファッションがわかってないわね」
「ファッションって・・・それ、ただの中学時代のジャージだろ」
「そうだけど?何か?」
「いや、もういいや・・・まぁ好きに過ごせよ」
「お金払ってるんだから、お客様として接しなさいよね」
「個室貸してやったろ・・・」
俺がこうやって英梨々と受付で長々と話しているのも、まだ客が0人だからだ。夜に泊まった客は帰り、こんな午前中から来る客はほとんどいない。
英梨々が受付から離れて、フードコーナーに移動した。そこには有料の自販機と、無料の自販機がある。有料の自販機はお菓子なども販売している。どういうわけか『パックンチョ』が良く売れる。手が汚れないからだろう。それから缶ジュースの自販機、一律100円のサービス価格。無料のドリンク自販機もあり、こちらは紙コップがでてきて、各種コーヒー、紅茶、緑茶、コーラとメロンソーダとカルピスが選べる。だいたいの人はこちらを選ぶ。
「倫也、この自販機ってミックスできないの?」
「できない」
「つかえないわね。どうせフリーなら、ファミレスみたいのにしなさいよ」
「俺に言われても」
「どれがおすすめ?」
「どれでも好きなの飲めよ」
「冷たいわね・・・そうやって、彼女になると、とたんに態度が変わる男性っているのよね。心が狭いというか、封建的っていうのかしら」
「昔から、こんなんだろ?じゃあ、コーラでいいんじゃね」
「今、そんな気分じゃない」
「じゃあ、紅茶」
「緑茶でいいや」
「俺に聞く必要ないよねぇ!?」
英梨々がボタンを押した。カップが出てきてお茶が注ぎ込まているのをしゃがんで眺めている。こういうところが子供っぽい。
「熱っ!」
「大丈夫か?」
「なんで、ホットなのよ~。あたしアイスがいいんだけど」
「なら、アイスのボタンを押せよ」
「これ、あんたにあげるわよ」
「いい迷惑だなっ!」
英梨々が受け付け代にお茶を置いた。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。客が入ってくる合図で自動で鳴って知らせる。
「ちっ」と英梨々が舌打ちをした。
「大事なお客様だからね!?」
英梨々が何も言わずに奥に行き、適当な場所に陣取った。ドリンクはいらないのかよ。
「いらっしゃいませ・・・」俺は今きた客の相手をする。
客はいつもの常連客で一時間ぐらいここでお茶を飲んで帰る。俺は時間の書いた札を渡した。1時間分だけ前金を受け取っている。延長したら帰りに再度清算をしてもらうシステムだ。ちなみにこの客はゴルゴシリーズを読んでいる。
英梨々は本棚を物色している。ところどころからマンガを抜き取っているのは、最新刊だけチェックするつもりか、一巻だけチェックするつもりのどちらかだ。
何を読むのか気になるが、他のお客がいる以上、私語は慎みたい。雰囲気としてはやはり図書館に近いかもしれない。
※ ※ ※
午後の1時になった。そろそろ休憩の時間で、店長がやってくるはずだ。店内のお客は英梨々の他に3名。これまで6名が来ている。多いのか少ないのかわからないが、俺の時給を払ったら赤字じゃないだろうか。
俺は受付を立って英梨々のところへ行く。英梨々の積み重ねているマンガはどれも1巻だった。そんなに読んだら話がこんがらがると思うのだが、性格は人それぞれだ。
「英梨々。もうすぐ休憩なんだけど」
「うん」
「一緒に、飯でも食べに行くか?」
「別に、倫也が一緒に行きたいなら、言ってあげてもいいわよ?」
「ああ、頼むよ」
「そ。じゃ、片付けるの手伝ってくれるかしら?」
「ああ」
マンガ本を適当にもって、本棚に戻していく。1巻だけたくさん抜くのはマナー違反な気がするが、客も少ないし、今はとやかくいわない。その内に読みたいものが決まるだろう。
その間に英梨々は個室に行って着替えてきた。なんの縛りなのかよくわからないが、二度目はツッコム気がしない。
店長がやってきた。引継ぎをして、俺は英梨々と店を離れた。店長と英梨々は顔見知りで、俺との関係も知っているらしく何も言わない。
英梨々は髪型を後ろで一つに束ねている。さすがに再度ツインテールは面倒らしい。それはそれで可愛いから別にいいのだけど、もう少し上にしてポニーテールの方が似合っていると思うのだけど、今度頼んでみるか。
「何喰う?」
「担々麺」
「街中華の?」
「うん」
2人でエレベーターを乗りながら、どこに行くかを決めた。駅前の街中華がなかなかおいしい。ボリュームもあって料金も安い。ただ、愛想がない。客がいても仕事ない時は競馬新聞を読んでいる。そんな店だ。それに安心感を覚えるのは、俺が地元育ちだからだろうか。
「暑ぅ~」
「暑いな」
ビルから出ると、太陽が真上にあって、燦燦と照っている。地面が揺らめいているから相当な温度だ。ボンネットなんか触ったら、かなり熱いに違いない。雲があまりなかった。
少し歩けば、街中華がある。冷やし中華ののぼり旗があり、入り口にも『冷やし中華はじめました』のあのポスターに、手書きのマジックで800円と書いてあった。去年より100円値上げしている気がする。
「冷やし中華もいいわね」
「なら食べればいいだろ」
「そうね・・・倫也、担々麺食べなさいよ」
「いやだよっ!暑いのに熱いの食べたくないだろ」
「暑い日こそ、担々麺だと思うけど」
「いやいや、汗かきたくねぇし」
「ああー、どうしよ」
「とりあえず、中に入ってから決めね?」
「そうね」
赤い扉を開けて中に入る。入口付近にレジ。本棚には雑誌とマンガ本。調理している人が一人と、配膳係のじいさんが一人。いらっしゃいませも言われず、俺は店の中に案内される。氷の入った水が二つ置かれた。
メニューはテーブルに備え付けてある。黄色い紙に潔い活字が等間隔で並んでいる。それがラミネートされていた。
壁にはホワイトボードにおすすめメニューと、本日のランチが書いてあった。『若鶏の甘酢あんかけ』。酢豚みたいなものだろうか?冷やし中華には、ゴマダレも選べる。悩ましい。
「英梨々、決まったか?」
「まだ。そんなことよりも倫也」
「そんなことって、お店に入ってメニューを選ぶより大事なことは早々ないぞ?」
「そんなつまらないツッコミはいらないわよ。あそこのミセス味っ子の1巻を確保してきてよ」
「誰もとらねぇよ!」
店に入って、すぐにマンガ本のラインナップをチェックするな。俺はパイナッポーアーミーの4巻が確保できれば十分なので、心に余裕がある。
「はやくとってきなさいよ」
「わかったよ。俺、おすすめランチな」
「あの若鶏のやつ?」
「ああ」
返事をして、入り口の本棚から、ミセス味っ子の1巻とパイナッポーアーミーの4巻を確保した。ミッション達成。
「すみません。えっと、担々麺と、冷やし中華のゴマダレください。どちらも大盛で!」
「あいよー」
「あと、餃子二枚お願いします」
「あいよー」
英梨々がオーダーした。うん。こいつはそういうやつだ。なんとなくわかってた。別に俺だってどうしても若鶏が食べたいわけじゃない。それはそれでいいさ。冷やし中華が確保できればな。
英梨々にミセス味っ子の1巻を渡した。
「絵が古いわね」
「そりゃあ、もう古典の領域だからな」
本も古くなっていて水色っぽく色褪せていた。なかなか年期がはいっているわりに、まだしっかりとしているのは、みんなが丁寧に扱っているからなのか、誰も読まないからなのか、それはわからない。
「それにしても、倫也。さっきまでマンガ読んでて、よくここでも読む気になれるわね」
「って、それ。おまゆう!?」
「あたしはただ、ちょっとボケただけでしょ」
「わかりにくいな・・・」
英梨々がミセス味っ子をテーブルの上に置いた。読む気はないらしい。俺は汚してはいけないので、それを回収して元の位置に戻しに行った。いったい、なんの手間だ。
他にも客が二組ほどいて、1時を回ってもなかなか繁盛している。
「ところで英梨々。メガネのままなんだが?」
「もう、しょうがないわよね。突然ランチに誘ったあんたが悪いのよ。あたしはあそこの冷凍ピラフで済まそうと思ってたのに」
「そっか・・・そりゃあ悪かったな・・・」
「やっぱり変かしら?」
「いやぁ・・・別にいいんじゃね?」
ちょっとダサいが、真面目な少女に見えなくもない。マンガよりは文庫本が似合いそうではある。詩集でも持たせれば内向的なキャラとして、いそうではあるが・・・
「倫也、その言い方は失礼よ」
「そっか。すまん」 素直に謝る。
「メガネ買おうかしら・・・」
「それで十分だろ」
「だって、倫也がダサいって思ってそうだし」
「思ってねぇよ」
英梨々がメガネを外して、バックにしまった。メガネをはずせば、あら不思議。ちゃんと正統な美少女に早変わりする。髪を後ろで結わいている方が年相応に見える。ツインテールはやっぱり少し幼くみえるらしい。
話題を変えよう。
「それで、さっき読んでた1巻のマンガは、面白そうなのは見つかったか?」
「別にないけど、ちょっと気になるのよね」
「何が?」
「ほら、アニメ化された作品。その原作を読もうと思ってたけど・・・先を知ってもつまらないじゃない?」
「ああ、うん。まぁそうだな」
「でも、話題作なら読んでおきたいしー。あとアニメ化が途中の作品も気になるじゃない」
「『ゴールでカムイ』なら原作が完結したぞ」
「店にある?」
「あると思うぞ」
なかなかの話題作。戦後の北海道を舞台に、原住民のアイヌと一緒に埋蔵金を追う物語だ。アニメ化も進んでいる。
「あれって、次ぐらいでアニメも完結しそうよね」
「そうだな2クールもあれば余裕だろうけど」
「我慢しようかしら」
「なら、もう少し古典で完結している作品を読めば?」
「例えば?」
「『うる星かれら』とか。アニメもリニューアルするしさ」
人生相談って程でもないが、英梨々がマンガ喫茶で何を読むかで盛り上がる。これは朝の時にお客がきたのでできなかったことだ。ちょっと気になっていた。
マンガ喫茶は男性客が多い。男性が漫画好きだからなのか。もちろん女性もいるが、比率は圧倒的に男性だ。だから男性向けの作品が多く、少女漫画は有名どころと、最新作ぐらいしかそろえていない。英梨々は少女漫画も読むが、英梨々向けではないかもしれない。もっとも英梨々向けの作品はすでに英梨々が買い集めているわけで、結局のところ英梨々がマンガ喫茶で時間をつぶすなら、自分の趣向から少し外れたものになる。
「おまち」じいさんが料理を運んできた。
「きたきたっ♪」と英梨々は嬉しそうに笑う。
先に餃子が二枚来た。
英梨々は小皿に醤油と酢、そしてラー油を垂らした。俺は小皿に酢だけをいれてそこに胡椒を振った。
「なによそれ」
「餃子のタレ。これが最近のマイブームなんだよ」
「ふーん」
「って、さりげなく小皿を取り換えるなよ。別に使っていいぞ」
英梨々が割りばしをとって二つに割った。メガネを外しているので、目つきがだんだんと悪くなる。近眼のせいなのだ。
英梨々が餃子を1つ箸でつまんで、胡椒酢をつけて口に運んだ。
「熱っ」と言いながら、一口齧った。八重歯が見えるので、噛むときは小悪魔っぽい。
「どうだ?」
「あら、なかなかいけるじゃない」
そういいながら、目をちょっと細めて笑っている。
続いて、担々麺と冷やし中華が来た。けっこうなボリュームだ。
英梨々は担々麺のスープをすくって、満足そうに飲んだ。
薄汚れた扇風機が回り、テレビでは甲子園の地区予選が流れていた。
(了)
バイトシリーズは全5話。
第一話では舞台設定と伏線を少々。
街中華は完全に趣味です。
評価、感想といただけると英梨々が喜びまふ。