【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
7月30日(土)夏休み7日目
「倫也ぁ~。イカ焼き食べにいくわよ」
気のせいだろうか。英梨々が玄関先の第一声がこれだった。午前10時。俺は未だに目が覚めず頭がぼんやりとしている。とはいえ、何かをツッコミを入れてあげないと・・・だめだ・・・つまらない下ネタしか思い浮かばない。
「とりあえず、上がれよ」
「うん」
英梨々が白い厚底のスニーカーを脱いで、家に入ってきた。今日の英梨々はなんていうか、カワイイ。いや、いつもだいたい容姿は可愛いが、なんだろう。小悪魔風?
いや、俺や英梨々の中で小悪魔風だと、悪魔コスプレそのものになるから、表現がわからない。
「麦茶飲む?」
「うん」
英梨々がリビングのソファーに座った。グラスに氷を入れ麦茶を注いだ。テーブルにグラスを置き、俺もソファーに座る。
英梨々がピンク色のチビTを着ている。胸にはプリンアラモードのプリントがしてある。下は緩めの白いスラックスを履いている。特筆すべき点は・・・
「へそ、出てるぞ」
「出てるんじゃないわよ。出しているのよ」
「風邪ひきそうだな」
「変なフラグはいらないわよ。少しは褒めなさいよ」
「カワイイヨ エリリ カワイイヨ」
「でしょ~」
目を細めて、英梨々が微笑む。いやいや、カワイイヨ?確かにカワイイ。でも、わざわざこっちは声色を使って褒めたのだから、そこは何かツッコミを入れて欲しい。まぁ、いいか。
「で、イカがどうしたって?」
「それよ。倫也。イカ。夏といえばイカでしょ」
「イカソーメン?」
「なんでイカソーメンを食べなきゃいけないのよ」
「いや、お前がイカ、イカ言ってたよねぇ!?」
「って、倫也。九官鳥みたいに褒めないでよ」
「・・・タイミング遅いわ!驚くわ!」
「またまたぁ~、照れ隠しでしょ?そうでしょ?」
あ~。そうですとも。照れ隠しですとも。
ん・・・英梨々もそうかな。まぁいいや。会話の間合いがつかめないな。やっぱりテンポがわかりやすい方がいい。なんの話だっけ。午前中はダメだな。血糖値を上げたい。
「で、イカって何のことだよ」
「だから、夏のイカよ。海辺の」
「イカ焼き?」
「最初にそう言ったわよね?」
「いや、イカしかインパクトが残っていないんだが」
「いったわよ。イカ焼き。食べに行きましょ!」
「どっかで、イカ焼き祭りでもやっているのか?」
「そんなの知らないわよ。海に行けばイカぐらい焼いているでしょ」
「海の家の話か?」
「それよ。せっかく夏だし、行くわよ」
「海に行きたいんだな?」
「海はどうでもいいわよ。だいたい、水着もってきてないし」
「昨日みたいに下に着ているんだろ?」
「確認してみる?」
英梨々がチビTシャツをまくって脱ごうとする。
「まて、英梨々。早まるな。そんなに自慢できるものは・・・」
ペシッ
と、英梨々が俺の頭を叩いた。ふむ。まぁこんなもんだろ。目の前で脱がれても困る。頭が冴えてきた。
「ほら、行くわよ」
「でも、英梨々、荷物少ないな?」
「なんでイカ焼き食べに行くのに、そんなに荷物が必要なのよ」
「イカ焼きが喰いたいだけなら、スーパーでもいいんじゃね?」
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?」
「よし、お約束のセリフが出たとこで、行くか!」
そういうわけで、海までイカ焼きを食べに行くらしい。土曜日だし人混みになってそうだが、まぁいいだろう。どこに行くべきか。湘南か九十九里浜か。近場だとお台場があるが・・・あそこに海の家はあるのか?屋台ぐらい並んでいるのかな。
俺はリュックにバスタオルと日焼け止めクリームと水着をいれた。替えのTシャツもいれて置く。使うかどうかはわからないが、海にいったら入りたくなるかもしれないし。
英梨々の荷物は小さな白いショルダーバックだけだ。スパイアニメのアーニャンのキーホルダーがついている。可愛い。
外は日差しが強い。英梨々がニューヨークヤンキースのキャップを斜めにかぶっているので、俺はヤクルトのキャップをかぶる。同じ野球帽なのに、俺のほうがダサいのは、モデルの差であって帽子のデザインの差ではないだろう。俺だと『中島君』みたくなるのに、英梨々だとファッションモデルの表紙みたいになる。いや、でも、もしかしたら、足し算に足し算なのかもしれない。俺がニューヨークヤンキースの帽子をかぶったら、かっこよくなるかも。
駅に向かって歩きながら、俺は英梨々に帽子を交換してもらうようお願いした。英梨々は別に何も言わずに交換してくれる。かぶってみたが小さい。後ろのバンドを調整する。さすが小顔だ。脳みそも小さいに違いない。
「どうだ?」俺はポーズをとる。
「どうって言われても、中島君にしか見えないわよ」
「だよなっ!」
自覚してた。
「せめて、メガネをやめたら?」
「そうか・・・ふふふっ、見せてやろう、俺の邪神眼の力を!」
「すべってるわよ」
メガネを外した。そろそろコンタクトもいいかなぁと思うが、面倒くさい。
「どうよ?」
「そうね・・・『磯野~野球やろうぜぇ』って感じかしらね」
「かわんねぇなっ!」
「似合ってるわよ」
「そりゃどうも」
次に英梨々がヤクルトの帽子をかぶった。ふむ、これがなかなか。やっぱり素質が違うんだな。神宮球場にいたら真っ先にカメラが見つけて映すに違いない。それにしても、チビTのせいで目のやり場に困る。元々スタイルは悪くないのだ。手足は細くて長い。ヘソなど出されると、こっちが落ち着かない。さっきから通る人が英梨々をいつも以上に凝視していて怖いぐらいだ。
「で、どうかしら?」
「カワイイヨ エリリ カワイイヨ」
「九官鳥みたいってツッコンで欲しいんだったかしら?」
「いえ。別にいいです。同じボケをした俺が悪かった」
「そう」
「でさ、英梨々、どこに行く?お台場だと近いけど」
「そうね、あんまり遠くまで行きたくないから、葛西臨海公園でいいわよ」
「・・・そうだな。この時期だと家族連れで混んでるかもよ」
「東京近郊なんてどこも同じようなものでしょ」
駅までの道のりが暑い、コンビニでガリガリ君を食べ、ペットボトルのスポーツドリンクを二本買っておく。熱中症対策は必須だ。だいたいこの暑いのに海に行くとか、リア充のやることは理解しがたい。そして、リア充にならんとしている俺らも、またバカなのだろう。
ローカル線からJRに乗り換える。電車は空いていたので並んで座れた。冷房が効いているので英梨々が少し寒そうにしている。しょうないがないので、リュックからバスタオルを出して、英梨々の肩にかけた。大きめのバスタオルなので十分に英梨々を包むが、見た目は怪しくなる。何しろアニメヒロインプリントだ。裏地なら目だたない。
「ダサい・・・」
「風邪を引くよりいいだろ。フラグ通りになるぞ」
「そうね」
英梨々がバスタオルにくるまった。お腹も冷えていたらしい。やれやれ難儀なことで。
英梨々がバスタオルの中でゴソゴソしている。それから俺にアメちゃんを1つくれた。塩分補給用のレモン味だった。どうやら熱中症対策キャンディーらしい。俺はそれを口にいれると、英梨々がゴミを回収し、バスタオルの中でゴソゴソしている。たぶんショルダーバックにしまっているだけなのだろうが、見た目が怪しくて笑える。実に英梨々っぽい。
「なんでこう、夏は冷房をこんなに効かせるのかしら?」
「夏だからだろうな」
「それ、トポロジーだっけ?」
「トートロジー。トポロジーはドーナッツとマグカップが同じ形ってやつだな」
「ああ。あれね。ほんと、バカなこと考えるものよね」
「そうだな」
「あたし、ポンデリング食べたい」
「ほんと、バカなことを考えるもんだよな」
「倫也」
「どうした?」
「寒い」
「確か、弱冷房車両があるはずだから、移動するか」
「うん」
英梨々が立ち上がった。バスタオルに包まったまま車両を移動した。
※ ※ ※
やっとの思いで臨海公園に到着した。俺はバスタオルを回収してリュックにしまう。やれやれ世話が焼ける。まるで子供だな。
「イカ焼きあるかしら?ここって海水浴場とは違うのよね」
「いや、確か海で遊べるところがあったはずだぞ」
「地図みてよ」
「見てるよ」
大きな看板の地図を確認する。確認といっても海の方へ歩けば着くのが道理だ。他には観覧車と、少し離れた場所には水族館もある。売店は観覧車のそばだから、そこにイカ焼きあるかどうか。あとは海水浴場に臨時営業している店があるかもしれない。
冷房で体が冷えたので、外の暑さが最初は心地よかった。
天気は晴れ。白い大きな雲が流れていて、海の方には入道雲が見えている。英梨々はそれを写メで記録に残した。ついでに2人で自撮りをする。修正なんかしなくても英梨々は可愛く撮れる。英梨々が画像をいじるときは、変なメイクをしたり、猫耳をつけたりして遊ぶだけだ。目をパッチリにしたり、肌を修正したりすると、逆に変になる。完成度がAI以上なのだろう。まぁ主観なんで。
海の方へ歩いていくと潮風の匂いがする。どちらともなく手を伸ばして握った。華奢な指を少しだけ絡めて、それからすぐに普通に手をつなぐ。
ツインテールが海風に良くなびいて輝いていた。夏らしい空の下だと、英梨々のチビTは良く映える。ヘソがキュートで、締まったウエストが実にいい。ああ触りたい。ギュッてしたい。
「海だぁ~」
「海だな」
「倫也ぁ~。海に入りたい」
「そうだな。俺は水着もってきたけどなっ!」
「ずるい。なんで、あたしのはないのよぉ」
「お前のも持っていたら変態だよねぇ!?」
「どこかに売ってるかしら」
「金で解決するなよ」
「欲しい時に欲しいものを買うのが一番いいお金の使い方なのよ?」
「ほうぉ。金持ちの言うことは説得力がありますなぁ」
「倫也だって一か月分の食費で最初にゲームやフィギュア買うじゃない」
「反省する日々だけどな」
砂浜に着いた。多くの来場者が来ていて、沖ではセーリングをしているヨットも見える。子供連れが多く、子供の甲高い声がよく響いている。ハンギングパラソルは有料で、シート付きの場所ごと貸し出しているようだ。
英梨々はスニーカーを脱いで、靴下を靴の中にしまう。それから砂浜に一歩踏みいれて、
「熱っ!」と言った。俺も手で触ってみたが、砂浜が熱い。あと砂利に近くてあまりサラサラしていない。素足だと少し痛いかもしれなかった。
「ぶぅー」と英梨々が口を膨らませている。無計画すぎると思う。
「パラソル借りるか?」
「とりあえず・・・水着買いに行く」
「どこに売ってんだろ?」
「駅の近くなら何かしらお店あるでしょ」
「あるかなぁ」
英梨々が水で砂を流して、バスタオルで足をふき、靴下をまた履いた。何もかもが思い通りにいくわけではない。世の中はそんなに甘くない。
「その前に、あっちの売店でイカ焼きがあるか、確認してから帰るか」
「うん」
「観覧車の方だから、わかりやすい」
観覧車がゆっくり回っているのが見える。英梨々と俺はゆっくりと歩く。公園は広いのであまり人とはすれ違わない。ベンチがあったのでそこで座って、買ってあったペットボトルで水分を補給する。暑いので口数が少なくなってきた。
「ポンデリング」英梨々がつぶやいた。文脈がわからない。
「ああ、ポンデリングもいいな。俺はオールドファッション派だが」
「オールドファッションって冬って感じがしない?」
「そうか?だからって、ポンデリングは夏じゃないだろ」
「別にあたしはポンデリングが夏だなんて一言も言ってないわよね」
「そうだな」
ペットボトルのキャップを閉めて、歩き始める。暑くて頭が上手く回転していないのかもしれない。観覧車のそばにきた。のぼり旗にはかき氷と書いてある。ソフトクリームとタコ焼きも売っていた。
「ねぇな」
「どうしてくれるのよ」
「俺のせい!?」
「じゃ、誰のせいよ?葛西臨海公園って言ったあたしのせいだっていうの?」
「別におまえのせいだなんて言ってないよな」
なんで、こんなケンカっぽくなってんだろ。暑くてイライラしているのかな。そんなつもりはないのに。英梨々はこんなにも可愛いのに不機嫌で、俺にはどうしていいかわからない。
「海に入りたいし、水着ないし、ポンデリングもないし、イカ焼きもないし、倫也、あたしってそんなに悪い事したかしら?」
「無計画なだけだよねぇ!?」
「もういい。そうよ、全部あたしが悪いんだわ」
「観覧車ならすいてて、今ならすぐに乗れそうだぞ?」
「観覧車に乗りたくて、ここにきたんじゃない!倫也、何もわかってない!」
なんだ!?このわがままモード。ここは大人に、俺が大人になってだな。口論はダメだ。くだらない。後で振り返ったらきっとすごくくだらないって思える。いや、理由なんて思い出せないに違いない。ソフトクリームでも食べれば機嫌が直る。そんな幼児みたいなわがままだ。
「英梨々、落ち着け。とにかくだ。ここには水着もないし、イカ焼きもないし、ポンデリングだってない。ソフトクリームならあるぞ。どうする?」
「チューする」
「はい?」
「チューする」
英梨々が俺のシャツをギュッと掴んで、おでこを俺の身体にくっつけた。えっと、英梨々?
英梨々は顔を上げると、サファイヤブルーの瞳が涙で潤んでいる。そんなに泣くほどイカ焼きが喰いたかったのか?そんな日もあるのか?いやいや、違うだろ。よくわかんねぇな。セミがしきりに鳴いている!うるさいぐらいだった。さっきまで気にならなかったのに。暑いし!太陽が真上でギラギラしている。子供がソフトクリーム食べてこちらを見ていた。
英梨々が目をつぶったので、俺も目をつぶって英梨々に、チューした。
それはもう唇を突きだすような。チューだ。キスなんて甘いもんじゃない。そんな生易しいものじゃない。
英梨々が一度離れて、俺の目をじっとのぞき込み、それから俺の頭の後ろに腕を回して、抱きしめるように俺を引き寄せて、それでまたチューをした。俺はもう、暑いし、どさくさに紛れて、さっきから気になって気になってしかたない英梨々のおへそのでているウエストにそっと触れた。英梨々は何も言わない。抵抗もしない。息が苦しくなるほど、胸が苦しくなるほど、俺たちは人目も気にせず、売店の近くのなんでもない広場でチューをし続けた。
夏だし!バカだし!
(了)
ちゅー