【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう   作:青ヤギ

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魔骸転身

 

 本体にダメージを与えた影響か、影浸による霊術の効果が解けた。

 

「くっ……」

 

 ツクヨの体を覆っていた影の膜と槍が消失する。

 風穴だらけの体から激しい出血が滝のように溢れる。

 

『っ!? スズちゃん! 早く治癒を!』

『は、はい!』

 

 すかさずスズナが浄耀鐘を鳴らす。

 見る見るうちにツクヨの傷が塞がれ、血色も戻っていく。

 浄耀鐘は傷の再生だけでなく、失った血も取り戻せるのだった。

 

『ツクヨさん! しっかりしてください!』

「ああ、もう大丈夫だ……感謝するぜ嬢ちゃん。……信じられねえ。マジで生きてんのかよオレ」

 

 脅威の再生力を前に、ツクヨは目を疑った。

 まだ多少フラつくが、いまから戦闘を再開しても支障がないほどに回復した。

 

「……ちくしょうが。マジで熔の占い通りだったってワケか」

 

 ダイキが影浸を倒さなければ、間違いなく死んでいた。

 己の未熟さを嘆くツクヨであったが……それ以上に、弟子に対する誇らしさが上回っていた。

 

「ダイキのやつ……マジでやりやがった」

 

 少女たちの知略とサポート、そしてツクヨの咄嗟の援護を見事を活かし、ダイキは勝利を掴んだ。

 

「……大したやつだよ、お前は」

 

 凜々しく佇む弟子の背中を見て、ツクヨは微笑んだ。

 

 

    * * *

 

 

 この男が、影浸の本体……。

 倒れ伏した黒衣の男が、忌々しげに俺のほうを振り向く。

 

「おのれ……よくも! よくも俺の本当の姿を……」

「っ!?」

 

 長い前髪の隙間から、憎悪のこもった眼光が向けられる。

 そして……ローブで隠されていた影浸の素顔を俺は目にする。

 

『っ!? きゃああああ!!』

 

 天眼札の向こうでレンが悲鳴を上げる。

 俺も影浸の素顔に、言葉を失う。

 

「お前……その顔……」

「っ!?」

 

 影浸は頭に被せていたローブが無くなっていることに気づいたらしい。

 咄嗟に片手で顔を覆い隠した。

 

「え、影浸……あなた……その顔は……」

 

 戸惑いの声は邪心母からも上がった。

 どうやら邪心母も影浸の素顔を初めて見たようだ。

 

「見るな邪心母!」

 

 影浸は喉が枯れそうなほどの大声を上げた。

 

「やめてくれ! 見ないでくれ!」

 

 それはあまりにも悲痛な叫びだった。

 邪心母だけには見られたくはなかった。

 そう恐れるかのように、影浸はカタカタと体を震わせて縮こまった。

 ……これが、俺たちをあそこまで追い詰めた影浸なのか?

 

「……ソイツ、もう霊力がスッカラカンみてえだな。たぶんもう戦えねえだろ」

「師匠!? 良かった! 元気になったんですね!」

 

 いつのまにかツクヨさんが瀕死の重傷から回復していた!

 俺は喜びのあまり、ついツクヨさんに飛びついた。

 

「バッ!? お前、ドサクサにまぎれて胸に顔埋めてんじゃねえ!」

「ふんぎっ!?」

 

 拳骨を貰った。

 ああ、これだよ!

 脳天を直撃するようなこの痛み!

 本当に元気になった証拠だ!

 

「黒野! ツクヨさん!」

「はぁぁぁん! ただいまアイシャ・エバーグリーン帰還しましたわ!」

「キリカ! アイシャ! お前たちも無事だったんだな!」

 

 空間転移で飛ばされたキリカとアイシャが山頂に戻ってきた。

 どうやら無事にそれぞれ仕向けられた合成怪異を撃破できたらしい。

 

「っ!? あなたたち、どうしてここに!? まさか……倒したっていうの!? 私の究極の合成怪異たちを!」

「ふんっ。何が究極よ。アタシの剣一太刀で倒せる呆気ない相手だったわ」

「おーほっほっほっ! あの程度の怪異など、真に聖女に覚醒したわたくしにとっては赤子も同然でしたわ!」

「くっ! よくも……よくも私の家族を!」

 

 動揺する邪心母に対して、キリカもアイシャも勝ち誇った笑みを浮かべる。

 さすがの二人だ!

 どうやって倒したか気になるな! 無事に帰ったら聞いてみよう!

 

「どうやらそっちも無事に片付いたようね」

 

 倒れ伏す影浸を見て、キリカが安堵の息を吐く。

 

「ああ、ダイキがやってくれた。ひとまず最大の危機は逃れたと見ていいだろう」

「まあ! あの強敵を討ち果たすなんて! さすがはクロノ様♡」

 

 ツクヨさんの説明を聞いてアイシャが感動の眼差しを向けてくる。

 

「はぁん♡ クロノ様への尊敬の念がますます強まることでわたくしの中の『クロノ様ちゃん』もより強く産み出せるようになりますわ♡」

 

 なんだよ『クロノ様ちゃん』って?

 まあアイシャの変な発言はスルーするとして……。

 最後にやるべきことをやろう。

 

「さて……見ての通り、護衛は使い物にならなくなったな。あとはテメーからお嬢さんを救い出すだけだ」

 

 ツクヨさんの言う通り、影浸を無力化したことで形勢はこちらに傾いた。

 邪心母を守るものは、もはや水の壁を張る怪異のみ。

 俺だけならばどうにもならなかったが……いまは頼りになる霊能力者が三名もいる。

 容易に壊せるはずだ。

 

「くっ……や、やめろ! こっちへ来るな!」

「もう諦めて邪心母。あなたの負けだよ」

「黙りなさい!」

 

 焦りを浮かべる邪心母に、ルカが冷静に言い放つ。

 ルカ……お前も心折れることなく戦っていたんだな。

 待ってろ。あともう少しだからな!

 

「認めない……私たちは、まだ負けてない! 私は……必ず百鬼夜行の力を手に入れるのよ!」

「そうだ邪心母。諦めるな。俺も……覚悟を決める」

「──え?」

 

 背後から声がする。

 再起不能になったはずの影浸の声が。

 どこか意を決したような雰囲気を滲ませて。

 振り返ると、再びローブを深く被った影浸が立ち上がっていた。

 

「お前を守る……その誓いは必ず果たす。そのためにも……俺は半端者をやめることにしよう」

「なっ!?」

 

 目を疑った。

 影浸は突然、自らの左胸に手を突っ込み……。

 心臓を取り出した。

 脈を失った、鼓動を打たない死者の心臓を。

 

「影浸……あなた、まさか! ダメよ! そんなことしなくても、あなたは充分強いわ! わかってるの!? それをしたら……あなたがあなたでいられなくなるのよ!?」

 

 邪心母が切羽詰まった声を上げている。

 何だ!? 影浸のやつ、何を始める気だ!?

 

「いや! いやよ! 私、あなたには、あなたのままでいてほしい!」

「……その言葉を聞けただけで充分だ。お前に出会えて良かった。お前のおかげで、俺は『影』として生きられた」

「影浸!」

「──お別れだ、邪心母」

 

 とつぜん言いようのない危機感が募る。

 

「アイツを始末しろ! 何か仕掛けてくるぞ!」

 

 ツクヨさんも何かまずいと感じ取ったらしい。

 全員が影浸に矛先を向け直す。

 

 ──餓狼拳・炎武

 ──緋飛散刃

 ──聖砲射出

 

 各々が遠距離からの攻撃を影浸に放った、その瞬間だった。

 

「──原初の闇よ。我が心臓を捧げる」

 

 影浸の心臓が、黒い炎に包まれた。

 燃え上がる心臓から、嗤い声が上がる。

 歓喜にまみれた、ひどく不気味で、薄気味の悪い嗤い声が。

 

「なっ!?」

 

 俺は目を疑った。

 影浸を中心にドス黒い霊力の塊が放出される。

 それが壁となり、ツクヨさんたちの霊術を容易く防いでしまった。

 

「バ、バカな! ヤツの霊力はとっくに尽きたはず! なのに……増えてやがるだと!? それも、さっきよりも数十倍に!?」

 

 ツクヨさんがありえないものを見たように声を張り上げる。

 

「はっ……はぁっ……!」

 

 冷や汗が止まらない。

 何だ? この言いようのない怖気は!?

 あの黒い炎を見ると……原始的な恐怖が否応なく引きずり出される!

 

 黒い炎を纏う心臓を、影浸は高々と持ち上げる。

 

「──『円蛇(えんじゃ)の結び』は、ここに成った」

 

 ドクン、と心臓が脈打つ。

 死者である影浸の心臓が。

 止まっていたはずの心臓が、不吉な鼓動を打ち出す。

 その心臓を、影浸は再び己の胸に埋め込む。

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 まるで影浸の全身が鼓動を上げるように、何重もの残影が浮かび上がる。

 

「貴様らに見せてやろう。常闇の侵徒としての──真の姿を」

 

 本能が告げる。

 逃げろ。

 死にたくなければ、逃げろと。

 そして、すぐに悟る。

 いや……もう、手遅れだと。

 

 

 ──魔骸転身(まがいてんしん)

 

 

 影浸のそのひと言で。

 地獄が始まった。

 

 

    * * *

 

 

 いつだって願っていた。

 恐ろしい怪異と遭遇するたび「これが夢であってほしい」と。

 けれど悪夢のような光景はやはり現実で。

 怪異は現実に存在する脅威として牙を剥いてきた。

 もう何度も裏切られた切なる願い。

 ああ、だからわかっているんだ。

 目の前で起きていることは現実で。

 決して逃れられない地獄なのだと。

 

「我々、常闇の侵徒の進化には段階がある。一段階目は『生ける屍』としての復活。そして……さらなる強大な力を得るための第二段階が存在する」

 

 月明かりに照らされて、異形が翼を広げる。

 蝙蝠のような翼を。

 

「死して機能を停止した心臓を闇の力で再び動かすことにより『第二の生』を得る。死すらも超越した奇跡……」

 

 全身の皮膚が黒く艶光る鎧のようだった。

 両腕は足まで届くほどに長く、刃物のような鉤爪が伸びている。

 

「そして、この姿こそが常闇の侵徒としての真の姿。己が骸を魔人の肉体として転化させる秘術。それこそが──魔骸転身」

 

 頭部の左右に角を生やした影浸が、そう言い放つ。

 完全に人としての姿を消した、まさしく悪魔のような姿となって。

 

 金色に光る両眼が俺たちを射貫く。

 俺たちは同時に動いていた。

 もはや言葉を交わすまでもなく、全員が承知していた。

 殺らなければ殺られる。

 それに、ヤツの弱点はすでにわかっている。

 後頭部を。

 後頭部にある本体を潰せば、きっと活路が……。

 

『ダメ……ダイくん、止まって! ソイツには……()()()()!』

 

 レンの必死な叫び。

 それは、あまりにも残酷な真実。

 

『その影浸は……本体だよ!』

 

 本体であるはずの影浸の体は……いかなる攻撃をも無効にした。

 

「俺は、真の意味で無敵となった」

 

 影浸が右手を上げる。

 月まで届きそうなほどに長い腕を……一気に振るった。

 

「終わりだ」

 

 

    * * *

 

 

 ルカは言葉を失っていた。

 まるで悪魔のような姿になった影浸が右手を振るった。

 ただそれだけで……凄まじい衝撃波による爆発が起きた。

 そこからは、一方的だった。

 いかなる攻撃も通じず、弱点であったはずの後頭部への奇襲はもはや無意味。

 為す術なく、ツクヨが、キリカが、アイシャが、そして……ダイキが。

 槍によって串刺しにされた。

 

「皆ァァァァ!!」

 

 ルカは泣き叫んだ。

 

「あ、あぁ……アアアアアアア!!」

 

 決して負けまいと勇んでいたルカの心は、ここで打ち砕けた。

 ダイキたちの体には、またしても霊装封じの『影膜』で覆われ、スズナによる回復ができずにいた。

 死んでしまう。今度こそ本当に、ダイキたちが死んでしまう。

 死神の濃密な気配を感じ取り、ルカはむせび泣いた。

 

「……ははは。これが……これが真なる闇の力か! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 何を躊躇っていたのか俺は! どうせヒトなど捨てたというのに、心を失うことを恐れていたことがアホらしい!」

 

 影浸は月に向かって高らかに嗤った。

 その姿を見て、邪心母も「ははは」と乾いた笑いを浮かべた。

 

「ああ、影浸……本当に、あなたの心は、闇に捧げたことで消えてしまったのね……」

 

 一筋の涙が邪心母の頬を濡らす。

 

「ありがとう、影浸。私のために、そこまでしてくれて。あなたがそこまでしたんですもの。私も覚悟を決めるわ」

「ぐっ!?」

 

 ルカは苦痛の呻きを上げる。

 進行が止まっていたはずの融合が、再び活発化した。

 ルカの体が急速に、邪心母に呑み込まれていく。

 

「あ、ああああっ!!」

 

 自分が失われ、別の何かと混ざり合っていく感触に、ルカは本能的に恐怖を覚える。

 

「無駄にしないわ影浸。あなたの覚悟を決して。私は必ず……野望(ユメ)を叶える」

 

 もはや一切の余念もなく、邪心母は目的を完遂すべく動き始めた。

 悪夢は、まだ終わらない。

 

 

    * * *

 

 

「……がふっ」

 

 ぼやける視界。

 それでも、皆が瀕死の重傷を負っていることだけはわかっていた。

 一瞬だった。

 一瞬で、ツクヨさんも、キリカも、アイシャも、為す術なく倒された。

 

『ダイくん! キリちゃん! アイシャちゃん! ツクヨさん! いや……いやああっ!!』

『お願い! 皆の傷を癒して! お願いぃ!!』

 

 レンとスズナちゃんの錯乱する声が届く。

 浄耀鐘の鐘の音がずっと鳴り響いているが『影膜』のせいでまったく回復する素振りがない。

 

「あ……」

 

 熔さんから貰った御札が懐から落ちる。

 光を放っていた御札がゆっくり消失する。

 ……霊体相手でも物理攻撃が通り、ダメージ量を増幅させる御札。

 その恩恵が、とうとう無くなってしまった。

 

「ぐっ!?」

 

 体中に走る激痛。

 刺し貫かれた槍が、内部でトゲ状に広がっていくのを感じる。

 ……俺は死ぬのか? こんなところで。

 ルカを、助けることもできずに。

 

 黒い影が、俺の眼前に降り立つ。

 

「影、浸……」

 

 もはや面影など一切ない異形となった影浸。

 その姿を見て湧くのは恐怖ではなく、不思議な悲壮感だった。

 影浸、お前……そんな姿になってまで、邪心母を守ろうっていうのか?

 

「よくここまでやった、黒野大輝。お前には最大の敬意を持って、俺が引導を渡す」

 

 敬意だって?

 なんて薄っぺらい言葉だろう。

 そんな姿になる前のほうが、ずっと言葉に重みがあったぞ?

 ああ、そうか。

 お前、本当に人間をやめちまったんだな。

 身も心も、化け物になっちまったのか。

 

「ふざ、けるなよッ」

 

 ヒトを捨てたヤツなんかに、殺されてたまるか!

 皆を、死なせてたまるか!

 ……だが俺に何ができる?

 霊力も持たない俺に。

 

 また、失うのか?

 無力であることを突きつけられて、また大切なものを奪われるのか?

 

(清香さん……クロノスケ……)

 

 助けたかった存在。守りたかった存在の顔が頭に浮かぶ。

 俺にもっと力があれば、何か違う結果があったかもしれない。

 なのに……。

 どうしてだ?

 どうして俺には、悲劇を変える力がない!

 

 ……おい、神様よぉ!

 勝手にこんな世界に転生させたなら、ひとつくらい特別な力を寄越せってんだよ!

 お約束事だろ! それくらい守りやがれ!

 

「あ……あああああああ!!!」

「大したものだ。まだ無駄に叫ぶ活力があるか」

 

 影浸が右手を巨大な鎌に変える。

 アレで俺の首を刎ねるつもりか。

 俺の次は……ツクヨさんか、キリカか、アイシャか……。

 そしてルカは、邪心母に取り込まれて……。

 

「……させ、ねえ」

 

 そんな絶望的な未来……変えてやる!

 だから神様よ……力をくれ!

 俺に、この残酷な世界の運命を変える力を!

 できねえとは言わせねえぞ!

 居るのはわかってるんだからな!

 

 俺をこんなクソッタレなホラー漫画の世界に転生させた責任を……取りやがれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ──受け入れる覚悟はあるか?

 

 ふと、白い空間に俺は立っていた。

 その目の前に黒い影が立っている。

 影浸ではない。

 もっと巨大な、そしてもっと恐ろしい姿をしたナニカだった。

 全身を鎧のような皮膚で覆い、頭部から二本の角を生やし、白い眼光を向けている。

 それはまるで……伝承に聞く、あらゆる童話に登場する、とある妖怪を彷彿とさせた。

 

 ──運命を受け入れる覚悟が、お前にはあるか?

 

 黒い影は俺に問う。

 いったい何の話か、俺にはさっぱりわからない。

 だが……これだけはわかる。

 ここが、俺にとって運命の分かれ道だと。

 なぜか直感的に、そうわかる。

 

 ──お前は力を欲した。そしてお前には、それを叶えるための力がある。只人を超越するための力が。だが同時にそれは……ヒトから外れることを意味する。

 

 黒い影は重苦しく語る。

 力を得ることへの代償を。

 

 ──力を得れば、たちまちに始まる。運命の歯車が回り出す。それでもお前は望むか? ヒトを超える力を。

 

「……それで、皆を守れるのか?」

 

 黒い影は頷く。

 

「そうか。だったら迷う理由なんてないだろ」

 

 ひょっとしたら、これは悪魔との契約かもしれない。

 だがそれでも、大切な人たちを失うこと以上に怖いものなんてないから。

 だから俺は……。

 

「受け入れるさ。どんな運命だろうと」

 

 俺の答えを聞いて、黒い影は──穏やかに微笑んだ。

 そんな気がした。

 

 ──やはり変わらないか。何度、転生しても。

 

「え?」

 

 謎めいた言葉を残して、影は消えた。

 代わりに、四つの光が目の前で瞬く。

 

 ──では、鍵を外そう。解き放て。運命を切り拓く力を。

 

 赤い光が。

 金色の光が。

 翡翠色の光が。

 青色の光が。

 俺の傍に寄り添う。

 ……知っている。

 俺は、この温もりを覚えている。

 

「お前たちは……」

 

 ワン、っと赤い光が吠える。

 

『決めたんだね? ぼくたちは、ずっと待っていたよ!』

 

 頬に涙が伝う。

 そうか。お前たちは、ずっと……。

 

『行こう! 一緒に戦おうよ! ■■……いや──ダイキ!』

 

 懐かしい名前を訂正して、彼は呼んでくれる。

 俺の今世の名前を。

 ああ、間違いない。

 来てくれたのか。

 俺のために、この世界に相応しい姿となって。

 だったら俺は、その思いに応えなくちゃな。

 

「ああ、行こう。待たせたな、お前たち」

 

 四つの光が、一斉に輝きを増す。

 感じる。

 俺の中で、カチリと錠が開いていくのを。

 

 変わる。

 俺の体が。

 魂の在り方すらも。

 

「そうか……これが!」

 

 込み上がる力の奔流を、一気に解き放った。

 

 

 

 

    * * *

 

 

「うおおおおおおお!!」

「なにっ!?」

 

 不思議なことが起こった。

 影浸が大鎌でダイキの首を刎ねようとしたその瞬間……。

 ダイキの体から赤い炎が(ほとばし)ったのである。

 その炎は影浸の拘束を解き、槍もろとも消失させた。

 炎の余波は止まず、ツクヨたちにかけられた拘束すらも一瞬で消滅させた。

 

『っ!? スズちゃん! 浄耀鐘を!』

『はい!』

 

 スズナの浄耀鐘によって、全員が瀕死の重傷から回復する。

 

「バ、バカな!」

 

 このありえない事態に影浸は動転する。

 動揺は意識を取り戻した女性陣にも広がる。

 

「な、何が起こったの!?」

「あれは……クロノ様の体が、赤く光って!? いったいあの御方の身に何が!?」

「まさか……ついに目覚めたのか!」

 

 ツクヨだけが、すぐに察した。

 ダイキの中に眠る『力』が、ついに覚醒したのだと。

 

「──ありがとう」

 

 赤い炎を纏いながら、ダイキは感涙と共に微笑む。

 

「ずっと、傍にいてくれたんだな?」

 

 それは、ダイキにとって前世の家族たち。

 種族を越えた友情を育んだ動物たち。

 その絆が、次元を越えて、世界を越えて、いまこそひとつの力の結晶として解き放たれる。

 その名を、ダイキは告げる。

 霊獣として姿を変えた、愛犬の名を。

 

「霊獣解放──火花(ヒバナ)!!」

 

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