『銀色の月のルカ』堂倉目廻のインタビュー
【プロ漫画家を目指す君へ! プロが語る漫画秘術!】
【第13回 『銀色の月のルカ』
ホラー漫画で異例のヒットを記録し、全31巻で完結を迎えた『銀色の月のルカ』。
これまで謎に包まれていた堂倉目廻先生がついにインタビューに応じてくれたぞ!
凍り付くような恐怖と戦慄、美しい少女たちの戦いと友情を見事に描き切った堂倉目廻先生の漫画秘術を是非聞いてみよう!
──本日はお越しいただきありがとうございます!
堂倉「はぁ」
──改めまして『銀色の月のルカ』の完結おめでとうございます!
堂倉「どうも」
──少年誌でここまでホラー作品がメジャーになったことは滅多にございません。まさに漫画史に残る名作を描き上げたわけですが、先生はどのような思いで執筆に臨まれたのでしょうか?
堂倉「……」
──……あの、先生?
堂倉「べつに。単に仕事だから描いただけです」
──えっと、特に作品に思い入れは無いと?
堂倉「そうは言ってませんけど?」
──あ、失礼しました。
堂倉「思い入れ、というのなら、恐らくこの世の誰よりもルカたちの物語に入れ込んでいたのは、この私です」
──そ、そうですよね。では制作秘話など是非お聞きしたいのですが。
堂倉「制作秘話も何も……私はただ描いただけですからね」
──いえ、ですから未来の漫画家たちのために先生の技法とか、貴重な話をうかがいたく……。
堂倉「技術的な話なら絵のことくらいしか話せないと思いますよ」
──ああ、先生の絵は本当に素晴らしいですからね! ルカたちをはじめとした女性キャラの扇情的な描写は多くの男性ファンを虜にしました! かくいう私もたいへん興奮させていただいて(笑)
堂倉「……はぁ」
──先生?
堂倉「やっぱり受けるんじゃなかった」
──え?
堂倉「もう帰ってもいいですか?」
──え!? ど、どうされました?
堂倉「どうもこうも……話す気が無くなりました」
──ちょ、ちょっと!?
堂倉「あなた、さっきから視線がいらやしいです。人の目ではなく胸ばかり見てる」
──はい?
堂倉「そんなに意外ですか? 作者が女だったことが。女が元々エロ漫画を描いていたことが、そんなに興奮しますか?」
──なっ!? 何をおっしゃってるんですか!?
堂倉「とにかくあなたにルカたちのことを話す気になれません。失礼します」
──ちょ、ちょっと待ってください! あの、誰か来て!
約15分の説得の末、インタビュアー交代。
──たいへん失礼しました。先ほどの者は退室させました。ここからは私が担当させていただきます。賛否両論の多かった『銀色の月のルカ』の結末ですが、あのラストは最初から想定されていたのでしょうか?
堂倉「いいえ。というより、私はあの作品で構想を練ったことは一度だってありません」
──ノンプロットで描き上げたと?
堂倉「それも違います。私はただ……
──え? 夢、ですか?
堂倉「昔から、そうなんです。同じ夢を頻繁に見るというか。見た内容をはっきり覚えているんです」
──明晰夢、というやつですかね?
堂倉「世間的には、そう言うんでしょうけど……でも、何だろう。夢って言っていいのかな? 起きていても、夢の続きを見てしまうことがあるんですよね。意識が違う場所に持っていかれるというか」
──白昼夢……とはまた違う感じですか?
堂倉「言葉では説明しにくいです。強いて言うなら……こことは別の世界の出来事を見ている感覚に近いです。子どもの頃から、そうなんですよね。人とは違うものを知覚してしまうというか」
──もしかして、先生ご自身も霊感のようなものをお持ちなのでしょうか?
堂倉「霊感……そうですね、そういったほうがいいかも。幼い頃は、見えちゃいけないものをよく見ていたので。その怖さから逃避するために絵を描いていたところはありますね」
──なんと。それがきっかけだったんですね。
堂倉「幸い、絵の才能はあったみたいで。ネットに公開したら凄い反響だったんで『じゃあ、これを飯の種にするか』って決めました」
──それから漫画家を目指されたのですか?
堂倉「絵を描ける仕事なら何でもよかったんです。試しに自分の体をモデルにした成人向け漫画を描いたら、たまたまそれがバズっちゃって。ご存知の通り、しばらくは成人向けの雑誌で仕事をしてました。まさか、そこから少年漫画を描くことになるとは思わなかったですけど」
──思えば『銀色の月のルカ』も元々はWebで掲載された漫画でしたね。
堂倉「最初にオファーを受けたときは、断ろうと思いました。だって、夢で見た内容をそのまま漫画にしただけですからね。その続きを自分で考えるつもりはありませんでした。でも……ルカたちの夢に限っては、途切れる様子がなかったんですよね」
──その後も延々と同じ夢を見続けたと?
堂倉「ええ、まるで私に漫画にしてほしいとばかりに。なら、そういう運命なのかなって思って引き受けることにしました」
──結果として、それで大ヒットしたわけですから、本当に運命めいたものだったのかもしれませんね。
堂倉「……これ、言っていいやつですかね? 私、本当に一度もネタを自分で考えたことないんですよ。まさかこんなにヒットするなんて思わなくて。どうせ途中で打ち切られると決めつけてたんですが」
──見た夢をキッカケにして作られた創作物はいくらでもありますから、問題ないですよ。それに、あの世界観を漫画として描き起こせるのは先生しかいなかったと思いますよ。
堂倉「まあ寝ている間に描くべきネタが手に入るわけですから、おかげで作画に専念できたんですよね」
──週刊誌とは思えない凄まじい画力でしたものね。
堂倉「やる以上は手を抜かないって決めましたから。そして……見た夢の内容と異なる展開に絶対にしない、ことも」
──夢で見た内容を一度も弄られなかったんですか? 編集からボツにされることもあったのでは。
堂倉「最初の編集さんは何度かボツにして『もっと少年誌らしい展開にしよう』って言ってきましたけど、無視しました。『内容を弄るつもりなら連載辞めます』って伝えたら、その後は作画のみの指摘に留めてくれるようになりました」
──思いきりましたね。
堂倉「まあ実際は尺の都合で泣く泣くカットした場面や、省略した情報もあるにはあったんですけどね。でも筋はほとんど変えていません」
──すると番外編の『緋色の剣のクレハ』※も夢で見た内容をそのまま描いたのですか?(※常闇の侵徒との戦いを中心に描いた番外編。ホラー要素強めの本編と比べると、異能バトル要素が強め)
堂倉「はい。クレハたちの夢も、ある日を境に見るようになりました。ルカたちとは接点が無かったので月刊で別枠として連載することになりましたが……まさか途中で仲間になるとは思ってませんでした」
──クレハたちと合流してから本編も異能バトル要素が強めになりましたよね。あれも意図的な路線変更では無かったということですか。
堂倉「夢で見たことをありのまま漫画にすること。彼女たちの人生を見世物にしてお金を貰う以上、都合のいい改変をしないことが筋だと思っていました。私にとってルカたちは、もう夢の住人ではなかったんです。気づけば身近な隣人や友人のように愛着が湧いていたんです。まあ、私の一方的な感情なんですが」
──先生にとってルカたちは、もはや実在する少女も同然だったわけですね。
堂倉「……本当に実在してたのかもしれない」
──え?
堂倉「アレは夢だったのかな……もしかしたら本当に別の世界を私は……」
──先生?
堂倉「あ、失礼。質問を続けてください」
──夢の内容を弄らないという意思は、本当に最後まで変わりませんでしたか?
堂倉「……正直、終盤からは悩みました。だってルカたちには幸せになってほしかったですから。物語の中だけでもハッピーエンドにすべきなんじゃないかって。でも……」
──変えなかったんですね、あの結末を。
堂倉「はい。先ほども申し上げたように、彼女たちの生き様を、ありのまま描き切ることが筋だと思いました。たとえ、どんな評価をされようと」
──『ホラー作品として相応しい結末だった』『少年誌としては許せない終わり方』……最終話公開後は、そんな両極端な感想で溢れましたね。
堂倉「編集部に私を非難するお手紙がかなり届きましたよ。『読んだ時間を返してほしい』『あなたは悪魔だ』『大好きだったキャラクターたちが、あんな最後を迎えるなんて酷すぎる。あなたを絶対に許さない』……さもありなんですね」
──手紙に目を通されたんですか?
堂倉「私には、その義務があると思いました。本当に、悩んだんですよ。展開を変えるべきなんじゃないかって。常闇の侵徒との戦いが始まってから、ずっと葛藤してました」
──確かに、常闇の侵徒との戦いからでしたね。『銀色の月のルカ』の展開がどんどん不穏になっていったのは。
堂倉「描いていて一番辛い時期でした。私自身、想像もしてませんでしたからね。まさか、あそこからメインキャラの一人が……」
* * *
前略、とつぜんのDM、失礼致します。
先生の作品を愛読させていただいている者です。
先日、先生のインタビューを拝見させていただきました。
実は先生にお聞きしたいことがあり、こうしてメッセージを送らせていただきました。
『銀色の月のルカ』の物語が、すべて先生が見た夢というのは本当でしょうか?
実は、私にも霊感があります。
先祖が霊媒師だったようです。
実家の蔵にそれに関した書物が多数あります。
異世界との交信を試みる方法が纏められた書物です。
(古い書物の中身が撮影された画像)
信じられないかもしれませんが、その書物を使って私はつい最近、異世界との交信を試みることに成功しました。
そして……その世界は先生が描いた『銀色の月のルカ』の世界、そのものなのです。
それもまだ、結末に至っていない時系列の『銀色の月のルカ』です。
先生が見たのは、夢ではないかもしれません。
『銀色の月のルカ』は、実際に存在する異世界なんです。
先生にも霊感があるのなら、私と同じように異世界の情景を知覚していた可能性があります。
先生の場合は、その世界の未来……あるいは並行世界の観測だった。
先生に折り入ってお願いがございます。
先生が見た『銀色の月のルカ』の世界の出来事をもっと詳しく聞かせていただきたいのです。
連載中、泣く泣くカットした場面や、省略した情報もあるとインタビューでおっしゃっていましたよね?
どうか、その辺りの情報をいただきたいのです。
私の親友を助けるために、どうか先生の力をお借しください。
数ヶ月前、私にとって世界で一番大切な親友が亡くなりました。
殺されたのです。ヒトでない、何か異質な存在に。
そして、その存在はいまも尚、私の親友の魂をつけ狙っています。
親友の魂は……いま『銀色の月のルカ』に転生しています。
先生、私はふざけていません。
至って真剣です。
真剣に、親友を助けたいのです。
私は何度か夢を通じて、向こう側の世界にいる親友と交信を試みました。
できることなら原作の内容すべてを彼に伝え、怪異との戦いに役立ててほしかったのですが、現状の私の力では限界があります。
そして何より……もはや原作の知識が役立つのかわからないほど、私が見ている『銀色の月のルカ』の世界線は変化しています。
親友は現在ルカたちと関わり、彼女たちの運命を大きく変えているのです。
親友の活躍により、本来なら不幸になるはずだった、死ぬ運命にあった人々すら救っています。
原作と比べて良い方向に進んでいます。
ですが……逆に言えば、この先に起こる危機も予想不可能ということです。
もはや原作の知識だけでは、どうすることもできません。
私だけでは無理なのです。
でも先生がいれば……『銀色の月のルカ』の世界の未来、または並行世界を観測できる先生なら、親友を救うヒントが得られるかもしれないのです。
お願いします。
どうか一度、お会いすることはできないでしょうか?
お返事、お待ちしております。
ユーザーネーム『ヤッちゃん』より。