【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう   作:青ヤギ

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ルカとアイシャの共闘



 四方八方から伸びる無数の木の枝。

 少女の腕幅と変わらない太さを持つソレは、鞭のようにしなり、あるいは槍のように鋭い先端を尖らせて、ルカとアイシャに襲いかかる。

 

「フッ!」

 

 霊力によって動体視力を強化したルカは、縦横無尽に迫り来る攻撃にも見事に対応した。

 不規則に襲いかかる連撃に臆することなく、機敏な動きで躱し、大鎌と化した紅糸繰で断ち斬っていく。

 切断された怪樹から、まるで血飛沫のように樹液が飛び散り「ギィィ!」と不気味な金切り声が上がる。

 文字通りの伐採。異形の樹木は鎌の切断によって沈黙したかに思えたが……数秒もすれば元のカタチを取り戻し、再び襲いかかってくる。

 

(キリがない。やっぱり本体を倒さないと)

 

 怪樹の親玉である『懺悔樹』は、この森全体に根を張り、周囲の植物を自在に操っている。

 懺悔樹そのものを討伐しない限り、怪樹の群れは無限に再生し続けるだろう。

 

「アイシャ! 怪異の本体を!」

「承知していますわ!」

 

 アイシャも霊装で怪樹に応戦しつつ、懺悔樹との距離を縮めていく。

 

「神の威光にひれ伏しなさい!」

 

 身の丈以上に巨大な十字型の霊装を、アイシャは片手で軽々と振り回す。

 見かけよりも軽い、というわけでは決してない。アイシャの霊装『聖十字』は男でも両手で持ち上げることすら困難な、超重量級の武装である。

 長さの異なる四本の西洋剣を組み合わせたような見た目は、事実、材質そのものは刀剣とほぼ同じものである。

 一本ですら華奢な少女では持て余すような代物を、しかしアイシャはまるで羽箒を振るように扱う。

 霊力で動体視力を強化しているとはいえ、巧みなコントロールをしなければ実現不可能な動きであった。

 十字架の重い打撃が怪樹を粉々にしていく。

 (ふる)われる一撃は猛々しいが、アイシャ自身はまるでバレエでも舞うような華麗な動きで怪樹の隙間をくぐり抜け、次々と敵を屠っていく。

 

 だが増援が止まない。

 懺悔樹の命令に従って、離れた距離に生えていた樹木も怪樹と化して、戦線に加わってくる。ここが敵のテリトリーである以上、怪樹は増える一方だ。一体いったいの強さは大したことはなくとも、数で押し切られてしまっては元も子もない。

 

「出し惜しみをしている余裕はなさそうですわね」

 

 霊装による物理攻撃だけでは対処しきれないと判断したアイシャは、ここで霊術を行使する。

 

「《聖剣展開》」

 

 アイシャの言葉に合わせて、十字架に変化が起きる。

 十字のシルエットで言えば、最も長さのある下方部分。その先端に翡翠色に輝くエネルギー波が出現する。

 

「ハァ!」

 

 アイシャが十字を一閃すると、たちまち怪樹の群れは真っ二つとなり、稲妻を浴びたように黒焦げとなった。

 

 任意の箇所に霊力の力場を発生させ、刀剣の形状を維持し、斬撃を繰り出す霊術──『聖剣』。

 熟練のエクソシストが使用する上級霊術のひとつである。

 高度な霊力コントロールが必要とされるこの霊術は容易に修得できるものではないはずだが……アイシャは難なく霊力を維持したまま、手足のように刀剣を(ふる)っていく。

 翡翠色の閃きが連続で繰り出される。

 ……だが、怪樹の再生速度も斬撃の速さに合わせてくる。

 勢力はますます増え、本体のもとへ行かせまいと群れを成して壁を張る。

 

「厄介ですわね……ならば、これで一掃してさしあげますわ!」

 

 アイシャは『聖剣』を納め、聖十字の構えを変える。

 中心部にある取っ手のギミックが機動し、銃のグリップに似たパーツが出現する。

 アイシャはもう片方の手でグリップを握りしめると、十字の先端をライフルのように向ける。

 

「《聖光装填》」

 

 アイシャが霊力を込めると、十字の先端に球状のエネルギー体が発生する。

 一点に収束していく光は、音を立てて密度を増していき、膨大なエネルギー量を孕んでいくのが見て取れた。

 眩い翡翠色の輝きが周囲に広がっていく。

 

「《聖砲射出》!」

 

 十字の先端から凄まじい光の砲撃が放たれる。

 轟音を立てて疾走する光の筋は、砲撃の範囲に点在する怪樹たちを丸ごと蒸発させていく。

 射線上から外れている怪樹も、砲撃の余波を浴びただけで焼き焦げていく。

 壁を張っていた怪樹の群れが瞬く間に消失したことで、懺悔樹への道が開けた。

 

「さあ! トドメを刺しにいきますわよルカ!」

「言われなくてもわかってる」

 

 好機を見逃さず、ルカとアイシャは懺悔樹に向かっていく。

 異形の巨木はおぞましい唸り声を上げて、地中から何本もの木の根を引きずりだす。

 巨大な木の根が触手のように蠢きながら、少女たちを圧殺せんと迫ってくる。

 

「往生際が悪いことよ! ──《聖剣展開・十六練成》」

 

 アイシャが再び『聖剣』を展開する。

 だが十字の先端に変化はない。『聖剣』は空中に出現していた。

 翡翠色に輝く巨大な刀剣。巨人の手でなければ扱えないような規格外に大きい剣が、真下に切っ先を向けて宙に浮いていた。その数、十六本。

 

「《聖剣投射》!」

 

 アイシャの言葉を合図に十六本の『聖剣』が雨のように降り注ぐ。

 爆撃のように炸裂する巨剣の猛攻は、懺悔樹の木の根を一本残らず地面に串刺しにし、動きを封じた。

 一本ですら生成するのに膨大な霊力を使うであろう巨大な『聖剣』。それを一度に十六本も生み出し、さらには同時にコントロールする。

 ルカはその光景に目を見張っていた。

 

(アイシャ……悔しいけど、やっぱり凄い)

 

 気に食わない女ではあるが、並外れた規模の霊術を次々と行使するアイシャの実力の高さは、さすがのルカも認めざるを得なかった。

 優れた殲滅力に加え、高度な霊力コントロール。

 霊術の技能だけならば、間違いなくルカを凌駕していると言えた。

 若くして教会トップレベルの実力者である第一席エクソシストとなった少女……なるほど、教会の人間が彼女を『聖女』と持て囃すのも無理はない。

 しかも彼女はまだ成長している。

 これほど強力な霊術を持ちながら、また新たな霊術を身につけたという。

 いったい、どんな霊術だというのか。

 

「ルカ! 不本意ではありますが……トドメはあなたに譲りますわ! わたくしが動きを封じている間に、引導を渡しておやりなさい!」

 

 アイシャは状況判断も素早く的確だった。

 十六本もの『聖剣』を維持するには集中力を使う。アイシャは即座に拘束役を自らが引き受け、討伐をルカに委ねた。

 ルカは頷き、大鎌を構えて懺悔樹に飛びかかる。

 

(……倒す。怪異は倒す。もう二度と、負けられない!)

 

 ルカはいつも以上に怪異の討伐に闘志を燃やす。

 相手が何だろうと、もう自分に敗北は許されない。

 この先、大切な者たちを守るためにも、こんなところで苦戦するわけにはいかない。

 

【 《紅糸繰》 よ 《斬った対象》 を 《消滅》 させよ ! 】

 

 滾る熱意を言霊に変えて、紅糸繰に込める。

 どれほど巨大であろうと、いまの紅糸繰に斬られれば、言霊の理に従って、そのカタチを維持することもできずに消滅するだろう。

 

「終わりよ、懺悔樹!」

 

 渾身の一撃を(ふる)う……その瞬間。

 

 ……ニマァっ、と異形の口元が嗤った。

 

「っ!? これは……いけない!」

 

 アイシャがいち早く危機を感じ取った。

 

「ルカ! 気をつけて! その木……()()していますわ!」

「は?」

 

 こんなときに何を場違いなことを言っているんだあの色ボケシスターは、と呆れるルカだったが……それが決して場違いな言葉ではないことに気づく。

 植物の発情……つまりそれは!

 

 ルカは咄嗟に口元を塞ごうとした。

 だが手遅れだった。

 

 ──ゴパァ!!

 

 懺悔樹の口から大量に放出されるものがあった。

 肉眼でも見えるほどに濃密な花粉であった。

 本来、植物が生殖行為によって放つ粉末……それを懺悔樹は攻撃手段として放った。

 

「……っ!? がっ! かはっ! ごほっ! アっ……!」

 

 視界が黄土色の粉末に覆われた瞬間、ルカはまともに呼吸することができなくなった。

 いままで感じたこともない異常な掻痒感が眼球に走り抜け、瞼を開けることすらできなくなる。

 

「ぐしゅっ! ごほっ! オ、オオオオ……」

 

 顔中が涙でグチャグチャになり、鼻孔と口から粘液が垂れ流れる。

 体中の水分が全身の穴から抜け出るようだった。

 

「かはっ! うぐっ! こ、こんな小細工で、わたくしが……ごほっ!」

 

 花粉はアイシャのほうでも飛散されていた。

 ろくに呼吸することができなくなり、地に足をつける。

 空気を汚染するほどに濃度の高い花粉によって、少女たちは完全に行動不能にされた。

 

 ……最大の脅威と見なされる兵器のひとつに『ガス兵器』がある。

 どんな強靱な武人であっても、生身の人間である以上、汚染された空気の中では無力でしかない。

 それは霊能力者も例外ではない。

 ガスマスクと同じ役目を果たす霊術や霊装がない限り、抵抗の手段はない。

 そして、ルカとアイシャは汚染された空気の中を活動するための術を持っていなかった。

 

 木の触手が伸びる。

 少女たちの口元に、枝の先端が割り込み、無理やり咥え込ませられる。

 

「おごっ!?」

 

 口内にドロリとしたものを流し込まれる。

 樹液である。

 餌である人間を招き寄せるために利用した、中毒性を持つ甘い樹液。

 ……人間が持つ罪悪感を引きずり出す、禁断の味が広がっていく。

 

 ──サア、聞カセテゴラン? 君タチノ後悔ヲ。罪ノ意識ヲ。明カシテ、楽ニナロウ? サア、サア、サア……聞カセロ?

 

「あ」

 

 意識が朦朧としていく。

 いけない。このままでは懺悔樹の餌に……。

 だがルカの思考は、ゆっくりと過去に犯した過ちに引っ張られていった。

 

(やめて……いや……思い出させないで!)

 

 ……どうあっても償いきれない罪。

 意思とは無関係に、ルカは再び、幼い自分がしでかした辛い過去と向き合うことになった。

 

『……お母さん、お願い……私の力を封じて!』

 

 母に『禁呪』をかけてもらうことを()()()()きっかけとなった、あの忌々しい事件と。

 

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