今日はオカ研の皆で部室の掃除をしていた。
いろいろと物が増えたので整理することになったのだ。
「ダイくん、ついでだから隣の物置部屋も片付けよっか」
「おう、了解だぜ部長」
オカ研の部室には内扉がある。なぜか窓もない部屋で、俺たちの代よりもずっと前の生徒たちの私物が置きっぱなしの状態になっている。
俺とレンはそこを担当して、必要そうなものと不要なものをダンボールに小分けしていった。
それにしても随分といろいろなものがあるな~。
ひと昔の雑誌だけでなく、ラジカセやら卓球ラケットやらメイクセットなんかも出てくる。この果物のオブジェとか何に使うんだ?
「わっ! 見てダイくん! ポラロイドカメラだよ!」
レンが目を輝かしながら見せてきたのは、古いデザインのポラロイドカメラだった。
写真を撮ると、その場で現像された写真が出てくるタイプのカメラである。
「へ~、古そうだけど随分と立派なカメラだな。やっぱインフルエンサー的にこういうのに興味あるのかレン?」
「くくく、こういうマニア受けしそうな古い物ほど高値で売れたりするのだよダイくん。捨てずに残すならこういうヤツだよ……」
黒い笑顔でレンが言う。
そっちが目的かい。
「ねえねえ、このカメラまだちゃんと使えるか試してみようよ! ダイくん! そこ立ってて! ほら、ピースピース!」
「え? え~と……いえ~い」
レンがカメラを構えだしたので、咄嗟にポーズを取る。
フラッシュが瞬く。
どうやらまだ壊れてないらしい。
音を立てて写真がカメラから抽出される。
「おっ、出てきた出てきた。どれどれ、ちゃんと撮れてるかな~?」
レンと一緒に出てきた写真を確認する。
「あれ? まだ真っ白だぞ?」
「えーと、すぐには現像されないみたいだね。だいたい十分くらいかかるらしいよ?」
スマホで調べたレンがそう教えてくれる。何だ、そんなにかかるのか。
「ついでだから私のことも撮ってよダイくん! 綺麗に撮ってね~♪」
「おう、任せろ」
ポラロイドカメラという未知のアイテムを見つけた俺たちは片付けも忘れて撮影を楽しむという、見事にお片付けの途中で起こりがちなトラップに嵌まってしまった。
「はい、チーズ」
「いえーい♪」
フラッシュが瞬く。
可愛らしいポーズを取るレンの後ろで……一瞬だけ、人影が映った気がした。
「え?」
「ん? どしたのダイくん?」
「いや、いまレンの後ろに……」
……き、気のせいだよな。うん、そうあってほしい。
「い、一枚目の写真、そろそろ現像できたんじゃないか?」
怖さを誤魔化すため、撮った写真を見てみる。
するとそこには……。
「ひっ!?」
ゆっくりと現像されていくポラロイド写真。
笑顔でピースをする俺の背後に……黒い影のようなものが映っていた。
「ダ、ダイくん、これって……」
「し、心霊写真っ!」
じゃあ、やっぱりさっきレンの背後に見えたのは……。
とつぜん、物置部屋の電気が明滅する。
──……シテ。
「ひっ!?」
掠れるような声が物置部屋に響く。
……いる。俺たち以外の気配がする!
──カメラ……返シテ……。
震えながらレンと一緒に声のした方向を振り向くと……。
──私ノ……カメラ……返セ!
長く黒い髪の女が立っていた。
「いやああああああああああああああああああ!!!」
恐怖の臨界点を越えた俺は悲鳴を上げてレンに飛びついた。
「ちょっとダイくん! いつも思うけど普通こういうのは女の子の私がすべきリアクションじゃないかな!?」
「そんなこと言われたって怖いもんは怖いんじゃあああああ! 助けちくり~!!」
「あっ、ちょっ、こら、どこ触って……んっ♡ やんっ♡」
際どいところを掴んでしまっているためか、艶やかな声を上げるレン。
しかし怖さのあまり、それどころではない俺は悲鳴を上げるばかりであった。
──っ!? いいね! その色っぽい表情! 被写体としてグッドだ!
「え?」
何やら霊の様子が急変する。
ドンヨリとした黒いオーラは霞み、キラキラと星のような煌めきと一緒に実体がハッキリしていく。
うちの学園の制服を身につけた少女の姿だった。
「うむ! その美貌と抜群のスタイル! モデルとして申し分ない! そこの君! 是非写真を撮らせてくれないか!?」
霊はポラロイドカメラを握りながら、そんなことを頼んできた。
* * *
とりあえず害はなさそうなので、霊をルカたちのところへ連れて行った。
「私は
霊の少女、藤木さんはそう自己紹介をしてきた。
「へえ~、ここって写真部だったんだ。すると隣の窓のない部屋は暗室だったんですね」
「そういうことだ。しかし、まさか写真部がなくなっていたなんてね……やはり今時カメラなんて流行らないのかね~……」
藤木さんは寂しそうにポラロイドカメラを撫でた。
どうやらお気に入りのカメラらしく、彼女の霊魂はそこに宿っていたらしい。俺とレンが触ったことで、目覚めてしまったようだ。
「ふぅん、これがいまのケータイカメラか。随分と高性能になっているね。私の時代でもケータイで写真を撮るのがもう一般的になっていたが……なるほど、これほど技術が進化したんじゃ、カメラを買って写真を撮る若者が減るわけだね」
藤木さんは借りたスマホで何枚か写真を撮り、その性能に驚いている様子だった。
確かにガラケーのカメラと比較すると、とんでもない進化を遂げている言えるだろう。それこそわざわざ専門的なカメラを買う必要がないほどに。
「でもね、私はやっぱりカメラで写真を撮るのが好きでね。生前は何でも撮ったものだよ。ほら、そこの棚にアルバムがあるだろ? それを作ったのは私だ」
「あっ! このアルバムのことですか!? とても綺麗な写真ばかりでスズナ気になっていたんです! どんな御方が撮られたのかなって!」
スズナちゃんが嬉々としてアルバムを開くと、そこにはプロの世界でも通じそうな美しい写真でいっぱいだった。
すごい。とても学生が撮ったものとは思えない。
「いや~、懐かしいね~。どれも大切な思い出ばかりだ。本当はもっといろんな写真を撮りたかったんだが……とほほ。まさかこんな若さで死んでしまうとはね」
藤木さんはホロリと涙を流した。
確かに、これほどカメラへの情熱を持ちながら、こんな若さで亡くなられるとは、さぞ未練があることだろう。
……そう、未練があるからこそ彼女はこうして霊としてこの世に残っているわけで。
つまり、その未練を晴らさない限り彼女は成仏できない。
「そこでだ! 君たち頼む! 私の撮影に協力してくれないか!? 生前では実現できなかった、どうしても挑戦したいテーマがあるのだよ!」
藤木さんは俺たちに必死に頼み込んできた。
とても真剣な顔だ。
なんせカメラに霊魂が残るほどの強い思いである。
いったい、どんなテーマなのだろう。
「私が撮りたいもの。それはすばり……エロスだ!」
「よし、ルカ。ちゃちゃっと除霊しちゃおっか」
「りょーか~い」
「待ってくれ!? 何その鎌!? こわっ! いいのかな!? 暴力で訴えちゃっていいのかなぁ!? あーあー! 悪霊になっちゃうぞ~!? 未練を晴らすのに協力しないと悪霊になってそこの男子くんを襲っちゃうかもな~!?」
「ひいいいい!? ルカ待ってくれ! せめて話だけでも聞いてあげて~!」
マジで悪霊化されても困るので、とりあえず詳細だけでも聞いてあげることにした。
「私の同級生の女の子に写真屋の娘がいてね。撮影道具を融通してもらったり、顔立ちもいいからモデルもやってもらっていたんだ。ほら、そこに写っている子だよ」
アルバムの中に、亜麻色の髪の女子生徒の写真があった。
確かに、モデルとして申し分ない清楚系の美人さんだ。
「彼女の魅力を引き出すために、私はあらゆるテーマに挑戦しようと思った。そして最終的に辿り着いた結論が……ずばりエロスだったのだよ! やはり女子はエロスで魅力が引き立つと! だが断られてしまった!」
そりゃそうだろうよ。
「土下座して頼もうが、逆立ち全裸で放課後の校内を一周しようがスルーされてしまったんだ! そしてとうとう彼女のエロスを表現することもできないまま、ポックリ突然死してしまったというわけさ! 同情するならエロい写真を撮らせてくれ!」
同情の余地がまるでない。
「ルカ! こんなハレンチな霊やっぱり早急に除霊すべきよ!」
キリカも顔を真っ赤にして除霊を提案してきた。まあ、キリカは絶対にエッチなモデルなんて引き受けないだろうしな。
ルカは面倒くさそうに溜め息を吐きながら藤木さんに照準を定めた。
「悪いけど、あなたの要求は受けられないよ? というわけで悪霊になられる前に除霊しま~す」
「そうはさせん! 喰らえ! 『銀髪赤眼の爆乳美少女とか最強属性過ぎんだろビーム』!」
「にょわ~!?」
「ルカ~!?」
ルカが除霊を開始しようとした途端、藤木さんは手から謎のビームを放出!
ビームはそのままルカに直撃してしまった!
「ルカ!? おのれ霊め! よくもルカを!」
キリカが怒り顔で神木刀を藤木さんに向ける。
「安心したまえツンデレポニーテールくん」
「誰がツンデレよ!?」
「いや、どう見てもツンデレ属性がプンプンしているぞ君。そこの銀髪くんなら大丈夫だ。体に害はない」
「え?」
確かに、よく見るとビームを浴びたのにルカの体に傷らしきものはなかった。
変化していたのは……服装だった。
「あらま~?」
ルカの格好はいつのまにか、制服から体操着に変わっていた。
それも、うちの学園が指定している短パンではなく……。
「ブ、ブルマだとおおおおおお!?」
そう、現代ではすっかり失われてしまった、赤色のブルマであった!
「んうううう! やはり私の目に狂いはなかった! 似合う! 実に似合っているぞ!」
「ちょちょちょっと! ルカに何て格好させてんのよあんた!」
「ふはははは! やろうと思えばできるもんだね! 彼女に着て欲しい衣装を想像しながらビームを放ったら見事イメージ通りの格好になってくれたぞ!」
土壇場でなんちゅう霊術を身につけているんだ、この人。
「へいへい、そこの君~。黒野君と言ったか~? どうだい、彼女のブルマ姿は~? なかなかに刺激的だと思わないか~い?」
やらしい笑みを浮かべながら藤木さんが同意を求めてくる。
くっ。た、確かに、ブルマ姿のルカ……すごく、エッチだ。
普段はあまり見せないルカの生足。レンほどではないが、ムッチムチに実った色白の太ももがブルマを着用することによって、これでもか強調されている。
わ、わぁ。ルカってやっぱり足長いなぁ。白くて綺麗で……すごく柔らかそうだ。
「……ねえ、ダイキ? ブルマ姿の私……そんなに気になる?」
「え!?」
素足に向けられる熱い視線を感じてか、ルカは蠱惑的に微笑みながら近づいてくる。
心なしか、その表情は嬉しそうだった。
「いいよ? もっと近くで見ても」
そう言ってルカは体育座りをして、足を強調するように見せつけてくる。
ムチッとした太もも。
股に食い込む赤いブルマ。
思わずゴクリと唾を飲む。
ルカはそのままコロンと寝転がって、お尻を見せつけてくる。
食い込みによってヒップラインがハッキリとわかり、とんでもなくエッチだ。
ルカはオッパイだけじゃなく、お尻も大きい。
ブルマを履くことによって、まん丸としたセクシーなお尻の破壊力が増す。
「……ふふ♪」
視線がお尻に釘付けになっていると、ルカはますます機嫌を良くしたのか、サービスとばかりにブルマに指を挿れ……。
パチン♡
と食い込みを直した。
……やべえ、鼻血出そう。
「おおおお! そのポーズいいね! 白鐘君と言ったか!? 君は男心を実に理解しているね! 撮れる! いまなら至高のエロスを撮影できそうだ!」
「いいよ。ダイキが喜んでるから、協力してあげる」
「ルカ!? あんた正気!?」
キリカが困惑顔でツッコミを入れるが、ルカはすでにヤル気満々のようだ。
「その代わり、できあがった写真ちょうだい? ダイキにあげるから」
「承知した! 黒野君! 君はこのレフ板を持ってくれたまえ! さあ、撮影開始だぁ!」
かくして、藤木織絵によるエロスをテーマにした撮影大会が始まった。
* * *
「そうそう! いいぞ白鐘君! もっと表情を物憂げな感じに……そう、そんな感じだ! いいねいいね~! 女子高生が出す色気じゃないぞ~!!」
藤木さんはハイテンションで愛用のカメラでシャッターを切りまくっていた。
「次はそのバランスボール乗ってみてくれたまえ!」
「いいよ~。んっ……ダイキ、見ててね? あっ。んっ……」
カメラというよりも俺に対して見せつけるようにルカはバランスボールの上で跳ねる。
体操着越しで特大のオッパイがバルンバルンと盛大に弾む。
サイズが小さめのためか、チラリと見えるお臍とくびれも大変セクシーだ。
「……何か、グラビア撮影の現場みたいだね」
「やめなさいレン。思ってても口にしちゃダメ」
「はわわわ。ルカさん、とっても扇情的です。スズナ、ドキドキしちゃいます!」
後方ではルカ以外の女子陣が撮影を見守っている。
あたかも自分たちが被写体にならないことを祈るように。
……しかし、その祈りは虚しく散ることとなる。
「ん~……違う! 確かに扇情的だが、私が求めるエロスとは何か違う! 未成熟な少女でありながら極上の発育をした女体にブルマの組み合わせ。これが最適解だと思っていたが……何か! 何かが足りない! やはり王道は黒髪に熟した女の色気ということか!」
「え?」
藤木さんの目はレンのほうに向く。
「うおおおお! 『なんだその膝枕に特化したぶっとい太ももはビーム!』」
「みぎゃ~!?」
藤木さんのビームが今度はレンに炸裂!
見る見るうちにレンの衣服が替わっていく!
「赤嶺君! 君には女教師をやってもらう!」
「え~!?」
レンの格好は先生たちが身につけるような教員スーツになっていた。
しかしそれはまるでアダルト作品に登場する女教師のように際どいデザインだった。
スカートはタイトで短く、黒タイツに包まれたムッチムチの太ももが大変セクシーだ。
ブラウスは普段通り胸の谷間が見えるくらい外されており、豊満なオッパイが強調されている。
JKの制服姿だと小悪魔的な印象だったが……女教師の格好だとまさに魔性的なエロスを醸し出す。
やべえ、女教師の格好、滅茶苦茶似合うなレンのやつ……。
「……こら~ダイく~ん? どこを見ているのかな~?」
いきなり女教師の格好にされて困惑していたレンだったが、俺が注目をしていることに気づくと、いつものスイッチが入ったようで、イタズラっぽい笑みで迫ってくる。
しかし格好のせいか、いつもの小悪魔っぽさとは異なる、大人の色香がムンムンと漂ってくる。
レンはスーツに押し込められた特大のオッパイをぷるんと弾ませながら、俺の耳元に顔を近づけてくる。
「いけませんよ~? 先生をエッチな目で見たりしちゃ。後で、先生のところに来なさい? ……お・仕・置・き・しちゃいますからね~?」
ふぅーと耳に息を吹きかけて、色っぽい声色で囁くレン。「あひぃ~」と情けない声が出てしまう。
「……レン、何だかんだであんたもノリ気じゃないの」
キリカが後ろで呆れ顔を浮かべていた。
選手交代で今度はレンが被写体となって撮影が始まる。
「いいよ赤嶺君! もっとこう蔑む感じで! 見下ろす感じで! そうそう! いいね! サディスティックな色気が出ているよ~! 今度は机の上に座って足を組んでみてくれたまえ! かぁ~っ! なんてエロい太ももなんだ!」
さすがは一流のインフルエンサーといったところか、レンのカメラ写りは大変良いようで、藤木さんは満足そうに撮影を楽しんでいた。
しかし……。
「……惜しい! まだ何か足りない! なぜだ! モデルはこんなにも完璧なのに!」
どうもまだ彼女の納得のいく一枚ができないようだ。
「くっ! こうなったらいろいろ試行錯誤していくしかあるまい! 次は君だ黄瀬君! 『お嬢様のご奉仕するところが見てみたいんだよビーム』!」
「あ~れ~!?」
今度はスズナちゃんがモデルとなった。
「ご主人様~! スズナの愛情たっぷりの紅茶飲んで欲しいですニャン♡」
スズナちゃんが身につけたのは猫耳ミニスカメイド服だ。
肩や胸の谷間が盛大に見えるだいぶエッチなデザインである。
うっ。普段露出の少ないスズナちゃんの際どい格好……たいへん目に毒だ!
「ん~! 清楚なお嬢様がハレンチなメイド服でご奉仕する姿! 実にアンバランスで背徳的だ! ……でも違ああああう! たいへんエロくてキュートだが、求めているエロスと離れてしまった! 次は君だツンデレ君!」
「だから何でアタシは名前じゃなくてツンデレ呼びなのよ!? ちなみにアタシは絶対にやらないからね!?」
「問答無用! 『実は押しに弱いだろビーム』!」
「ぎゃああああああ!!」
抵抗も虚しく、キリカもビームを浴びて衣装を替えられてしまった。
「うむ! やはり君はくノ一姿が似合うと思っていた! 試しに『くっ! 殺せ!』って言ってみてくれ!」
「この格好のどこがくノ一なのよ!? 体のラインが丸わかりじゃないのよ~!! うわ~! 黒野コッチ見るなああああ!!」
キリカの格好は一応、くノ一とのことだが……どう見てもそれはラバースーツを和風にアレンジしたもので、巨大な乳房やくびれたウエスト、丸く大きなお尻の形がそれはもう凄いくらいに強調されていた。
くノ一というより、女スパイって感じだな。いや、くノ一もスパイだから、あながち間違ってないのか?
「ん~! その抵抗する姿が嗜虐心をそそる! でも、惜しい! まだ、まだ何か足りない! あともうちょっとって感じなのに! ああ、他に極上の爆乳美少女はいないのか!?」
藤木さんの願いが届いたのかわからないが、オカ研の部室に来客が訪れる。
「クロノ様~♡ 親愛なる貴方様のためにわたくしヨーグルトを作ってまいりましたの~♡ 特別なミルクからたっぷりと熟成させましたのできっとお口に合うと思いますわ~♡」
毎度のように勝手に学園に侵入してきたアイシャであった。
「って、何をしてますの皆様! そんなハレンチな格好をなさって!」
「いやどう見ても君の格好が一番ハレンチだと思うな! 何だい、そのドスケベなシスターのコスプレは!?」
「んまっ!? 何てことをおっしゃいますの!? これはコスプレではなく立派な正装でしてよ!?」
「性装とな!? ええい何でもいい! 何てエロいシスターだ! オッパイもお尻も太もももバインバインンしやがって! あちこち『むちむち』うるせー体だなオイ! 『もう充分エッチだがもっとエロい姿が見たいんだよビーム』!」
「んほおおおおおおおお!!?」
なし崩し的にアイシャもモデルとなった。
「はぁん♡ 事情はよくわかりませんがクロノ様が喜んでくださるのなら、アイシャは喜んでモデルとなりますわ~♡」
着崩れた浴衣姿のアイシャは、指示もしていないのに自らなやましいポーズを取る。
身動きするだけで、いまにも浴衣からこぼれ落ちそうなバカデカイおっぱいが「どたぷん♡ ばるるるん♡」と弾みまくる。
布の切れ込みから伸びる生足も色気たっぷり。
「あむっ♡ くちゅっ♡ おいしい♡」
持参してきたヨーグルトを艶めかしく口にする姿もたいへんセクシーだ。
エロい。相変わらず、エロ過ぎるぞこのシスター。
これこそ究極のエロスと言えるのではないか?
「あ~ん♡ クロノ様の熱い眼差しを感じますぅ♡ 必要とあらばこの浴衣も脱ぎ捨てて生まれたままの姿になりますわ♡ 芸術のためならば脱ぐのも仕方ありませんわよね♡」
「……ダメだ! これはエロスではなく、ただの淫乱だ! 淫乱なシスターだな!」
「なんですって!? 清き淑女であるわたくしのどこが淫乱だとおっしゃいますの!?」
「「「「鏡見なさい」」」」
オカ研女子総出でツッコミを入れた。
残念ながらアイシャであっても藤木さんのお眼鏡に適わなかったようだ。
「な、なぜだ! これほどの逸材が揃っていながら、なぜ納得のいく一枚が撮れないんだ!」
思うように写真ができないせいで、藤木さんはすっかり頭を抱えてしまっている。
弱ったな~。芸術のことはまったくわからんから、これ以上力になってやれそうにないぞ。
「……むっ? 黒野君……君って、結構体を鍛えているね?」
「はい?」
藤木さんの興味の矛先は、なぜか撮影のサポート役である俺に向けられる。
「……そういえば、男性を被写体に選んだことは、まだなかったな」
「あ、あの、藤木さん?」
「黒野君。脱ぎたまえ」
「え?」
フラッシュが瞬く。
パンツ一枚になった俺の姿を激写すべく。
「カァーッ! これだ! これぞ求めていた境地だよ! なんてバランスの取れた肉体美! 男性にしか出せないエロスが滲んでいる! 黒野君! 今度は猫のようなポーズを取りたまえ!」
「こ、こうですか?」
「いいねいいね! 実にエッチだよ! 大変エッチだ! 特に鎖骨! なんてエッチな鎖骨なんだい!」
いや、男のセミヌード写真とか誰得なんだよ! アイドルならともかく!
しかし、なぜか藤木さんを含めて他の女子陣も俺の撮影に盛り上がっていた!
「ダイキ! 本当になんてエッチな鎖骨なの! いっつもそのエッチな鎖骨で私を誘惑するんだから! 反省してよダイキ!」
「本当! エッチな鎖骨だねダイくん!」
「ダイキさん! 鎖骨エッチです!」
「ハレンチな鎖骨だわ!」
「ぶはあああああああっ!!! クロノしゃまのお美しい鎖骨を見てアイシャもうたまりませんわあああああああああ!!!」
ひどい! そんなに鎖骨をエッチと言わないで! 何だか恥ずかしくなってきたじゃないの! いやん!
「いいこと思いついた! 白鐘君たち! ちょっと黒野君にくっつきたまえ! 皆のエロスを合体させるのだ!」
「何ですと!?」
何かとんでもないことを言い出したぞこのエロスの探求者!
キリカを除いた女子たちの目がキランと光り出す。
「芸術のためなら仕方ないね」
「そうだね、仕方ないね」
「仕方ありません♪」
「仕方ありませんわあああああ♡♡♡」
「どわあああ!!」
エッチな衣装を身につけた爆乳美少女たちが体を押しつけてくる。
ルカは赤ブルマを身につけたお尻を。
レンは黒タイツに包まれた太ももを。
スズナちゃんはメイド服からこぼれ落ちそうな深い胸の谷間を。
アイシャは股間に向けて顔を押しつけて思いきり深呼吸してきた。
「ツンデレ君! 何をしている! 君も参加したまえ!」
「いやよ! 何でそんなことまでしなきゃいけないのよ!?」
「頼む! あと少しで完成するんだ! 私が求めている至高のエロスが! それを見れれば成仏できるから! どうか私を救ってくれ!」
「ぐぬぬぬぬ……ああもう! やればいいんでしょうが! おらあああ!」
「わぷっ!」
キリカがヤケクソ気味に飛びかかってくる。
体の輪郭がピッチリとしたラバースーツで爆乳やら太ももを密着させてくる。
かくして全身が五人の爆乳美少女たちに包まれた男の図が完成する。
「……これだ。これだよ! 私が探し求めていたエロスは! ……ありがとう! ありがとう君たち! これで心置きなく成仏できて……あれ?」
「……ん?」
至高の一枚が撮れたことで、感動の涙を流す藤木さん。
そのまま昇天していくかに思えたが……しかし彼女の霊体はいまだに現世に留まり続けていた。
「ど、どうして!? 満足のいく一枚が撮れたのに! なんで成仏できないんだ!?」
「ちょっと! 話が違うじゃない! あんたが成仏できるようにこんな恥ずかしいことをしたってのに! 実はこれが未練じゃなかったっていうの!?」
「い、いや! 違う! 私にとってエロスは撮りたかった題材だ! それが未練のはずなんだ! でも……何か、忘れている? 私は、他にも、撮りたかった写真が、あるのか?」
藤木さんは記憶を掘り返すように自問自答する。
霊にはよくあることだ。肝心な記憶が朧気で思い出せなくなるのは。
まだ、あるのだ。
藤木さんを現世に留める理由が。
「……うわああああ! 思い出せん! こうなったら何でもいい! 『私の本当に見たいものを見せてくれビーム』!」
「「「「「わああああ!?」」」」」
五人一斉に藤木さんのビームを浴びる。
破れかぶれに放たれた衣装替えビーム……いったいどんな格好にされるのか不安に思いつつ目を開けると……。
「……え?」
目の前に広がっていたのは、先ほどまでのエロスとは程遠い光景だった。
白いウェディングドレスを身につけた五人の美しい花嫁たち。
そして俺はタキシードを着ていた。
「ウェディングドレスだぁ。憧れてたから、嬉しい」
「わあ! 素敵!」
「皆さん、お綺麗です!」
「え!? ちょ、ちょっと! こ、これじゃまるで黒野とけけけけけけっこ……する、みたいじゃないのぉ……」
「まさか二度もこの装いができるだなんて……感激ですわ」
やはり女の子にとっての憧れだからか、ルカたちはウェディングドレスを着れてはしゃいでいた。
でも……これが藤木さんにとって本当に撮りたいものなのか?
カシャッとフラッシュが瞬く。
見ると、藤木さんは涙を流しながら写真を撮っていた。
「……思い出した。やっと、思い出せた。私が、最後に撮りたかったもの……」
先ほどまで自由奔放に振る舞っていた態度は薄れていた。
やるべきことをハッキリと見つけ、覚悟を決めた顔がそこにはあった。
「……すまない。最後にひとつ、頼まれてほしい」
藤木さんは、かつて暗室だった物置部屋に入り、しばらくして、ひとつのカメラを持ってきた。
「お願いだ。このカメラを、ある場所に持っていってほしいんだ」
* * *
俺たちは商店街にあるお店に足を運んだ。
「ここか」
「へえ、こんなところに写真屋さんがあったんだ」
随分と寂れた写真屋だった。きっと古くから経営してきたお店なのだろう。
レトロな雰囲気が残るお店に、俺たちは踏み込んだ。
「ごめんください」
「はい、いらっしゃいませ~」
入店すると、女性の店員さんが迎えてくれた。
……あれ? この人、どこかで見たような……。
「ご用件は何でしょうか?」
「あっ、その、現像をお願いしたいんですが……」
藤木さんから預かったカメラを差し出す。
それだけしてくれれば、後は大丈夫と彼女はそう言った。
「まあ、現像! 珍しいですね、学生さんがカメラの現像をお願いするだなんて! 最近は昔と違ってほとんどデータで保存してますから、わざわざ写真に焼かれるお客さんは本当に少なくて」
久しぶりの現像依頼だったのか、女性の店員さんは嬉しそうにしていた。
「お預かりしますね! 現像はだいたい三十分後に……あら、このカメラって」
カメラを受け取ると、女性の店員さんはマジマジと観察する。
「これって、もしかして……織絵のカメラ?」
「あっ……」
織絵……藤木さんの名前だ。
店員さんがその名前を口にした瞬間、俺は思い出した。
亜麻色の髪……そうだ、彼女は藤木さんの写真のモデルだ!
確か写真屋の娘だと言っていた。すると彼女が……。
俺たちは事情を話した。
もちろん藤木さんの霊の話は伏せて……部室を整理していたら、かつての写真部が所有していたと思われるカメラを見つけた、ということにした。
「そうだったの……このカメラの持ち主、藤木織絵って言うんだけど、私の同級生だったの。本当に写真が好きで、コンクールにも入賞したこともあるのよ? でも……もともと心臓が弱くて、卒業を間近にしてとつぜん亡くなってしまったの。あの子なら、きっと素敵なカメラマンになれたのに……」
店員さんは切なげな瞳を浮かべて、カメラを優しく撫でた。
「そう、写真部はいまはないのね……やっぱり、時代なのかしらね~。このお店もね、しばらくしたら閉めることになったの」
「え?」
「やっぱり、このご時世じゃ写真屋は厳しいみたい。さっきも言ったけれど、写真の現像するお客さんはどんどん減ってて……。写真はスマホで充分って人がほとんどだし、証明写真もいまは自販機でも充分に綺麗に写るし、カメラ自体も電気屋さんやネットで買えるしね。曾おじいちゃんから継いだお店だから、できることなら残したかったんだけれど……」
店員さんは寂しそうに店内を見回した。
「でも、嬉しいわ。久しぶりに来てくれたお客さんが、あなたたちのような若い人たちで、しかも友人のカメラを届けてくれるなんて。本当に……ありがとう」
店員さんは、いまにも泣きそうな顔で頭を下げた。
俺たちは写真ができあがるまで店内で待つことにした。
素敵な写真がいっぱい飾ってあった。もしかしてこれは……。
「その写真、全部織絵のよ? お客さんたちに好評だったから、ずっと飾っているの」
やはりそうだったか。
藤木さんは、きっと何度もここに通って、心から写真を楽しんでいたのだろう。
思い出が詰まった場所だったに違いない。
そんな場所が、無くなってしまうだなんて……。
「お待たせしました。できあがりましたよ」
できあがった写真を受け取る。
「あの、ここで見てもいいですか?」
「もちろんです。よろしければそちらのテーブルに広げてください」
皆で写真を見る。
どれも、やはり素晴らしい写真だった。
「素敵……」
「本当だね。生きていれば、有名なカメラマンになれたかもしれないね、藤木さん……」
一枚いちまい眺めていると、亜麻色の髪をした少女の写真が出てくる。
俺は、それを店員さんに渡した。これは、この人が持っているべきだと思った。
「織絵……」
店員さんは胸元に写真を引き寄せて、静かに泣いた。
「あの……この店を閉じたら、どうなさるんですか?」
「ええ、実はね……私、結婚するの。お父さんたちの勧めもあってね、専業主婦になることにしたわ。本当は、写真屋の仕事を続けたかったけどね。私も、やっぱり写真が好きだから……」
……彼女がこのお店を続けていたのは、もしかしたら藤木さんとの思い出の場所を残したかったから、という理由もあったのかもしれない。
「そういえば、織絵言ってたな。私が結婚するときは、きっと最高の一枚を撮ってあげるって」
「っ!?」
もしかして、藤木さんの本当の未練は……。
* * *
結婚式はちょうど休日に行われた。「これも何かの縁」ということで俺たちも式に参加させてもらえることになった。
式場から新郎と新婦が出てくる。
「綺麗……」
「いいなぁ。やっぱり教会での結婚式って憧れるなぁ」
「幸せになってほしいですね!」
「西洋式の結婚式、初めて見たわ。こんな感じなのね」
「ああっ。いつかわたくしも、このように……」
ルカたちはウットリと式の様子を眺めている。
さて、俺はやるべきことをやろう。
ポラロイドカメラを新郎新婦に向ける。
……彼女が結婚する直前に、このカメラを見つけたのは、単なる偶然だったのだろうか?
いや、俺はきっと、必然だったと信じたい。
きっと優しい神様が、この縁を繋いでくれたのだと。
──こうだ、黒野君……うん、その位置がいい。
背後から手解きを受けながら、シャッターを押す。
写真が映し出される。
……うん、指導者が優秀だからか、俺にしてはいい写真が撮れた気がする。
「どうですか、藤木さん?」
──うん。至高の一枚だよ。……ありがとう。
彼女はそう言って微笑んで……ゆっくりと光の粒子となって、天に昇っていった。
その様子を、俺たちはずっと見守った。
……このポラロイドカメラは、これからも部室に残しておこう。
きっと、このカメラでないと残せない、素敵な思い出をたくさん残せると思うから。
女性たちがきゃっきゃっと騒ぎ出す。
どうやら花嫁がブーケを投げるようだ。
「むむっ!? こうしちゃいられない! ブーケは私がゲットする!」
「お待ちなさいルカ! ブーケを手にするのはわたくしですわ!」
「抜け駆けはズルイよ二人とも! 見てなさい! 私がキャッチしちゃうんだから!」
「こればかりは皆さんでも譲れません! スズナ、いきます!」
「べ、別にあたしは興味ないけど……い、一応ね、お約束ってやつだから!」
ルカたちは我先にとブーケを受け取ろうと、群がる女性たちの中に突っ込んでいく。
女の子たちにとっては、やはり見過ごせないイベントのようだ。
俺は苦笑しながら空を見上げる。
藤木さん、無事に逝けたかな?
どうか来世では、丈夫な体に生まれて欲しい。そしてきっと、今度こそ世に羽ばたく写真家に……。
考え事をしていると、目の前に何かが飛んできて、思わずキャッチする。
なんと花嫁の投げたブーケだった。
激しい争奪戦の末、俺のほうに飛んできてしまったらしい。
「え? あ? その……なんというか、すみません!!」
未婚女性たちの夢を野郎が奪ってしまった申し訳なさから反射的に頭を下げる。
「ダイキがブーケを……つまり、これは可能性があるってことだね」
「そういうことですわね。でも勝つのはわたくしですわ!」
「ふふん。わかんないよ~? 未来は無限大だからね~?」
「うふふ♪ スズナ、引く気はまったくありません♪」
「ちょっ!? ア、アタシは違うからね!? 勝手に巻き込まないでよ!?」
非難を浴びるかと思ったが、意外にもそんな様子はない。
むしろ会場の皆さん、なぜか微笑ましいものを見るように穏やかな笑顔を浮かべているのだった。
* * *
ブーケを受け取った可愛い後輩たちの様子を眺めながら、花嫁は微笑んだ。
ここにもしも織絵がいたら……本当に最高の日になったのに。
そんなことを考えているときだった。
──おめでとう。
「え?」
懐かしい声がした。
空から、何かが落ちてくる。
ポラロイド写真だった。花嫁の自分が写っている。
……どうしてか、わかる。
この写真が、かつての親友が撮ったものだと。
おかしなことを考えているのは承知だ。
でも、この撮り方は……やっぱり、彼女だ。
「……ありがとう、織絵」
花嫁は涙を浮かべて、写真を抱きしめた。
親友は、ちゃんと約束を守ってくれた。
* * *
オカ研の部室に、新しいアルバムが加わった。
その中には、五人の花嫁と、ひとりの新郎が写っている。
後に、成長したひとりの少女が、この写真を見て語る。
この写真は私たちの未来を暗示していたのかもしれないね、と。