【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう   作:青ヤギ

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灰崎の鑑定

 

    * * *

 

「○こでもドアだ~!? リアル○こでもドアだ~!!」

「す、凄いです! 用具入れの中が本当に別の場所に繋がっています!」

「やっべえ! どんな技術使ってんだコレ!?」

 

 別空間に繋がった用具入れを前に、俺とレンもスズナちゃんも童心に返って大はしゃぎしていた。

 用具入れを開けると、あら不思議。

 中に箒やモップは無く、どこぞの工房のような場所に繋がっているのだ!

 

「別空間に繋げる霊装……さすが灰崎家。とんでもない技術ね」

 

 裏の世界に精通しているキリカも、これにはさすがに驚いている様子だった。

 

「にははは。凄いっしょ~? あたしのお爺ちゃんが開発した霊装でね~。何かしら開閉できる物にこの鍵をセッティングすると、ウチの工房に繋がって、空間を越えて行き来できるようになるんだ~」

 

 灰崎熔さんと名乗った女性鍛冶師は、ゆるやかな調子で南京錠型の霊装の説明をしてくれた。

 

「あ、無理に弄くり回すと爆発するから気をつけてね~? あと許可なく工房入ると迎撃システムが作動するから入らないでね~?」

 

 俺たちはそそくさと用具入れから離れた。

 ゆるい口調でとんでもないこと言うな、このお姉さん……。

 

「いや~、しかし学園懐かしい~。大人になってから校舎に入ると感慨深い気持ちになってくるな~。まあ、あたしあんまり登校してなかったけどね~。なんせ勉強するより新しい霊装開発するほうが楽しくてしょうがなくてさ~。にははは!」

 

 ギザギザした白い歯を出しながら、熔さんはカラカラと笑った。

 なんというか……鍛冶師ってもっと硬派で強面なイメージがあったけれど、目の前にいる熔さんにそんな雰囲気はない。

 ショッキングピンクの長髪を三つ編みにして、パンクなジャケットを着ている姿は、どちらかというとバンドをやっているお姉さんという感じだ。

 かといって近づきがたい印象はなく、糸目や人懐っこい笑顔が愛嬌あって、見ていて微笑ましくなるタイプだ。

 そして胸がデカい。

 熔さんが快活に笑うたび、薄めの白Tシャツから主張する膨らみがぷるぷると揺れる。

 相変わらずこの世界は爆乳の女性が多いなー!

 

「……ダイキ。鼻の下伸ばさないの」

「いてて、すびばぜん」

 

 胸を凝視しているのをルカにすぐに見抜かれ、耳を引っ張られた。

 

「さてと、早速仕事に取りかかる前に準備することがあるから、ちょっと待っててね~?」

 

 と言って熔さんは革製のトランクケースを開け、中身を弄りだす。

 

「あれ~? おかしいな~。どこにやったかな~?」

 

 探し物が見つからないようで、熔さんはケースの中身を次々と外に放り出す。

 俺たちは一斉にギョッとした。

 箒に椅子に大型の照明……明らかにケースに収まらないだろってサイズの代物がどんどん出てくるのだ。

 さらには熔さんはケースの中に身を乗り出し、まるで地下室にでも入るように深く深く沈んでいくではないか。

 

「四次元だ! 四次元空間に繋がったカバンだよアレ!」

「凄いです! 映画でしか見たことないシーンを生で見れてスズナは感動です!」

「やっべえ! 子どもの頃に憧れた不思議道具が目の前にあるぞ!」

 

 おとぎ話に出てくるようなマジカルでミラクルなアイテムを前に、またしても童心をぶり返す俺とレンとスズナちゃん。

 

「「「灰崎家の技術ってすごーい!」」」

「……アンタたち精神年齢が下がってるわよ?」

 

 次はどんなビックリがあるのかと期待して目をキラキラとさせる俺たちを、キリカは呆れ気味に見ていた。

 

「おっ、あったあった♪ これこれ♪」

 

 ようやくお目当てのものを見つけたらしく、熔さんがテーブルにドンと平たいものを置いた。

 それは、風水などで使われる羅盤によく似た道具だった。

 

「いやー、ごめんね~。こういう仕事柄さ、人間関係が大事でね~。取引先が信用できる相手かどうか見極めるのが死活問題なのさ~。いやー、君らが信用できないってワケじゃないんだけど~、便利な道具ってのは人を狂わせるからね~。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、まず占わせてほしいんだ」

 

 そう言って熔さんは羅盤に向かって、掌をかざした。

 すると羅盤が虹色に光を発し、複雑な模様が浮かび上がる。

 

「ふむふむ……おう、これはこれは……うん。良かった。この出会いは『吉』と出たよ! 君たちとは今後とも仲良くしていきたいな~!」

 

 どうやら良い結果が出たようで、熔さんはご機嫌に笑ったが……。

 

「……あの、もしも『凶』が出てたら?」

「そのときは真っ先に帰るよ? お互い不幸になるような仕事は受けない主義だからね、あたしたち灰崎家は」

 

 俺の問いに熔さんはあっさりと答えた。

 依頼を受けたのに占いの結果次第で帰るって……いいのかよ、職人がそんなんで。

 

「言っとくけど、あたしの占いは当たるよ? 実際『凶』と出た取引先はろくな連中じゃなかったからね。そんな奴等に灰崎の技術は提供できない──『道具は相応しい者に渡るべきだ』……これは灰崎家に伝わる鉄の掟なんだ。相応しくない人間に便利な道具が渡ったら、どんな恐ろしいことに使われるか、わかったもんじゃないだろ?」

「それは……」

 

 空間を飛び越える道具、あらゆる物を収納できるケース……確かに、こんなとんでもない技術が悪用されたらと思うとゾッとする。

 なるほど、あらゆる超常の道具を造ってきた一族だからこそ、取引相手の選別は慎重になっているってことなのか。

 熔さんは「さて」と言って、居住まいを正した。

 

「じゃあ改めまして白鐘瑠華さん。今回、依頼を務めさせていただきます、灰崎熔です。それで……本当にいいのかな? 白鐘家の秘伝の霊装をあたしが調べちゃっても?」

 

 糸目がうっすらと開く。

 金色の瞳が、こちらを射貫いてくる。

 途端、熔さんの気配が変わったのを感じ、俺は萎縮した。

 陽気なお姉さんから、一瞬で『職人』へと切り替わった。

 

「……そうおっしゃるってことは、やはり紅糸繰は灰崎家が造ったものではないってことですね?」

「記録上では存在しないね。恐らく何代か前の白鐘家当主が編み出したものだと思うよ?」

 

 ルカと熔さんのやり取りで俺は驚く。

 無数の糸を束ねることであらゆる武器に形態変化する紅糸繰。

 白鐘家はあの複雑な構造をした霊装を、スペシャリストである灰崎家の技術を借りず造り上げたっていうのか。

 

「だからこそ、あたしたちも興味が尽きなくてね。ただでさえ『憑依型』の霊装は制作困難だっていうのに、白鐘家は見事に完成させた。いったいどんな原理で、いったいどんな材料で、いったいどんな製造法なのか……あぁ~、ワクワクしちゃうな~!」

「うおっ……」

 

 熔さんはまるでお酒でも飲んだかのようにトロンとした顔つきでゾクゾクと震えだした。

 息もどんどん荒くなって、興奮している様子。

 

「はぁ、はぁ。秘伝の霊装はその一族にとってまさに宝も同然……その宝の秘密をいまから暴いちゃうかと思うと……あぁ、やべぇ、背徳感パねぇ~。い、いいんだね白鐘さん? 一族の伝統を変えちゃうことになるけど、本当にいいんだね!?」

「構いません。その一族の当人である私が霊装の秘密も何も伝えられずに困っているんですから。だったら隠す理由もありません」

「そ、そっかぁ! じゃ、じゃあ、遠慮なく隅々まで調べさせてもらうね~? ぐへへ……」

 

 完全に目がイッた状態でヨダレを垂らしているぞこのお姉さん……。

 

「ね、ねえ、ルカ。大丈夫なの? この人にお母さんの大事な形見を調べさせて……」

 

 熔さんの様子に完全に引き気味のレンが、ルカにこっそりと耳打ちをする。

 

「若干後悔してるけど、灰崎家の人たちって皆こんな感じって噂だし……他に頼れそうな相手もいないし仕方ないよ」

 

 溜め息交じりにルカは言った。

 まあ職人さんって変わり者が多いと言うし……その分、腕は立つことを期待しよう。

 

「よし! じゃあ早速鑑定を始めようか!」

「紅糸繰を外に出したほうがいいですか?」

「ああ、必要ないよ。憑依型の霊装なら宿主本人の体を触るだけでも分析できるから。ただ服越しだと解りづらいから……」

 

 熔さんは一度、俺のほうをチラッと見て、

 

「悪いけど上は裸になってもらえるかな? そういうわけだからそこの男の子はいったん外に……」

「わかりました、脱ぎます」

「え!? ちょっ!?」

「ブッ!」

 

 ルカは俺の前でも躊躇うことなくベストを脱ぎ、ブラウスのボタンを外す。

 あっという間にピンクのブラジャーに包まれた特大おっぱいが「バルン!」と弾んで外に出る。

 

「うおっ! おっぱいデッカ……って、いやいや! お嬢さん、君は恥じらいってのがないのかい!? 男の子の前だよ!?」

 

 変人かと思いきや、ちゃんと真っ当な貞操観念はあるらしい熔さんが慌ててルカの体を覆い隠す。

 

「問題ないです。だってダイキとは裸を隠すような関係じゃありませんから……ぽっ♡」

「へ、へえ……最近の学生さんは進んでるんだね~」

 

 顔を赤くした熔さんにジッと見られる。

 やめろルカ! 誤解されることを言うんじゃない!

 

「ていうか黒野! なにいつまで部室にいんのよ! さっさと出て行きなさい!」

「ダイキさん! メッ、ですよ!」

「はい! 男子は退場! 声かけるまで中に入らないこと!」

「うぎゃっ!?」

 

 女子たちに蹴り出され、俺は廊下でポツンとひとりぼっちになった。

 

「……」

 

 とりあえず、することもないのでボーッと窓の外を見て待つことにする。

 旧校舎の窓からは運動場が見える。

 今日も今日とて運動部たちが青春の汗を流している。

 うんうん、みんな活発で元気だな~。

 懐かしいな。

 俺も前世では運動部だったから本来であれば、ああいう風に放課後を過ごしていたはずなんだよな。

 オカ研との時間だってもちろん楽しいけれど……やはり、少し未練がある。

 ちゃんと三年間、部活動をやり遂げて、ヤッちゃんと一緒に卒業したかったな、と。

 ……本当なら、そうなっていたんだよな。

 

 

 ──あの、赤い服の女さえ、いなければ。

 

 

「……って、いまさら前世のこと引きずってもしょうがないじゃないか」

 

 今朝、前世のペットたちの夢を見てしまったから、こんな気持ちになってしまうのかもしれない。

 切り替えよう。前世は前世。今世は今世だ。

 そう自分に言い聞かせて、運動部の活動を眺める。

 

 おっ、あそこの棒高跳びしている陸上部、ずいぶんと高く跳ぶな~。

 向こうのサッカー部のキーパーは見事な動きでボールを掴み、思いきり投げていく。

 野球部のバッターは小気味よい音を鳴らして硬球を打ち返す。

 空高く上がっていく、選手やボール。

 その軌道を目で追っていくと……

 

 電線の上に立つ赤い服を着た女が見えた。

 

 

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