【悲報】ビビリの俺、ホラー漫画に転生してしまう   作:青ヤギ

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レンの閃き

 

 

    * * *

 

 

「おかしい……いくら何でもおかしい!」

 

 天眼札を通してダイキの戦いを見守るレンが、悲鳴染みた声を出した。

 ダイキの度重なる猛攻を受けても尚、何事もなかったかのように立ち上がる影浸。

 あまりに理不尽な頑丈ぶりに、レンは驚愕を通り越して怒りを覚えた。

 

(いくら霊力で動体視力を強化しているからって、あそこまで無傷なのは不自然すぎる! やっぱり何か特殊な霊術を使っているとしか思えない!)

 

 灰崎熔から与えられた御札の効果によって、ダイキの攻撃が合成怪異を滅するほどの破壊力を秘めていることはすでに立証済みだ。

 たとえ影浸が霊術によって何かしらの防御をしているとしても、衣服に傷ひとつすら付かないのは、やはり奇妙である。

 

「あの黒衣自体が奴の霊術によって造られたものだとしたら……ダメージを与える手段はないってこと? そんなの……本当に無敵じゃない!」

 

 ……いや、落ち着けとレンは己を宥める。

 冷静さを失ってはいけない。

 こうしている間も、ダイキは影浸と攻防を続けている。

 ダイキはレンの知恵を頼った。だからその信頼に応えなくてはいけない。

 

(考えろ! 考えろ! 考えろ! 私にできることは、それしかないんだから!)

 

 いま一度神経を研ぎ澄ませて、レンは影浸の行動を注意深く観察した。

 必ず何か攻略のヒントがあるはずだと信じて。

 ……だが、やはり影浸に一切の隙は見られない。

 

「くっ……ダイくんがパンチやキックを直撃させても、やっぱり通じてない! うまく背後を取れても、すぐに迎撃されて……」

 

 ふと自分が口にした言葉をきっかけに、レンは違和感を覚えた。

 

「……迎撃?」

 

 迎撃。

 そう、影浸はダイキに対して迎撃をしている。

 その行為そのものが……矛盾していることにレンは気づいた。

 

「どうして、迎撃する必要があるの? だって……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もしも影浸が本当にいかなる攻撃をも無効化する無敵の肉体の持ち主ならば……いくつか行動に不審な点がある。

 

「そうだ……あのときも、あのときも、迎撃する必要なんてなかったはず。いや、それどころか……攻撃を避けている瞬間だってあった」

 

 一度違和感に気づくと、レンの記憶中枢は瞬時に必要な情報を拾い上げていった。

 そしていくつかの記憶を照合していく内に、影浸の動きにパターンがあることがわかった。

 

「……背後だ。影浸は背後を狙われるとき、必ず迎撃してる」

 

 影浸は正面からの攻撃は無視を決め込んでいるというのに、特定の箇所からの奇襲に限っては、神経質なばかりに迎撃をしている。

 そのことにレンは気づいた。

 

「なぜ? 背中を攻撃されてもダメージは無かったのに。何を警戒して? それは……見えてないから。背後からの奇襲は見えないから、迎撃するしかないんだ。それはつまり……」

 

 思考の末、レンはひとつの仮説に至る。

 

「──後ろに、攻撃されたくない部分がある?」

 

 その仮説が正しければ、ツクヨとの戦いでも同じ行動パターンを取っていた可能性が高い。

 レンはしばし熟考した後、背後にいる熔に確認を取る。

 

「……熔さん。天眼札は過去の映像を見ることも可能ですか? 録画したカメラを再生するように」

「え? あ、ああ。数分前程度の出来事なら再生可能なはずだよ?」

「よかったです」

 

 ツクヨに渡したものと連携している天眼札に指を触れ、「数分前の映像を見せて」とレンが念じると、動画が逆再生されるように過去の記録映像が映し出される。

 レンはダイキを見守りつつ、ツクヨと影浸の戦いに目を通した。

 

「……やっぱりそうだ。影浸は、背後を狙われると極端に迎撃を始める。ツクヨさんの最後の大技に対しては……空間転移を使ってまで回避してる。それはつまり……」

 

 回避しなければ、敗北していた。

 それ以外に理由がない。

 

「どこかに、あるんだ。絶対に攻撃されてはいけない急所が」

 

 レンは再び影浸を注意深く観察する。

 もしも攻撃されたくない部分があるのなら、そこを重点に庇うはずである。

 それはいったいどこか?

 天眼札の一枚を空高く浮かべ、俯瞰による観察も始める。

 月明かりに照らされた少年と黒衣の男による攻防。

 その様子を俯瞰で見た瞬間……レンはハッキリと見た。

 ありえない光景を。

 

「……あ」

 

 影浸の急所がわかったわけではない。

 ……しかし、カラクリは解けた。

 なぜ、ここまでツクヨとダイキの攻撃が無効化されるのか、その理由を。

 

「そうか……そういうことだったのね。バカか私。どうしてここまで気づかなかったの? ちょっと注意深く見れば気づけたことだったのに」

「レ、レンさん? 何かわかったんですか!? 敵の秘密が!」

 

 隣のスズナが期待の眼差しを向けると、レンは静かに首を横に振った。

 

「肝心な攻略法までは解けてない。でも……わかったことはひとつ。この影浸ってやつは──とんだ臆病者ってことだよ」

 

 

    * * *

 

 

 黒い刃を籠手で捌ききる。

 渾身の一撃を叩き込む。

 だがやはり、状況が好転することはない。

 俺の体力が消耗するばかりだ。

 

「どうした? もう諦めたか?」

「ざけんな! まだ俺はヤレる!」

 

 諦めるな!

 必ず手段があるはずだ!

 コイツを倒すための秘策が!

 

『ダイくん! 待って! 無闇に攻撃したらダメ!』

「っ!?」

 

 レンの声だ。

 この言い方……まさか何か敵の秘密に気づいたのか?

 

『よく聞いて! そこにいる影浸は……本体じゃない!』

「……え?」

『足下を見て! ソイツには──()()()()!』

 

 影。

 月明かりと、祭壇の妖しい明かりに照らされて、俺の影は長く伸びている。

 だが影浸には……。

 

 あるべき影が、無かった。

 それが意味することは……。

 

『ソイツ自身が……影なんだよ!! ツクヨさんもダイくんも、影である分身と戦わされていたの!!』

 

 

     * * *

 

 

 影を操る能力。

 影を刃に。

 影で相手を拘束。

 そして影を使って空間を自在に行き来できるのであれば……。

 

「影であらゆることができる……なら自分とそっくりの戦闘用の端末を作ることができても不思議じゃない! そりゃ無敵なワケだよ! 本体は何のダメージも受けてないんだもの!」

『だったら、いったいどこを攻撃すればいいんだレン!』

「落ち着いてダイくん。ツクヨさんとの戦いでも、ダイくんとの戦いでも、影浸は執拗に庇っている場所がある。それは恐らく分身を解除する何かか、あるいは……本体そのもの!」

 

 レンの考えでは、影浸の本体は近くにいる。

 もしも遠方から分身を操作しているのなら、死角からの奇襲も見えているはずだ。

 天眼札で戦いを見守るレンのように。

 分身と視界を共有しているという線も考えたが……どちらにせよ、影浸には攻められるわけにはいかない致命傷がある。

 それは間違いない。

 

(どこ? どこにあるの? 奴が執拗に庇っている箇所……それはいったいどこ!?)

 

 影浸の隠された急所。

 もはやそれを探し出すしか、勝利の糸口はない。

 使える手段をすべて使ってでも、見つけるしかない。

 

「そう……使える手段をすべて使ってでも……」

 

 意を決した顔で、レンは天眼札と向き合う。

 

「熔さん。天眼札は、本体が無事ならいくらでもコピーできるんですよね?」

「あ、ああ。一応、限界はないはずだよ」

「そして、そのコピーは、ある程度動かせるんですよね?」

「そうだね。その場合、霊力ではなくて使い手の脳波で動かすことになる。いま無意識でやっていると思うけど、空に浮いている天眼札のコピーは、赤嶺ちゃんの脳波で操作されているんだ」

「そうですか。それがわかれば、充分です」

「……赤嶺ちゃん? いったい、何をする気なの?」

「私にできることですよ」

 

 レンの異様な気配に、熔は固唾を呑んだ。

 

「ダイくん、任せて。私が絶対に……あなたを勝たせるから!」

 

 

     * * *

 

 

 目の前にいる影浸は、本体ではなく戦闘用の分身……。

 それがわかったところで、どう対応すればいいんだ?

 

「……腰が引けているぞ? もう心が折れたか?」

 

 無駄な体力の消耗を避けるため、攻撃の手を止めた俺を影浸が訝しむ。

 ちくしょう。汚い手を使っていながら偉そうに。

 どうする? 奴に悟られないように、レンが言う急所とやらを見つけ出すには……。

 何か策はないものかと考えた、そのときだった。

 

「む?」

 

 影浸の周囲に、無数の御札が出現した。

 

「何だ? この妙な紙束は?」

 

 とつぜん発生した御札の山に影浸が戸惑う。

 アレは……レンの天眼札!

 レン、いったい何をする気だ?

 

「なっ!?」

 

 無数の天眼札は一斉に影浸の背後に回った。

 まるで紙吹雪のように渦を巻きながら、影浸の背後を動き回る。

 

「よせっ!」

 

 異様なまでの危機感を見せながら、影浸は黒衣の鎌で天眼札の山を一掃した。

 

「……なに!?」

 

 しかし、すぐに第二の布陣とばかりに大量の天眼札が影浸の背後になだれ込んできた。

 無数の天眼札が影浸に直撃する。

 だが攻撃用の霊装ではない天眼札が直撃したところで、影浸には何のダメージもない。

 だというのに……。

 

「鬱陶しい! 消え去れ!」

 

 影浸はむしろ天眼札による接触を一番に警戒しているように見えた。

 まるで……触れられたくない部分を探し当てられることを恐れるように。

 

 まさか、レン。

 お前、この方法で見つけるつもりなのか?

 影浸の急所を!

 

 

     * * *

 

 

「ぐっ……くぅ……もっと……もっと増えろ! もっと! もっと! もっと!」

 

 叫びながらレンは天眼札のコピーを次々と生成した。

 紫波家の客室を埋め尽くす勢いの明らかな過剰な量だった。

 ある程度の量ができあがると、レンは脳波で天眼札を操作し、影浸の背後を狙う。

 

「くっ! うぅっ!」

 

 大量の天眼札を同時に動かすたび、レンは激しい頭痛に襲われ、額をおさえた。

 

「レンさん!」

 

 傍らにいるスズナが浄耀鐘を鳴らし頭痛を癒そうとしたが、レンはそれを手で制した。

 

「わ、私のことはいいから、スズちゃんはダイくんの治癒を優先して!」

「レンさん……わかりました!」

 

 レンの覚悟を受け取ってか、スズナは苦渋の顔を浮かべながらも頷いた。

 だが熔に限っては、見て見ぬフリはできなかった。

 

「あ、赤嶺ちゃん! 無茶だ! 天眼札は本来そんな使い方をする霊装じゃない! そんなことをしたら君の脳が負荷で壊れる!」

 

 一枚の天眼札を脳波で動かすだけでも、相当な負荷がかかる。

 ましてやそれを数百枚で行おうものなら……いくら脳の作りが常人と異なるレンでも廃人になりかねない。

 

「……止めないでください、熔さん」

 

 鼻から赤い血を垂れ流しながら、レンは天眼札を動かし続ける。

 確固たる意志を瞳に宿らせて。

 

「皆が命がけで戦っているんです。だったら……私だって命をかけます!」

「っ!?」

 

 レンの宣言に、熔はおののいた。

 赤嶺レン。彼女はただの一般人のはずだ。

 そんな少女がこんな決死の覚悟をいだいて、仲間のために動いている。

 本来ならすぐに止めるべきだった。

 だが……レンに差し伸べるはずだった手を、熔は引っ込めた。

 どうして止められよう。

 少年を勝利に導くために命を張る少女の覚悟を、どうして無下にできよう。

 見るがいい。レンの瞳を。

 同じだ。魂魄霊装を造るべく、己の命を捧げに工房へ向かった歴代の灰崎鍛冶師たちと、同じ輝きを宿している。

 尊敬する師がいた。大好きな祖母がいた。初恋の叔父がいた。

 行かないでほしい、と本当は叫びたかった。

 でも、わかっていた。

 彼ら彼女らは、どうあっても止まらない。

 己の役割を果たすために、命を燃やすことを躊躇わない。

 オカ研のメンバーも、きっと同じなのだ。

 

「……君たちは、強いな」

 

 熔は涙を流した。

 途方もない敬意を少年少女たちに向けながら。

 

「決めたよ。あたしは君たちのための鍛冶師になるよ。君たちの未来を切り拓くための霊装を、造っていくよ」

 

 静かに誓いを立てて、熔は少女たちを見守った。

 

「あ……ふふ。ははは」

 

 しばらくして、レンの口元に笑みが浮かんだ。

 

「見~つけた」

 

 レンはハッキリと見た。

 無数の天眼札が影浸の背後になだれ込んだ瞬間……わずかな『不自然』が発生したのを。

 

 

     * * *

 

 

 天眼札の山は、影浸の刃によって悉く斬り刻まれ霧散した。

 

「……どうやら、治癒をする者以外に小細工をしている輩がいるようだな。それも無意味に終わったようだが」

 

 奇怪な猛攻を振り払ったことで余裕を取り戻したのか、影浸は冷酷な態度で再び俺と向き合う。

 

「茶番はここまでだ。そろそろ幕を閉じるとしようか、黒野大輝」

「……ああ、それには同感だ。いい加減に決着をつけるとしようか──お前を、倒してな」

「……何?」

「感謝するぜレン。お前のおかげで、勝ち筋が見えた」

「貴様……いったい何を……」

「教えてやるよ影浸。俺たちオカ研は、ひとりで戦ってるんじゃない。互いにできることで弱点を補って、活路を見出して、生き残ってきたんだ。いままでも、そしてこれからも!」

 

 力が漲る。

 仲間との結束の力が、未来を切り拓く希望となる。

 勝ち取ってみせるぞ……仲間がくれたチャンスを決して無駄にしない!

 

「お前に、とことん味わわせてやるよ……俺の拳の重みをなァ!」

 

 

 

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