Knight on the Knights   作:御代川辰

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The begining of story to a past

「では、もう一度お(さら)いするぞ」

 

 巨大な黒板を基点として台形の形に広がる講義室の最奥(さいおう)で、一人の講師が無数の文字で埋め尽くされた黒板の左端(ひだりはし)を白い光球で()(しめ)しながら言った。

 

「およそ1500年前まで、今の帝国(オフトクレイテル)の水準にはわずかに及ばないが極めて高度な魔法文明が栄えていたのは先日の講義で説明した通りだ」

 

 黒板に背を向けて講義室の入り口側に向かってぱちん、と指を弾く。すると指先から新たな赤い光球が無数に放たれ、受講生たちが座る席に向かって飛んで行く。

 

「この前文明と呼ばれる時代の人類は帝国(オフトクレイテル)建国年を基軸とした場合、建国暦前約2500年から500年までの実に2000年間。このセッテルンド(Settelund)大陸の西側に存在した国々を中心に繁栄していたことが発掘調査で分かっている」

 

 赤い光球からは発掘調査時に撮影された映像が流されており、当時の建造物の残骸が文明の繁栄ぶりを色濃く表していることが見てとれる。

 

「そして、当時栄えた文明を語るにおいて現代にも通じるものが一つ……」

 

 赤い光球が映す場面は切り替わり、派手な塗装とデザインの鎧のような人型の機械や、曲線や直線を織り混ぜた大型航空機など、見たことがない人間ならまさしく度肝(どぎも)を抜くであろう文字通りの異物が並んでいる。

 

「これらのうち人型のものは当時実際に使われていた幻晶騎士(シルエットナイト)だ。現状確認されているだけでも30種類を越える機体の形式があり、また機体ごとの武装から(かんが)みて主に当時の戦争に使用されていたと考えられている」

 

 未発見の機体が描かれた設計図からもわかる通り、現在でも確認されている魔獣を相手に戦うには貧弱な武装を多数取り付けている機体が多いらしく、その証拠に古戦場跡(こせんじょうあと)や要塞跡と思われる遺跡からも当時使われていたと思われる幻晶騎士(シルエットナイト)が発見されている。と、講師はここまで説明した。

 

「だが、ここまでの解説はあくまで前文明末期頃のものと判明している遺跡群から発見された巨大人型兵器の調査結果だ。前文明と前文明の幻晶騎士(シルエットナイト)の関係を語るにおいて、奇妙な点が一つあるんだがこれが何か分かる者は居るか?」

 

 講師が問いかけるが、講義室はしんと静まりかえり、返す者はいない。

 

「教科書、歴史書を頭に入れておけばすぐに理解できる至極単純なことだ。分かった者は挙手しろ」

 

 と、講師が続けるや否や、一人の受講生がやおら手を挙げた。

 

「第12列71番、えーと……【ミュカレ(Mycarre)ミュレスタ(Myrrest)ミュール(Myourr)ミュナールット(Mynir'rte)】」

 

 名を呼ばれた受講生、ミュカレは手を挙げた時のようにゆっくりと席から立ち上がり、正確、かつ簡潔に回答を述べた。

 

「建国暦前850年から建国暦前760年の約90年間の間に、最短3ヶ月、最長2年という極めて短く早いペースで技術の発展と幻晶騎士(シルエットナイト)の新型機の製造が行われている」

 

 ミュカレの答えに受講生たちはどよめき、講師はうんうんと(うなず)きながら彼を席に座らせて講義を再開する。

 

「その通りだ。本来であれば数年から数千年かけてゆっくりと変化していく技術が数ヶ月程度で急速に発展することは極めて異常な事態であり、言うなればまだ投槍器が存在しない旧石器時代の人間がいきなりリヤカーを引っ張って狩猟で仕留めた獲物を運搬するような物だな」

 

 講師が分かりにくい例えをし、更に続けた。

 

「そして特筆すべきは、この急激な技術の発展は実質的に()()()()()の人間が考案したものを()()()で作り上げたと言うこと。現存する旧西方暦1280年代、つまり建国暦前850年代以降に記録されたとされる幻晶騎士(シルエットナイト)関連の資料には、高確率で二人の人物の名前が記されている」

 

 教卓に手をつけて講義室を見回す。受講生たちが注目する黒板の白い光球が照らす部分には、その人物を表す文字があった。

「一人はオラシオ(Oracio)コジャーソ(Cogerso)、現在の飛空船(レビテートシップ)の原型を作った科学者にして技術者。そしてもう一人はエルネスティ(Ernesty)エチェバルリア(Echebarria)。かの考古学者【ジェルハード(Gerhard)エチェバルリア(Echebarria)】氏の先祖だ」

 

 

 

 

 こうして今回の講義も特に異常も支障もなく続き、講義を終えた受講生たちは各々違う講義室や学校内にある図書館などへと向かう中、ミュカレだけは学生寮舎にある自室へと帰っていた。

 

「…………そろそろ、(はら)(くく)らなきゃな」

 

 自室の勉強部屋に立つミュカレが手に持っている資料は《特別課外授業》への参加を()()する、謂わば何らかの理由で特別待遇を受けている生徒に限定して配付される赤紙(あかがみ)

 ミュカレは自身が通う大学院の特待生の中でも特殊であり、《皇族》の血族であるために《特別課外授業》を最優先に受講させられるわけだ。

 そして、その《特別課外授業》の()()()は人類が(いま)()()んだ事が無く、かついまだ知的生命が発見されていない唯一の陸地。

 自らの手に持つ資料の表紙を見遣れば、書かれた文字に戦慄を覚えるのは当然。

 

(暗黒大陸への調査渡航…………!)

 

 浮遊大陸と並ぶ世界でもっとも謎が深いとされるその陸地は、飛空船(レビテートシップ)飛行機(エアフライヤー)などを用いた上空からの調査で文明の跡は発見されているものの、並みの幻晶騎士(シルエットナイト)を容易に破壊してしまう危険な魔獣が陸海空朝昼夜を問わず多数存在していることが原因で、発見時から一向に地上を調査ができないために暗黒大陸と呼ばれる。

 

「ジェルハードさん……貴方(あなた)は……」

 

 ミュカレは資料を手にしたまま、暗黒大陸を目指す人間の一人であるジェルハードの名を呟いた。なぜ暗黒大陸へ向かおうとするのか、その理由も(わか)り切っている。

 

「そんなにも(にく)いですか……貴方の祖先がっ……!」

 

 

 

 その名を持つ男、ジェルハード・エチェバルリアは自身が身を置く研究所で写真を眺めていた。

 

「…………実にくだらない」

 

 その写真には幼き日の自分と両親の姿。だが今の自分の姿とは全く似つかない。

 幼少期のジェルハードは透き通った銀髪に真珠のような目を持ち、まさしく純粋無垢と言うべき無邪気な笑顔を絶やさない子供であった。

 

「エルネスティ・エチェバルリア…………俺から父母を奪った大量殺戮兵器を産み出した罪は…………重いぞ」

 

 だが現在はその(ひとみ)禍々(まがまが)しい紫色(むらさきいろ)に染め、髪も黒く染色し、常に能面のような無表情か静かな憤怒の表情を浮かべる冷酷な人物。

 (にく)しみと(うら)みは凄まじい執念へと形を変えている。

 

「冥界から指を咥えて眺めているがいい。お前の夢が、否定される瞬間を…………」

 

 力を込めて握り締める右手の拳は、金属の籠手に覆われていた。

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