「では、もう一度お
巨大な黒板を基点として台形の形に広がる講義室の
「およそ1500年前まで、今の
黒板に背を向けて講義室の入り口側に向かってぱちん、と指を弾く。すると指先から新たな赤い光球が無数に放たれ、受講生たちが座る席に向かって飛んで行く。
「この前文明と呼ばれる時代の人類は
赤い光球からは発掘調査時に撮影された映像が流されており、当時の建造物の残骸が文明の繁栄ぶりを色濃く表していることが見てとれる。
「そして、当時栄えた文明を語るにおいて現代にも通じるものが一つ……」
赤い光球が映す場面は切り替わり、派手な塗装とデザインの鎧のような人型の機械や、曲線や直線を織り混ぜた大型航空機など、見たことがない人間ならまさしく
「これらのうち人型のものは当時実際に使われていた
未発見の機体が描かれた設計図からもわかる通り、現在でも確認されている魔獣を相手に戦うには貧弱な武装を多数取り付けている機体が多いらしく、その証拠に
「だが、ここまでの解説はあくまで前文明末期頃のものと判明している遺跡群から発見された巨大人型兵器の調査結果だ。前文明と前文明の
講師が問いかけるが、講義室はしんと静まりかえり、返す者はいない。
「教科書、歴史書を頭に入れておけばすぐに理解できる至極単純なことだ。分かった者は挙手しろ」
と、講師が続けるや否や、一人の受講生がやおら手を挙げた。
「第12列71番、えーと……【
名を呼ばれた受講生、ミュカレは手を挙げた時のようにゆっくりと席から立ち上がり、正確、かつ簡潔に回答を述べた。
「建国暦前850年から建国暦前760年の約90年間の間に、最短3ヶ月、最長2年という極めて短く早いペースで技術の発展と
ミュカレの答えに受講生たちはどよめき、講師はうんうんと
「その通りだ。本来であれば数年から数千年かけてゆっくりと変化していく技術が数ヶ月程度で急速に発展することは極めて異常な事態であり、言うなればまだ投槍器が存在しない旧石器時代の人間がいきなりリヤカーを引っ張って狩猟で仕留めた獲物を運搬するような物だな」
講師が分かりにくい例えをし、更に続けた。
「そして特筆すべきは、この急激な技術の発展は実質的に
教卓に手をつけて講義室を見回す。受講生たちが注目する黒板の白い光球が照らす部分には、その人物を表す文字があった。
「一人は
こうして今回の講義も特に異常も支障もなく続き、講義を終えた受講生たちは各々違う講義室や学校内にある図書館などへと向かう中、ミュカレだけは学生寮舎にある自室へと帰っていた。
「…………そろそろ、
自室の勉強部屋に立つミュカレが手に持っている資料は《特別課外授業》への参加を
ミュカレは自身が通う大学院の特待生の中でも特殊であり、《皇族》の血族であるために《特別課外授業》を最優先に受講させられるわけだ。
そして、その《特別課外授業》の
自らの手に持つ資料の表紙を見遣れば、書かれた文字に戦慄を覚えるのは当然。
(暗黒大陸への調査渡航…………!)
浮遊大陸と並ぶ世界でもっとも謎が深いとされるその陸地は、
「ジェルハードさん……
ミュカレは資料を手にしたまま、暗黒大陸を目指す人間の一人であるジェルハードの名を呟いた。なぜ暗黒大陸へ向かおうとするのか、その理由も
「そんなにも
その名を持つ男、ジェルハード・エチェバルリアは自身が身を置く研究所で写真を眺めていた。
「…………実にくだらない」
その写真には幼き日の自分と両親の姿。だが今の自分の姿とは全く似つかない。
幼少期のジェルハードは透き通った銀髪に真珠のような目を持ち、まさしく純粋無垢と言うべき無邪気な笑顔を絶やさない子供であった。
「エルネスティ・エチェバルリア…………俺から父母を奪った大量殺戮兵器を産み出した罪は…………重いぞ」
だが現在はその
「冥界から指を咥えて眺めているがいい。お前の夢が、否定される瞬間を…………」
力を込めて握り締める右手の拳は、金属の籠手に覆われていた。