寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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主人公の独白&思い返しという形での状況説明。


第1話 最初の追跡者

 

 

 

 

「ところで、ルナサが連れていた彼は誰かしら」

 

意識して彼女の声を拾うとこの発言。見つかってた、これはまずい。

 

「豹のことか?会場設営なんかを手伝っているらしいが」

 

直接俺のところに来なかっただけマシだった。まだ間に合う…!

 

「ルナサ、すまないが俺は逃げる」

「えっ?どうしたの急に」

 

あまり表情を変えないルナサだが、流石にこれには驚いたらしい。こんなに目を丸くしてるのは初めて見た。

 

「機会があれば事情は話す!またいつかな!」

「…どうしたのよ、豹」

 

無理に引き留めようとしないルナサに心の中で礼を言いつつ外へ走り出す。とりあえず下手に魔法を使えない人里から出ないとなっ…!

 

 

 

 

 

行ってしまった。今日頼みたかったことは済ませてくれていたから、そこの問題はないのだけれど。

 

「あら?ルナサ、連れてた彼はどこに行ったの?」

「…アリス。豹のことなら、慌てて逃げたわよ」

 

豹があんなに焦るのは初めて見た。巫女や魔法使いであれば理解できるのだけど、アリスから逃げるというのは何故かしら…

 

「逃げた?どういうことなの…」

「アリスに心当たりがないのなら、私にはわからない。豹とは知り合い?」

「いえ、そういうわけではないわ。ただ、まだ幻想郷に留まってる魔界人がいるとは思わなくてね。少し興味が沸いたのだけれど…逃げられるというのは想定外よ」

 

聞き慣れない単語が出てきた。…そういえば、気にしていなかったけれど。

 

「魔界人、というのが豹の種族?」

「そうね…先にルナサから話を聞きましょうか。上海、追って頂戴」\シャンハーイ/

 

豹が飛び出していった窓から人形が出て行った。逃がさない、ということね。

 

「…豹をどうする気?答えによってはお断りよ」

「その反応も想定外だわ…随分と気を許してるのね。別に危害を加える気も取って食おうとする気も無いわ。魔界人がどういった経緯でここにいるのか気になっただけなのだけれど」

 

 

 

 

幻想郷。博麗大結界によって外部と遮断された、幻想になったものが集まる地。隔絶の地でありながら、魔界と繋がる扉が存在する。

 

魔界人。魔界の創世神・神綺により生み出された魔界の住人である。彼女が創り出した魔界人は強い自我を持ち、己の意思を持って行動する。その自立志向は偉大な創世神である神綺を敬いながらも、その意に背くことに躊躇しないほどである。

 

かつて、魔界人や魔物が魔界から幻想郷に侵入するという異変があった。この異変は博麗の巫女と夢幻館の主だった妖怪、博麗神社の悪霊にその弟子の4名が逆に魔界へ殴り込んだのち、幻想郷へ入り込んだ魔界人を問答無用で退治し始めたため一応の解決を見た。なお、この一件の元凶である魔界人はとばっちりで彼女たちの襲撃を受けた神綺から注意されたものの、懲りなかったらしい。

 

これ以降、魔界人は幻想郷において排除対象という認識が魔界・幻想郷双方で広まったため幻想郷に滞在していた魔界出身者はほぼすべてが魔界へ帰り、新たに幻想郷へ向かう者も極めて少なくなった。

しかし、古くから幻想郷に潜んでいた…豹と名乗る魔界人は幻想郷を離れずにいた。彼が逃亡者であったがゆえに―――――

 

 

 

 

 

(油断した。そりゃ人形劇は子供相手に演じることの方が多いよな)

慧音の寺子屋から離脱しつつ、自分の軽率さを今更悔いる。よく考えずとも逃亡者がのこのこと人里に顔を出すこと自体が普通はアウトだ。それどころか彼女と神綺様が直接関わりがあるのを把握しておいて活動範囲に足を運ぶのは、危機感が足りなさすぎである。我ながら間抜けな話だ。

 

魔界を離れてから自覚したのは、俺は寂しがり屋だったということだ。追放されるような形で辿り着いたこの地―――幻想郷。魔界へ帰るという選択から逃げ続けるには、他者との関わりを断ち隠れ住むべき…それを理解していても孤独に耐えられなかった。

 

「幻想郷は全てを受け入れる」という紫さんの言葉。明らかな厄介者である俺に対し、初対面で言い切られて面食らったのは忘れられない記憶だ。その言葉通り、俺はこの地で逃亡生活とは思えない日々を過ごせている。果たすべき役割のために身に付けた魔法、技術、知識…これらが人目を避けて隠れ住むのに応用が利いたのは僥倖だった。求められた形と全く違う方向で活かされるのは神綺様への罪悪感を感じずにはいられなかったが。

 

追手が差し向けられる様子がない、というより魔界の外にまで放り出されたとは夢子も思わなかったのだろう。当時は魔界と繋がる扉も見つかっておらず、異世界に捜索の手を伸ばすには情報も人手も足りなかったはずだ。この時点でもう気を緩めてしまった俺は素性を隠しながら情報収集という建前で幻想郷の住人と接触を図り、隠形魔法や認識阻害魔法を駆使して人恋しさを紛らわせていた。

 

強者と呼べる大妖怪たちにだけは注意を払った。人間でありながら細工を見破る優秀な術師も居ないわけではなかったが、寿命の短い彼らと同じ時を過ごすのはそれほどのリスクではないと判断し、逆に妖怪と距離を取るために利用したり協力したりもした。…まんまとしてやられた例外中の例外が一人だけいるが、彼女を含めてもルナサと知り合うまでは隠棲と呼べる程度の交友関係に収まっていた。

 

ルナサに面影を重ねてしまい交友を持って以来、楽団のファン達からは普通に認識されてしまっている。嫉妬という感情で認識阻害魔法を破られるのは大誤算だった。さらには彼女たちが人妖問わず人気なことによる弊害で面倒な天狗に存在を知られたのも実にマズい。幸いなことにまだ直接の接触は避けられているが。

 

悪いこととは続くもので、人里での顔見知りが増えてきた頃に魔界と繋がる扉から魔界人が幻想郷に現れるようになる。これにはさすがに焦りしばらく隠れ家に籠っていたが、観光目的でやってくるのがほとんどだったのは運が良かった。追手らしき魔界人が派遣される前に博麗の巫女たちが軒並み魔界人を追い返したことで一安心し、人里にまた顔を出すようになったのだが…とある日に神綺様直々に幻想郷を訪れたのを察知して愕然とした。

 

どうやらお忍びだったらしく長期滞在することはなかったが、その後も突然神綺様がこちらにやってくることがあるのだ。まさか俺が幻想郷にいるとは露程も思っていないようで探査・感知系魔法を使うことがなく気付かれずに済んでいるようだが…なぜ幻想郷に来たのか理由を調べて行き着いたのが、あの少女の存在。対策を打つ必要を感じ始めた矢先にこのザマである。

 

索敵魔法で様子をうかがうと、ルナサと彼女が話し込んでいるらしい。そしてこちらに向かっている反応がひとつ。おいおい、魔力ほとんど出ないように細工してるのに正確に追えるのかよ!?

 

人里にも多様な種族が入り込むようになったものの、俺の容姿は目立つ方に入る。それを誤魔化す認識阻害魔法や変身魔法もあるんだが、巫女や妖怪に見破られて目を付けられる方が厄介と判断していた。ゆえにほぼすべての魔力を封じた上で「ごく僅かな魔力を持つ末端妖怪」として人里に紛れていたんだが。

 

(この状態の俺を捕捉できるとなると、隠れるだけじゃ逃げ切れない)

 

隠れ家付近は隠蔽用の魔力遮断領域を造ってあるんだが、逃げ込む前に撒かないと領域関係無しに直接視認されて隠れ家が見つかるだろう。人里で騒ぎを起こすわけにいかない以上、ある程度おびき寄せてから追跡不可能にするか、大回りして攪乱しつつ撒くかなんだが…ここまで正確に俺を追える人形がまだ控えてる可能性を考えると、多数の人形を展開して包囲されたら詰みだ。となれば追手がひとつのうちに対処しなきゃならない。

 

(時間も敵か。顔見知りに気付かれないことを祈るしかないな)

 

裏路地から飛び上がって屋根伝いの最短距離を取る。飛べる連中に見つかるリスクもあるが、人形遣いの彼女…アリスと接触するよりはマシだ。というかよりによって一番接触しちゃならない相手に見つかるとか、ホント平和ボケしてたな俺は!

とりあえず視認できる範囲の空に人影はなし。追手の人形もひとつならそれほど目立たないだろう。地上は…団子屋に入ろうとしていた赤髪の死神に見つかったようだが、そのまま店に入っていった。…彼女が有名なサボる死神だろうな、たぶん。面識はないから大丈夫だろう。

そして追手の人形も遮蔽物のない上空に姿を現す。よし、あのサイズなら余程の強者でもなければ気付かないだろう。魔法を放たれない距離を保ちつつ人里の外まで誘導して片付ける!

 

 

 

これが、逃げ場を失うカウントダウンの始まりだった。

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