寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第10話 はじまりの一日の終わり

名も無き静かな霊場で、騒霊と九尾が言葉を交わす。

 

「豹は逃げてると聞いているけれど、それは誰から逃げているの?

 そして、なぜ追われることになったの?」

 

私が知るべきこと。私の独奏(ソロ)をまた豹に聞いてもらうためには…

豹が音楽を楽しめるぐらい、落ち着いた暮らしが出来るようになってもらうことが必要。

そうするには、豹が逃げなくて済むようにしないといけない。そう考えて最初に出した問いだった。

最初から、絶望的な答えが返ってきたのだけれど。

 

「豹を追っているのは、魔界の創世神・神綺。

 その理由は、かつて豹が創世神に対し反逆を企てた一人だったからだ」

 

真面目な顔をして、そう返ってきた。

あまりにもスケールが大きすぎて、理解が追い付かない。

 

「……ごめんなさい、少し整理させて」

「理解が及ばないのはわかる。だが、これは真実だ。豹本人から聞いた話であり、遠い昔…紫様が直々に確認も取っている」

 

魔界の創世神に反逆を企てた?あの豹が?

私の知る豹からかけ離れている行動。私が本当に豹のことを知らなかったということを思い知らされる。

 

「……つまり、豹は私なんかよりずっと長い時を生きている?」

「下手をすると、私どころか紫様よりも長いかもしれん。正確なところは、それこそ豹を創り出した神綺にしかわからないだろうな」

 

創り出した…?それはつまり。

 

「察しは良いようだな。自覚している通り腹芸には向かないようだが…

魔界人とは、神綺によって創り出された魔界の住人達。豹にとって神綺は、母親とも言える存在でもあるはず。なぜそんな相手に牙を剥いたのかは…私たちにも教えてくれなかった」

 

私たちで例えるなら、レイラが生きてるときに、私とメルランとリリカがレイラを…ということ。

そんなの…お互いに辛すぎる……!

 

「私の知る神綺は、魔界神とは思えないほど温厚な女神だ。過去はそうでもなかったという可能性もあるが…温厚な者ほど、怒らせてはいけない。これはどんな存在でも変わらないということだろう」

 

手に負えないと、思ってたけれど。

そもそも、手が届きそうにない…!

 

「だが、豹は幻想郷に辿り着いた。正確には大掛かりな時空魔法で魔界から幻想郷に飛ばされたらしいが…

そして紫様が受け入れ、豹は幻想郷に隠れ住むようになった」

 

豹が、私と過ごした時間なんて。彼の過ごした時において、ほんの僅か。

私の手が届かないのなんて、当たり前に思えて。

 

「豹は決して表に出ることは無かったが、紫様の依頼には手を尽くしてくれた。今の幻想郷が在るのに、豹の尽力は決して無視できないぐらいにだ。逃亡者という事実が無ければ、私と並んで紫様の傍に控える立場にいただろう」

 

聞いていないことまで話す意図を、私は理解できてしまっていて。

 

「その恩義に報いるためにも、紫様は豹を保護していた。今の幻想郷における実力者たちでさえ、豹の存在を知るのはごく一握りであるほどに。

だが今日になって、神綺と繋がりのある者が…豹が幻想郷にいることを知ってしまった」

「………魔界からやってきた、アリス」

 

豹の傍に近付こうとするなら、この重さに潰されるな、と。

 

「そうだ。豹は彼女を追手と判断したが…ルナサの話を聞く限り、何も知らないで話をしようとした可能性の方が高い。しかし、そう遠くないうちに彼女から魔界に情報が伝わる。魔界人の事なら、魔界で調べる方が早いからな」

 

手を届かせてやるから、力を尽くせと。

 

「私も紫様も、豹のことは守りたい。だが…

 幻想郷の管理者である八雲としては、豹ひとりのために魔界を敵に回すわけにはいかない。

 そして、豹自身が私たちを巻き込むことを拒んでいるんだ…今までの恩だけで十分だと。

 豹が先に、八雲を切り捨ててしまった」

 

八雲の駒として、豹を助けろと。

大妖怪である九尾の狐が、私に数段高い舞台へ立てと、手を伸ばしている。

 

「ゆえに、八雲と無関係を装いながら動ける駒が必要なんだ。頼めるな、ルナサ」

「…ええ、やってやるわよ。覚悟は、もう決めたんだから」

 

 

 

「豹はどこに向かったのかしら」

「すまないが、それは把握できていない。ただ、2回だけ豹と直接連絡を取る手段がある。

豹が自作した使い捨ての魔法具を私と紫様が一つずつ持っている。こちらの状況が安定したら、一度連絡を取るつもりだ」

 

私が直接会える状況ではない…それはそうよね。

 

「それで、私はこれからどうすればいいの?」

「最終的な目標は、神綺に豹はもう幻想郷から逃げ出したと誤認させること。ただ、神綺が幻想郷に来てから私たちが豹と接触するのは危険すぎる。だからまずは、アリスが早期に魔界と連絡を取るのを妨害する」

 

簡単に言ってるけど…そんなこと出来るのかしら。

 

「ルナサは表情の変化こそ乏しいが、感情は読み取りやすいな…

やってもらいたいことはそう難しくない。幻想郷で得られる情報があることをあえてアリスに伝えて、魔界と連絡を取るより幻想郷を捜索することを優先するように誘導しろ」

 

自覚してるけど、ほぼ初対面の相手に言われるのは悲しいわね…

 

「具体的にはどうすれば?」

「まず今会話して理解したのが、ルナサに腹芸を求めるのは酷ということだ」

 

ひどい。否定できないけど。

 

「だからまず私たちを使え。隠すのは【豹が一度八雲と接触した】ことと【八雲の駒として動いている】の2点だけでいい。

私たちが豹を保護しようとしているという情報をアリスに伝えろ。これは妹たちにも伝えて構わん。この情報でアリスが幻想郷を捜索するより魔界と連絡を取る方を優先するようであれば豹の読み…アリスが追手である可能性の方が高くなる」

 

なるほどね…まだそちらの可能性も考えているの。

 

「もしそうであればすぐにでも魔界へ連絡を取ろうとするはずだからな。ルナサも即座に私たちに連絡を取れ。マヨヒガに来てくれれば私か橙が気付けるはずだ。

逆にこの情報に食いつくようならそのまま泳がせろ。幻想郷での情報収集…我々八雲へ接触しようとしたり、彼女なりに知る情報から幻想郷を捜索しようとするのであればそれに協力してやれ」

 

正直に言って、気が楽になった。メルランとリリカに対してある程度話しても構わないというのは大きい。アリスはともかく、妹たちに隠し事を隠し通せる気はしなかったから。

 

「あとは先程の藤原妹紅だな。私たちも豹と彼女に面識があるのは把握していなかった。もしアリスが当てに迷って魔界と連絡を取ろうとするなら、先にそちらを優先させるように誘導しろ…

私と紫様で手を回せる範囲の状況が落ち着いたらまたこちらからルナサに接触して、合わせた情報を豹に伝える。なにかまだ聞きたいことはあるか?」

 

無い、とは言い切れないけれど。これ以上抱え込める自信は無かった。

 

「今はこれぐらいでいい。次に顔を合わせるとき…聞きたいことが増えるかもしれないから」

「いいだろう。……あらためて、よろしく頼む」

 

そうして、八雲藍はスキマの中へ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫様、ただいま戻りました」

「ご苦労様、藍」

「おかえりなさいませ藍さま!」

 

屋敷に戻ると、紫様と橙が迎えてくれた。私の方が遅くなってしまったか。

 

「この時期に隠岐奈の相手はしたくないわね…冬眠前だからって好き放題言ってくれたわ」

「ですが、悪い結果にはならなかったようですね。もう少し消耗してお帰りになられると思っていましたが」

「それがですね藍さま、豹さんが意外な大妖怪と接点があって、裏をかけそうなんです」

「ほう、橙でもそう判断できるぐらいなのか」

 

私が相手にしたルナサとは桁外れどころか、ある意味では今回の目的、魔界神・神綺より厄介な相手である幻想郷の管理者の一人・摩多羅隠岐奈。その相手を出し抜ける相手など、そういないはずなのだが。

 

「あら、藍にも話していなかったかしら?豹は――――――――――――」

 

紫様の口から出たその名は、私も驚愕するほど意外だった。

 

 

 

「それで、ルナサの方はどうかしら」

「やはりというか…豹が落としてましたね。恋愛感情とは違うようですが、聴き手としての豹に依存しています」

「だと思ったわ…豹の好みはわかりやすいのよねえ。幻想郷では珍しい、大人しくて素直ないい子ちゃんには洋菓子よりも甘い。手駒として使うのに苦労するのばかり周りに集まるのよ」

「ははは…それには私もまったく同感です。橙も気を付けるんだぞ」

「ふにゃっ!?私なんかじゃ豹さんとは釣り合わないです!」

 

私たちがこんな会話で楽しめる機会なんて滅多にない。そういう意味でも、豹は貴重な存在。失うのは惜しすぎる。

 

「紫様の読み通り、ルナサは八雲の駒として動いてくれるようです。ただ、どこまで隠し通せるかは…今も、我々は豹の所在を把握していないと私が伝える時点で偽りを混ぜています。アリス相手ならともかく、今後魔界から派遣される相手との接触は避けさせるべきでしょう」

「ええ、そのつもりよ。橙、明日一日はマヨヒガで待機しておいて。豹の読みが正しければアリスはすぐにでも動くはず。それと、明後日からはこの屋敷で寝泊まりしてもらうからマヨヒガの猫たちにすべきことは明日中に終わらせなさい」

「わかりました紫さま!」

 

私たちが直接守ることはできないが…間接的に豹が逃げやすく、潜伏しやすくなるよう動くことは可能だ。上手くやってくれよ、豹。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ夢子ちゃ~ん、明日アリスちゃんに会いに行っていい~?」

「駄目です神綺様。先月顔を出したのですから耐えてください。

せめて幻想郷が冬になるまで待ってください。スキマ妖怪が冬眠するはずですので」

 

 

 

それぞれの動き出した一日が、終わる。




勢いで書き始めたこの作品を読んで頂ける読者様が想像以上に多くて、恐縮するとともにあらためて感謝させていただきます。ありがとうございます!

そして申し訳ありません。見切り発車で始めたこの作品なのですが、作者のリアル都合である有給消化が終わったため、この先更新ペースが落ちると思います。更新の速さで評価していただいた読者様がいらっしゃいましたら、重ねて申し訳ありません…

来週からは火・木・土の週3更新を目標にして続けていきたいと思います。
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