寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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100話に到達しました。これも読者の皆様のおかげです。

そしていい加減勢い任せによるボロが出てきていますので、今週土曜日は更新を一回止めて投稿済み部分の修正に当てたいと思います。今の時点で修正が確定しているのは、

35話と43話における紫と藍の麟に対する指示
51話でルナサが香霖堂に行ったことがないように取れる部分
69話のアリスの状況確認における交戦し始めたタイミングのズレ

の三箇所です。これ以外にも読み直して修正点を見つけたら、使ったことがない活動報告を試してみようと思います。


第100話 堕ちた天使と悪魔の囁き

ここ三日は魔界で暴れたせいか、サリエルの神殿に向かう途中に絡んでくる奴はいなかった。それこそ神綺から警告ぐらい出されると思ってたけど、監視すら付かない。姉さんが聞き出したヒョウの過去を聞く限り神綺もヒョウ優先で動いてもおかしくないから、その結果私と姉さんを放置してるっぽい。

物足りなくはあるけど、都合はいい。

 

ちなみにうるさいエリスは拘束魔法で後ろ手に縛りボールギャグを咥えさせて黙らせた。この格好に対する羞恥心はあるようでなるべく姉さんの翼に隠れるような位置で小さくなっている。内面がお子様な割に用途が理解できてるあたり耳年増ね。機会があればイジってあげましょう。

 

「着きましたね。それじゃとりあえずこれは外してあげましょうか。変な方向に誤解されたくないですし」

「ぷはっ…このド変態!!」

「失礼ですね。これを使ったのは初めてですし、なぜ変態呼ばわりされなければいけないのでしょう?

つまり、そういう使い方をエリスは知っているのですね?」

 

楽しくて仕方ないという笑顔でエリスに言葉を返す姉さん。こういうところは私よりドSよね、やっぱり。

 

「ぬぐぐ…そもそもなんでこんなもの持ってるのよ!?」

「うふふ…」

「…姉さん?私に使ったら私も姉さんに使うよ。その覚悟はあるのね?」

「あら、それは恥ずかしいわ。ならこのまま処分してしまいましょうか。

あ、エリスの写真は撮ってありますから、妙な気を起こしたら魔界にバラ撒きますからね?」

「最悪だこの悪魔!!脅し方が下劣すぎ!!」

 

そう言ってエリスの涎まみれのボールギャグを魔力弾で粉々にする姉さん。…帰ったら、同じようなグッズは処分させましょ。お互い相手がいないからって、いくら姉さんでも特殊性癖に付き合わされるのはごめんだし。私はノーマルでいたいから。

 

「まあ、姉さんがそこまで手を回してるならこれもいらないか。さっさとサリエルに話を通してくるのね」

「くうぅ…どうしてこんなことにー!」

 

手を縛っていた私の拘束魔法も解いてエリスをサリエルの神殿に押し入れる。私たちがそのまま入れば戦闘目的と思い込まれて迎撃されるかもしれないから、サリエルに信用されてるエリスを取次ぎに使う必要があったのよね。

 

「…姉さん、油断はしないでよ?」

「当たり前でしょ?見逃された時より強くなった自負はあるけれど、下手を打ったら即死なのは今でも変わらない…そのリスクを背負っても、ヒョウとサリエルの再会は私にとって価値がある。こんなところで死ねないもの」

 

いらない心配だった。乙女モード姉さんだから念のために確認したけど、やっぱり姉さんは姉さん。私よりも根っこはずっと悪魔らしい…楽しむためには全力を尽くす。なら、さっさと終わらせる。

 

「「そういうわけよ、出てきなさい」」

「チッ…今のアタシじゃ隠れることすら出来ないのかよ」

 

会話するための幻影を幽玄魔眼が展開する。ヒョウの見立て通り、五つの魔眼を全部潰さない限り回復するようね。ま、私と姉さんが潰した4つはそう簡単に治らないでしょうし、今の幽玄魔眼は私たちの敵じゃない。

 

「とりあえず、アンタも話に付き合わせるよ。部下の不始末を追求するから」

「…クソが、好きにしろ。ただこれだけは言っておく…サリエル様を傷付けたら、アタシがお前らを滅ぼす」

「あら、勇ましいですね。暇つぶしにはなるでしょうし、楽しみにしておきますね」

「ケッ…絶対に足すくってやるからな」

 

思ったより懲りてないわね。敗北で折れるタイプじゃないってこと。

サリエルの返答次第では、コイツはさっさと始末すべきか。敗北を糧に出来るなら、執念で仇敵を追い続けられる…今のヒョウにとって、一番厄介なタイプの敵。

 

(ヒョウは戦闘相手としても話し相手としても充分過ぎる。恩を売っておいて損はない。

 姉さんも悪くは思ってないし、上手く夢幻世界に閉じ込めたい)

 

コイツはそのための点数稼ぎにはなる。今後邪魔になることも考えて、サリエルに粛清の許可は取っておかないとね。

そんなことを考えていると、エリスが戻ってきた。

 

「………本っ当に気に食わないけど、サリエル様は優しいからヒョウのことを聞きたいそうよ。ついてきて」

 

 

 

 

 

「―――こんなところまでご苦労だった。敵対するつもりはない、楽にしてくれ」

 

瞳を閉じたままサリエルがこちらに振り向きました。相変わらず悪魔を敵視しない変わった天使…いえ、堕天使ですね。少なくとも会話はしてくれるようです。

 

「はい、お邪魔します。さっそくですが、エリスはどこまで伝えましたか?」

「君たちがヒョウのことで話がある、とだけだ。

――だが、エリスと幽玄魔眼を見る限り迷惑をかけたようだな…すまない」

 

…驚きました。サリエルのような大天使が、自分から頭を下げるなんて。

 

「サリエル様!?こいつ等にそんなことしないでください!!」

「そうですよ!悪いのはアタシ、サリエル様は悪くない!」

「エリス、幽玄魔眼。部下の失態は私の責任だ。

 私に頭を下げてほしくないのなら、そうならないように行動しなさい」

「「うっ…!?」」

 

流石は月を支配していた大天使ですね。一言だけでエリスと幽玄魔眼はぐうの音も出ずに大人しくなりました。

 

「エリスも幽玄魔眼も短慮でな…即断即決できるのは長所でもあるのだが、今回も裏目に出てしまったようだ。

なにか私に要望があるのだろう?謝罪として応えられることには応えよう」

「へえ、相変わらず随分と私たちを甘く見てるのね。本気で悪魔と取引するつもり?」

「ヒョウの名が出ているだけで、協力しない理由が無い…

君たちがヒョウの力となってくれるのであれば助力は惜しまない。私からヒョウに会いに行くわけにはいかないからな」

「…?それはどうしてかしら」

 

サリエルの言葉に偽りは感じません。要するにヒョウのために動くのであれば手を貸してくれるということ。

ですが、サリエルからヒョウに会いに行くわけにはいかない…?これは理由がわかりません。

 

「……私はヒョウの無事を永く祈り過ぎた。居場所はわからずとも、魔眼を与えた者の生死は把握できる。ヒョウの妹であるユキも生存を確信していたから、帰りと無事を祈り続けた。

―――だが、今の私は堕天使。それを思い出したのは…手遅れになってからだった」

「やれやれ、本当に予想通りだったなんてね…

 祈りは長い時を経て、呪いになった」

「その通りだ。堕天した私の祈りなど届くはずがない。届かなき祈りは行き場をなくし、澱んだ望みとなる…

死を司る私の祈りは、ヒョウから死を遠ざける呪いと化してしまった。兄として弟妹を守るヒョウにとって、これ以上なく残酷な呪い…ヒョウに近付く死は、呪いによってヒョウの周囲に散ってしまう。守るべき者を死に近付け、己を死から遠ざける…守るべき者、護衛としての責務からすれば本末転倒な堕天使の加護(呪い)さ」

 

…夢月がヒョウで遊ぼうとした時、言い切りました。『堕天使(サリエル)が再会を祈っている以上、彼はそう簡単に死ねないわ』。

恐ろしいほど正確に言い当てていたのですね。驚きです。

 

「ですが、それがどうして貴方からヒョウに会いに行くわけにはいかないということになるのでしょう?」

「私の呪いでヒョウに負担をかけたくないということが一つ。ヒョウは優しいからな…命を救われたのは私の方だというのに、私に救われたと考えて接してくれるほど。私から会いに行っては、ヒョウが解呪のために奔走してしまう…ヒョウの手を煩わせたくないのだ。

もう一つは、ヒョウから私に会いに来てくれることが安全かつ手早い解呪方法に繋がるからだ。私が再会を望み続けたことによる呪い故に、ヒョウと会うことで私の望みが果たされるというのは同じだが。

私からヒョウを捕まえる場合と、ヒョウから私に会いに来てくれる場合では呪った本人である私の精神状態に大きな差異がある。ヒョウから来てくれるということは、今でも私のことを頼れる相手と判断してくれたということだからな…呪いは心理的な要素で強くも弱くもなる。無事でいてくれたヒョウが私を頼ってくれるのであれば、愚かな堕天使の呪いは解呪を施す必要もなく消え去るだろう。

…私は今でも、再会を祈ることを止められないほどにヒョウのことを想っているのだから」

「………うわぁ、重っ

 

夢月が正直すぎる感想を漏らしています。すぐ隣にいる私以外には聞こえていないでしょうけれど。

でも、私もサリエルの想いを甘く見ていましたね。まさか私よりずっと長い時を生きたサリエルが、ここまでヒョウのことを求めているなんて…エリスと幽玄魔眼が凄まじく複雑な表情を浮かべていますが、仕方ないでしょう。

 

ヒョウのことを想い、話すサリエルは…美しくも可愛らしい、初恋にときめく少女のようでしたから。

ヒョウのことが気に入らないエリスと幽玄魔眼には、不満もあるのでしょうね。

 

ですがこれは…本当に私の求めるような素敵な光景が見れる気がします!

ヒョウはここまで、サリエルを虜にしていたということですから!

 

「ちなみに、神綺から話を聞いていますか?」

「ヒョウが幻想郷に居るらしい、とだけは今朝聞いた。まさかその日のうちに別の者からも聞かされるとは思わなかったが」

「なら話が早いわね。私たちは昨日一昨日と、ヒョウと過ごしてたのよ。幽玄魔眼の襲撃もあったけど」

「――!?何故、ヒョウを!?」

「…あの陰陽玉の巫女と繋がってる九尾の狐が、ヒョウと仲良くしゃべってたからです。

裏切りやがったのを、サリエル様に知られたくなくて。その場で消そうとしました」

「……幽玄魔眼。ヒョウとあの巫女は無関係だ」

「どうしてですか!?あの九尾は八雲の式神、八雲はあの巫女の庇護者なんでしょう!?」

「ヒョウがあの巫女と関係があったなら、巫女を魔界へ侵入させていない。

私も被害を受けた陰陽玉の件は、巫女自身が言った通り気まぐれなのだろう。魔界から逃亡しているヒョウが巫女と関わりがあったなら、力尽くでも止めている。巫女によってヒョウの生存と居場所が魔界に伝わるリスクがあるからだ。気まぐれでそんなリスクを取られてはたまらないだろう。

神綺たちが被害を受けた件も同じことが言える。ヒョウは空間魔法に精通しているからな、魔界に向かおうと動いた者たちを妨害して連れ帰ることぐらいはこなせるさ…撃退されたのであれば、ヒョウならこの程度造作も無いのが理解できるな?」

「それは…そうですが…!」

「それなのに巫女たちは魔界に侵入してきた。つまり、【ヒョウは巫女たちと無関係】だったか【関わりがあっても止めることのできない程度の付き合い】だったということだ。

私を裏切ってなんていない。魔界に戻ることを選ぶことが出来ず、潜伏しているだけだ」

「でも…それじゃサリエル様が…!」

 

…幽玄魔眼は独断で動いたのにサリエルには服従ですか。よくわからない性格をしていますね。

服従するのであれば独断専行なんてもってのほかですのに。

 

「良いのだ。私はヒョウを束縛するつもりはない」

「良くないです!!サリエル様は、もうすでにヒョウに心を囚われてしまってるじゃないですか!

サリエル様も何か枷を付けないと、サリエル様の傍からすぐ離れちゃいます!!」

「ヒョウの重荷にはなりたくないさ。兄として弟妹を守り、護衛として守りたい者を護る。

 ヒョウには、そう生きていてほしい。私はそれを、支えることさえ出来ればいい」

「そんなのっ…サリエル様にっ…!」

 

相応しくない、でしょうね。私ですらそう思いますもの、エリスの気持ちもわからなくはないです。共感はできませんけれど。

ですが、サリエルの穏やかな表情を見る限り心の底からそう思っているのでしょう。ヒョウはとんでもない相手を堕としていますね。よく今まで逃げ切れてたものです。

 

「そのヒョウが、幽玄魔眼に襲撃されたことによって逃げ場を失いつつあるのです。

 そのため、サリエルを頼りたいと考え始めています」

「私たちが連絡役になってあげる。

 だから、ヒョウに会うために夢幻世界まで出てきてよ」

「「私たちが、呼ぶから」」

 

さあ、恋に堕ちた堕天使…運命の再会を見せてくれますよね?

 

「―――お願いして、良いだろうか?

 私も、ヒョウに会いたいから」

 

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