寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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独自設定ガチガチな原作キャラ、またも追加。


第101話 活かすべき再会

「それじゃ、一度お別れだ。もし俺のことを探す相手が訪ねてきたら下手に隠さずに今までのことを伝えてくれ。

雛は攫われるとそれを把握するのが難しいからな」

「豹が私の心配してどうするのよ、自分が逃げ切ることを優先しなさい。

私を攫うなんて不幸を自分から背負い込むようなもの。それを理解し覚悟している相手なら、最初から私の命を狙うでしょうね。その場合は全力で逃げるから、心配はいらないわ」

「…それもそうだったな。

おそらく、この先雛の力を借りることがあるだろう。その時は…頼む」

「ええ、豹こそ無理はしないでよ。

 豹以外、誰も豹の最期なんて求めてないのだから」

 

―――まだ死ぬな、か。俺もそのつもりではある…魔界に戻ることと、両立したくないだけで。

 

「肝に銘じておく」

 

そう返事をして、雛の家を後にする。普段通り魔力を最低限に封じ隠形魔法を行使、その状態で妖怪の山を駆けるのだ…次の目的地は、地底へ続く洞穴の監視小屋。

 

地上の妖怪と地底の妖怪は相互不干渉。しかしそれを制定した当時は幻想郷は博麗大結界で隔絶される前であったため、組織に属さない野良妖怪にまでは伝わっていなかった。そのため幾度も地上の妖怪が地底に侵入する案件が相次ぎ、対策を求められた結果しばらく俺が洞穴を監視していた時期があった。俺が隠れ家から直接洞穴に空間魔法で転移すると、隠れ家の位置を知られるリスクがある。それを避けるために空間魔法の中継地点として利用していた小屋である。

 

洞穴の入口に探知魔法を常時展開し、しばらく進んだ袋小路の脇道に転移魔方陣を設置。探知魔法に反応があり次第俺が転移魔方陣から対処に向かい追い返していた。いまだ隠れ家に残る黒マントやシルクハット、目出し帽といったものは当時使用していた衣装である。【正体不明の黒い怪人】として藍が一から縫製してくれた衣類なので処分する気になれず時間固定魔法で品質を保ち続けている…まあ、もう着ることは無いとは思うが。

 

ただし坂田ネムノと駒草山如の二人にはあの格好で会話するまで粘られたため、彼女たちと接触する場合は必要になる。二人とも妖怪の山から動くことが滅多にないので、少なくともこの逃亡生活においては不要だろうが。

 

(博麗大結界により野良妖怪の侵入が減ってからは放棄していたが、藍と雛は定期的に様子を見てくれてたそうだからな。一晩ぐらいなら凌げるだろう。問題は…藍が排除してくれるであろう野良妖怪ではなく、地底側の動向)

 

地底側からの要求であり、実際に対応したことを証明する必要があったために監視小屋の存在は地底の有力者には知られている。逆に言うと、一部の地底の有力者には監視小屋に俺が戻ったことが把握できるのだ。今になっては気にする有力者など皆無に等しいと思うが、変化に乏しい日々を送る相手だと興味を持たれる可能性がある…

俺の素顔を知っている者なら誤魔化しもきくが、【黒い怪人】しか知らない者だと俺が誰なのか追及される可能性があるのだ。具体的に名を上げれば星熊勇儀、古明地さとり、四季映姫・ヤマザナドゥあたり…特に星熊勇儀は【八雲の隠者】である豹を知り、【黒い怪人】の素顔を知らない。興味を持たれ俺の顔を見られた場合、問答無用で監視小屋に突撃をかけて来かねない。

 

(まあ、鬼であればこの時間は飲んでるだろうし、閻魔は仕事を終えている時間のはず。古明地さとりは余計な交友を持とうとはしないだろうから、危険性は低いと判断したわけだが)

 

とはいえ無警戒でいるわけにはいかない。八雲を頼れなくなった以上、地底の有力者にまで狙われたら流石に捌き切れる自信がない。逃げることはできても、逃げ場を潰されては追いつめられるだけなのだ。今の魔力制限状態では魔法具を使用せずに大掛かりな空間魔法は使えないため、実力者相手から逃げるのが難しい。逆に魔力を開放して空間魔法を使えば即座にユキと夢子に察知される。潜伏先をすべて失い実力者に追い付かれた時点で俺の敗北なのだ…ユキと夢子が幻想郷に留まる限り。

 

(――まあ、それは今考えるべきことじゃない。今は天狗の警備網を欺きつつ、監視小屋まで走るだけだ)

 

気配を感じながらも視認できず、違和感から周囲を見渡す白狼天狗の視界に入らぬよう大回りしつつ走る。

…このあたりを見ると、椛は頭一つ抜けて哨戒役として優秀だったのがよくわかる。気配を感じてから警戒を続け、雛と合流し隠形魔法を解除した俺を視認で見つけたんだからな…。

 

 

 

 

 

(ここまでは問題なし、か。後は小屋内で地底から接触が無いのが理想だが)

 

問題なく監視小屋に辿り着いた。外観は放棄された廃屋のように見えるが、よくよく見れば内側から補修された部分がある。藍が大工仕事をする時間など無かっただろうし、雛だろうな…次に会うときはあらためて感謝しないとな。

 

こんな廃屋は施錠されている方が怪しまれる。だからこそ野良妖怪に棲み付かれる可能性もあったのだが…どうやら雛が定期的に訪れることで厄が充満し、長居する者はいなかったようだ。藍と雛が掃除しただけでは隠せない荒らされた痕跡もあるが、雨風を凌ぐ程度なら問題ない状態だった。

 

(なら、さっそく始めるか…)

 

まず鍵を施錠し、明り取りの窓を内側から塞ぐ。幸いにも壊されずに残っていたランプに魔力炎を灯して照明とし、魔力回復薬再精製の準備を整える、が…

 

「ほう、今になってそなたがここに戻るとは。

 何かあったようじゃのう。暇を持て余すわらわの話し相手をせい」

「―――!?

 …お久しぶりです、キクリ様」

 

危険性は低いといっても、ゼロでは無い。それを実証するように声をかけられる。

まあ、接触してくる可能性があった有力者の中では最も穏便に済むだろう相手だっただけ幸運と思わないとな。

 

 

 

「今日は素顔なのじゃな。顔まで黒く隠したあの衣装、わらわは結構気に入っておったのじゃが」

「【黒い怪人】はもう現れることは無いですよ。地上の野良妖怪も少なくなった…博麗大結界を張った以降に外界から幻想入りする妖怪には、紫さんが最初から説明してますから」

 

地獄の月、キクリ様。数少ない俺と面識のある地獄の有力者だ。月の関係者によって地獄の太陽が撃ち落されたのち、月・地球・異界それぞれの地獄を司る女神によって用意された存在。俺は地獄で活動したことがないので詳しいことは知らないのだが…八意永琳が幻想郷に移住してきたことで、俺が奴に敵視され攻撃される可能性が出てきた。その際に月の連中を敵視する者同士、協調できないかと考え接点を持つことにした相手。

 

幻想郷に流れ着いて以降、俺自身から接触を試みた数少ない存在である。

 

「ふむ、あやつも面倒なことをこなしておるのじゃな。たまにはあの巫女やそなたのような来客もあってよいのじゃが」

「キクリ様やコンガラ様はそう思えても、地上の存在を嫌う者たちはそうもいかないでしょう…俺が使者として派遣されたのは隠密行動に長けていたという理由もあったのですから」

「それもそうじゃのう。畜生界の騒ぎで数名入り込んできただけでも拒否反応を起こす小物ばかりじゃからな…

もっとも、わらわやコンガラの元には寄らなかったせいで退屈には違いなかったのじゃが」

 

そう、かつて靈夢が代替わりして最初に起こった異変…それは正確に言えば異変とは呼べないのだ。靈夢の方から地獄と魔界に乗り込み陰陽玉で暴れてきたという点でそれ以降の異変とは一線を画している。

起きた異変を解決したのではなく、靈夢の行動が異変と見られたのである。つまり元凶が霊夢になるので、被害者への謝罪が必要になったのだ。もっとも、異界である魔界にまで出向いていたというのは幽玄魔眼が話すまで知らなかったのだが。

 

そして、地獄への謝罪に使者として向かったのが俺。月を敵視し協調できる可能性のある相手と顔を合わせられるという俺の思惑と、代替わりしたばかりの巫女を前面に出したくなかった紫さんの親心が一致して俺が謝罪の使者として出向いたわけだ。紫さんのスキマと俺の空間・隠形魔法をフル活用し、キクリ様とコンガラ様に謝罪と状況を伝えたのである。

 

…もっとも、キクリ様もコンガラ様も久し振りに楽しめたと気にしていなかったのだが。特にコンガラ様に至ってはその場で俺も手合わせを挑まれたというオチまで付いている。結果は引き分けとして見逃してもらったが…本気で相手して逃げ切れなかったのでコンガラ様は俺の手の内を知っている格上の一人となった。夢幻姉妹同様、次は絶対に勝てない相手であり…俺が絶対に敵対してはならない相手なのである。

 

そして、その結果を聞いたキクリ様も「わらわを楽しませよ」と命じてきたのだが…

キクリ様とは使者として顔を合わせる前から面識があったのだ。キクリ様が気付かなかっただけで。

 

「まあそれはよいじゃろう。さて…【黒い怪人】が素顔のままここを訪れるとは何事じゃ?」

 

限りなく真球に近付けた鉱石から分体を出してキクリ様が俺に尋ねる。この球体鉱石はキクリ様の分体を宿らせる依り代…この監視小屋に俺が訪れたことを把握できる地底の有力者の一人がキクリ様なのだ。相互不干渉を実現するための番人…それが俺だということを明かすことで驚き、納得してくれたキクリ様は手合わせを撤回してくれた。

俺が逃亡者であるがゆえに、素顔を隠して活動していたというのを明かすことで満足してくれたから。

 

「…追手に見つかってしまいまして。あの衣装を持ち出す余裕なんてなかっただけです。

出来れば、ここは使いたくなかった場所。俺と八雲にまだ繋がりがあるという疑念を持たせてしまいますので」

「ふむ、なんならわらわが匿ってやってもよいぞ?コンガラも歓迎するじゃろうし」

「そんなことしたらキクリ様とコンガラ様が地底の有力者たちと抗争状態になってしまうでしょう!俺が原因で幻想郷に迷惑をかけるわけにはいかないです」

「つまらんのう。まあ、無理強いは出来ぬか」

「―――ですが、一つ頼みごとをしてもよろしいでしょうか?」

 

せっかくの機会だ。少しでも俺の追手を減らすために…打てる手はすべて打たせてもらう。

 

「なんじゃ?さっきも言うた通りわらわは暇を持て余しておる!楽しめそうであれば快諾してやるのじゃ!」

「お言葉に甘えさせてもらいます。

魅魔が、俺の追手側としてすでに動いていると協力者に教えてもらえました。彼女を止められる存在は限られます…いざとなれば力を貸していただけないかと、コンガラ様にもお伝え願えませんか?」

「ほう!魅魔とはまた懐かしい名前じゃの!

 良いぞ、これはコンガラも興味を持つじゃろう。明日にでも酒の肴にさせてもらうのじゃ」

「ありがとうございます…!あまり地獄の皆様を関わらせるのも良くないのですが、そのようなことを言ってられる状況ではなくなっているので」

「言うたであろう?わらわは暇を持て余しておる。少しでも日々に変化があるのであればそれは歓迎すべきことなのじゃ。そなたが気にすることは無いぞ」

「助かります」

 

魅魔がどう動くかなんて予想できないが、確実に止められる相手であるコンガラ様に状況が伝わるのは大きい…!

俺から頼んでも断られるかもしれないが、間にキクリ様を挟むことによって印象は大きく変わるだろう。

 

「うむ、様子を見に来て正解じゃった。地上の話などなかなか聞けぬからの。

それで、そなたは使いたくなかったこの小屋に何をしに来たのじゃ?」

「効果はあっても味の酷い魔法薬を手に入れたので、味を良くするために再精製しに来ました。俺の隠れ家に戻るわけにはいかない以上、魔法絡みの実験を行える場所の心当たりがここしかなかったので」

「ほう!わらわには無縁の作業じゃの!見物しててもよいかのう?」

「構いませんが、面白くはないと思いますよ?それなりに集中もするので、会話しながらというわけにもいきませんし」

「良いのじゃよ、わらわにとっては見る機会など少ない事象なのじゃからな」

「そうですか…なら、作業を始めさせてもらいます」

 

…リスクもあったが、幸運にも俺に都合の良い展開になったな。

まだ、運に見放されてるわけじゃないらしい。それに、話し相手がいるなんてありがたい限りだ。

 

明日からは、もっと余裕が無い状況になる…今だけは、キクリ様との再会を楽しませてもらおう。




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