寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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91話の誤入文字を修正してます。


第103話 それに気付いた者もいた

リスクを冒すのであれば、リターンは最大限を狙わなければならない。最大限を得られないのであれば避けるべき選択だからだ。

だからこそ、俺は一直線に明羅の庵まで向かいつつ索敵魔法を行使していた。人里は既に眠っている時間…つまりこの時間帯に誰がどこにいるかを把握することで、追手同士の繋がりが予測できる。

 

(―――ユキと夢子は魔法の森…予想通りアリスと合流したか。アリスが俺のことを知らなかったとしても、ユキと夢子が同胞(いもうと)を放置するはずがない。明日以降魔界人の排斥が通達される危険性がある以上はな。

…ルナサはプリズムリバー邸。俺の力になってくれるようだが、メルランとリリカに悟られずルナサが動き続けるのは難しいだろう。そして麟のためにもルナサが狙われるのであれば俺も援護しなきゃならない…となるとエリーかくるみどちらかのイヤリングはルナサに回すべきか)

 

ルナサも幻想郷における実力者の一人だが、エリーとくるみに比べると戦闘経験が足りていない。幽玄魔眼という高度な空間魔法を扱える敵を作ってしまった以上、ルナサを狙ってくる可能性もゼロでは無いのだ。そしてメルランとリリカは紫さんの指揮下にない以上、俺と接触するために単独行動しなければならなくなる。

俺と繋がりがあると知られれば、狙われる可能性は高いのだ。

 

(となると夢幻館と連絡を取りたいところだが…サリエル様の使い魔である幽玄魔眼は明日にはもう動ける程度には回復していると見るべき。そこを踏まえると明日はまだ危険だろう…せめてもう一日は待ちてえ。そうなると明日は麟からルナサに接触してもらってミーティング。明後日に夢幻館と連絡を取り幻月からの報告待ちか)

 

となれば次の問題は麟の家に泊まるのは避けたい点。今の状況、麟は俺以上に余裕がない…俺に依存するのも仕方ない境遇のまだ幼い少女なのだ。人間は寿命が短いからこそ、追い詰められると生き急ぐ。

この状況で俺が一泊なんぞしたら色々と覚悟を決めてしまうだろう。泣き落としを断れずに抱いてしまうのが目に見えている。俺自身も数百年単位で女に手を出すのを自重しているのだから、あっさり折れちまうだろうしな。

今の俺を取り巻く状況で、これ以上麟を傷付けるわけにはいかない…この先、俺が麟を支え続けることは確約できないのだ。

俺が姿を消すことで、麟が絶望の底で暴走するような理由をこれ以上増やしてはならない。

 

(しかし監視小屋は今日限り…キクリ様が接触してくれた以上、少なくとも地霊殿から動くことが少ないであろう古明地さとりにはバレていると考えるべき。そこから守矢経由で天狗に情報が回ると面倒になる。

…いや、ユキがアリスを頼ったのであれば逆に隠れ家に戻るという手もあるか?)

 

しかし隠れ家にカナ以外の反応があった。やはりまだ帰るわけにはいかない…というか、この魔力反応は…?

 

(俺の魔力と…これはアリスの魔力か?それが混在している…?

 ―――ああ、雛が教えてくれたのはこういうことか)

 

『隠れ家が持ち始めた意志と記憶がアリスの上海人形に宿った』…つまり、アリスの魔力で動いている上海に隠れ家に残る俺の魔力が移り、それを上海自身がコントロール出来ているのだろう。これだけの人形を作り上げたアリスも凄まじいが、上海もすでに人形とは思えない存在だ。やはりそういうことなのだろう。

 

(成程な、太陽の畑近辺で感知した魔力は上海のものだったか)

 

一つ答えの出ていなかった疑問が氷解する。アリスが俺の魔力を保管して利用しているという俺の予想は、当たらずとも遠からずだったわけだ。

つまりアリスは上海を俺とカナの監視として隠れ家に留めたということだろう。隠れ家の意思が宿った上海であれば、カナが拒むはずもない。俺の逃げ場の本命を完全に潰されたというわけだ。

 

…状況は悪化する一方だが、だからこそ逃走手段たりえるものは少しでも利用するべき。明羅の庵に辿り着き、鞄を回収。そして…

 

「里香、ありがたく使わせてもらうぞ」

 

レーザー砲も持ち出すことにした。武器として使うことは無いが、砲口を魔眼に同調できたのであれば空間魔法の出口としても利用できる。それならばここよりは監視小屋に持ち帰るべきだろう。理想を言えば夢月か幻月に頼んで夢幻館への脱出口兼防衛戦力に回したい…使い方を教えればエリーとくるみにも使えるだろうしな。

 

代金として俺の使っている魔力消費軽減術式を記したお札を残していく。里香と明羅に理解できずとも、朝倉理香子という魔法使いを頼ればなんとかなるだろうと書き加えておいた。魅魔を頼られて魅魔自身の継戦能力延長という結果は避けたいからな…

 

(――っと、明羅と里香が戻ってくるか。即決して動いて正解だったな)

 

藍に聞いた通り魅魔は霧雨魔理沙と行動を共にしているようで、明羅と里香もそこに集まっていたようだ。懸念材料としてはこの4名の他にも2つ魔力反応があることだが…誰のものなのか判別できない。だが魅魔の麾下にいる以上は敵と考えるべき…麟かルナサに心当たりがあればいいが。

 

目的を達した俺はそんなとてつもなく低い可能性を考えながら、監視小屋へ駆け出す。

…この時、エリスと幽玄魔眼の侵入に気付けなかったのが致命的だった。もっとも、俺の得意魔法をよく理解していたエリスが探知範囲外になるような場所を侵入地点に選んだ以上、完全にしてやられていたわけなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここならヒョウでも気付かないでしょ!」

「逆にアタシたちも探せねえけどな…」

 

………何なのでしょう、この方々は。総領娘様のせいで帰りが随分と遅くなってしまったというのに、追い討ちのように天界へ空間魔法で侵入するような相手と出くわしてしまうなんて…今日は厄日なのでしょうか。

 

「…って!?いきなり見つかってるじゃねえか!口封じを――」

「ストップ魔眼!!下手に手出ししちゃうとサリエル様に責任が行っちゃう!

戦闘は徹底的に避けて!出来れば死なない程度に拘束してもらうのがベスト!」

「って、そうだった!じゃねえよ!?何アタシの能力バラしてんだ!」

 

…漫才師の方でしょうか?とりあえず魔眼と目を合わせないようにしなければなりませんね。

そもそも、侵入者として対応する方が面倒ですか…

 

「私は仕事帰りですので、あまりお付き合いしたくありません。このまま下界に降りてもらえるのであれば見逃しますが」

「え、いいの!?すごく助かる!」

「…そうだな、天界の連中が地上に潜伏してるヒョウのことなんざ知らねえだろうし。

邪魔をして悪かった。見逃してくれたのは恩に着るぜ」

 

そのまま下界に漫才師のような悪魔と…意思を持った魔眼でしょうか?は降りていきました、が…

 

(空気を読んで黙っていましたが…気になる名前が出ていましたね)

 

『潜伏してるヒョウ』…雷鼓さんが探している魔界人の方と同じ名前です。エリスと呼ばれていた子供っぽい方は悪魔でしたので、おそらく魔界から天界に侵入したのでしょう。

それにサリエル…詳しくはないのですが西洋の天使の名前だったはずです。逆に言えば詳しくない私ですら耳にしたことがあるということは、それほど高名な大天使だということになります。

 

(あまり私が関わるべき案件ではない気はしますが、メルランさんのライブをお手伝いしてくれている方であれば私自身も感謝を向けるべき方なのですよね。

明日はお休みですし、雷鼓さんとメルランさんにお伝えしておきましょうか)

 

総領娘様とあのお二人が鉢合わせなかっただけ幸運だったと思うことにしましょう。絶対に興味を持って下界に降り、また私が面倒事を押し付けられてしまうでしょうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「椛さん、お疲れ様です。交代です」

「…はい、お願いします」

 

…久しぶりに今日は己の無力を思い知らされることになりました。博麗の巫女に返り討ちにされたり、明羅に完敗したり、豹さんに生け捕りにされたりと…元々下っ端である白狼天狗なのですから、仕方ないと諦めがついた面もあったのですが。

 

「…その、椛さん?大丈夫ですか?」

「あ、はい…精神面の問題なので、大丈夫です。

お気遣いありがとうございます」

「無理はしないでくださいね。椛さんの負担、みんな心配してますから」

「その言葉だけで気が楽になります。後はお願いします」

 

白狼天狗の仲間から見ても私が落ち込んでいるのがわかるようで、気を遣われてしまいました。

山を降りようと考え、それを飯綱丸様に止められた。そんな光栄な評価をいただけたのに、気落ちしているなんて知られるわけにはいきません。

 

(ですが…私は豹さんの力になりたいという気持ちの方が強い。

 これからは、この晴れない気持ちを持ち続けなければならないのでしょうか…)

 

私の生き方を、私自身で選ぶことすら出来ない。力が足りない。

力を買われているといっても、それはあくまで天狗社会の末端でという話で。

 

(…止めましょう。豹さんを追い続けることは許可がもらえた。それなら、魔界と敵対しないように豹さんの力になれることを探せばいい)

 

飯綱丸様から頂けた情報に、魔界から侵入してきたらしき金髪の少女二人。明日、カナさんからお話を聞く際に、私からも伝えるべき情報がある。今は、それだけを考えて…その先のことはカナさんたちとも相談させてもらえばいい。

私では思い付けない方法を教えてくれるかもしれませんから。

 

―――そうして伏せがちだった視線を上げると、遠い夜空に何か…違和感を感じました。

 

(…あれは?)

 

迷わず千里眼で視てみると、昼下がりに見た二人とは別の金髪の少女―――いえ、あれは…!?

 

「悪魔っ…!?」

 

蝙蝠のような大きな羽を広げる金髪の悪魔が、同じ金髪の少女の幻影を引き連れて地上に降りていくところでした。

 

(魔界は悪魔たちの故郷でもある…!まさか、あれも豹さんへの追手!?)

 

このような夜更けに幻想郷に侵入してきている以上、隠密行動の可能性が高い。すなわち、目立つ行動を避けなければならない目的があるということです…!

 

(でも、遠い…!私では追い付けない。それに森に入ってしまっては千里眼だけでは追えない。

 私ごときの魔法では、すぐに見破られてしまうかもしれませんが…!)

 

家に帰ることもせず、目撃した悪魔が降り立った森の周囲に千里眼から探査魔法を派生させて行き先を探りましたが…どうやら案の定私が探っているのを察知されてしまったらしく、地上に降りたと同時に反応が消えてしまいました。おそらく空間魔法で異空間に隠れられてしまったのでしょう。

 

魔界から幻想郷に侵入できるほどの悪魔であれば、豹さんが行使できる空間魔法を使えてもおかしくないのですから。

 

(…今は諦めるしかないですね。ですが、これは皆様に伝えなければ)

 

落ち込んだ気持ちを振り切るように、私は家路を急ぐのでした。

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