寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により104話の送り仮名ミスを修正してます。迅速な報告ありがとうございます。


第105話 理想は違えど、主は同じ

幻夢界を抜けて靈魔殿に帰り着きました。途中の要塞の中から相変わらず研究らしき機械音が聞こえてきていましたが、私から声を掛けても科学者を志す彼女の協力は得られないでしょう…堕天使である私は魔法と関わりが深い。魔法を嫌う彼女からすれば避けたい存在なのです。

 

(里香さんからお願いしてもらえれば、力を貸していただけるでしょうか…)

 

明羅さんのお話を聞く限り、もう時間に余裕は無いようです。彼女にも手を貸していただけると助かるのですが、そもそも里香さんが素直にサリエル様の元へヒョウ様を案内してもらえるかどうか…

里香さんは全てにおいて戦車が優先。そのためには孤立することも手を組むことも‥裏切ることさえも躊躇わないのですから。

 

(最悪の事態を防ぐためにも、私が上手く立ち回らなければ…

 サリエル様だけではなく、私自身もヒョウ様に救われた身なのですから)

 

先ほどは魅魔さんの口振りからして様付けで呼んでしまうと話が拗れてしまいそうでしたので隠していましたが…サリエル様と神綺様から話を聞いただけながら、自然とヒョウ様と呼んでしまうようになってしまった方です。未だにお目にかかることすら出来ていない恩人。

 

サリエル様が月を捨てた日のことは忘れられません。サリエル様と相容れない―――ここ下界において嫦娥と呼ばれていた存在を中心とする一派の不穏な動きを察知していたのにも関わらず、交戦開始と同時に私は昏睡状態に陥り捕らわれてしまいました。幸いなことに目を覚ましたのがこの上ないタイミングでしたので脱出と逃走は上手くいき、時間はかかりましたが追撃を受けることなく魔界に辿り着きました。

そうして今も私はサリエル様に仕えることが出来ていますが…ヒョウ様が月に乗り込んでいなければ、サリエル様と私は月で虜囚の身に貶められていたでしょう。

 

私が無様を晒している間に、ヒョウ様がサリエル様を護ってくれたからこそ―――私は今、ここにいます。

 

(ヒョウ様は、私のことなんて知るはずもないですけれど。

 救われた者として、感謝を伝えたい。そして、サリエル様の隣にいてほしい)

 

魔界で騒ぎを起こさないためにサリエル様の元を訪れるのは半月に1日ですが、会うたびにサリエル様は一抹の寂しさを感じているのがわかってしまいます。それは私や神綺様では埋めることが出来ない…ヒョウ様にしか、癒せない寂しさ。

月の支配という重責から解放されたのですから、サリエル様には穏やかで幸福な時間を過ごしてもらいたい…そのためには、ヒョウ様が必要なのです。

 

「だからこそ…ヒョウ様を世界の犠牲にするわけにはいきません…!

 堕天使らしく、私は私の欲望のままに…!」

 

靈魔殿から魔界に通じるゲートを開きます。私の望む時間を手にするために、急がなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう大丈夫かな?ちょーっと甘く見てたかも」

「魔力反応で追われたわけじゃないってことは、視認でアタシらを見つけたってことか…たしかに、油断は出来ない場所みたいだな」

 

念のために魔力遮断領域を展開しながら地上に降りたんだけど、着地したとほぼ同時に()()()()()()()から探査魔法が行使されてびっくりした。つまりその時まで探査魔法無しでわたしと魔眼を見つけてたってこと。それは魔眼の言う通り、【どこかから見られてた】としか考えられないわ。

 

「遠見の魔法か、望遠鏡なんかで見ていた視界から探査魔法を展開する…いかにもヒョウが絡んでそうな魔法の使い方!どうせまた女をひっかけて利用してるんだ!」

「むしろヒョウ本人ってことはない?」

「…わたしには出来ないから悔しいけど、ヒョウだったら探査魔法に認識阻害魔法を組み合わせて使ってくるの。わたしも魔眼も探査魔法に気付けたってことは、ヒョウの魔法じゃない」

「なんだその複合魔法…あの野郎護衛より暗殺の方が向いてるんじゃねえのか…?」

 

ヒョウの厄介なところはここに尽きるのよね。攻撃魔法が使えないくせに、それ以外の魔法は最上位魔法を独自に複合させて展開・行使できる。しかもその複合魔法を数種類同時に発動させるなんていう魔術回路や術式がしっちゃかめっちゃかになるようなことを平然とこなすわ。

極端な話、ヒョウが編み出した複合魔法はパンデモニウムの資料に残されているらしいけれど使いこなせる魔法使いはごく少数。そもそも使いこなされると生半可な警備じゃ意味がなくなっちゃうから、重要機密扱いで資料の閲覧を許された奴自体がほとんどいないってサリエル様が言ってた。

 

「でも魔眼と一緒で助かった!流石に異空間に閉じこもれば探知は出来ないだろうし」

「双子悪魔にはあっさり力技で見つかったけどな…逆に言うとあれだけ無茶苦茶なゴリ押しできるような相手じゃないってことか」

 

行使された探査魔法はオーソドックスなやつだったから、魔眼の異空間に一度退避して少し距離を取った場所に移動することで探査範囲から抜けることにした。それほど魔法が得意というわけじゃないみたいで、それほど長時間探査することもなく解除された。

そこでようやく魔眼と周囲を確認することにしたんだけど…

 

「…ありゃ屋台か?客らしいのも一匹――って!月の兎かアイツ!?」

「ストップ魔眼!目的を忘れちゃダメ!

むしろ好都合よ…魔眼、店主の夜雀を一度落としてちょうだい。わたしは兎から情報を引き出すから」

 

 

 

「それじゃ、ごちそうさまでした!」

「毎度ありー!次は話してたお友達も連れて来てね!」

 

サリエル様を追い出した憎い月の連中…それがなんでこんなところにいるのかなんて知らないけど、わたしたちにとっては運がいい。遠慮なくボコボコにしようが誰にも文句を言われない相手なんだから。

でも、今はこの世からバイバイさせるのは早い。わたしたちはここ…幻想郷のことを知らなさすぎる。知ってることを全部喋らせて、わたしたちの情報源にしちゃえばいい。

 

「そういうわけでごめんねー、ちょっといいかなー?」

「え?誰です『わたしの聞くことだけに答えてね』――っ!?」

 

随分と不用意な兎だなー。わたしの魔力に気付きもせず目を合わせるなんて。魔眼は邪視に特化しちゃってるから、瞳術として行使する催眠には向いてない。だから色々聞きたい方にわたしが催眠をかけて…

 

「悪いな、ちょっと黙ってろ」

「え――」

 

こんな時間まで屋台を出している夜雀の方は魔眼に意識を落としてもらう。余計な目撃者はいらないし。

 

「安心していいよー、今日のところは命を取る気は無いから。

 ただ、わたしはサリエル様に仕える身。月の兎なら、どういう意味かわかるよね?」

「っ!……はい」

 

ちゃんと効いてるね。顔を真っ青にしながら返答だけ返してきた。

…逆に言うと、わたしの瞳術を破れない程度の相手ってことだから大した情報はたぶん持ってないだろうけど。

 

「とりあえず、名前…ついでにあっちの夜雀の名前も教えなさい」

「私は清蘭、あっちはミスティア」

「清蘭、ヒョウって魔界人を知らない?」

「知らない…」

「ルナサってのは?」

 

ヒョウのことを知らないのは予想通り。だけどこっちの名前は押さえておきたい。

夢幻館にいた奴らが口に出していた協力者…つまりヒョウを誘き寄せるエサに出来るはずの存在だから。

 

「たしか、人里で大人気な楽団のひとり」

「楽団?なんでそんな目立つ連中とヒョウに繋がりがあるんだ?」

 

今まで黙っていた魔眼が思わず声を出しちゃったけど、そのとおりね…なんで逃げてるヒョウが楽団なんて目立つのが仕事のような連中と関わってるんだか。

まあ、わたしがそれを理解できるはずはないかー。むしろ有名ってことは案外すんなり見つけられるかもしれない。

 

「ヒョウのことを知ってそうな奴に心当たりある?」

「わからないことは、八意様に聞けばたいてい答えてもらえる」

「八意!?まさか八意永琳!?」

「はい」

「なんだと…!?」

 

その名前をこんなところで聞くことになるなんて…!サリエル様を月から追い出した張本人が幻想郷にいるっていうの!?

 

「…おい、エリ」

()()()、ちょっと黙ってて。

 八意永琳は何処にいるの?」

「迷いの竹林を抜けた先の、永遠亭」

「そう。もういいわ…おやすみなさい」

「う……」

 

清蘭にそのまま睡眠魔法をかけて眠らせる。…ま、屋台の座席に乗せるぐらいはやってあげましょ。

 

「…くるみって、なんだ?たしか夢幻館にいた吸血鬼の方だっけ?」

「八意永琳にわたしたちのこと知られるのはマズいでしょ。それに、今の話で私たちの理想形が変わったもん。

屋台で襲ってきたのは()()()()()()()。そうしておく方がわたしたちは動きやすいじゃない」

「それはそうだが…理想形ってどういうことだ?」

「八意永琳が幻想郷に居るなら、サリエル様のためにも排除しなきゃ!

 そのために、ヒョウは使えるわ。ヒョウと八意永琳で共倒れになるのがベストよ」

「うわ、エゲつねえ…エリスはたまにとんでもなく悪魔らしくなるな」

 

なんだか魔眼が失礼なこと言ってる。わたしの方がずーっと年上の悪魔なのに。

 

「…っと、こっちに向かってきてる反応がある?

共倒れを狙うなら、月の連中と繋がってる奴が誰なのか知りたいね。魔眼、お願い」

「よし来た、任せな」

 

 

 

 

 

「清蘭、起きて!」

「う、うぅん…?」

「何があったのよ!?こんな時間に場所付きで助けてなんてテレパシー送って来るなんて!?」

「鈴瑚…?―――っ!?あの悪魔は!?」

「私が着いた時にはもう清蘭とミスティアしかいなかったけど。

 ミスティアはまだ起きないし、何があったのよ!?」

「八意様に伝えないと…!サリエルの部下が襲って来たわ!」

「サリエル!?」

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