寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第108話 甘えてもいいですか?

出口は麟の家の玄関に開かれた。俺の指示通りに設置してくれているのは流石、麟に渡した出口用の魔法具2つ…古い方であるネックレスはドアノブに吊り下げられていた。ここであれば先回りされていても即座に外に出れる位置だからな。

 

(さて、麟を起こさないよう静かに――)

「ひょ、豹さんですか…?」

 

…起こしてしまったか。朝というにはまだ早いというのに、寝惚けた様子もなくハッキリと麟の声が寝室から聞こえて来た。

 

「すまない、計算外のアクシデントでな…」

「す、少しだけ時間をください…!」

「慌てなくていい。一度外に出とくから、落ち着いてから呼んでくれ」

「す、すみません!お言葉に甘えます…」

 

ユキもカナも寝起きを見られるのは嫌がってたからな…女性として身だしなみを整えたいのだろう。そのままドアを開けて一度外に出る俺であった。

 

 

 

床下の隠し棚に置いたレーザー砲から索敵魔法を展開し監視小屋内を探ると、古明地こいしが地霊殿と連絡を取ろうとしているのか、通信具を探している様子だった。

 

(―――予想通りか。古明地こいしが監視小屋に侵入している…つまり古明地さとりも俺が監視小屋を訪れていたことを把握していた。キクリ様が応対してくれた以上彼女が俺に関心を持つことはないと思ってたんだが)

 

黒い怪人として活動していた当時、あの監視小屋で地底側と会話するとしても相手は一人だった。相互不干渉が基本である以上、管理側同士も余計な接触は極力避けていたからだ。キクリ様が俺を気に入ってくれた理由は監視小屋との応対に出てくれるのが大抵キクリ様だったからであり、他の管理側の有力者が応対してくれることは稀。コンガラ様に至っては黒い怪人として顔を合わせたことは一度もない。

 

キクリ様の次に応対することが多かったのが古明地さとりだ。キクリ様から聞いた限りだと彼女は地霊殿から出ること自体が少ないため『わらわの手が空いてなければ奴が対応するはずじゃ』とのこと。そのため直接言葉を交わすことが無くとも黒い怪人が監視小屋を利用したことは毎回把握しているらしい…少なくとも、通信具が目に届く場所にいたのであれば。

もっとも、彼女自身が非社交的なためキクリ様だけでなく他に応対できる相手がいる場合は無反応だったのだが。俺が呼び掛けてから地底側の応答があるまでの待ち時間はダントツで古明地さとりが長かった。だからこそキクリ様が応対した以上放置されると思ってたんだが…

 

(ここ最近立て続けに畜生界で異変が起きた。そのために巫女たち数名が地底に侵入したが…その代償として地上の情報を俺から引き出そうとした?

…だが、そのためにわざわざ制御不可能な古明地こいしを派遣するというのも不自然。それこそキクリ様が対応した以上、彼女ならキクリ様に話を聞く方が自然。これまではそうしていたはず。

―――これは、俺が目論見を見抜くことは不可能だな)

 

古明地さとりとは【黒い怪人】として通信具越しに会話したことがあるだけの付き合い。彼女が何を求めているかを推測できるほど俺は彼女のことを知らないのだ。麟から紫さんに報告してもらうぐらいしか手を打てない。

 

もっとも、実の姉である古明地さとりだろうと古明地こいしを止めることは出来ないと聞いている。俺が発見されないよう逃げ続けるしかないのだろうが。

 

「お待たせしました豹さん…!どうぞ」

「ああ、こんな時間にホントすまない」

 

すっかりいつも通りの麟が顔を出す。先に麟とミーティングだな。

 

 

 

 

 

「大丈夫か?まだ日は昇っていない…睡眠時間が足りなきゃ無理しないでいいぞ」

「もう着替えてしまいましたし、せっかく豹さんがいらしてくれたんです。少しでも長くお話しさせてください」

 

どうやら俺がここを訪れる前に俺の事も考えた備蓄まで整えてくれたらしく、コーヒーの用意をしてくれている。気を遣わせてしまってるな…

 

「無理に俺に合わせなくてもいいぞ?コーヒーはあまり得意じゃなかっただろ?」

「でしたら、豹さんが減らしてもらえませんか?私の家に残してももったいないですから」

「そうか…ならいただくが、麟まで付き合わなくていいからな」

「ありがとうございます、私は緑茶をいただきますね」

 

炬燵に入りながら湯呑みでコーヒーというどうにも微妙な絵面だが、そんなことを気にしてられる状況じゃない。麟の寝起きは良いらしく眠そうな様子を全く見せないようだし、早速だが話を進めさせてもらうか。

 

「それでですが…豹さん、これをお持ちいただいてもいいでしょうか?」

「ん?…笛か、随分と小さいが」

「針を仕込めば吹き矢として使えます。二胡だと持ち歩くには邪魔になってしまいますから…

私が豹さんの居場所を見つけるための目印として、お持ちいただけませんか?」

「ああ、そういうことか…ありがたく貰っておく。大切にしよう」

「ありがとうございます…!

それで、何かあったのでしょうか?私の持つ出口を一つ使ってしまうような危機的状況だったということですよね?」

「ああ、完全に俺の判断ミスだ…余計な追手を増やしてしまった。

麟にも軽く話したが、地底に続く洞穴の監視小屋がある。さっきまでそこで一休みしてたんだが、地上に出て来た実力者を察知しちまってな…」

「実力者、ですか?地底とはお互いに進入禁止と聞いていますが」

「その通りなんだが、ここ数年の異変において黙認された連中が数名居るだろう?そいつらは地上・地底双方がお咎めなしにした。要するにどちらの上層部も昔ほどこだわってないんだよ。だから最近は見逃されてるらしい」

 

黒い怪人としての活動を行わなくなったのは博麗大結界による隔絶が安定し、相互不可侵協定を知らない人妖がほとんどいなくなったからだ。そしてスペルカードルールが制定された後に地底と畜生界で起きた異変を地上の巫女が解決に出向いたことで、地底・地上の上層部はある程度妥協することにしたのだろう。そうでなければ、地底の異変に際して巫女たちが侵入したことを【黒い怪人の職務怠慢】として詰めてくるはずなのだから。

 

「そうなのですね。ですが、豹さんが空間魔法を使ってまで距離を離す必要があるほどの実力者なのですか?」

「ああ、ハッキリ言って厄介が過ぎる相手だ…無意識を操る覚妖怪、古明地こいし。魔眼を同調させて様子を見たことで逆に『どうして私が見えてるの』という反応になっちまってな。おまけに彼女の姉である古明地さとりは俺が監視小屋で休息を取ったのを把握してたらしく、一直線に向かって来たんだよ。

俺もかなり動揺しちまったからな…あの状態で逃走するとそのまま追いかけられる危険性も考えて、一気に距離を取れる切り札を一つ切ったわけだ」

「古明地こいし…私も話には聞いていますが。豹さんだから見つけることが出来て、それで興味を持たれてしまったということですね…

ごめんなさい、私では何も役に立てそうにないです」

「それは仕方ない、それこそ俺じゃないと奴は対応できないだろう。こうなった以上彼女の狙いが俺以外に向く方が困ったことになる…彼女はその気になれば近付いたことすら気付かせずに暗殺なんてことが簡単にこなせるんだからな」

「…そうですね、豹さんなら致命傷は避けられる可能性がある。そして致命傷でさえなければ私が癒すことが出来ますものね。潜伏しなければならない豹さんにお任せするのは本末転倒な気もしますが…私が下手に動く方が豹さんの負担になってしまいます。どうか、お気をつけてください」

「ああ、麟が力を貸してくれてるから俺も多少の無理が利く。だからこそ、麟も無茶はしないでくれよ」

 

厄介な相手だが、古明地こいしはほとんど俺の情報を持っていない…同調した魔眼という情報だけで俺を探すつもりなのだ。幸いなことに彼女の妖気・魔力を知ることが出来た以上、俺が後手に回る可能性は低い。そして麟やルナサとの繋がりも知るはずがないのだから、こちらから刺激しなければそう簡単に捕捉されることはないだろう。

 

「当面はルナサやエリー達に『古明地こいしと鉢合わせたら逆に俺の事を教える』ことを伝えておけばいいだろう。興味は持たれたが敵視はまだされていない、情報を渡せば攻撃してくることはない…ハズだ」

「それでしたら、状況によっては力を貸してもらえるでしょうか?」

「いや、味方として数えるのは危険だ。俺も紫さんから聞いただけだから詳しくは無いんだが、彼女は能力を制御しきれていない――暴走状態らしい。無意識に己の欲求を優先したりすることがあるそうだから、頼りにするのはハイリスク過ぎる…敵対しないようにするだけでいい。

いくら戦力として優秀でも、予定通りに動かないことのある相手を当てにできるほど俺には余裕が無いからな」

「そ、そうなんですか。豹さんの言う通りにしますね」

 

麟は複数の師匠から【生き延びることの大切さ】を伝えられている。そのためこのようにリスクを伝えれば素直に逃走優先に従ってくれるのがありがたい。本当に俺にはもったいない逸材だ。

古明地こいしに関してはこれぐらいでいいだろう。次に話すべきは―――

 

「それで、ルナサとは接触できたか?予定より早くここに来ちまったが」

「はい、昨日魔界からユキさんと夢子さんが侵入してきたタイミングで橙がルナサさんをここに案内してくれました」

 

橙が…成程な、橙はこの一件で隠密に徹させるということか。ユキと夢子なら橙を捕らえても丁重に扱ってくれるだろうが、前線に出すことは避けて後方支援に専念させるのだろう。

 

「それで、昨日はここの場所だけ覚えてもらって今日またここに来てもらうことになっています。ユキさんと夢子さんの動向をルナサさんに聞いてもらって、今後どう動くか相談するつもりです。

なので、ルナサさんが来るまで豹さんもここに留まってください!」

「そうだな、ルナサからユキと夢子の動向を聞けるのは助かる。しばらくお邪魔するぞ」

「はい!ごゆっくり休んで行ってください!」

「麟もな…こんな時間に起こしちまったんだ。削ってしまった睡眠時間の分はしっかり休んでくれ」

 

そう返すと、麟は悪戯を思い付いたような顔をして。

 

「――それでしたら、少し甘えてもいいですか?」

「…そうだな、次にいつ会えるかの確約がもう出来ない。俺と麟、お互いの負担にならない程度なら構わないぞ」

「もう…予防線を張るのが相変わらず上手いんですから。少しは隙を見せてほしいです」

「今の俺が隙を見せたらそのまま魔界に護送されちまうだろ、察してくれ」

「豹さん、こういうときだけは意地悪です」

 

麟に隙を見せたら、今以上に依存させてしまうことになるだろうからな…そんなことを考えていると、麟が傍に寄ってきて。

 

「でも、これぐらいはいいですよね?」

「…そうだな」

 

後ろから俺に抱き付いてきた。麟が癒されてくれるのなら、俺の背中ぐらいいくらでも貸してやろう。




この作品を楽しんでいただいている読者の皆様、今回もありがとうございます。

申し訳ないのですが、4月前半はリアル都合の関係で土曜の更新が無しになります。
4/15(土)から週3更新に戻しますので、2週間ほど更新ペースを落とす慈悲をお恵み下さい。
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