寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第109話 夢幻館と幻夢界

「サリエルのOKが出ましたので、すぐにでもヒョウを呼び戻しましょう!」

 

幻月さんと夢月さんがお帰りになって、一言目がこちらでした。喜ばしいことではあるのですが…

 

「も、もう少し詳しく説明してもらえませんか?」

「そうね、私たちが幻想郷に出るのは避けた方が良さそうだし。エリーとくるみにヒョウを探してもらわなきゃならないから」

 

くるみの返しに夢月さんが応えてくれました。豹さんの要望に沿ってくださるようで一安心です…私たちは幻想郷の現状に疎いので、事態の悪化を防ぐためにも豹さんの指示は守りたいですから。

 

「そうですね。簡潔にまとめると、サリエルも再会に乗り気でした。ですのでヒョウが夢幻館に戻り次第、私と夢月で夢幻世界にサリエルを呼び出します」

「サリエルはやはり今でも豹さんを慕っているのですね。ですが、問題の幽玄魔眼は?」

「サリエル自身が『私とヒョウが会うことを防ぐために自由に動くとよい』って突き放してたわ。切り捨てるには惜しいけれど、ヒョウとの再会を優先するということ。

要するに、次に絡んで来たら始末して構わないってことよ」

「…あの、夢月さんなら簡単に出来るんでしょうけど、私とエリーじゃちょっと難しいですそれ。異空間に逃げられたら追撃できないので…」

「あ」

 

…夢月さんはそこまで考えてなかったのですか。これだと私とくるみが幽玄魔眼に襲撃されてしまうと豹さんへの人質にされてしまう可能性があるんですよね。単なる戦闘であれば後れを取るつもりはありませんが、異空間に追放されてしまうと私とくるみでは自力で戻って来れないのです。

 

「エリスさんはどうしたのでしょう?」

「幽玄魔眼と一緒に妨害しに来ると思うわ…ちょっと考えが甘かったですね。エリーとくるみだけで幻想郷に向かわせると、エリスと幽玄魔眼が狙ってきてしまうリスクがありましたか」

「ならヒョウには悪いけど、私か姉さんどちらかは幻想郷に行こうよ。エリーとくるみの安全のためって理由なら、ヒョウも文句は言わないでしょ」

「それはそうですけどー…そうすると八雲以外の管理者から睨まれちゃいません?」

 

くるみの言う通りでもあるんですよね…幻月さんと夢月さんは幽香と互角以上にやり合える強大な力の持ち主です。幽香が幻想郷でのんびり過ごしているだけなのに警戒されている以上、夢幻世界から滅多に幻想郷に来ることのない幻月さんと夢月さんが侵入すれば管理者たちからすれば見過ごせないでしょう…私たちとつながりのある八雲以外は。

 

「うーん…でもそこは許容しないと私たちが動けないんですよね。それこそエリスと幽玄魔眼がやらかした場合、私たちが対処に向かわないとヒョウ自身が動いてしまいそうですし」

「あー…それはそうですね。となると、明日はエリーに動いてもらうことになるかな?そろそろ夜明けだし、私は余計目立っちゃうから」

「それに、カナさんを夢幻館に呼んでしまっていますから誰か一人はここに残っていてほしいんですよね。その際の戦力バランスを考えると、幻月さんと夢月さんには別行動してもらいたいところです」

「カナ?誰よそれ」

 

あ、そういえば伝えていませんでしたね。

 

「私とくるみ同様に、麟の名前だけは覚えていられる方だそうです。ルナサとアリスが乗り込んできた時にアリスが人形を介して通信してくれまして。時間が取れたら夢幻館に足を延ばしてもらえるようお願いしています」

「麟………?―――あぁ、あの子か!

なるほどね、私にすら通用する忘却の呪い…ヒョウが気にかけてるのも納得」

「…こうして実感すると、並の呪いではないですね。最上級の悪魔になれたと自負してますが、無効化出来ないなんて。

麟のことは、個人的に気にしてあげても良いかもしれません」

 

…豹さんから聞いてはいましたが、まさか幻月さんと夢月さんにすら効果があるなんて。本当に恐ろしい呪いです。

 

「で、そのカナってのはどういう立ち位置なのよ?」

「豹さんの隠れ家に取り憑いた騒霊って言ってましたね。それに八雲紫が『カナとあの人形はこちら側へ引き込める』ってルナサに伝えてたそうなので、少なくとも魔界に豹さんを帰らせることに反対してることは間違いないはずです」

「なるほど…下手に私たちから動くより、そのカナを伝令役として使う方が安全かもしれません。少なくともエリスと幽玄魔眼はそのカナという騒霊を知らないのですし」

「それでは、カナさんが接触してくるまでは様子を見ることにしますか?話の進め方次第では、私とくるみ、カナさんで豹さんを探しに行けるかもしれません」

「ちょっと退屈な選択ではあるけれど、安全策ではあるわね。ただ、待つのは今日一日だけ。下手すると今日には神綺も幻想郷に乗り込んでくるかもしれないし。

明日からは私と姉さんどちらかが夢幻館に待機して残りはヒョウの捜索。これでいい?」

「私はそれで構いません。足を引っ張ってしまうのは私とくるみなのですから」

「夢月がそう言ってくれるなら私も大丈夫よ。むしろそんな無難な選択してくれるとは思わなかった」

「姉さんは私をただの戦闘狂とでも思ってるの?これでも気に入った相手の理想に沿うぐらいの優しさは持ち合わせてるわよ」

「これでもって自分で言っちゃうんですね夢月さん…

そしたら、一人ずつ交代で仮眠取りません?ここから先は忙しくなりそうですし」

「あ、私もそうしてもらえると助かります。少しでも不安要素はなくしたいですし」

 

くるみの提案に私も乗ります。私とくるみが足を引っ張らないようにするためにも、万全の状態に少しでも近付けておきたいのですから。

 

「いいんじゃない?というか一人ずつじゃなくて二人ずつでいいでしょ。姉さん、先がいい?」

「ううん、今日戦闘したのは夢月だし、後でいいわ」

「それじゃ、エリーと夢月さんで先に仮眠ですね。私が眠くなったら起こしに行きます!」

「くるみ、幽香にその自分勝手は伝えておくわね」

「やめて!そこまでされるほどのことじゃないでしょー!」

 

精神を休めるために睡眠は必要…豹さんの持論だそうですが、的を得ていると思います。

仮眠だとしても、その効果は小さくない。休めるときに、休んでおきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!リィス、ちょっと待つのです!」

「――!里香さんに…理香子さん、でしたか」

「悪いわね。時間が惜しいから付き合ってもらうわ」

 

サリエル様の返答を魅魔さんに伝えようとする途中で、幻夢界の要塞に戻っていた里香さんに呼び止められました。科学者の理香子さんもご一緒です…里香さんが説得してくれたようですね。

 

「サリエルってのはどうだったのです?」

「ヒョウ様を探すことに協力はしていただけますが、それが魔理沙の安全には繋がらない…これをお伝えして魅魔さんがどうお返しになるかですね」

「つまり、魔理沙を守る気は無いということなのです?」

「はい…残念ながら。たとえ私たちがヒョウ様を魔界に送り届けても、魔界が魔理沙を取引の材料に要求することが無くなることはないそうです」

「ならわたしには好都合なのです。

 リィス、魅魔様を敵に回して豹を助ける気はないですか?」

「えっ!?」

 

里香さんがとんでもないことを真面目な顔で聞いてきました。

…隣の理香子さんは驚きもせず黙っているのを見る限り、すでに話しているということでしょうか。

 

「はっきり言って魔理沙がどうなろうとわたしは知ったことじゃないのです。魔界の連中から恨みを買ってるのはやりたい放題した自業自得だし。なにより豹の知識と魔法技能は捨てるわけにはいかないのです!」

「そいつはたしかに優秀だわ。魔法なんてもう使うつもりはなかったんだけど、里香が持ち込んできた魔力消費軽減術式は私ですら独力で編み出すことは出来ないレベルの代物…里香じゃ理解できなかったのよ。

つまり、そいつをさっさと捕まえないと里香の相手で私の研究時間が減るんだ、それも使いたくない魔法のせいでね。私にとって非建設的な時間が増えるのよ」

「だから理香子も豹を追うことに協力することになったのです。わたしと理香子が共闘すれば魅魔様相手にも張り合えるので、魔理沙なんて放っておいて豹の捜索に手を貸せなのです!」

 

あまりにも突然で、考えがまとまりません…が、ヒョウ様のことを考えると、魅魔さんを敵に回すことも考慮に入れる必要があるのは事実です。そして、里香さんと理香子さんは私より数段上の実力者…力を貸してもらえるのであれば、頼りになる相手です。

それならば、私が取るべき選択は―――

 

「…里香さん、私はヒョウ様をサリエル様の元に導かなければなりません。そして、サリエル様がヒョウ様を魔界に留めようとする可能性もあります…それを知った上での、お誘いですか?」

「当然なのです。リィスのその話、逆に言えば魔理沙を差し出せば魔界は豹を諦める可能性が高いってことだし。それならば最初から魅魔様と決別する方向で動く方が効率的なのです!」

「…わかりました。でも、私は魅魔さんと魔理沙をそこまであっさり切り捨てられないので…サリエル様の返答だけでも、魅魔さんに伝えて来て良いでしょうか?

その返答次第で、私も魅魔さんと決別する覚悟が出来そうですから」

「ふふふ、悪くない答えなのです!

 いいでしょう、魅魔様に伝えてくるのです。そして今後の動向も聞いてくるのです!」

「はい、では一度失礼しますね」

 

結論を先延ばしにさせてもらいました。ですが、私はサリエル様に仕える身です。この仲間割れは私の目的に利用できる…!魅魔さんと魔理沙、押さえなければならない相手を里香さんと理香子さんで相手してくれるということなのですから。

 

(魅魔さんは、私の内心なんてあっさり看破してもおかしくない。なら、敵対しても助けを求められるよう、里香さんと理香子さんと協調するのは悪くない…!)

 

裏切りなんて、堕天使らしい行動です。今の私が、躊躇う理由なんてありません。

ですから…魅魔さんと魔理沙に、別れを告げに向かいましょう。魅魔さんが魔理沙を見捨てることはないのですから。




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