寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第110話 夜明け前の仲間割れ

幻夢界を抜けて幻想郷に戻ってきました。ここ幻想郷において堕天使である私は一際目立ってしまう存在…海を渡ってこの島に移住する者はごく少数であり、人々のイメージする一般的な天使の姿形を保っている堕天使もまた稀少。すなわち幻想郷で目撃された天使は私一人…迂闊に目撃されると物珍しさから追われてしまうのです。

 

そして、私は荒事があまり得意ではありません。正確に言うと攻撃魔法はそれなりに扱えるのですが、障壁・強化といった防御系の魔法が気休めにもならないレベルの魔法しか扱えないので耐久面が弱点になってしまっています。魅魔さんや博麗の巫女には一蹴されてしまう程度の実力なのです。

 

(だからこそ、夜が明ける前に幻夢界に戻りたいのですが…

 そういうわけにもいかないようですね…!)

 

私に向かって真っすぐ飛んでくる、よく知った魔力が二つあります。どう転んでもすぐに終わる話にはならないでしょう…これは、すぐに靈魔殿へ帰ることは出来ないようですね。

 

 

 

「リィス!なんであんたがこっちに来てるのよ!?」

「サリエル様とヒョウ様のためです。エリスと幽玄魔眼の事情も聞いています」

「ちっ、また敵が増えたか…アンタも厄介な奴だ」

 

現在のサリエル様の側仕えをしている二人は即座に私の魔力反応をキャッチして飛んできたようですね。お互いサリエル様に仕えている立場ながら目的を違えたので協調など出来ないのですが…幻想郷に伝手がほとんどないがゆえに、私との接触を優先したということでしょう。

 

(私一人で逃走できる相手ではありません…どうにかして、切り抜けないと!)

 

「サリエル様のためならわたしたちに協力しなさいよ!ヒョウはサリエル様を不幸にしかしないわ」

「それはエリスの思い込み…というより願望です。ヒョウ様のことを語るサリエル様を見ているのであれば、サリエル様がヒョウ様のことを必要としているのがわかるはずです」

「そのヒョウはサリエル様のために動いてないじゃねえか。このままじゃサリエル様がヒョウの【都合のいい女】にされちまう…!そんなのは間違ってるだろ!」

「周りからそう見られるとしても、サリエル様自身がそれでも構わないと感じているのです。私はサリエル様の意思を尊重します」

「もう、なんでわからないかなー!ヒョウは誰に対してもあんな感じの節操無しなのよ!サリエル様が傷付いてもいいって言うの!?」

「サリエル様だけでなく、私自身もヒョウ様に救われた身です。今、そのヒョウ様が危機を迎えサリエル様を頼ろうとしている…サリエル様も私も、ヒョウ様のために傷付く覚悟はすでに決めています。

私たちを救うために、ヒョウ様はすでに傷付いたのですから」

「クソッ、これだから従順過ぎる奴は面倒なんだ。

良いか、アンタがマゾっ気出してヒョウに尽くすのは構わない。でもその自己犠牲精神をサリエル様に発揮させちゃならない。サリエル様は優し過ぎるから、際限なくヒョウに尽くしかねないんだ。それはサリエル様にとっても魔界にとってもアタシたちにとってもマズいだろ?

魔界神と並ぶ大天使が、一人の魔界人に入れ込む。ただでさえ身の程知らずの悪魔共がサリエル様の追放を狙ってるんだ。そこに余計な火種を入れたらもう炎上するだけなのはわかるだろ!?」

 

…エリスと幽玄魔眼の言うことも、間違ってはいないのでしょう。

ですが、肝心なことが抜けています。

 

「サリエル様は静かに隠棲することを望んでいます。それは、もう魔界ではなくてもいいのです。

ヒョウ様の過ごしていた幻想郷に受け入れてもらうなり、私の過ごす靈魔殿に落ち着くなり。魔界が荒れてしまうのであれば、サリエル様は魔界を離れることも選択するでしょう。

魔界に留まるより、ヒョウ様と過ごすことの方が大切だと思っています。その危惧は的外れです」

「っ!?そこまで言い切るのかよ…!」

「ダメだ。魔眼、リィスはもう手遅れよ。

リィス、今は見逃してあげる。めんどくさそうなのがずっとわたしたちを見てるから。

でも、次に会ったら容赦しない。サリエル様に怒られちゃうけど、余計なこと出来ないようにするから」

「はい、私も覚悟の上です」

「ふん、そうかよ。勝手にしな」

 

―――凌ぎました!エリスと幽玄魔眼が背を向けて地上に降りていきます。今この場で実力行使に出てこなかっただけで上々です。牽制してくれていたらしい魅魔さんには感謝しませんとね。

 

(…すぐに裏切ってしまうので、恩を仇で返すことになってしまいますけれど)

 

 

 

 

 

「お待たせしました魅魔さん。援護、ありがとうございます」

「むしろ気付かれてたのが意外だね。ちょっと敵意を向けただけなんだが…あの二人もそこそこ骨のある奴ってことかい」

「そこそこどころではありません。今の魔界でサリエル様の傍仕えをしている悪魔のエリスと、サリエル様の使い魔である幽玄魔眼…私と入れ違いで幻想郷に侵入していたようです」

「…どうやら思った以上に面倒臭くなってるらしいねえ。それじゃ、早速話を聞かせな…魔理沙もそろそろ起きるだろうし」

 

魔理沙はまだ眠っているようで外に出てくる気配はありません。顔を合わせての別れの挨拶は出来そうにないですか。

 

「ヒョウ様を捜索することにはサリエル様も協力してくれるそうです。

ですが【ヒョウ様を魔界に返すこと】と【魔理沙が魔界との取引に使われること】は、魔界側が関連付けることはないということだそうです。サリエル様のお言葉を借りますと『ヒョウ様を神綺様に差し出したところで、魔界の強硬派を抑えることには何の役にも立たない。ヒョウ様と魔理沙を同列に扱うのが間違い』だと」

「ちっ、魔界の連中は相変わらず鬱陶しい。あれだけ叩きのめしても恐怖より憎悪が勝るのかい。

大したことない雑魚でも簡単に幻想郷へ入り込めるってだけで、管理者共が慎重になるのがこれほど厄介になるとはね」

「ですので、私たちが優先すべきはヒョウ様を捜索することではなく、ヒョウ様を奪還するために動く夢子さんとユキさんを排除しようとする存在を止めることだそうです。神綺様もヒョウ様との再会を願っているそうですので、助命嘆願などせずともヒョウ様に危険は無いと仰られていました」

「なんてこったい、危険があるのは魔理沙だけか。となると…少しでも早く豹を魔界に引き渡して靈夢と幽香が動く前にカタを付けるべきね」

「ですが、先程のエリスと幽玄魔眼はヒョウ様を認めてくださらないのです。なのでヒョウ様の捜索を妨害して来るでしょう…そして、二人も魔界の住人。妨害されて迎撃してしまうと、それを理由に魔界側が動き幻想郷が魔理沙を切り捨ててしまう」

「…弱ったね、これじゃ私とリィスは動きようがない。里香も当てに出来んし、頼れるのは明羅と呪珠だけか」

「いいえ、サリエル様のお言葉に従えばいいだけです。私たちは夢子さんとユキさんの援護に回ればいいでしょう…お二人も魔界の状況は把握しています。エリスと幽玄魔眼の排除はお二人が率先して動いてくれるはずですので、その戦闘に加わろうとする博麗の巫女といった幻想郷の住民を私たちが妨害する。

魔理沙の保護を前提にするのであれば、魅魔さんと魔理沙と私はこう動くしかありません」

 

―――これで魅魔さんがどう返してくださるかです。これ以外の行動を取ると、魔理沙を守ることが難しくなります。つまり魅魔さんに選択の余地はありません。

問題は、ヒョウ様とサリエル様を敵視せずにいられるかどうかです。それが出来ないのであれば、私は魅魔さんを切り捨てる…サリエル様に仕える天使として。

 

「…是非もなしか。リィス、サリエルとやらに伝えてくれ。

 『豹の捜索を任せたい』…ってね。私の自制が効くうちに終わらせてくれってさ」

「それは、間に合わなければ動いてしまうということでしょうか?」

「豹のせいで魔理沙に火の粉が降りかかるってのに、私から妥協してるんだ。

 私が動いた方が安全と判断したら動くさ。魔界の連中を信用し切れないからね」

 

…残念ですが、魅魔さんとの付き合いはここまで、ですね。

私は魅魔さんより、ヒョウ様の方が大切なのですから。

 

「わかりました。魔界に戻る途中で幻夢界を経由しますが、里香さんにもこのお話、お伝えしておきますか?」

「そうだね、一応伝えておいてくれ。おそらく里香は独断で動くだろうから、戦力として数えるつもりはないけど」

「では、もし不在でしたら探さずサリエル様の元に向かってしまいますね。

…日が昇り始めていますが、今ならまだ私の目撃は少なくて済むでしょう。失礼しますね」

「ああ、ご苦労さん」

 

―――さようなら、魅魔さん、魔理沙。

次は、敵として相まみえることになるでしょう

 

 

 

どうやら言葉を間違えたらしい。あの様子だとリィスももう戻ってこないだろう。

 

(やれやれ、私も人望が無いもんだね。

 いや、悪霊である以上無くて当たり前だけどさ)

 

朝日を浴びながら飛び去るリィスの背に視線を向けながら、己の考えの甘さを噛みしめる。まさか集めたメンツの半数に見捨てられることになるとは思ってなかった。

 

(ま、仕方ないか。里香は戦車優先だし、リィスはそもそもサリエルの部下なのに力尽くで従わせてた相手。どちらを優先するかなんて決まり切ってる。隠居なんて嘯いてまともに相手してやってないのに、いまだに師匠として慕ってくれてる魔理沙と明羅が特別なだけ。

なにより、紫が『惜しいけれど、豹は切らなくてはならない』なんて言い方をした時点で察するべきだったかい)

 

豹はあの紫ですら惜しむような存在だったのだ。魔理沙を守り切れなかった役立たず…第一印象がそれだったせいで、無自覚に見下していたのだろう。

軽い付き合いだった里香があっさり私より優先し、師弟関係として長く世話してきた明羅さえも悪印象は持っていない。そして、面識がないとはいえリィスの主が永く探し求めた存在。

役立たずのはずがない。あの神綺すら再会を望むほどの男なのだから。

 

「とはいっても、この程度で魔理沙を諦めるわけにはいかないね。

 さて、どう立ち回ろうか」

 

丁度いい、魔理沙も起こして考えるとしよう。こうなったからには、守るためにあえて遊ばせておく…そんな状況じゃなくなっちまったからね。

 

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