寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第111話 捜索者散開開始

久しぶりの布団で目を覚ますと、軽く整理した作業部屋の光景。

 

(…ああ、夢子とユキが来たんだったわね。起きないと)

 

手早く着替えながら家事用の人形に布団を畳ませておく。どうやら夢子もユキもすでに起きているようで、キッチンに移動している…随分と気合が入ってるわね。

 

(豹は、そこまで求めている兄ということ…母さんもそうらしいし、異変と見られるのは避けられないわよね。

となれば、せめて幻想郷の中だけで騒ぎが収まるように動かないと)

 

私だけでなく夢子とユキも、魔界と幻想郷の戦争は避けたいのだから。

 

 

 

 

 

「おはよう、夢子、ユキ。早いのね」

「アリスも別に遅くはない、もう少し寝てくると思ってたわ。神綺様ならまず起きてこない時間よ」

「母さんは朝に弱いから…でもユキもこの時間に起きてるとは思わなかったわ」

「アリス、わたしは兄さんと暮らしてたんだよ?あまり遅く起きると寝起きを晒しちゃうから。

あまり兄さんにだらしないところは見せたくなかったし、早起きは習慣になってるの」

「…ユキがそういうところに気を遣うのはちょっと意外ね。異性の視線なんて気にしてるイメージが無かったわ」

「失礼だなー!たしかに男の視線なんて気にしてないのは事実だけど、それは兄さんって比較対象がいたからだよ。兄さんより素敵な相手なんて見つからないだろうから、兄さんと暮らしてた頃から早起きしてルックス整えるのが当たり前なの!習慣付けちゃえば苦じゃないし」

「ユキ、私が言うのもなんだけどいい加減そのブラコンはどうにかしなさいよ…先輩だから納得はできるけど、そんな大っぴらに言いふらすことじゃないわ」

「いいでしょ別に、夢子も理解してるじゃん。兄さんのハードルは高過ぎるよ。わたしが独り身なのは100%兄さんのせいだし」

「ブラコンでここまでノロケられるとは思わなかったわ…」

 

朝から何を聞かされてるのかしらね私は。ユキといい上海といいルナサといいカナといい、豹はどれだけ女を引っかけてるんだか。割と本気で上海が心配になるわ。

 

「それにわたしが見本にならないと兄さんがそういうところを気にしなくなりそうだったし。神綺様が夢子を創造する切っ掛けになった事件のことは、アリスだけじゃなくて夢子にも話してなかったっけ?」

「え、その事件に何かあったの?先輩とユキでパンデモニウムへの奇襲を撃退したって話よね?」

「神綺様も教えてないんだ。気を使ってくれてたのかな?

あの奇襲自体は問題なくわたしと兄さんで対処できたんだけど、そもそも襲撃された直接の理由は神綺様とわたしたち兄妹の3人で魔界から独り立ちした姉さんの世界の応援に行ってた隙を突かれたからだったの。

その応援に行った世界で姉さんが罠に引っ掛かっちゃってさー、わたしと兄さんが孤立したタイミングで神綺様と姉さんがいる拠点に攻撃があったのよ。わたしは起きてたから問題なく合流したんだけど、兄さんは丁度一眠りしてたところだったみたいでね…

パンツ一丁に靴とマントだけ履いて敵部隊を強行突破して来ちゃったの。あまりに酷くて『もう少し遅れても大丈夫なんだから服着てから来てよ!!』ってツッコんだら神綺様と姉さんが笑い転げちゃって、しばらく二人をその格好の兄さんと並んでフォローするハメになっちゃってさ」

「…いや、急いでたのはわかるけど、靴はともかくなんでマント?まだマントは無い方がマシじゃないかしら」

「蒸し暑い世界だったからパンツ一丁で寝てたんだけど、マントの裏地に空間魔法の術式を刻んであったから奪われるのを避けたかったんだって。そのせいで余計変態チックな格好になっちゃってさ、オマケに兄さんは一刻も早く辿り着くための最適解と確信してたからまったく気にしてなかったし…なにしろ同じ状況に陥ったら次もやらかしそうで」

「ああ…先輩なら効率優先で繰り返すでしょうね。それを避けるためにユキが身だしなみに気を使うことで先輩にも自覚を促したと」

「そういうこと。わたしがしっかりすれば兄さんはそれに合わせてくれるからね。

今となっては数少ない兄さんの黒歴史じゃないかな」

 

そんな黒歴史を軽い感じで話しているけれど、ユキが豹のことを心の底から求めているのがよくわかる…穏やかな表情で話しているわね。

 

「いや、ユキってここまで兄系ブラコンだったのね…長女に見えないのも納得だわ」

「わたしは魔界では一番年上の姉なんかじゃなくて、兄さんの妹だもん。長女だなんて思ってないし、アリスからそう見えるのは当たり前だよ」

 

何の迷いもなく【妹】だと言い切るユキ。思えば、私が魔界に居た頃からユキは姉らしく振舞うよりも対等な友人としての付き合い方をしていた気がするわ。

豹の妹であることに固執していたってわけね。

 

 

「アリスも兄さんと直接話せば理解できると思うよ。兄さんは妹と認めた相手には本当に力を尽くしてくれるから。

逆に、敵と判断した相手には容赦ないけどね」

「豹のことを聞けば聞くほど、鉢合わせなくて運が良かったと思えるわね…豹が私を迎撃するって選択を取ってたら、凄まじく面倒なことになってる気がするわ」

「そうね…そこは先輩の判断に感謝しないと。アリスと先輩が対立なんてしたら私もユキも頭を抱えたと思うわ。神綺様なら膝から崩れ落ちたでしょうね」

「だねー。神綺様が子離れできないのも、兄さんが何も言わずに姿を消しちゃったのがかなり影響してるだろうし…兄さんは精神面でもみんなを支えてくれてたんだよね」

「そこまでなの?――いえ、八雲紫ですら手放すのが惜しいってのが真実ならそれだけの男でもおかしくないのか」

 

正直言って魔界・幻想郷双方の大物から得ている評価が高過ぎるから、予備知識のない相手に豹の存在を教えても実在を信じてもらえないレベル。攻撃魔法が苦手だと聞いているけど、そこを差し引いても優秀だということなのでしょう。

 

「さ、とりあえずは朝食を済ませてしまいましょう。食材は勝手に使わせてもらったから、出る前に確認しておいて頂戴。流石に私とユキが食材の買い出しに付き合うのは危険だから」

「ありがとう夢子。ただ、母さんが来ることも考えると食材の買い出しは必要か…

それこそ母さんと合流してから4人で行くのがいいかもね。私たち4人相手に喧嘩を売って来るのはそういないでしょうし」

「そうなる前に兄さんを捕まえるのが理想だけどねー。まず無理だろうけど。

それじゃ、いただきまーす」

 

食事を終えたら、しっかり準備を整えないとね。私一人で霊夢と八雲紫を足止めするような事態になる可能性すらあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上海ちゃん、朝だよ~」

「―――!

おはようございます、カナさん」

 

うん、ちゃんと上海ちゃんを起こせたね!アリスから最低限の扱い方…人形遣いとしての魔力の使い方を教わったけど、上手くできたみたい。今日からしばらくはわたしが上海ちゃんのフォローをしなくちゃいけないから、こんなところで躓くわけにはいかないし。

 

「わたしはもう準備出来てるから、上海ちゃんの用意ができたら教えてね!」

「えっ!?私そんなに長く待機状態でしたか!?」

「ちがうちがう、わたしが準備出来るまで起こさなかっただけだよ。アリスほどうまくフォロー出来ないから、少しでも魔力を節約してもらいたいからね」

「そこまで気を使わなくて大丈夫なのですが…ありがとうございます。手早く済ませてしまいますね」

 

そう言ってキビキビと動き出す上海ちゃん。う~ん…本当に人形だなんて思えないなあ。妹紅さんが言ってたけど、礼儀正しい妖精ってのがしっくりくる。それも礼儀正しいだけじゃなくて実力も兼ね備えてるような。

それじゃ、上海ちゃんが用意できるまでにわたしは今日の予定を確認しておかないとね。

 

(まずは椛さんとリリーに状況を説明しに行くんだけど、よく考えるとこれ雛さんに話を聞きに行くメルランとリリカとは妖怪の山まで一緒に行く方がいい気がするんだよね。椛さんより先に別の天狗に見つかっちゃうと、私はともかく上海ちゃんは天狗の記事にされちゃいかねない。そのリスクを避けるためにも、侵入は多人数でする方がたぶんいい。

そうなると昨日のうちにメルランとリリカとは待ち合わせしとくべきだったな~)

 

昨日寝る前に上海ちゃんからいろいろわたしの知らない幻想郷のことを教えてもらったんだけど、やっぱりわたしは世間知らずが過ぎるわ。上海ちゃんの知ってるだけでも昨日だけじゃ覚えきれそうにないぐらい、交友関係や幻想郷の地理なんかを教えてもらった。

 

(わたしがあの古代遺跡以外に直接訪ねたことのある場所って本当に少ないからなあ…アリスたちと過ごすようになってから行った場所を除くと紅魔館ぐらいなのよね)

 

ここ幻想郷に建ってる数少ない洋館だから、わたしが生まれたお屋敷がどうなっちゃったのか聞きに行ったことがあるんだよね。門番さんが居眠りしてたからそのまま中に入ろうとしたら、急にメイドさんが目の前に出てきてすっごくビックリした。

 

(でも豹が異変のたびに関係者が出てる吸血鬼さんと関わりがあるとは思えないんだよね~。それにあの時は門番さんへのお仕置きがあるからって見逃してくれたけど、あのメイドさんに狙われると逃げ切れる気がしないからはっきりした理由がない限り行かない方がいいだろうし)

 

上海ちゃんから聞いた話だと、十六夜咲夜っていうあのメイドさんは【時間を操る程度の能力】を持ってるみたい。あの時下手に中に入ってから見つかってたら、わたしもお屋敷と同じようになくなっちゃてたかもしれないのよね…今思えばすっごく危ない橋渡ってたんだねわたし。

 

「お待たせしましたカナさん!もう出発できます」

 

――と、ここまで整理したところで上海ちゃんが戻って来た。こうなったら考えるより行動した方が早いよね!

 

「うん!それじゃさっそく出かけよっか!

とりあえず、昨日のうちに決めとくべきだったけどメルランとリリカと合流しよ?椛さんに妖怪の山へ侵入するの手伝ってもらえるだろうし」

「あ!そういえばそうですね…

カナさん、連絡用の露西亜人形(マトリョーシカ)ならまだ間に合うのではないでしょうか」

「あ、それがあったね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『朝からごめんね~、メルランかリリカ聞こえてる?』

「…まだリリカは寝てるわ。カナ、どうしたの?」

 

私は香霖堂に寄る必要があるから、家事を済ませてから出るつもりだったのだけれど。早く出た方がいいはずのメルランとリリカより先に目が覚めてしまったわ。二人が起きてこないと洗濯が始められない。掃除を進める途中でアリスの人形にカナからの通信が入った。

 

『あ、ルナサ?メルランは起きてるなら、替わってもらえる?』

「聞こえてるわ~、どうしたの?」

『メルラン、昨日の夜になって気付いたんだけど、上海ちゃんが天狗に見つかると面倒なことになっちゃうと思うの!だから妖怪の山までは一緒に行けないかな?』

『カナ、気付いてくれてありがとう。私も完全にそれ忘れてたわ…

メルラン、私からもお願いしていい?少なくとも椛と合流出来るまでは上海に目を付けられるのは避けたいわ』

「あ、アリスも聞こえてたのね。姉さんが言った通りリリカがまだグースカ寝てるから、うちまで来てもらうのがいいんじゃないかしら~」

『わかった!それじゃ今から向かうね!』

 

カナと上海はもう準備出来てるのね。アリスたちは目的地を考えれば入念に準備が必要だから、起きてないとおかしい時間。要するに…

 

「それじゃ、リリカは叩き起こしておくわ」

『ごめんねルナサ、お願い!』

 

問答無用で起こす理由が出来たわ。さっさとベッドから引き摺り下ろしましょう。

 

「その人形、本当に便利ね~。今日は姉さんが持って行って!

 単独行動するんだから、危なくなったらすぐ助けを呼んでよ!」

「…わかってる、不相応な舞台なんだから」

 

…ちょっとマズいかもしれない。迷いを見せたらメルランにはすぐ感付かれるし、私が持たないのは不自然だから肯定を返しちゃったけれど…

 

(これ、アリスが魔力を通せば音だけ拾えるわよね?

 麟と会う前に対処を考えないと…!)

 

アリスと決別した途端に、さっそく問題が発生してるわ…!どうにかして、切り抜けなきゃならないわね!




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