寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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108話の脱字を修正してます。

またも増える独自設定。


第113話 その名の意味

準備を終えて博麗神社に向かおうとしたところで、私たちを呼び止める声がした。

 

「あ、丁度よかったみたいですね。アリス、ちょっと時間もらっていい?」

「あら、成美に…この時期に妖精が出てくるのは珍しいわね。ラルバ、だったかしら?」

「私はこれから冬眠するところで、別荘が近くにあるの。そしたら豹さんのことを聞かれたからついて来たんだ」

「えっ!?兄さんのこと知ってるの!?」

 

ユキが即座に反応したけど、今日は幸先がいいわね!こちらから向かう予定の無かった相手の方から、豹のことを話しに来てくれるなんて。

 

「会ったことがあるのは一回だけなんだけど、なんだか不思議なこと言ってたから忘れられなくてね。

 『再び神になれそうな気分になったら、リリーに案内を頼んで俺のところに来てくれ』

って言われたの。よくわからないけど、初めて会った私にリリーが使ってる短距離テレポートを使えるように教えてくれたいい人だったわ。

―――でも私リリーのお家知らないの!だから豹さんを知ってるならどこに行けば会えるのか教えてほしいわ!」

「…成程ね。流石は先輩」

 

夢子が小声でなにか納得したようなことを口に出しているけれど、それから気を逸らせるかのように。

ユキが前面に出て相手をするよう言葉を返したわ。

 

「ごめんね、ラルバちゃん。兄さんは今お家を離れちゃってるんだ。帰って来てくれたらラルバちゃんのところにも行ってもらうから、しばらく待っててもらえるかな?」

「あ、そうなんだ。それなら冬眠が終わるころにリリーに聞くから大丈夫よ。

たぶん、春には豹さんも帰って来てますよね?」

「そうね。それこそ冬に妖精が活動するのも大変でしょう?急ぎでないのであれば、春まで待つといいわ」

「わかりました!それじゃ豹さんによろしく!」

 

そう言ってラルバは地上に降りて行ったわ。リリーも知らないところで、別の妖精との繋がりがあったということ。

どうやら稗田阿求を脅迫しに出向いたというのは本気だったようね。私が予想していた以上に豹は妖精に対して好意的なようだわ。

 

「昨日霖之助さんのところで少し話を聞いた後で偶然ラルバに会って話をしてみたら、大当たりで私もびっくりしたんです。

カナとメルランとリリカから、昨日のことは聞いてます?」

「ええ、必要なら私からも口止めしておいてと言われてるけれど…どうやら事情を聞きたいようね」

「軽く話を聞いただけでもとんでもない大事みたいですしね。深入りする気は無いですけど、魔法使いの端くれとして魔界に興味はありますし」

「…アリス、いいんじゃないかな。あいつらほど好戦的じゃないみたいだし」

「それに、あのラルバって妖精のことはちょっと聞いておきたいわ」

「えっ?ラルバのこと聞かれても困るんですけど…というか、貴方達は?」

「アリスの姉の一人のユキだよ。成美ちゃんでいいのかな?」

「同じく、アリスの姉の夢子。知っている限りのことでいいから教えてくれないかしら」

「…ま、そういうわけよ。昨日カナたちに手伝ってもらったのが姉の独断専行を止めることだったのよ」

「…もしかして、ユキさんと夢子さんは魔界人なんですか?」

「そういうことよ」

 

 

 

「これは…私が下手に関わらない方が良さそうですね。ちょっとスケールが大きすぎますし、その豹ってのに敵視されると物凄く大変そうですし」

「私と魔理沙共通の知り合いという点で見ると、豹からすれば接触を避けるだろうから大丈夫だとは思うけど。成美の方から避けてもらえる方が私たちとしては助かるわね」

 

軽く成美にも状況を説明することにしたわ。昨日の時点で私がそれなりの人数で動いていることを知られてる以上、味方に付けずとも敵に回られるのは避けたい。霊夢はともかく、魔法の森に住む魔理沙とは顔を合わせることもあるでしょうしね。

 

「わたしたちも幻想郷と戦争なんてしたくないからね。もし成美ちゃんもそう考えてくれるなら、話した4人がわたしたちを狙いそうなときに足止めだけでもしてくれると嬉しいな」

「はい、もし私が間に合いそうならそれぐらいはやります。私は今の幻想郷が気に入ってますから」

「助かるわ」

 

口止めだけでなく協力もしてくれるようね。ま、夢子から詳しく事情を聴けば魔界を敵に回したルール無用な戦争なんて、如何に幻想郷が不利なのか理解できるでしょうし。

 

「――それで、夢子はラルバの何が気になったのよ?」

「あ、そうだった。何か気付いたみたいだからわたしが対応しといたけど、どうしたの?」

「…確証は無いのだけれど、ね。先輩があんなことを伝えているのなら、警戒するに越したことはないわ。

ラルバ…あの子、ただの妖精じゃない。おそらく、古い神が零落して妖精に収まっている存在よ」

「「「はあっ!?」」」

 

夢子がとんでもないことを言い放った。どういうことなのよ!?

 

「予測でしかないけれど、説明はしてあげる…その前に成美。知っている限りのことでいいから、あの妖精のことを教えてくれる?」

「え、えーっと…たしか正確にはエタニティラルバって名前だったかな?太陽の畑を根城にしてるアゲハ蝶の妖精で、鱗粉をまき散らす程度の能力を持ってるってことぐらいしか知らないんですけど」

「…こんな偶然なんてあるものかしら?

常世の怨霊(エタニティーラルヴァ)―――誰が名付けたのか知らないけれど、常世の国…すなわち月の都。この名前、言葉としては月の都の怨霊という意味も持つわ」

「月の都!?まさか、兄さんはそこまで見抜いて!?」

 

夢子に言われて、私も気付いた。西洋の言葉を東洋に訳するだけであれば、永遠の幼生(エタニティラルバ)

でも、ユキと豹の過去を踏まえてその名前を考えれば、夢子の見出した意味の方が重い…!

 

「潜伏中の先輩が、自分から関わろうとする…それも精神が成長しない妖精相手に。昨日話を聞いたリリーホワイトという例もあるけれど、月の連中は壊滅させるべきと考えていた先輩が直々に『俺のところに来てくれ』なんて言ったのであれば」

「あんなに優しいサリエル様を実験体扱いするようなふざけた奴ら。サリエル様以外の神々が月から追放されていても、何もおかしくない…!

そして、兄さんはそれに気付いていつかの戦力になるかもしれないと考えた。反逆者となっても、月への敵愾心が変わることはなかった…辻褄が合う!」

「ちょ、ちょっとちょっと!?私とんでもないこと聞いちゃってないですか!?聞かなかったことにしても!?」

 

あ、成美が本気で動揺してるわ…たしかにこれに巻き込むのはかわいそうね。

 

「そうね、そうした方がいいと思うわ。夢子もユキもここでこれ以上は止めておいて」

「あ、ごめんね成美ちゃん。わたしたちと月のことには巻き込まないから安心していいよ」

「今のことで月が成美を敵と判断した場合は魔界を頼りなさい。私たちで責任を持って保護するわ」

「怖いこと言わないで下さい!?アリス、本当に大丈夫なの!?」

「ええ、魔界が成美に危害を加えることは幻想郷と全面戦争にならない限りはゼロよ。

 だから、月絡みのことは忘れなさい…そもそも私も詳しく教えてもらっていないのだから」

「そうします…それじゃ、私はこれで帰ります。怖くなったので」

「ええ、貴重な情報をありがとう成美」

「うん、ありがとう!」

 

夢子とユキは笑顔で挨拶してるけれど、成美は引き攣った表情で帰って行ったわ。まあ、仕方ないわよね。

 

「気にはなるけれど、先輩を魔界に連れ帰ることにラルバを関わらせる意味は薄い。

今は放置しておきましょう。冬の間は大人しくしてくれるようだしね」

「そうだね。兄さんの居場所は知らなかったし…力を貸してもらうにしても、それは今じゃない」

「わかったわ、成美を協力的に出来ただけでも良しとしましょう」

 

そのまま3人で博麗神社へ飛び立った。

…この時、成美にもう少し上手く話を付けておけば。ある程度は穏便に事態を進められたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ルナサを残して妖怪の山に向かう。椛さんなら察してわたしたちのところに任務として真っ先に向かってくれる。そう考えてて、期待通りに動いてくれたんだけど。

 

「みなさん、おはようございます」

「おはようなのですよー」

「あれ、リリー?なんでここに?」

 

期待以上の動きをしてくれたみたい!哨戒任務の巡回ルートに入るあたりで、椛さんがリリーを連れてきてくれた!

 

「みなさんがリリーのお家まで来るのは大変だと思ったので、椛さんと一緒に居てもらうことにしたのですよー」

「同僚が気を使ってくれまして、昨日同様に午前中は融通が利きます。それに、メルランさんとリリカさんもいらっしゃったということは…何かあったということですよね?」

「そうなのよ~。でもリリーがここまで出向いてくれたのなら、カナと上海も雛の話を聞いていく方がいいんじゃないかしら~」

 

メルランがそう提案するけど、言うとおりね。それこそ椛さんとリリーも雛さんから話を聞いてもらえれば情報交換に費やす時間が少なくなるわ。

 

「そうだね、エリーとくるみは夢幻館からあまり動かないみたいだし、みんなで聞きに行こう!」

「雛さんですか?少々お待ち下さい…

あ、その前に厄除けの人形は今日もお持ちですか?私とリリーが増えてしまいますが」

「いや、元々はカナと上海でリリーのところに、私とメル姉で雛のところに行くつもりだったからアリスが急ごしらえで作ってくれたカード一枚しか持ってないのよ。だから手早く話を終わらせるしかないかなー」

「今日は予定が詰まってしまっていますので…時間にあまり余裕が無いのです。

状況によっては、雛さんに詳しくお話しするために明日もう一度足を延ばす必要があるかもしれません」

「そうですか…明日も私がみなさんをお迎えするのが良さそうですね。

―――どうやら今日は雛さんはまだ家にいらっしゃるようですね。このまま向かいましょう…

私も飯綱丸様に睨まれてしまいまして、みなさんにお伝えしなければならないことがあります。雛さんの家に向かう間に、話させてもらいますね。付いてきてください」

「わかった、それじゃ大人数だけど、行きましょ!」

 

今日はみんな時間との勝負。だから少しでも早くやるべきことを終わらせないと!

だからこそリリーから合流してくれたのは本当に助かったわ。雛さんからの情報を、豹を幻想郷に残したいみんなのうちルナサ以外は知れるんだから。

アリスたちに教える前に、ね。

 

(ごめんねアリス、ユキ、夢子。伏せたいところは伏せさせてもらうから)

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ルナサが上手くやってくれたようだな。ユキたち3人とルナサ単独、それ以外の面子全員の3手に分かれて動いてる」

「そうですか…!それなら、ルナサさんが来るまで大人しく待つだけで大丈夫ですね!」

 

背中に抱き付いたまま麟が嬉しそうな声を上げる。忘却の呪いに纏わりつかれて以来…久々に出会えた新しい友なのだ。まだ幼い少女なのだから、孤独から離れられる時間に期待してしまうのは当然である。

 

(状況次第では俺が迎えに行く必要もあると考えていたが、このままならルナサとの合流は問題なさそうだな。

となると、集中して魔力反応を拾っておくべきは…)

 

状況を理解してくれている麟は、俺に抱き付いて離れようとはしないものの索敵魔法の集中を乱すようなことはしないでいてくれている。背中に感じる柔らかい感触は役得だと思わせてもらおう…全く反応しない方が失礼だしな。

 

「当面の問題は、魅魔と合流しようとしている明羅と里香だな…純粋に魅魔の手駒が増えるのは厄介だ。

明羅と里香が動くことで魅魔と魔理沙が大人しくしてくれるならいいんだが」

「どちらも理由があれば動いてしまうでしょうね…霊夢の方はどうなんでしょう?」

「ユキたちが博麗神社に向かってる以上、紫さんが上手くやってくれるはずだ。魔界と幻想郷の戦争を誰よりも避けたいのが紫さんなんだからな」

 

これに関しては信頼できる。幻想郷と当代の巫女を最優先に動く紫さんなら、合流した魔界人と直接話せる機会は上手く利用してくれるだろう。

 

「神綺様が来る前に、一度夢幻館と連絡を取りたいが…どうしようもなければ直接俺がエリーかくるみに通信するしかないか」

「何か通信できる手段を渡していたんですね。私にももらえませんか?」

「そのつもりだった。これだ…俺からの声が伝わるだけで会話は出来ないが、間違いなく役に立つだろう。

雛・エリー・くるみ…そして麟で最後の一つだ。ただし問題として一方通行だから誰か一人だけに伝えることが出来ない。難しいかもしれないが、仲良くしてくれ」

「その心配はいりません。豹さんを逃がさないための仲間であれば、私は誰とでも仲良くなれますよ」

「そうか、ありがとな」

 

イヤリングを麟に渡す。どこかのタイミングで、渡した4人で顔を合わせてもらえるといいんだが…

出来れば、神綺様が来る前に。

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