寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第114話 支配者の懊悩

パンデモニウムを訪れるのも久しぶりだな…ヒョウの去った魔界が落ち着くほど、悪魔の故郷である魔界に天使が居座ることを不満に思う者が増えていった。それは魔界全体にとって良いことだからこそ、私からここに足を運ぶことを控えることにしている。神綺は残念がっていたが、不満から起きた痛恨事の結末を思い返し…リスクを避けるべきと理解してからは神綺から私を訪ねてくることが基本になっている。

 

「あれ、サリエル様!?もしかしてヒョウさんのことで何かありましたか!?」

「サラか、久しいな…ここにいるのであれば好都合だ。神綺のところまで案内してくれ」

「あ、はい!こちらへどうぞ!」

 

 

 

 

 

 

「サリエルから来てくれるなんて思わなかったわ~。ここまで来てくれたってことは、思ってたより事態は早く動いてるのね?」

「ああ、夢幻姉妹とリィス…厳密に言えば幻想郷の住人ではない者が私の元へヒョウの生存を報せに来たのだ。

私もただ待つわけにはいかないのだろう。それならば、先に魔界の問題は片付けておかなければならないからな」

「気を遣わせて悪いわね~…ごめん、サラちゃんとルビーちゃんでマイちゃんとルイズちゃんも呼んできてくれないかな?流石にサリエルまで魔界を離れるとなると、手回ししなくちゃならないから」

「「わかりました」」

 

言葉を揃えてサラとルビーが神綺の執務室を出ていく。この僅かな時間で最低限は済ませなくてはな。

 

「まず、前提条件を話さなくてはならん。ヒョウはやはり魔界に帰ることを選べないそうだ…己の罪を赦すことが出来ていない」

「うう、やっぱりか~…もうみんな赦してるのに。

 でも、ヒョウくんだからこそ赦せないのよね…」

「だが、逃亡先の選択肢に私が入っている…夢幻姉妹が伝えてくれたのがこの件だ」

「――っ!?それじゃ、魔界に戻ること自体を嫌がってるわけじゃないのね!」

「それは当然だろう。ヒョウだけでなく、ヒョウを担いだ協力者たちも魔界を嫌っていたわけでは無かったのは確認が取れている。説得さえ出来れば、帰って来てくれるさ」

「よかった…それなら私たち全員で泣き落としすればいいわね!」

「…神綺、私から言うのもなんだがもう少し魔界神としての威厳を気にした方がいい」

 

神綺と私にユキはともかく、マイとエリスに幽玄魔眼は断固拒否するだろうそれは。

 

「ヒョウくんが帰って来てくれるのに邪魔になるなら、威厳なんていらないわよ!」

「それは同意できるが、魔界全体のことも考えろ。今となってはヒョウの存在を知らぬ魔界人の方が多数派なんだ。下手に騒がせてまたヒョウに負担をかける気か?」

「うぅ、そうだった~。早く隠居したい…」

「支配する側の苦労は私も理解しているし、それから逃げた私が言うことではないが。

 せめて後継者を決めてからにしろ。私はそこだけはハッキリさせた上で逃げたからな。

 …もっとも、月は無事でも私の部下に酷いことをしてしまったが」

 

リィスから私が逃げた後の月のことは聞いている。リィスは神綺の狙撃直前に目を覚ましたため混乱に乗じて脱出したそうなのだが、魔界へ堕天するまでの逃亡生活の協力者からは月に留まることをずっと頼まれていたそうだ。

私を敗走させながらも総司令官が戦死したことによりその周囲は更迭され、八意永琳をトップとする命令系統に変わったことで囚われていた他の天使も丁重に扱われた…武力行使に踏み切る前に粛正しておけと言いたかったが、どのような内情があったのかまでは知らない以上負け惜しみにしかならない。だが、リィスは出頭すれば月で平穏な日々を送れる程度には私の去った月は安定していたということ。

 

つまり、私を追放しても月の支配は上手くいくだけの統治能力は後を押し付けた奴らにもあったということだ。

 

「私なんてお飾りのトップなんだし、夢子ちゃんとマイちゃんがいれば魔界は上手くいくのに…」

「その二人の負担を考えてないだろう。それに神綺はいとも簡単に部下をフォローしているが、神綺以外にそれが出来る者などいない…誰よりも魔界人のことを考えている神綺だからこそ的確に動けているのだ。今の状態で神綺が抜ければ、緊急事態への対応が上手くいかなくなるぞ」

「それはわかってるけどね…でもそれこそ経験を重ねることで培われる能力だし、私が対応し続けるのもどうかと思ってるのよ」

 

…そこまで考えが及んでいる時点で、お飾りのトップなんて言えないのだがな。

 

「その通りだが、今は時間が惜しい。ヒョウのことに話を戻すぞ。

リィスが私の元に戻った理由は『友を救うために引き渡したヒョウの助命嘆願をしてほしい』だ」

「ふえ?そんなことされなくてもヒョウくんを処刑なんてしないわ。ヒョウくんがいくら望んでもね」

「ああ、それは私からもすでに伝えた。だが、これを私に依頼してきた相手が問題だ。

―――リィスにこれを依頼させてきたのは、久遠の悪霊・魅魔だ」

「ッ!?そういうこと…リィスちゃんは魔理沙ちゃんを助けたいってことね?」

「これでそこまで理解してくれるのは助かる。どうやらヒョウは幻想郷でも重要な位置にいたらしい…ヒョウが魔界と幻想郷を全面戦争へ踏み切らせる口実にされた場合は、霧雨魔理沙とやらをこちらに生贄として差し出すと勧告されたそうだ」

「そして私はそれを断る理由がない。アリスちゃんは反対しそうだけど、魔界の状況を説明すれば引いてくれるだろうし。

なにより、ヒョウくんのことを関係無しにしてもその条件は悪くないもんね」

「ああ、そこまではリィスに伝えてある。だが…私はこれ以上リィスに不幸を与えたくない。

 ゆえに、ヒョウとリィスを同時に救うため―――動くことにした」

 

ここまでが前提だ。そして神綺も、ヒョウのことであれば待ってなんていられないだろう…私と違い、私に話を通しに来た時点で動くことを決めていたのだから。

 

「わかった、私はたぶん明日には幻想郷に向かえる。サリエルも先行してくれるのね?」

「いや、何度か幻想郷に顔を出している神綺と違い、このタイミングで私が幻想郷を訪れては私とヒョウにも繋がりがあると断定されてしまうだろう。ゆえにしばらくは夢幻世界か幻夢界に私は留まり、神綺がユキたちと合流した後で私も幻想郷に入る…こうすれば私は神綺を連れ戻しに来たと誤認させられるかもしれん」

「…ごめん、気を遣わせちゃってるね」

「神綺がヒョウを送ってくれていなければ今の私は無い、気にするな…

頼みたいのは、ユキと夢子にリィスは味方だと伝えること。そして、エリスと幽玄魔眼がやり過ぎるようなら()()()()()魔界に追い返してもらいたい」

「そっか、エリスちゃんたちを巫女たちが攻撃するのも意味は同じだものね」

「それだけではないのだ…幽玄魔眼が先走ってヒョウを攻撃し、夢幻姉妹がそれを撃退したそうでな。

幻想郷内で鉢合わせてしまえば、夢幻姉妹がエリスと幽玄魔眼を手にかけてしまうだろう。ヒョウのことを嫌っているとはいえ、今の私を慕ってくれる稀少な部下だ。それは避けたい」

「えぇっ!?もしかして夢幻世界にヒョウくんがいたの!?」

「いや、潜伏先として選んだのは夢幻館…夢幻世界から幻想郷に繋がるゲートのある館だった。そこを襲撃されたせいでヒョウが離れてしまい、夢幻姉妹は私に責任を取らせようとしに来たのだ」

「…あれ?そこって半壊して幽香ちゃんが放棄したんじゃなかったっけ?」

「そうなのか?私はそこまで魔界の外には詳しくないからな…」

 

夢幻姉妹の話だと、まだ誰かしらが生活しているように聞こえたが…

まあ、今はそこを気にしている時間はない。

 

「そこは夢幻姉妹に聞いておこう。私はこれから夢幻姉妹に状況を説明しに出向き、リィスに手を出さないよう伝えなければならない…夢幻姉妹が幻想郷で動く前に。下手に魅魔の一派が動かないよう監視をリィスに頼んだからな」

「あ、それは急がないとね!―――っと、マイちゃんも来てくれたみたい」

 

…間に合ったか。サラとルビーはともかく、マイに余計な情報は与えたくなかったからな。

 

「呪いが効かないヒョウだからこそ、私の祈りが最悪な方向に作用してしまう…

堕天使の祈りであるがゆえに叶うことなく、ヒョウに呪いが効かないがゆえにヒョウの周囲に撒き散らされる祈り(呪い)

この呪いに抗えない者がヒョウの傍に留まってしまえば、ヒョウに近付く死をその身に集めてしまう。これから先、魅魔の一派や幻想郷の魔界人排斥派がヒョウと争ってしまえば…魔界と幻想郷の決裂は避けられなくなる結果になるだろう」

「わかってる。だからこそユキちゃんと夢子ちゃんは先行させたんだから。

私たちが守らなきゃいけないのは、魔界人だけじゃない。ヒョウくんを敵視する者も守らなきゃならない。

ヒョウくんを戦争の理由にさせないためには、少しでも早く迎えに行かないと!」

 

夢幻姉妹の目的と、神綺は相容れないのだろうが。

私が神綺を、ヒョウと再会させることは出来る。

それならば、神綺と仲違いする必要など無いのだ。最終的な想いは同じ…ヒョウと穏やかに過ごしたい。それだけなのだから。

 

「ああ、だから頼む。

 神綺、力を貸してくれ」

「もちろん!私からもお願い!

 サリエル、力を貸してちょうだい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼するわ」

「あれ、お客さん?めずらしーね」

「呪珠にまでそう言われるとはね…」

 

香霖堂に入ると、珍しく先客がいた。赤髪をリボンでポニーテールに結んだ見慣れない少女…周囲に白く長い布のようなものを纏わせている。

 

「だが、呪珠にとっては丁度良い相手じゃないかな。ルナサさんが来たのは昨日のことかい?」

「ええ、昨日はカナと妹が世話になったわ。それで一つ聞きそびれたらしいのだけれど、あなた、里香という少女のことも知っているかしら?」

「あれ、里香さんに何かご用ですか?」

「昨日はルナサさんの妹たちから明羅のことを聞かれたんだ。

――だから、呪珠とルナサさんで話した方が早いんじゃないかな?」

 

…成程ね、カナの口止めに従ってくれてるのか。下手に喋るぐらいならこの少女…ジュジュ?に丸投げする、と。

私としても都合がいいわ。この店主、霧雨魔理沙と親しく博麗の巫女も割と好意的に見ている相手。あまり余計なことを知られるのは危険。

 

「…そうね、ジュジュでいいのかしら?

あまり広めたくない話をしたいのだけれど、店の外でいい?」

「構わないですよー。それじゃ霖之助さん、さよーなら」

「ああ、出来ればお客さんが入り辛くなるような位置で話すのは遠慮してもらえるかい」

「あはは、どうせ来ないから大丈夫ですって!」

 

…割とひどいわね、この子。

 

 

 

「えーっと、ルナサさんですよね?プリズムリバー楽団の!」

「ええ、知ってもらえてるのは嬉しいわ。でも今は時間にあまり余裕がない…ファンサービスはまたの機会に」

「あーそこは気にしなくていいですよ!あたしもあまりゆっくりしてられないんで」

 

店の外に出て倉の入口で話すことにする。店の軒先だと店主の耳にも入る可能性があるから。

さあ、ここからは私の独り舞台。豹が幻想郷に留まれるように、踊りましょう。

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