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「お互い時間に追われているようね、なら単刀直入に聞くわ。
里香というのは、明羅と同じ魅魔の弟子なのかしら?」
「うーん…間違いではないけど。魅魔様の弟子を名乗ることはもうないんじゃないかなー。
化け化けを大量に創ったりできるからあたしなんかよりずっと上の魔法使いなんだけど、今は戦車技師として活動してるからさ」
私を敵視はしていないようね。特に迷いなく聞いていないことまで答えてくれている。
戦車技師…河童たちのような研究を行っているということかしら。豹は攻撃魔法が苦手ということだから、科学的な武器を求めて関わりを持ったということなのかもしれない。
「それで、その里香は何処にいるかわかる?」
「先にあたしからも質問していーかな?情報交換ってことで」
「あぁ、そうね。店主にも聞いていたようだけど、何を聞きたいのかしら?」
「ルナサさん、豹って魔界人のこと知りません?」
…驚きはない。昨日、夢子が明羅と里香が共に行動していたということを教えてくれていたから。つまり、このジュジュという少女は明羅と里香から豹のことを聞いていたということでしょう。
私が伏せるべきことは、八雲とも魔界ともつながりがあるということと、雛のところに豹が一度飛んだということ。
「私もその豹を探してるのよ。五日前に会ったきりでね…
明羅のところにいるって聞いたのだけれど?」
「昨日までは居たそうなんですけど、なんか魔界人が追ってきて逃げちゃったんですって。ルナサさんのところには行ってないってことですか」
「来てないわ。私にそれを聞くということは、里香も明羅も豹の行き先に心当たりは無いのね?」
「そうなんですよー。これはちょっとお手上げかなあ…」
私たちが余計なことを話さなければ、ジュジュと里香、明羅が豹に辿り着くことはなさそうか。
それなら、他に聞いておくべきことは…
「豹はライブを裏方として手伝ってくれているから、捜しているのだけど。
ジュジュは何故豹を探してるのかしら?」
ジュジュと明羅、里香はどういう立ち位置なのか。明羅と里香双方と面識があるということは、あの白黒魔法使いの関係者であるということ…彼女たちが豹をどう扱うつもりなのかを聞けるかもしれない。
「あー…すみません、それはちょっと伏せさせてもらっても?
無関係なルナサさんを巻き込むわけにはいかないので」
「……豹が関わっている以上、私が無関係とは言わせないわ。少なくとも、又聞きしてるだけのジュジュよりはずっと長い付き合いよ。
―――何を企んでいるの?素直に話さないのであれば実力行使させてもらうわ」
カナと出会って、騒霊としての脅し方を学べたわ。楽器を奏でること以外に使うことは少なかったのだけれど、今のような緊急時であれば私も弾幕ごっこではない【戦闘】を行う覚悟が要る。
そして、騒霊としての力が私たちよりずっと強いカナがどう戦おうとしていたか。それを模倣することで、私でも威嚇は出来る…!
「…えっ!?わかりました話しますのでその物騒なものを下ろしてくださいぃー!
魔理沙を助けるためなんです!」
店主が使っているであろうスコップやのこぎりといった、外の物置に入っていた凶器として使える工具を操ってジュジュに向ける。弾幕ごっこで済ませる気は無い…それが通じたようでジュジュは理由を素直に白状してくれたわ。
「助ける?どういう意味よ」
「え、えーっとですね。その豹って奴と魅魔様や魔理沙が戦闘になっちゃうと、幻想郷と魔界で戦争になっちゃうみたいなんです。そうなったら魔理沙を魔界に差し出すことで矛を収めさせるって幻想郷の管理者が言ってきて…そうさせないためには豹を魔界に返せばいい。そのために豹を探してるんです」
…どういうことかしら。八雲紫は豹を幻想郷に留めようとしているはず。となると、別の管理者が魅魔たちに伝えたということ?
これは豹か八雲紫、八雲藍あたりに聞いてみるべきね。
「…そう。次はジュジュの番。何を聞きたいの?」
「その、ルナサさんが豹を探してるのはやっぱり…?」
「ええ、私は豹を魔界に返す気は無いわ。だからジュジュたちに協力は出来ない。
本当に聞きたいことはそれでいいの?」
「う…その、豹を魔界に返しても、助命嘆願に協力してくれる当てがあるんです。なので、魔理沙のためにも豹を一度魔界に返すというのは…」
「悪いけれど、一度魔界に帰ってしまえば豹はそう簡単に幻想郷へ戻って来れなくなる。
私はそれを避けたいから、霧雨魔理沙を助けるために豹を差し出すのはお断りよ。
邪魔をするなら、手加減は出来ないわ」
「…そうですか。あたし一人じゃルナサさんにはかなわないですし、今は見逃してもらえるだけマシですね」
「そもそも、あなたたちが魔理沙たちを止めれば済む話でしょう?」
「あたしたちが止められる相手じゃないんですよー…魔理沙の強さはルナサさんも知ってますよね?魅魔様はその魔理沙の師匠なんです。それこそあの巫女あたりじゃないと止められないんですって」
「それだけ強いのなら、魔界から自力で脱出してもらいなさい。
悪いけれど、タイムアップよ。私から伝えられるのはこれだけだわ」
話の最中でも豹の探知魔法を切らずにいておいて正解だったわ。雷鼓ともう一人知らない魔力がプリズムリバー邸に向かってる…麟の家に向かう前に、雷鼓と話しておきましょう。
話を打ち切って、私は香霖堂を後にした。
「参ったなー…手掛かりを持ってそうだけど目的が真逆かあ…」
ルナサさんは最低限の情報だけあたしに落としたつもりだったんだろうけど、一つだけ見落としがあった。
―――明羅さんと里香さんが共に行動することは滅多にない。それなのに明羅さんと里香さんが一緒に居るような感じで話をしてきた。
つまり、ここ数日…里香さんが明羅さんのところに戦車を持ち出してから会ってる相手とルナサさんは繋がってるってこと。そして昨日ここに来ていたという妹二人とカナというのも同じ…少なくとも5人以上は豹を幻想郷に留まらせる方向で動いてるってことになる。
「しかたないかー。後は霖之助さんから話だけ聞いて魅魔様に任せちゃおっと」
魔理沙の身に危険があると伝えた上で脅せば、霖之助さんは昨日のことを全部喋ってくれるだろうしね。
成美とラルバの相手で予定より遅くなったけれど、博麗神社に向かう途中で私たちに絡んでくる相手はいなかったわ。状況次第で霊夢や八雲紫と本気で戦うことになる可能性もあるから、無駄な消耗を避けられたのは運が良かったわね。
「―――ここが、あの巫女の神社」
「そうよ、警戒は怠らないで。問答無用で先制攻撃される可能性もゼロじゃないから」
「ええ、連戦で消耗しきっていたとはいえ神綺様が不覚を取るような相手。油断なんて出来ない」
魔界の大惨事の時…私は市街地で魅魔に敗れ、その後でGrimoire of Aliceを持ち出したにもかかわらず靈夢にも勝てなかった。
ユキは氷雪世界で幽香にマイ諸共殺されかけてるし、夢子も一番乗りした魔理沙は撃退したものの続けて魅魔の襲撃を受けて敗北。そして母さんは私と夢子を抜いた魅魔を退け、続いて一般人に多大な被害を与えていた幽香を追い返したのだけれど…この二人と本気でやり合った直後に靈夢も突っ込んできて力尽きたわ。
結局魔界は甚大な被害を受けた挙句幻想郷側の要求を呑むことになり、魔界人は幻想郷に悪感情を持つことになった。最終的に私たちは撃退し損ねているのだけれど…主に幽香が一般人を大量虐殺していたせいでむしろ母さんが人的被害を食い止めたという結果になり、魔界の支配体制に対する不満はほとんど出なかったのは幸運だったとしか言えないわ。
…要するに、私たちは皆あの時痛い目に遭っている。だからこそ臨戦態勢で博麗神社境内に降り立った。
「おはようございますアリスさん!」
「ええ、おはようあうん。霊夢はまだいるかしら?」
3日前と同様にあうんが駆け寄って来たわ。はっきり言って、参拝客の少ないこの神社にはもったいないぐらい真面目に守護神獣やってるわね。
「はい、まだいらっしゃいますよ!それで…後ろのお二方は?」
「アリスの姉の一人のユキだよ」
「同じくアリスの姉の一人、夢子よ」
「お姉さん、ですか?アリスさんはたしか魔界から…
って、えぇっ!?」
「…?どうしたのよ」
ユキと夢子が姉と名乗ったら、あうんが目に見えて動揺したわ。
…ああ、これはつまり。
「安心しなさい、魔界と幻想郷で戦争なんてする気はないわ…だからこそユキと夢子も連れてここに来たのよ」
「あ、そういうこと。ということはあうんちゃんもそれなりの立場なのかな?」
「いえいえ!?私はただ…」
「ただ、何なのよ?アリスだけじゃなくあうんも何か企んでるわけ?」
「れ、霊夢さん!?そんなことないです!」
どうやらあうんもそれなりの事情を聞いているようね。そしてそれは霊夢から聞いたわけじゃない、と。
「霊夢、少し時間を頂戴。下手に動かれた方が面倒になる状況になってるわ」
「アリスからこっちに来てくれて手間が省けたわ。何をコソコソやってたのか、洗いざらい話してもらうわよ」
「その話、私にも聞かせてもらいましょうか」
「「はあ?」」
背後から急に割って入られて霊夢と声が揃ってしまった。なんであんたがここにいるのよ!?
「なんで地獄の閻魔がウチに来てんのよ?お説教はお呼びじゃないわ」
「己の行動の結果に対して、責任を取るどころか顧みることすらしませんか。
貴方は自分が動いたことによる結果を、もっと真摯に受け止めるべきです。
そう、貴方は周囲への配慮が足りなさ過ぎる」
「映姫、私は話を聞かせても構わないから霊夢への説教は後にしてもらえる?時間が惜しいのよ」
四季映姫・ヤマザナドゥ。幻想郷の最高裁判長を務める閻魔なのだけれど、彼女の仕事場は地獄。こんな朝から地上に出てくること自体が稀。なぜここに………
―――そういえば、心当たりはある!庭渡久侘歌!!
「というかアンタらは誰よ?幻想郷であまり見ない格好の割に見覚えが無いわ」
「アリスの姉の魔界人よ、聞こえてなかったの」
「はぁ…話に聞いてはいたけれど、これは説明に時間がかかりそうね」
ユキと夢子はすでにげんなりしている。まあ、霊夢とまともに話し合いしようなんて誰だって疲れるわよね。【まずは実力行使】が基本の脳筋思考だから、自分が関わらない会話なんて聞いてないことも多いし。
…だけど、今日に限ってはこんな霊夢に対してのフォローによる無駄な時間の浪費がプラスに働いて。
私たちにとっての本命が、この場に出向いてきた。
「閻魔様までいらしたのであれば丁度いいわ。あうん、華扇から何か貰っているでしょう?
ここに呼び出してもらえる?直接会談に参加させる方が説明が楽だわ」
「――っ!?紫、いつの間にいたのよ!?」
霊夢が出てきた神社の奥から、スキマ妖怪がその姿を現す。
「…八雲紫。最初から私も巻き込むつもりでしたか」
「まさか…私が閻魔様を私的に利用するとでも?
今この時貴方がここにいらっしゃらなければ、霊夢とアリスにそちらの魔界人だけで済ませるつもりでしたわ」
「この会談、神綺様がいらっしゃるまでお待ちいただくわけには?」
「私もそのつもりだったのだけれど、夢子が出向いてくれたのなら代理として十分だわ。神綺ではなく貴方が幻想郷に出向いているという時点で、魔界にとっての最重要機密だということが理解できるもの。
魔界の管理者としては、神綺より夢子…貴方の方が重要な位置にいるでしょう?」
「…話は聞いてたけど、妖怪の賢者を名乗るだけあるんだね。魔界のことをそこまで把握してるなんて思わなかった」
初対面のユキが素直に感心してるわね。ま、これだけクセの強い妖怪や神々が集まる幻想郷なのだから、管理する側は諜報能力に長けていて当然。
だからこそ母さんが来たら即座に接触しに来る予定ではいた。それを私と夢子・ユキだけで引き摺り出せたのであれば強気に交渉に出られそうね。母さんが後詰に控えてる以上、多少の無茶は通るのだから。
「紫様、華扇様をお呼びしましたぞ。ほどなくこちらにいらっしゃるかと」
「あら、玄も動いてくれてたの。助かるわ」
「あーもうなんなの!?勝手に話を進めるんじゃないわよあんたらは!」
話についていけていない霊夢がキレそうね。ま、これだけ戦力がいれば流石の霊夢も下手に動けない。むしろ会談が主目的な私たちにとっては好都合。
(予想外に大物が入り込んできたけれど、四季映姫と茨華仙ならまだ話が通じる相手。むしろ霊夢を大人しくさせる方向では幸運。今日は本当に運が向いているわ…!)
出来れば母さんもいる状況で相手取りたかったけれど、間に合わなかった以上私たちだけで上手く進めなければならない。あまり交渉事は得意じゃないけれど、やるしかないわね。