…続けてミスしてますね、気を付けないと。
「―――ということになってしまいまして、私も覚悟を決めました。飯綱丸様に止められるまでは力を尽くします」
「うん、それだけでも助かる!そもそも今この辺りを妨害なく移動出来てるのは椛さんのおかげだしね」
雛さんの家に向かう道すがらに椛さんから伝えられたのは、烏天狗のトップが椛さんに釘を刺してきたってことだったわ。要するに妖怪の山を椛さんの先導で飛び回ることぐらいは黙認してくれるけど、山の外でのいざこざに椛さんを巻き込むのはダメってこと。
そして椛さんはこれで逆に覚悟ができて、ギリギリまでは一緒に豹を探してくれるってこと。
そしてわたしたちにとっての基準も一つできた。椛さんにストップが掛かった時が『アリスたちと完全に決裂しちゃうタイミング』だってことになるわ。
「それでは降りましょう。私と雛さんは皆様が動いている間に接触するのが容易ですので、そちらのお話を優先してください」
「あ、助かるわ~。今日はちょっと長話というわけにもいかないものね~」
―――来たわね。カナと椛に上海・メルラン。残りの二人は知らない魔力だけれど…早速私の予想が外れている点があるわ。
(…ユキが来ていない?それにアリスもね)
昨日の豹の話を考えると、ユキは少なくともカナとは接触したはず。それなのにカナだけここに来たということは…
(決裂したのかしら?でも上海は来ている…直接聞く方が早そうね)
ここからは、私も深く関わることになる。そのために、まず判断しなければならないのは。
「豹が魔界に帰ることを阻止する気があるか…ね」
私と豹の味方になってくれる相手であれば、長々と話すわけにはいかない…厄を移してしまうから。
だからこそ、すぐにでもこれは判別しなければならないわ。
(さあ、ここからは私も傍観者ではいられない。
関係者として、腹を括らないとね)
家の扉を開いて、来客に対応しましょう。
「待っていたわ。厄除けは持っているかしら?」
「あ、雛さんおはよう!時間が無くて、これだけなのよ!
だから手早く終わらせましょ!豹を魔界に返さないために!」
ドアをノックする前に雛さんから出てきてくれたわ!だからまず伝えるべきことを言葉にした。豹を魔界に返すわけにはいかない…これだけで雛さんが理解してくれると助かるんだけど…!
「…ユキとアリスとは決裂したということ?」
「うん、わたしは豹を幻想郷に引き留めなきゃならない。そして、上海も含めてここのみんながそう思ってる!雛さんもそうでしょ!?」
「……上海、覚悟は出来ているの?」
「はい、ご主人様はむしろ背中を押してくれました。
『私と一度離れることも、上海にとって良い経験になるわ。隠れ家の想いを、貫きなさい』と。
ですから、ご主人様に抗う覚悟は出来ています!」
「そう、わかったわ。私も豹を魔界に返したくない。手を貸して」
理解してくれた!それにわたしたちの味方になってくれる!
「でも、理想が同じだからこそ長々と話すわけにはいかないわ。私から伝えられるのは『豹はここを出て地底へ続く洞穴の監視小屋に向かった』ということよ。ただ、その先は豹自身も決めかねてるよう…私の知らない麟という少女の名前は出ていたけど」
「麟!これはルナサ次第かな…」
「雛さん、そこはあの洞窟の手前にある廃屋のことでしょうか?」
「そうよ、椛が場所を知っているなら案内は任せて良さそうね。廃屋にしか見えないでしょうけど、中は私と八雲藍が定期的に掃除してるから休憩地点ぐらいにはなるわ」
「八雲藍!?もしかして、雛は八雲と伝手があったり!?」
リリカがその名前に驚いて反応を返しちゃった。そういえばリリカは直接話してないんだった。
「いえ、連絡を取れるわけじゃないわ。ただ私は豹が八雲紫に協力してるのを知ってたから、あの小屋のことを把握していただけ。八雲としても、私が定期的に訪れることによって厄が小屋に移れば住み着こうとする野良妖怪や獣への対策になるからこそ教えてきたのでしょうし」
「…あれ、それじゃ豹が行くのはマズいんじゃない!?」
「大丈夫よメルラン。これからは冬だから八雲紫が冬眠に入る。この時期に何か起きた際には八雲藍が豹を頼ることもあるから、晩秋から春になるまでは私はあの小屋へ寄り付かない。わかりやすく言えば私があの小屋の様子を見るのは春になってから夏が終わるまで…今は中に充満する厄も散っているわ」
「よ、よかったのですよー」
メルランの反応にビックリしちゃってたリリーが思わず安堵の声を出しちゃってるね。私もヒヤッとしたからしょうがない。麟さんのことは時間の問題もあるから後回しでいいかな…雛さんも名前だけは覚えていられてたってことだけ覚えてればいい。メルランとリリカ、椛さんとリリーは覚えてられないだろうし。
「それで、決裂したというけれどアリスとユキはどう動いたの?」
「まず博麗の巫女のとこに行ってるよ、幻想郷と魔界で全面戦争になるのを避けたいからって。だからあそこで時間を取られてるうちに豹を私たちが見つけられれば、とっても大きいアドバンテージなんだけど…」
「それなら椛、次は皆を監視小屋に案内してあげて。私はついていく方が迷惑をかけるから。
もう一つ、ルナサはどうして来ていないの?」
「ルナサさんは、先程雛さんも名前を出してくれた麟さんという方を探してくれています。私たちより多くのことを覚えていられるようですので」
「そう…悪いけれど彼女のことは私もよくわかっていないわ。何かわかれば出来れば私にも教えてちょうだい」
最低限の情報交換はこれで大丈夫かな?夢幻館に行く前に目的地が一つ増えちゃったけど。
あとは、アリスの厄除けがダメになるまでに椛さんとリリーへの説明だね。
茨華仙が神社に来るのにそれほど時間はかからなかったわ。具体的に言えば霊夢に対して誰一人詳しい話をする時間なんて無かったぐらい。
「成程。貴方が介入するつもりなのであれば、私も呼ばれておかしくないですね」
「私としても助かります。八雲紫に正確な情報を出させるためにも、博麗霊夢を大人しくさせるためにも」
「信用が無いわね。私は幻想郷の危機に際し情報を隠蔽するなんて愚行は冒しませんわ」
「日頃の行いでしょ、紫のそれは」
ごもっともなツッコミを霊夢が入れてるわね。茨華仙と映姫も当然というように紫へ目線を向ける。
「では、これで揃ったのでしょうか。本題に入っても?」
「揃ったのだけれど、もう少し待って頂戴」
夢子が切り出そうとしたところで、それを紫が遮って来た。
「聞かせたくない相手が数名居るから、場所を変えるわ。――橙!」
「はい!なんでしょう紫さま!?」
「しばらく玄とあうんで博麗神社を守っていて頂戴。もし私たちが離れてから大きな動きがあったら報せなさい」
「わかりました!」
「ちょっと待ちなさい!あんたが場所を変えるってことは…!?」
「っ!?しまった…!」
その言葉に反応したけれどもう遅い…!ユキは発動する前に察せたようだけど、すでに手遅れ。
化け猫の方の式神が表に出てきた、それが意味することはすなわち―――九尾の方も動いていたということ!!
橙とあうん・霊夢の亀を除いた全員の足元にスキマが開き、逃れる間もなく皆吸い込まれていった。
「えっ………!?皆様!?」
「ふむ。橙殿、この爺とあうん殿が聞いても良いことは答えてくれますかのう?」
「はい。博麗神社と幻想郷のために、玄爺さんとあうんにも手を貸してもらいたいので!」
かなり急いでプリズムリバー邸に戻って来たけど、気付いてくれたのか雷鼓たちは待っていてくれた。ありがたいわ…!
「あ、やっぱり戻って来てくれてたわ。よく気付けたわねルナサ」
「…豹に教わった魔法のおかげでね。それで、初めて会うけれど…あなたが永江衣玖、かしら」
「はい、メルランさんのライブで楽しませていただいています」
「楽しんでもらえてるのはなにより。メルランの姉のルナサよ、よろしく」
「はい、あらためまして…永江衣玖です。よろしくお願いします」
そしてこの上ない幸運に恵まれたわ。まさか、彼女から直接私たちと接触してくれるなんて!
天界で暮らす竜宮の使いなんて、そう簡単に会えるはずがなかったから。この偶然は大きすぎる。
「雷鼓さんからヒョウという方のお話を伺ってはいたのですけれど、昨夜その名前を出してきた者と鉢合わせてしまいまして。その相手が少々問題になりそうでしたので、雷鼓さんにお伝えしたのですが」
「私が聞いただけでもちょっとマズいんじゃないかって思うほどなのよ。だからここまで付いてきてもらったワケ」
「そうなの…足を延ばしてもらったみたいで悪かったわ。それで、何があったのかしら?」
「昨夜、空間魔法で天界に侵入してきた者がいました。金髪黒翼の悪魔と、意志を持った魔眼のような存在でしたが…会話の中で『地上に潜伏してるヒョウ』と『サリエル様』という名前が出てきました」
「――ッ!?まさか…!?」
エリーとくるみから聞いている危険な存在。豹が夢幻館から離れてしまった元凶。
サリエルの使い魔、幽玄魔眼…!
「私は仕事上がりでしたので、このまま地上に降りるのであれば見逃すと伝えたところそのまま降りていきましたが…悪魔である以上魔界と関わりがある可能性もありましたので、雷鼓さんにお伝えしたのです」
「でも、ルナサのその反応を見る限り良くない知らせらしいわね。詳しいことを聞いていいかしら」
「ええ、それこそ力を貸してもらいたいぐらい…!雷鼓と衣玖さん、これから時間は取れる?」
「大丈夫ですよ。私は公休ですので」
「私も平気だわ。何をすればいいの?」
「ありがとう…!それなら、皆にも聞かせてもらえる?情報を合わせればその侵入者の素性がわかるかもしれない」
アリスの
『アリス、カナ、応答できる!?』
わたしが持ってた
「ルナサ?どうしたの?」
…なんだけど、アリスからの返事が無い。
『カナだけ?アリスには聞こえていないのかしら』
「―――っ!?ご主人様の魔力反応が神社から消えてしまっています!
昨日のルナサさんと同じ…スキマ送りされてしまったのかもしれません!」
そう言われてわたしはようやく魔力探知魔法を展開したんだけど、上海ちゃんの言う通り!
探知範囲からアリスだけでなく、ユキと夢子の魔力反応もいなくなっちゃってる!?
『…っ!?ごめん上海、言われて私も気が付いた。スキマの先まではこの人形、繋がらないのかしら?』
「私もこういった状況でこの子を使ったことがないので予想にしかなりませんが…ご主人様からの反応が無いということはそうなのだと思います。今朝お話ししましたが、通信があったということはご主人様も把握できているはずですが…」
上海ちゃんがそう返すと、ルナサが困りながらも話を進めて来た。
『そう…確証が取れないのは困るけれど、アリスに繋がっていないのはメリットにもなる。
今、雷鼓が衣玖さんを連れて来てくれたのよ』
「え、衣玖さんが!?」
『通信魔法を組み込まれた
メルランさん、お久しぶりです』
『少し情報を共有したいのだけれど、雛も聞こえてるのかしら?』
「聞こえてるわよ。でも、厄除けはもうあまり長くもたないわ。手短にお願いできる?」
『わかったわ。ごめんなさい衣玖さん、今の話をこの人形にも話してもらえる?』
『ええと、時間が無いようですので挨拶は省かせていただきますね。昨夜、空間魔法で天界に金髪黒翼の悪魔と、意志を持った魔眼のような存在が侵入しまして。そのまま地上に降りていきました』
「それは…!衣玖さんと言いましたか?その2名、私も昨夜目撃しているのですが、やはり豹さんへの追手なのでしょうか!?」
『おそらくはそうではないかと思います。地上に潜伏してるヒョウと呼んでいましたので』
『それに、サリエル様という名前も出してたそうよ。ユキか夢子に確認を取りたかったのだけれど…』
「意志を持った魔眼のような存在…!?まさか、それが幽玄魔眼なのでしょうか!?」
上海のその言葉に雛も目を見開く。豹から聞いてるみたいね…!
『私もそう考えたわ。だから皆も十分気を付けて…私以外は単独行動は絶対にしない方がいい。
それと、衣玖さんには今から私が頼んでおく。だからメルランとリリカは霧の湖の方が済み次第、帰って待機しておいて貰える?』
「OK!姉さんも気を付けて!」
『わかってる。それじゃ、そっちは任せるわよ』
その言葉を最後に通信が魔力と共に途絶えたわ。
「…本当にもう時間は無いようね」
「うん、そうみたい。雛さん、まだ話しておかなきゃならないことある?」
「私にはもう無いわ。だからカナと椛の話を聞かせてちょうだい。
厄除けがもたなくなる前に、少しでも多く」