寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第117話 次なる舞台へ

「アリスたちと繋がらなかったから、確定は出来なかったけれど。おそらく衣玖さんが顔を合わせた二人は豹への追手と見て間違いないと思う。

…ただ、詳しい話をする前に衣玖さんに一つ頼みたいことがあるのよ。後のことを考えると、詳しい話を聞かないまま手伝ってもらって、それが終わった後で私たちから詳しいことを話すって形にしたい…こんな不誠実なお願いなのだけれど、引き受けてもらえないかしら?」

 

アリスと繋がらなかったことで、衣玖さんをユキと夢子が知らないまま協力してもらうという動き方が残せた。正直に言うと、衣玖さんの存在がバレてもいいから目撃されたのが幽玄魔眼だという確証の方が欲しかったのだけれど。そう幸運が続くわけがない。

それなら、衣玖さんはまだ伏兵として動いてもらいたい…!

 

「構いませんよ。私は状況がほとんど理解できていませんが…その状態で動く方が短時間で済む用件ということですね?」

「ええ、おそらくはね。

頼みたいのは、人里にいる稗田阿求に豹のことを尋ねてほしいのよ。どうも彼女は豹を敵視してるみたいだから、私たちとは真逆の視点で豹の情報を持っているかもしれない。だけど、私や雷鼓は人里の有力者である彼女と敵対するのは避けたいの」

「ああ、そういうことか。滅多にこっちに来ない衣玖なら、人里の有力者と対立してもそれほど問題にはならないのね」

「それぐらいならお安い御用ですよ。メルランさんのライブが開かれなくなってしまうのは困ってしまいますし。

ですが、そうなると雷鼓さんやルナサさんからヒョウという方のことを聞いたというのは伏せるべきですか。どなたか誤魔化すのに都合のいい方はいらっしゃいませんか?」

「それなら姫海棠はたてという烏天狗から聞いたことにして。私と豹が写った写真を念写されてるし、リリカが豹が取材を受けてたってことにしてるから。

リリカの話だと豹が私たちのライブを手伝ってたことは知られてるそう。ならメルランのライブの話をしていたら豹の名前が出たって方向で誤魔化せないかしら?」

「具体的な名前と種族がわかっていれば十分です。空気を読む程度の能力、久しぶりに活用しましょう」

「ありがとう…!本当に助かるわ。雷鼓はとりあえず人里までは衣玖さんと同行してもらって、稗田の関係者に把握されない距離でいったん分かれてもらえる?わざわざ天界経由で幻想郷に侵入した悪魔が、大騒ぎになるだろう人里で仕掛けてくることはないでしょうし」

「構わないけど、ルナサは大丈夫なの?単独行動は避けるべきって言ってたわよね?」

「私が単独行動しないと接触してきてくれない相手とコンタクトが取りたいのよ。だから危険は承知の上…それこそ私が襲われれば襲撃者は敵だとハッキリする。この人形で誰が敵なのかを言い残すぐらいはやってやるわ…

―――それぐらいは出来なきゃ、豹に追い付けない」

 

麟のことはまだ伏せるために嘘もあるけれど、最後は本気。幽玄魔眼とやらに襲われても、それを皆に伝えるぐらいはしなければならない。それぐらいは出来ないと、豹の助けになんてなれないでしょうから。

 

「…これは茶化すところじゃないわね。わかったわ、ルナサを信じる。

 衣玖が話を聞いて戻って来たら、ここ…プリズムリバー邸で待ち合わせでいいのね?」

「ええ、私よりメルランとリリカの方が早く戻ってくるかもしれないけれど。雷鼓なら中に入って待ってて構わないわ。これ、合い鍵」

 

雷鼓に鍵を渡して空に舞い上がる。雷鼓と衣玖さんも続いてくれた。

 

「それじゃ、お願いするわ…!必ず事情は話す。私じゃなくてメルランかリリカになるかもしれないけれど」

「はい、聞かせてもらいますね。ルナサさんもお気をつけて」

「だね。一番危ない橋渡ることになってるみたいだし、無茶はしないでよ!」

「ええ、豹と会うまでは消えられないもの。

 雷鼓と衣玖さんも、気を付けて!」

 

そのまま麟の家に向かう。しばらくはアリスの人形を気にしなくても大丈夫なら、対処法を麟と相談できるのだから…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もうそろそろ限界ね。後はこれからどう分かれるかを教えてちょうだい」

 

雛さんに言われてご主人様の厄除けカードが厄塗れになっていることに気付きました。時間切れ、ですね。

 

「話をまとめましょう。豹さんの妹であるユキさんと、魔界の重鎮である夢子さん。お話ししたとおり私も目視できていますので、妖怪の山に入ろうとするのであれば私が対応します」

「お願いね、椛さん!ユキと夢子も椛さんのことはルイズから聞いてたみたいだし、直接会いに来るかもしれないわ」

「わかりました。それでは豹さんが向かったという小屋までご案内しますが…」

「そうね~、私とリリカはここで別れようかしら?衣玖さんが協力してくれれば、アリスたちに伏せられる情報が出てくるかもしれないし~」

「そうですね…それでは、私とカナさんとリリーさんで椛さんに案内してもらって、メルランさんとリリカさんは霧の湖に向かってもらう。私とカナさんが夢幻館から帰って来るのが少々遅くなってしまうかもしれませんが」

「大丈夫じゃない?ハッキリ言って雛さんに伝えてある場所に豹が長居するとは思えないもん。様子だけ見て情報無しなら、さっさとカナと上海は夢幻館に向かえばいいじゃん」

 

リリカさんも豹さんのことをよく理解しているんですね…雛さんが伝えられたからこそすぐに離れている場所。私一人ではこんな推測をすることは出来ないでしょう。

 

「それでは、リリーはそこで別れて私が家まで送ります。いいですね?」

「お願いするのですよー。邪魔にならないようにはしますのでー」

「私のところに豹が戻ることはないとは思うけれど、何かあれば椛に伝えるか豹の隠れ家に行けばいいのかしら?」

「それか私たちの家でもいいわ~。霧の湖近くの廃洋館はわかるかしら~?」

「紅魔館ではない廃洋館の方ね。わかったわ」

「それじゃ、行きましょ!メルランとリリカも気を付けて!

 雛さん、ありがとね!」

 

カナさんの声で、皆様が飛び立ちます。

 

「こちらです。私の同僚は見逃してくれるでしょうが、文様あたりに見つかると絡まれてしまうかもしれません…急ぎましょう」

「はい!椛さん、先導よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

(…どうやら、思っているより豹の味方は多いようね。問題は、それをどう豹に伝えるか。

ただ、あの小屋を使った足止めは失敗…豹に悪影響が無ければいいけど)

 

今の話ではっきりしたのは、カナ・上海・メルラン・リリカ・リリーもルナサと同じで味方と思って良さそうだということ。そして椛を連れ戻す判断が出来る程度には妖怪の山も情報を持っているということ。この二点は豹が把握できていない可能性が高い。

後は、監視されている椛は頼り切るわけにもいかないということ。椛からこちらの情報を探ろうとするぐらいのことは、飯綱丸龍・菅牧典主従ならやってくるわ。

 

(そこを抜きにしても、天狗がどうやって情報を集めたのかは軽く調べた方が良さそうね。ルナサやカナでは妖怪の山内部の情報収集は難しい。椛も釘を刺された以上、細かい情報を与えられることは無い。

私に情報を渡してくれるような付き合いのある相手なんてほとんどいないけれど、厄を押し付けることによる脅迫なら出来るわ)

 

幸いなことに私はこの山の一員と見られているから、天狗の警戒網を気にせず動くことが出来る。そして、山の外の情報を集められるような存在は…数名心当たりがある。

 

「―――毒を食らわば皿まで、ね。天狗の連中、敵に回してあげようじゃない…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

スキマに放り込まれた先はどこかの屋敷の玄関だったわ。一応、客扱いはしてくれるみたいね。

 

「お茶と煎餅ぐらいは出してあげるわ。付いて来なさい」

「当たり前よ。問答無用で閉じ込めておいて、何もなしに話なんか聞いてられるかっての」

 

不満を隠そうともせず霊夢が紫の後ろについていく。それを見て諦めたような表情の茨華仙と閻魔も続き、夢子も警戒を解かないまま靴を脱いで上がったのだけれど…

 

「――アリス?どうかした?」

「…カナたちかルナサが人形で通信しようとしたようだけれど、流石に異空間までは繋がらないわね。何かあったのかしら」

「少なくとも、幻想郷に侵入した魔界人は今ここに揃っている。橙も豹と面識があるからな…魅魔一派や風見幽香が豹に届きそうであれば即座に報告がある。今は会談を優先してくれないか?」

 

いつの間にか背後に控えていた八雲藍に急かされてしまったわ。けれど、ユキが聞き捨てならない言葉を口に出した。

 

「………兄さんの魔力の残滓を感じる。つい最近、兄さんと会ってるね?」

「…流石は実の妹ということか。ユキだな?」

「そう、わたしがユキ。それで、どういうこと?」

「隠すようなことじゃない…豹の説得に失敗したのが私だからだ。『魔界と戦争になる可能性がある以上、正式に八雲の傘下に入るわけにはいかない』…これが豹の返答だ。豹がこう考えている以上、私たちも戦争は避けたい。

そのためにも、今は矛を収めてもらえないか?」

「そっか。兄さんは本当に、変わってないね…

八雲藍でいいのかな?」

「そうだ。私も豹に世話になった一人…ユキと敵対するつもりはないさ」

「わかった、今はそういうことにしておく。行こう、アリス」

 

そう言ってユキも招待に続く。

 

「…やれやれ、豹のことだから理解していたつもりだったが…見積もりが甘過ぎたな。妹すら、ここまで誑し込んでいたとは」

「ユキがここまでブラコンだったなんて私も知らなかったわよ。でも、あんたがそんな言い方をするってことは…豹はやっぱりスケコマシなのね?」

「ああ、それも鈍いというわけでは無いから余計に手に負えん。無自覚に異性を惹き付けておいて、その好意を知った上で一線を引いた付き合い方しかしない。潜伏に手を貸していた我々としては、もう少し自重するか逆にさっさと伴侶を選べと言いたかったよ。

もっとも、得難い協力者でもある以上…選んだ伴侶のためだけに動かれるのも困っただろうがな」

 

そう語る藍も、一抹の寂寥感にかられているような表情を見せているわ…本当に、上海はとんでもない男に引っかかってしまったようね。

 

「悪いが、お茶の用意などは私が担当でな…霊夢を大人しくさせるためにも急ぎたい。今は素直に待っていてもらえないか?」

「ああ、そうね…これだけのメンツ相手に暴れ出すとは思えないけれど、ご機嫌斜めで余計なことを言われるのも面倒よね」

 

私もそう促されて屋敷の中に足を踏み入れる。ルナサたちの状況も気になるけれど…これから始まる会談は集中して乗り切らなければならない重要な案件。今は意識の外に置いておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――?リィスが戻って来た。先に合流するべきか)

 

情報統制と手回しはマイとサラに任せ、私は一足先に夢幻世界に向かうことにしたのだが。その途中で幻夢界からリィスが戻って来たのを感知した。それならば、優先すべきはリィス…魔界に天使が存在するだけで、攻撃されることなど珍しくないのだから。

 

リィスもそれを理解しているようで、私の神殿ではなく直接こちらに向かっている。それゆえ程なく合流することが出来た。

 

「サリエル様、申し訳ありません…!監視の任は私には務められませんでした。

ですが、里香さんが協力していただけることになりました。頃合いを見計らって、靈魔殿でミーティングを行う手筈です」

「そうか、ならばリィス…このまま私に付いてきてくれ。夢幻姉妹にもその状況を周知してもらい、今後の動きを決める」

「かしこまりました!お供させていただきます」

 

幻想郷側の協力者が増えるのは好都合。なにより私だけでなく夢幻世界で過ごす夢幻姉妹も幻想郷には疎い…情報は少しでもほしいのだから。

 

(問題は、リィスを夢幻姉妹が受け入れてくれるかどうかだが…

 私の傍に控えているリィスすら護れぬようではヒョウを救えるはずがない)

 

もし、戦闘になったとしても…私が衰えていないかの判断基準にはなる。メリットがあるのであれば、リスクも許容すべきだろう。

 

 

堕天使が魔界の空を舞い、夢幻世界へのゲートに消えていった。

 

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