寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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31話と117話の呼称ミスを修正してます。


第118話 無理のない笑顔

「さ、始めましょうか。貴方達は幻想郷に何の用かしら?」

 

集まったメンツ…私・夢子・ユキ・霊夢・映姫・茨華仙。そこに紫と藍が加わって8人…座敷に用意された円卓を囲んで会談が始まる。

 

「兄さんを迎えに来たわ。もっとも、素直に帰ってくれる気は無いから力尽くで引き摺って帰ることになったんだけど。

そのために幻想郷を飛び回ることになるから、例の四人が絡んでこないよう通達してもらいたい」

「兄、ですか?」

「ええ、先輩はユキの兄…こちらでもヒョウと名乗っていたはずだけれど、ここにいる全員と面識があるということかしら?」

 

私が口を開く前にユキと夢子が要求を伝える。まあ当たり前ね…言ってしまえば私はここに集まった中で最も管理する側との距離が遠い。魔界神の末の娘と言っても、魔法使いとして一人前になるまでは魔界の支配や管理に関して極力巻き込まないように育てられてきた自覚がある。こんな上層部の会談に参加できるような立場じゃないのよね。

 

「私はそんな奴知らないわよ。関係ない話なら帰らせてもらいたいんだけど?」

 

…まあ、これは仕方ないわ。豹自身が霊夢を徹底的に避けていたようだしね。

 

「私も八雲紫から存在を明かされてはいますが、直接の面識はありません…茨華仙、貴方は面識があるのですか?」

「…とても古い昔に、一度だけ顔を見ましたね。萃香と勇儀も同時期に面識を持ったと言えば、貴方には理解できるかと」

「――そういうことですか。それならば…博麗の巫女にも状況を理解させるためにまずは彼について説明を求めます」

「ええ、もとより私はそのつもり…ただ、魔界はどうなのかしら?

豹のことを表に出してしまうことになるけれど」

「構わないわ。それこそ魔界に帰って来てくれれば、先輩のことを隠し続けることなど出来ないのだから」

「なら問題は無いわね。それなら、まずは魔界から見た豹のことを話して頂戴。

 それが終わったら、幻想郷に来てからの豹のことを私から話すわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

雷鼓と衣玖さんと別れて麟の家に向かう。豹の隠れ家はアリスとオルレアンのおかげであっさり見つけられたのだけれど、麟の家はそう簡単には行かない。昨日麟からだいたいの位置は聞いているし、私自身も上空から確認はしたのだけれど…

 

(麟も隠れ住んでいるようなもの、上空から眺めるだけで見つけられるような位置ではない、か。

失敗だったわね…昨日のうちにもう少し目印を見つけておくべきだった)

 

たしかこの辺りだったはず…高度を下げて探そうとしたところで、私が迷っているのに気付いたのか麟が迎えに来てくれた。

 

「おはようございます、ルナサさん!」

「おはよう、麟。迎えに来てくれたのね、助かったわ」

「…ふふ、やっぱり覚えていてもらえるのは嬉しいです」

 

ご機嫌な様子で麟が微笑む。軽く聞いただけでも、麟が寂しさを感じ続けていたことを理解できてしまうけれど。今は私が厄介なものを持ち込んでしまっている。

 

「喜んでくれているところ悪いのだけれど、ちょっと問題が出来たのよ。

連絡に使えるアリスの人形を渡されてる。単独行動する私が持たないのは不自然だから断れなかったのだけれど、何か対策を取らないとマズいわよね?」

 

そう伝えると、麟はすぐに真剣な表情になって。

 

「…豹さんに相談しましょう。言葉に出してくれたということは、少なくとも今の会話は聞かれていないということですね?」

「――ッ!?もう、来てくれてるの!?」

「はい。急ぎましょう、こちらです」

 

 

 

 

 

「…まずは礼を言わないとな。ルナサ、手を貸してくれてありがとう…助かった」

「お礼の前に知恵を貸してちょうだい。今は繋がっていないけれど、アリスの通信人形を持たされてる…上手く誤魔化す方法はないかしら?」

 

麟の家を上空から見つけ出すのに手こずっていたルナサを麟に迎えに行ってもらったが、早速問題が発生している。

―――通信人形。噂に聞いていた以上に、アリスは優秀な人形遣いのようだな。だが、ここ麟の家であれば…都合のいい言い訳をでっち上げられる。

 

「俺が視界に入らないように出してくれるか?」

「…ん」

 

入れ子人形(マトリョーシカ)か…つまり複数の人形で同時に通信できるということだろう。実に合理的な人形のチョイスだ。だが、魔力による繋がりであれば…遮断するのは難しくない。

 

「これでいいだろう…麟、念のために布を被せておきたい。用意してくれるか?」

「ちょっと待ってくださいね…ルナサさんも、どうぞお上がりください」

「…ええ、お邪魔するわ」

 

上海を捕まえた時同様にピラミッド型の魔力遮断領域を展開しアリスからの接続を切る。ここ麟の家付近に張った魔力遮断領域と妖怪除けの結界によって繋がらなくなったということにしてしまえば誤魔化せるだろう。

もっとも、説得力を持たせるためには麟を前面に出す必要が出てくるのだが。

 

「これでいいでしょうか?」

「十分だ。ルナサ、昨日麟から聞いたと思うが、この家の周囲には魔力遮断領域を展開してる。その影響で繋がらなくなったということにしてくれ」

「わかった。でも深く突っ込まれると誤魔化しきれなくなるけれど、いいのかしら」

「構いません。豹さんがここに来てくれた以上、私も前面に出る必要がある…そうですよね?」

 

本当に麟は聡い…俺のために動いてくれるのは勿体ないほどだ。だが、今は頼らせてもらう…手段を選ぶ余裕なんて、とっくに無いんだからな。

 

「ああ、そうなるだろう…そのためにも、情報交換だ。

ルナサ、人里で別れてから何があったのか聞かせてくれ。俺も聞かれたことには答える」

「そうね、私が豹の力になるために…必要なことを聞かせてちょうだい」

 

 

 

―――この5日間、ルナサは本当に上手く動いてくれていた。今この時まで八雲との繋がりを隠し切ってアリス達を攪乱し俺に情報を渡してくれる…いくら礼を言っても足りないな。

 

「ありがとうな、ルナサ…思っていた以上に助けられてた」

「…心地いいけど、なるべく人前では控えて。麟が見てること忘れてない?」

「大丈夫ですよ、ルナサさん。私も後で撫でてもらいますから」

 

帽子を取ってルナサの頭を撫でると、ルナサと麟でこんなやり取りになった。麟とも上手くやれそうなのは本当に助かる…俺が姿を消しても、ルナサが麟の支えになってくれるかもしれない。逃亡中の俺が気にすることじゃないんだろうが、な。

 

「それで、私はこれからどう動けばいいのかしら?」

「そうだな…ルナサが今日からしばらく家に帰らない場合、メルランとリリカが暴走する可能性はあるか?」

「メルランは感情的に動こうとするかもしれないけど、リリカが止めてくれる。ここで豹に会えた以上、私は豹の指示を優先するつもりよ」

「ならまずは夢幻館でエリーとくるみに接触してもらいたいんだが、カナと上海が向かう予定なのが問題だ。だから二人が戻って来てから夢幻館に向かうために、しばらくここで待機してくれ。今なら2人だけで移動してもリスクは少ないはずだ」

「…つまり、衣玖さんと椛が目撃したのは幽玄魔眼で間違いないのね?」

「同行している悪魔の特徴がエリスと完全に合うからな…まず間違いない。そこも含めて夢幻館で幻月と夢月に情報を聞きたいところだ」

「そういうことですか。幽玄魔眼がこちらに来たということは、夢幻館は逆に安全ということですね」

「そうだ、それこそ麟とルナサを追撃しに動くようなら俺がそれを後ろから叩ける…里香のおかげで攻撃手段を持てたからな。囮扱いするのは悪いが」

 

そう言うと、ほぼ同時にルナサと麟がジト目で俺を見る。

 

「豹、逃げてる自覚が足りてないわ。私たちを囮に使わないで誰を囮にするのよ」

「そうですよ豹さん。豹さんが心配するべきは私たちの安全ではなく豹さんの安全です」

「…肝に銘じておく。だが、ルナサと麟も絶対に無理はしないでくれよ」

「豹さんも無理をしないのであれば言う通りにします」

 

…俺の戦闘スタイルを知ってる麟がこう返してきた。つまり無理する気なんだな。

こうなると麟は止められない。そういう意味でもルナサとの合流は大きいな…純粋に背中を任せられる相手がいるだけでもだいぶ違う。

 

「努力はする。まあそういうワケだから、カナと上海が戻るまではここでミーティングする時間がある…何事も無ければだが。

その間に、俺の事じゃなく麟の呪いのことも聞いておきたい…昨日、麟とルナサで何かわかったことはあるか?」

「いえ、昨日はそこまで話す余裕はありませんでしたので…何も」

「…八雲紫から麟のことを聞いた時は、直接聞きなさいと言われただけ。麟は何か聞いてないの?」

「私も藍様からルナサさんと協力するよう命じられただけなので、私の状態のことは何も…」

「だとすると、紫さんもなぜルナサが麟のことを憶えていられるのかはわかってないということだろう。

そもそもルナサはどうやって麟のことを知ったんだ?」

 

何故ルナサには忘却の呪いが作用していないのか…それを知るためには最初から状況を整理する必要があるらしい。それならばまず聞かなければならないのは―――麟の存在をどうやって知ったのか。

藍の話を聞く限り、紫さんがルナサに指示を出す前にルナサは麟の存在を知っていたように取れる。だが、俺と同じ八雲の隠者として活動している麟のことを知る方法などごく僅か…そこから推測を進めることが出来るかもしれない。

すると、ルナサは麟が俺に送ってくれた二胡を差し出してきた。

 

「カナと上海が麟の名前だけは覚えていて、豹の家にあったこの二胡の持ち主じゃないかって予測したのよ。それで私が弾いてみたのだけれど…私しか音を出せなかったし、残っていた魔力も私しか感じ取れなかった。

だから、私が麟のことを探すってことになったのだけど」

「え、音が出せない?どういうことでしょう?」

「麟がそれを聞くの!?雷鼓と九十九姉妹が、元から弾き手を選ぶ呪具として作られたって判断したのよこの二胡。製作者である麟を救うための呪具だって。

事実、私以外に音を出せたのは居なかったわ」

「…そういうこと、ですか。私の想いは、もはや呪いになってしまっていたのですね…」

「麟、気に病むな。忘却の呪いは誰にとっても苦痛だ…救われたいという本音が嘆きと思われて、呪いだとこの二胡が勘違いしただけ―――作られて5年も経っていない幼い意思なら、細かい感情の区別なんて付けられないだろうしな」

 

麟は俺から離れたくないという想いでこの二胡を贈ってくれた。その強い想いは本物だからこそ、この二胡は意思を持ち麟とルナサを引き会わせてくれたのだろう。

全ての呪いが、害を与えるわけでは無い。これは、麟を救うための呪いなのだ。

 

「上海に宿った俺の隠れ家の意思のように、強い思いは道具に宿る。麟が俺に対して向けてくれた意思が、麟を救うためにこの二胡へ宿ってくれたってことに変わりは無い。俺にとっても、麟にとっても…ありがたい呪いだ」

「豹の言う通りよ。麟が受けてしまった忘却の呪いなんかとは全然違う。呪具と呼ばれても害を為すのではなく、上海のように何かの助けになる術具なのだから。呪いじゃない呼び方を探してあげたいぐらい」

「…豹さんもルナサさんも、ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで、私は救われます」

 

麟の表情が晴れてくれた。ルナサも麟の孤独を埋めてくれるような言葉をかけてくれている…本当に、大きな一歩だ。

麟を孤独から解放するためにも、俺はまだ倒れるわけにはいかない。

 

「この二胡が麟を救うために起こした奇跡、か。どうにかして魔法で再現出来れば、忘却の呪いの解呪に役立つだろう。ルナサ、しばらく大切に預かってくれるか?麟も、構わないよな?」

「はい。ルナサさんを選んだこの二胡も、そう望んでいると思います」

「わかったわ、大切にする。今度のライブでも、機会があれば弾いてみましょう」

「ああ、それは俺にも聴かせてほしいな。俺に演奏の才能は無いから、楽器としてはルナサの手元にある方が喜ぶだろう」

「そうでもないと思うけど?この二胡、弾いてはいなくても手入れはしっかりしてるじゃない。楽器は繊細なもの…放置されていないだけでも豹は持ち主として認められていると思うわよ」

「ふふ、それならルナサさんが演奏した後に豹さんが手入れしてあげてください。それが一番この二胡が喜ぶと思います」

 

麟が俺以外の相手…ルナサに、無理のない笑顔を向けてくれている。

なんとかして、誰に対してもこの笑顔を向けられるようにしてやらないとな。

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