寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第123話 「いってらっしゃいませ」

「やっと、追い付けました」

「っ!?」

 

大きくなった上海が、そのまま俺に正面から飛び付いてきた。敵意は全く感じなかったから、そのまま受け止め抱き留める。

 

「上海、どうした…?

 いや…違うのか?」

 

『隠れ家が持ち始めた意志と記憶がアリスの上海人形に宿った』――雛から伝えられた言葉だ。

つまり、今俺に抱き付いて来た人形は。

 

「俺の隠れ家、なのか?」

「はい…!こうして直接お話が出来るなんて、思いもしませんでした。

 上海さんには、いくら感謝しても足りません…!!」

 

こんなことが、本当にあるんだな…たしかに俺の隠れ家は、永い時間を俺と共にあった。

だが、付喪神のようにここまでハッキリとした意思を持てていたなんて思いもしなかった。

 

「あまり時間を使ってしまうわけにもいかないんです。上海さんに負担をかけてしまうので。

 ですからご主人様、一つだけ聞かせてください。

 帰って来て、もらえますよね…!?」

 

――そういう、ことか。

こんな手段を取ってまで、追いかけて来たのは…俺に捨てられたくないから。

それだけのために、これほどの奇跡を起こして見せたのか…!

 

「約束する。時間はかかるかもしれないが…

 ここまでして追いかけてきてくれたんだ。その気持ちには応える。

 必ず、俺はあの家に帰ろう」

「あ、あぁ……!

 本当に、よかった…!

 ずっと、待っていますから。どうか、ご無事で…!」

 

人形である隠れ家(上海)に、表情など無いはずだが。

安堵の笑顔を見せてくれた。

それは、たとえ俺の幻覚だったとしても。生き延びて果たすべき約束が見せた奇跡なのだろう。

俺はまだ、最期を迎えるのは早い…俺のために散った皆には悪いが。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

その言葉と共に、巨大化が解かれ…俺の腕の中には元のサイズに戻った上海がいた。

 

 

 

「…カナ、どこまで理解してた?」

「わたしもほとんど理解できてないよ。わたしにわかってたのは、あのお家は意思を持ち始めてて、アリスとやり合った時にその意識がお家からなくなっちゃったことと、上海ちゃんのボディに移っちゃったってこと。

あと――あのお家はずっと豹のそばにいたいと思ってるのはわかってた。だから上海ちゃんを豹のところに連れてこうとしてたの」

「『ここを捨てちゃうのは許さない』――か。これは納得だ。

 俺は帰るべき場所を、魔界以外にも作れていたんだな…」

 

隠れ家に関してはカナの方が俺よりも詳しいだろうと考えていたが、予想以上に理解していたようだな…付喪神のように意思を持ち始めていたのに気付き、それが交戦したことで上海に宿ったということを見抜く。

あれだけ俺を慕ってくれていたのに、俺は全く気付いてやれなかった…薄情なもんだ。

 

「こんなことも、あるんですね…」

「珍しいことなのは間違いないけれど、別におかしいことじゃない。橙が過ごしているマヨヒガと同じ読みで【迷い家】と呼ばれる家は意思を持つと伝わってるわ。

どんなモノであっても、意思を持てないとは言い切れない…それこそ、ここ幻想郷はそんな奇跡が起きてもおかしくない場所よ」

 

ルナサもある程度のことは聞いていたのだろう…一番驚いている麟の相手をしてくれている。カナと同じ騒霊として、取り憑く先となる家に対して理解があるんだろうな。

 

「でも、いまここでちゃんと帰る約束をしてくれた。それを守ってもらうために、わたしは何をすればいい?」

「カナも、力を貸してくれるのか?」

「お家を出るときに言ったわよ、手伝ってあげるって。ルナサから聞いてない?」

「…そうだったな。なら―――っと」

「うぅん…?」

 

腕の中の上海が目を覚ます。だいぶ魔力を消耗しているし、大人しく眠って…人形に睡眠という概念があるのかはわからないが、無理せず休んでていいんだが。

 

「…ありがとうございます、豹さん。

 隠れ家さんと、ちゃんと向き合ってもらって」

「礼を言うのは俺の方だ。随分無理をさせたらしい…

 ありがとな、上海」

「上海ちゃん、大丈夫?戦闘もあったし、だいぶ魔力使っちゃったと思うけど…」

「はい、隠れ家さんに気を使っていただけまして…最低限で済ませてくれたみたいです。

先程のようにカナさんに抱えてもらえれば、豹さんとお話しした後で夢幻館でもお話しできるだけの魔力は残っています」

「そうか…なら済まない。上海に、いくつか聞きたいことがある。

 麟とルナサも少しいいか?上海の返答次第で、頼みたいことが変わるからな」

「はい、豹さんの思うように」

「私もしばらくは家に戻らないつもりよ。豹に付き合うわ」

 

上海も数に入れれば4人、魅魔や幽玄魔眼が襲ってきても誰か一人は夢幻館に救援を求めに先行できるだけの余裕はあるはずだ。それならば、もう少しここで粘ってもいいだろう。

上海が受け入れてさえくれれば、ユキたちに把握されてでもやる価値のある荒技を思い付いた…!

 

「助かる。それで…上海はこれからどうする?

俺の隠れ家のために動いてくれて、今その目的は果たされた。これ以上俺に付き合う必要は無いはずだ…ここから先は、アリスを敵に回すことになる。

主人に刃向かってまで、上海が俺の力になる必要は無いはずだ。ユキたちがこちらに戻り次第、アリスのところに戻っても構わないが」

「いいえ豹さん、まだ終わっていません。隠れ家さんのおかげで、私はここまではっきりした自立意識を持てたんです。そして、私にボディを返してくれましたが…まだ私の中に隠れ家さんはいるんです。

今、隠れ家さんは2人いるんです。私の中にいる隠れ家さんと、帰りを待ち続けることを選んだ隠れ家さん」

「…付喪神に対して適切な表現なのかは微妙だが、二重人格だとでも言うのか?」

「そんな感じでいいと思うよ~。簡潔に説明すると、上海ちゃんに移った直後はお家が上海ちゃんを受け入れてくれなかったんだけど、昨日になって受け入れてくれたの。つまりまだお家にも意識が残ってる…そう考えると上海ちゃんに移った意思とお家に残った意思が仲直りしてくれたっていうのがそれっぽいから」

「本当に凄かったんだな俺の隠れ家は…

上海、まだそのボディにいる隠れ家のために、俺に力を貸してくれるのか?」

「はい、お手伝いさせてください…!

ご主人様に、言っていただけました。『私と一度離れることも、上海にとって良い経験になるわ』と。

私を今の私にしてくれた隠れ家さんのために、豹さんの助けにならせてください!」

 

―――本当に、俺の隠れ家は凄かったんだな。主人を別に持つ上海に、許可があるとはいえ主人に刃向かう覚悟を決めさせるとは。

だが、俺は兄なのだ。兄として、妹と認められる存在に無理はさせたくない。だからこそ、最後の確認を取る。

この思い付きは、上海への負担が大きすぎるのだから。

 

「上海。頼みたいことはここにいる皆で誰よりも…俺よりも危険がある【囮役】だ。

手に負えない相手を釣り上げてしまったときに、俺が助けに向かえなくなる可能性すらある…な。

そのリスクも考えた上で、もう一度答えてくれ。

俺に、力を貸してくれるのか?」

 

一瞬、上海が迷いを見せるように目線を彷徨わせたが。

しっかりと、俺に対して答えを返す。

 

「やらせてください。

 私は、ご主人様と…隠れ家さんが想う豹さんを信じていますから」

 

いい子だな、上海は。俺にはもったいない。

だからこそ、俺に出来ることは全てやってやらないとな。

 

「麟、悪いが魔力回復薬は余っていないか?ちょっと大掛かりな仕込みをする」

「これをどうぞ」

 

何の迷いもなく麟が懐から差し出してくれた…って、これは。

 

「麟、紫さんの仕入れてくれた稀少な秘薬をあっさり俺に渡すなよ…」

「私が飲むのは勿体ないです。豹さんに精製して頂いた回復薬で8割は満たせるのですから。

豹さんの桁外れな魔力すら満たせるような秘薬だからこそ、豹さんが使ってください」

「…すまない、助かる。だが、これだと流石に回復量が過剰だな―――精製し直して早速出番か」

 

麟が渡してくれた秘薬を大切にしまい込み、昨夜タブレットに精製し直した魔力回復薬を取り出す…拳銃といい里香には相当助けられてるな。逃げ切れたら本格的に協力してやるか…

 

「それじゃ済まない上海、隠れ家に残った俺の魔力を受け入れられたなら問題はないはずだが…俺とユキとアリスの魔力を宿すことになる。少しでも違和感があればすぐに言ってくれ」

「わ、わかりました…!ですが、豹さんは何をしようとしているのでしょうか?」

「俺と隠れ家にのために使ってくれた魔力を補充する、俺なりのやり方でな」

 

補充のついでに、ユキたちへの目くらましになるように―――

封じていた魔力を遮断領域に影響が出ない程度に解放する。

 

『翼よ、この優しき少女の力となれ』

「…えっ!?」

 

魔力タンクとしての、翼。上海のサイズであれば、俺でも【創造】出来る…!

 

「………あの、豹さん。そんな物凄いことを平然とされると、どう反応すればいいのかわからないです」

「…上海に魔力を補充するって言ってたけど。これ、補充ってレベルじゃないわよね…」

「いや、豹がものすごいウィザードなのはわかってたけど。思ってた以上にものすごかったわ…」

「別に反応を期待してるわけじゃないが。

 上海、何か違和感は無いか?」

「え、あ、はい。その、ありがとうございます…」

「上海なら天使のような白翼が似合うんだろうけどな…俺の魔力はどうしても黒くなる。護衛として魔力光が白いのは隠密行動に支障が出るから、神綺様が気を使ってくれたんだろう」

「そ、そんなこと気にしないでください!

 で、ですが…こんなにたくさんの魔力を頂いていいのでしょうか!?」

「言っただろ、囮役だって。

これぐらいの魔力はないと、【(おれ)】だと誤認して襲ってくる連中の迎撃で上海が行動不能になる可能性が捨てきれない。少なくとも、幻想郷の何処に居ようと俺の隠れ家まで移動できるだけの魔力量としてこれぐらいは必要だろう」

 

俺の魔力で黒翼を創造し、上海の外付け魔力タンクとして背負わせる。俺の魔力とユキの魔力が同じボディに入るのは問題ない、俺とユキはお互いに利用し合える極めて近い魔力なのだから。なので問題になるのはアリスの魔力と共存できるかどうかだったが…問題ないようだ。

 

(つまり、アリスの魔力も俺たち同様、神綺様に近いってことだ。

そういうことなら…なおさらアリスも守らなきゃならない。そのためにも、一度チェックしてもらうべきか)

 

「俺の策を聞いてくれ。これで上海を【(おれ)】だと誤認する奴も出てくるだろう。まあ、ユキや神綺様、夢子には通用しないだろうが…カナと上海が俺の隠れ家を昨日から拠点にしてくれたことで、隠れ家との約束を果たしつつ潜伏する方法が出来た。

―――今の状態の上海が隠れ家に居れば、魔力を封じた俺が隠れ家に帰っても魔力反応は誤魔化せる…ユキ相手でもな」

「「「「―――っ!?」」」」

「直接訪問されても監視小屋行きの転移魔方陣がまだ残してあるから、向かってきた時点で俺だけ飛べばいい…もっとも、そこから隠れ家に戻るのに多少のリスクはあるが。

それでも、隠れ家を拠点に出来るのは俺にとって大きすぎる」

 

俺の魔力で上海が動くようになれば、隠れ家に俺がいても上海だと誤認させられるわけだ。俺が完全に魔力を遮断する必要があるとはいえ、カナと上海に俺が索敵魔法を教えれば問題ない。

つまり、もう少し粘れば隠れ家へ帰宅できる状況になる!

 

「豹さんであれば、それでうまく行きそうですね…!

ですが、今日からというわけにいかないのは何故でしょう?」

「神綺様も俺の隠れ家を絶対に見に来るからだ。ユキの話を聞く限り、神綺様も変わってないみたいだしな…神綺様が俺の不在を確認した後、出来れば紫さんに協力してもらい幻想郷から一時的に離れたタイミングで俺が隠れ家に戻るのがベストだ」

「そういうことね…話を聞いた限りだとたしかに魔界神なら豹の隠れ家に来ないはずがない。

 要するに、魔界神が来るまでは今のまま逃げ続ける必要があるのね?」

「そういうことだ。それにもう一つ厄介事が増えたようでな…地底から俺の因縁持ちが地上に来ちまってる」

「ッ!それ、椛さんの言ってた勇儀様!?」

「そうだ、つまり監視小屋で椛が足止めしてくれてる間にカナと上海を逃がしてくれたってことなんだな?」

「そうです、椛さんとリリーさんがあの小屋に残ってくれました。私とカナさんは椛さんにお任せして夢幻館に向かおうとしたのですが…」

「魅魔に邪魔されたってことか…まあそれは仕方ない。だが椛は上手くやってくれたようだ。

椛と勇儀がどうも烏天狗の大将のとこに向かって、リリーは別の誰かに護衛されて帰り道の途中だな」

「椛さん上手くやってくれたんだ!でも、リリーを守ってくれてるのは誰だろう?」

「…少し待ってください。豹さん、私の索敵魔法に改善の余地があれば教えてください」

 

その言葉と同時に上海が術式を展開してリリーの様子を探る。…凄いな、アリスの魔法を身近でよく見ていて、俺が残した資料の知識を隠れ家から貰ったのだろう。

 

「いや、改善する必要が無いぐらい正確に再現出来てるな…ただ、麟の家に張ってある結界内からだと完全には効果を発揮出来ない、か?」

「そうみたいですね…お家で試した時と比べて精度が足りなさすぎです。でもリリーさんを送ってくれてる方は辛うじてわかりました、あれは庭渡久侘歌さんです」

「…一昨日三途の川に向かう途中で会ったあの神かしら?」

「はい、あの時の応対から考えても大丈夫でしょう」

「そうか…なら、どうにかなるかもしれん。皆、よく聞いてくれ」

 

さあ、上海のおかげで逃げ切る希望が見えてきた。ここにいる皆の力を借りて、上手く潜伏しないとな。

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