寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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123話の脱字を修正してます。いつもながら迅速なご指摘ありがとうございます。


第124話 頼れる妹たち

「…それで、上海ちゃんのことで後回しになっちゃったけど。これ、どういう状況なの?

麟さん、だよね?ルナサ、どうやって見つけられたの?」

 

俺が説明を始める前にカナが疑問をぶつけてきた。そういえば、何も話してなかったな…

 

「ルナサ、カナと上海には何も説明してないんだよな?」

「ええ、時間にあまり余裕は無いようだし、豹から説明してもらえる?私からは夢幻館への移動中に補足しておくわ」

「わかった。まず、麟のところに俺が来たのは今朝だ。そしてルナサは昨日の時点で麟と接触してくれていたから俺と合流出来ている」

「――!ルナサさんは、もしかして」

「…ええ、最初から八雲の指示で動いていたわ。騙してしまってごめんなさい」

「もっとも、俺の居場所は紫さんは麟にすら伝えてなかった。カナたちと同行して俺の後を追っていたルナサに偽りはない…信用してあげてくれないか?」

「そういうことかぁ…八雲紫なら豹の居場所を探り当ててるとは思ってたけど。協力者であるルナサにすら教えてなかったってことなのね」

「そのかわり、麟と接触させてくれた。それが昨日だったのだけど…まさかこのタイミングで豹に会えるとは思ってなかったわ」

 

…実際は、そう時間的に変わりは無いんだが。そもそも雛のところにカナたちが向かった時点で、古明地こいしとの遭遇が無くても監視小屋を離れてここに移動する予定だったからな。

 

「当面の予定は今伝えたとおり、神綺様が俺の隠れ家を見に来るまで俺は潜伏。そのために誰を頼るかという話になるんだが…これは今は伏せさせてくれ」

「豹さん、それはどうしてですか?」

「上海には一度アリスにその黒翼に問題が無いか確認してもらいたい。本当に問題が無いかどうかはアリスにしかわからないからな」

「…ですが、私はご主人様に隠し事が出来る気がしません。それにユキさんならこの翼が豹さんに頂いたものだとわかってしまうと思います」

「ああ、そうだろうな。だからこそ俺の行き先はまだ皆に伏せる―――『敵を欺くにはまず味方から』、だ。

カナと上海は、夢幻館に向かった後で一度アリスと接触してくれ。『魅魔との戦闘に俺が介入してきたが、行き先は伝えず去った』と伝えてくれればいい」

 

上海の安全と俺の逃走を両立する好機は今しかないからこそ、強引にでもねじ込む。カナと上海に腹芸をさせないために、俺から与える情報を絞るのだ。

 

「…深く突っ込まれるとボロが出ちゃうと思うよ。それでもいいの?」

「ああ、不測の事態は少しでも可能性を下げるべき…上海を中心とした位置偽装だからこそ、アリスに上海を診てもらうことは必須だ。少しでも負担が出るのであれば、この策は中止する」

「豹さん、本当に逃げる気はあるのでしょうか?私のことより、豹さんの心配をしてもらいたいです。隠れ家さんもそう思っているはずです」

「…上海にまで言われるのか」

「私も似たようなことを言いました。エリーさんとくるみさんも同意してくれましたよ?」

「私も同意しておくわ」

「わたしも~!」

 

フルボッコだった。これが俺だと納得してくれ。

 

「…そういえば上海、宿ってる隠れ家はどんな状態なんだ?俺の声は伝わってるのか?」

「ええと、私もよくわかっていないのですが…夢うつつという言葉が近いのでしょうか?

先ほど豹さんが隠れ家さんと向き合っていただいた時、私は自ら待機状態に入りました。ですが豹さんの言葉と隠れ家さんの言葉は聴こえていたのです…待機状態になれば、視覚も聴覚も切れてしまうはずなのですが」

「人形も夢を見るのかもしれないな…同じ状態だとすると、隠れ家にも聞こえるのかもしれない、か。

なら、一つだけ。ユキも夢子も…神綺様も。俺が魔界へ帰ることを望んでいる。アリスがどうかはわからないが、隠れ家にとっては【敵】でも、俺は未だに【敵】と割り切れない。

だから、なるべく仲良くしてくれ…出来ないのであれば、なるべく俺の傍から離れないでくれ」

「豹さん……」

 

上海をユキと夢子、神綺様が壊すはずはない。だが、宿った隠れ家が先に手を出してしまった場合、追い出されてしまうことは十分にあり得る。

 

上海は、宿った隠れ家のことを受け入れてくれたから。

隠れ家も、上海の家族を受け入れてほしい。

上海の家族は、俺にとっても家族(いもうと)なのだから。

 

「…それで、私たちは夢幻館で何をすればいいのかしら?くるみとエリーも巻き込むということよね?」

「昨日、ルナサはサリエル様と夢幻姉妹についてどこまで聞いている?」

「豹の力になるために夢幻姉妹が魔界で情報を集めてる。そうしないと豹がサリエルを頼れない…こう解釈したけど」

「それでだいたい合ってるな。そして、夢幻姉妹は今夢幻館に戻って来ている」

「「「「っ!?」」」」

 

夢幻館へ続く湖に魔力遮断の結界が張られたのは確認できたし、それより前にはエリー・くるみと夢幻姉妹の魔力反応は夢幻館にあった。そこから逆算すると魔界で夢幻姉妹から情報を求められた相手が到着する前に、魔界からの侵入者を幻想郷側から察知させないための結界だろう。

 

―――すなわち、魔界での情報収集は終わっていると考えられる。

 

「ルナサと麟も同行すれば、夢幻姉妹も穏当に対応してくれるはずだ。だからまずは皆で夢幻館に向かい、夢幻姉妹から見た魔界の情報を聞いてきてもらえるか?」

「それはいいけど、どうやってわたしたちは豹にそれを伝えればいいの?行き先を教えてくれなきゃ伝言すらできないわ」

「ユキが来た以上、何度も使うのは危険だが…俺から一方通行で声を伝えることが出来る魔法具が4つある。

麟、今朝渡したイヤリングは持っているよな?」

「はい、さっそく付けさせてもらいました」

「麟の他にエリーとくるみ、雛が持ってる。だから夢幻館でエリーとくるみどちらかの持ってるイヤリング…通信する予定の時間を考慮すればエリーの持ってる方だな。それをカナかルナサに回してもらってほしい…そうすれば明日、俺が指示を出せる」

 

これをユキと夢子が拾えるとかなり苦しいことになるが、ヴァンパイアのくるみという手札を有効利用すれば何とかなると踏んでいる。ユキと夢子が昔のままであるのなら…睡眠はしっかり取っているはずなのだ。二人が寝静まったと思われる深夜というタイミングでも、くるみなら俺の通信を受け取れるだろう。くるみだけにでも伝わっていれば、翌日エリーとくるみ、夢幻姉妹で手分けして協力者は現地集合という方向で動ける。なによりこれに夢幻姉妹が協力してくれればそのまま囮役もこなしてもらえるのだ。少なくとも博麗の巫女や魅魔の一派、紫さん除く管理者は夢幻姉妹に気が向くだろう。

 

このタイミングで夢幻姉妹が幻想郷に入り込めば、俺と関わりがあると疑うだろう。そして夢幻姉妹は【魔界の住民ではない】…実力行使に出ても全面戦争の引き金とはならない。交渉・暗躍が苦手な彼女たちからすれば先制攻撃(やり慣れた手段)で情報を得られる相手となるわけだ。

そして、夢幻姉妹ならそう簡単に遅れは取らない。派手にぶつかってくれれば今まで距離を取っていた風見幽香の興味を引き、こちら側に引き込める可能性すら出てくる。

 

「あ、そういうことか!くるみならユキが寝てる時間でも起きてるってことね!」

「そうだ。こればかりは賭けになるが…無策で通信するよりは確実だろう。それこそ今から深夜に一度通信するとくるみに伝えてもらえれば、たった一言場所を伝えるだけで済む…一言だけなら流石のユキでも『俺の通信を待ち構える』ぐらいには集中しないと拾えないだろうしな」

「私はたった一つ、それだけをご主人様に隠し通せばいいのですね…!これぐらいなら、できるかもしれないです!」

「頼むぞ、上海…!」

 

これで最低限、夢幻館での目的は果たせるだろう。後、確認しておくべきは…

 

「ルナサ、メルランとリリカはどうする?」

「…私が八雲に捨て駒として切られた際に、豹の助けになってもらうつもりで何も話していなかったけれど。

捨て駒にされるぐらいなら姉妹揃って夢幻姉妹を頼る…豹は夢幻姉妹にこれを受け入れてもらえると思う?」

「そうだな…『逃げ切れたら里香に貰えた攻撃手段を使って相手になることを約束する』と俺が言ってたと伝えてくれ。おそらくこれで夢月は乗って来る」

「………豹さん?止めても無駄なのはわかっていますが、せめて私も立ち会うことは許してもらってください。ついこないだみたいになったら絶対に中断してもらいますからね?」

 

…しまった、麟がこう反応するのは当たり前だ。

 

「…麟、くるみから豹と夢幻姉妹が交戦になったと聞いてるけど。

 麟の反応からすると、何かあったのよね?それを聞かせて」

「いや、それは…」

「豹さん、その戦闘で右腕を切り落とされてしまってました。幸い、切り口が綺麗だったので豹さんの回復魔法と私の麒麟の力で問題なく癒せましたが」

「ちょっ…!?何やってんのよ豹!?大丈夫なの!?」

「カナ落ち着け!麟の言った通り無事にくっついてる!見ての通り大丈夫だ!!」

「豹さん、人形である私でも腕を斬り落とされたら大丈夫なんて言えません。

 本当に、夢幻姉妹という方々は信用できるのですか?」

「信用は出来る。俺との再戦を本気で望んでるからこそ俺の力になってくれてるんだよ」

「それで豹を傷付けるようなことはしたくないわ。そうなるぐらいなら無理にメルランとリリカを巻き込もうとは思わないわよ」

「…俺じゃルナサを納得させられないな。直接幻月と夢月と話してからルナサの判断に任せる。

 明日、どうするのかを聞かせてくれ」

「巻き込むなら明日の時点で連れてくる。それでいいわね?」

「わかった」

 

カナと麟のジト目が痛い。無事だったんだからいいじゃないか…

 

「そうだ、ルナサにもう一つ。さっきカナと上海を救出するためにあの霊場を使ってる。つまり魅魔たちも位置を把握したってことだ…ほとぼりが冷めるまでは近付かないでくれ」

「わかったわ。それと私からも一つ…ジュジュという明羅の知り合いが『魔界と幻想郷が戦争になれば、魔理沙を魔界に差し出すことで矛を収めさせると幻想郷の管理者が伝えて来た』と言ってたのだけれど、どういうことかわかる?八雲紫が魅魔というのにこれを伝える意図がわからないのだけれど…別の管理者の差し金かしら?」

「それは紫さんから魅魔に対しての警告だ。俺やユキ、夢子に手を出すな。出したら魔界に殴り込んだ中で一番捕まえやすい霧雨魔理沙を生贄にするから大人しくしてろって意味だ。

だが、魔界人じゃなきゃ問題ないと判断したから襲撃してきたんだろう。魅魔からすれば、俺をさっさと魔界に追い返せば弟子の安全が保障される―――ユキと夢子が魔界に帰るんだからな。そのためには俺を引き摺り出して袋叩きにすればいい…何故なら紫さん以外の管理者は俺と魔理沙であれば魔理沙を取る。俺が表に出てくれば、管理者も俺を捕らえる方向で動くということを魅魔は理解してるってことだ」

「…要するに、八雲紫の警告を無視して動いたってことなの?」

「そういうことだ。あの魔法使いの師匠らしく、大人しくする気は無いってことだろう…隠居してたとは思えないほど行動が速い。それだけ大事にしてる弟子ってことだろうな…」

「そう。後は私と麟で夢幻館へ向かいながら説明すれば良さそうね…

カナ、上海。アリスの通信人形のこともあるし、一度豹とは離れましょう。この状況で通信が来ると誤魔化せる気がしないわ」

「そうだね。でもその前にわたしからも一つ…椛さんとリリーにはどこまで話す?」

 

…どう誤魔化すか。明日まではリリーを頼るつもりだからな…

 

「…勇儀がどう動くかによって変わるんだよな。椛は立場的に勇儀には逆らえないから、この先どうなるのかが全く読めない。

だから明日は俺と合流するのを優先してもらって、そこで椛とリリーにどこまで話すかを決める。今日は俺が椛の魔力を追っておくから、それ次第だな」

「OK!それじゃ、行きましょ!」

「待て、最後に一つ。夢幻館の皆にも伝えておいてくれ…『古明地こいしに鉢合わせたら、俺の事は隠さずに話してくれ』、だ。麟、詳しい説明は任せる」

「わかりました!」

 

よし、これでとりあえずは大丈夫だろう。

 

「それじゃ、皆。あらためてよろしく頼む…上手く、動いてくれ」

「ええ、やれるだけやってやるわ」

「はい、豹さんのために」

「豹がちゃんと帰って来れるよう、がんばるわ!」

「豹さんも、お気をつけて!」

 

夢幻館に向けて、頼もしい【妹】たちが飛び去って行った。

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