寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第125話 交差し始める繋がり

「―――という状況になっています。おそらく、魅魔さんは遠からず動くでしょう」

「魔界と幻想郷の全面戦争、ですか。その魔理沙という魔法使いは自業自得ですが…決裂を止めるためにヒョウが潜伏を捨てて仲裁に入りかねないのが問題ということですね?」

「そういうことだ。ヒョウは離れてしまった魔界も、受け入れてもらえた幻想郷も守ろうとするだろう…そうなると魅魔とやらの動きはどう転んでも悪い方向に運ぶ。

天使を快く思っていないのは理解しているが、リィスとは協力してもらえないか?」

「それは構わないわよ。私も姉さんも幻想郷に伝手は少ないから、ヒョウの援護に回ってくれる相手をわざわざ潰す必要は無いもの」

「ありがとうございます…!」

 

ここに出向いた最大の目的は何の問題もなく果たすことが出来た。どうやら私が考えていた以上にヒョウは夢幻姉妹の信頼を得ていたようだな…本当に、変わっていないらしい。

 

「ですが、明羅という方のところもすでに離れてしまっているのですね。豹さんは、今どこに…?」

「それに、夢子を足止めしてもらう間にユキを説得するなんて言ってましたよね?それを実行に移してたら、ユキとはもう再会しちゃってるってことになりますし…」

「成程な、兄であることは貫いているのか。

その心配は無用だ。ヒョウとユキが再会していたとしても、ヒョウがすぐに魔界へ帰還することは無い。それだけで揺らぐ意思であれば、すでに魔界に帰って来てくれていたさ…ユキはヒョウの生存を確信していて、一日たりとも呼び掛けを忘れることは無かったのだからな」

「呼び掛け?どういうことよ」

「私が月を追われた件はどこまで聞いている?」

「…あっ!兄妹だけの召喚魔法ですか!」

「その通りだ。ユキは呼び続け、呼ばれるのを待ち続けていたのだ。それにヒョウは応えることが無かった…

それだけ意志を固めていたヒョウなら、永い時を経た再会であろうとそれだけで魔界に帰還することはあるまい」

 

そして、我々はその意志を尊重することでヒョウを迎えるのだ。

魔界に帰ることを選べないのであれば、私のところに帰る場所を作ってもらえばよい。

 

「そうなると、やはりヒョウの居場所を知る必要がありますね。サリエルがここまで出向くことに抵抗が無いのでしたら、夢幻世界に戻ってくるようヒョウに伝えるだけで私の目的は果たされます」

「リィスさん、協力してくれるって里香さんと、一緒に居た明羅は何か知らなかったのかな?」

「ヒョウ様が明羅さんのところを離れてしまった理由が夢子さんに急襲されたことだそうですので、何も聞けずに空間魔法で離脱してしまったそうです…お役に立てず、申し訳ありません」

「そうなんですね…幻月さんと夢月さんは、八雲紫にこちらから接触する手段を持っていませんか?」

「無いよ。藍と顔を合わせた時に確認しておくべきだった」

「八雲紫にこちらから接触するのは最後の手段にしてもらえるか?神綺は明日にも幻想郷に向かうそうだが、それ以前に我々が情報を与えることで彼女の手札を増やしてしまう…

それは『ヒョウが八雲紫の庇護下に入らざるを得ない』状況に追い込まれる可能性を高くする。神綺と異界間の停戦交渉を纏められる程の大妖怪を甘く見ない方がいい。

あれでも神綺は異世界間外交は私より数段上のレベルだ。それを相手にあの大惨事において譲歩を引き出した八雲紫なら、ヒョウを自分の手元から放さない方向に暗躍されると対処が難しくなる」

「…そうですね、言われてみればあの胡散臭い妖怪の賢者を当てにし過ぎるのも危険ですか」

 

私は八雲紫と直接の面識は無い。だが神綺を相手に外交交渉を行うことが相当な難事ということは、神綺と親しいからこそよく知っている…月を追われることになった私に外交の才が皆無ということもあるのだろうが。

神綺は自由奔放なようで魔界に関しては誰よりも深く考えている。その理由は言わずもがなヒョウの反乱…後悔だけが残る結末だったがゆえに、魔界を良い方向に進ませるために尽力しているのだ。特に異界への対応は常に最適解を迅速に選ぶ…時によっては私に協力を求め敵対した異界を滅ぼすという選択を取るほどに。

 

その神綺を相手に魔界側不利な条件で停戦交渉を纏めたのが八雲紫だ。交渉や策謀で私が彼女の相手にはならないだろう…すなわち、妖怪の賢者の相手は神綺に任せるべきなのだ。我々が下手に口を出すと、逆に利用されかねない。

 

「それじゃやっぱりルナサとカナに協力を求めたいかな…リィスさんは、幻想郷に他の伝手あります?」

「申し訳ありません、私も普段は幻夢界と魔界で過ごしていますので…幻想郷の知り合いは魅魔さんと繋がりのある方だけなのです」

「それなら2択ね。サリエルとリィスもカナとやらが来るまでここで待機するか、リィスが里香とやらを魔界経由でここに連れてくるかよ」

「そうなるだろうな。だが、もう一つ問題がある…リィスは魔界でも幻想郷でも目立つということだ。

魔界経由で戻るなら私が、幻想郷経由で向かうならここにいる誰かに護衛を頼みたいのだが」

「あ、それもそうですね。それならサリエルが護衛として魔界経由で行ってもらっていいですか?

私と夢月も幻想郷に出ると目を付けられるでしょうし、くるみもヴァンパイアで昼間は目立つからエリー一択になるけれど…エリーとリィスだけだとエリスと幽玄魔眼の迎撃は難しいですよね?」

「そうですね…そのリスクを考えると、サリエルさんにお願いしたいのですが…よろしいでしょうか?」

「構わないさ。エリーもくるみも、全面的に私とリィスを信じてくれたのだ…それぐらいはやらせてくれ。

リィスに里香を連れて来てもらい、再度私達が夢幻世界を訪ねる。これでよいだろうか?」

「お願いしましょうか。行ったり来たりさせて悪いですけれど」

「気にするな。私もただ待つではいけないと判断したからここにいるのだからな。

 リィス、行くぞ」

「かしこまりました!」

 

ヒョウによる繋がりが、増えていく。それは私にとっても、リィスにとっても良いことなのだろう。

それならば、行動を躊躇う理由は無い。リィスと共に、里香とやらを迎えに動こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、兄さんの居場所を教えて」

 

ストレートにユキが紫へ質問をぶつける。自覚してるようにユキは腹芸が得意じゃないから、真正面から問いかけることにしたのでしょう。

私と夢子が裏を読めばいい。ユキは素直だからこそ、不必要なことには話を向けないのだしね。

 

「今朝までは地底の監視小屋に居たようね。私が貴方達をここに迎え入れた時点で離れていたけれど。

流石にここから豹の居場所を探ることは出来ないわ」

「それは、幻想郷に戻れば探し出せるってこと?」

「時間を貰えれば、ね。

 だけど…私が素直にそれを教えると思って?」

 

…あの胡散臭いスキマ妖怪とは思えないほど、ハッキリと答えたわね。

それに、この返しだと…!

 

「紫、魔界を敵に回すつもりですか?」

「そう見えても仕方ないけれど、全面戦争になるのは全力で回避するわ。

 ただし、豹に関してはこれ以上魔界に協力はしません。

 豹自身が、魔界に帰ることを拒んでいるのですから」

「つまり、先輩を探すことを止めはしない。でも居場所を把握しても私たちに教える気は無い…と」

「そのかわり、霊夢たち4名の監視はしてあげましょう」

「…八雲紫、既に白黒つけずに傍観できる状況ではありません。貴方は幻想郷の安定より彼の者の希望を尊重するというのですか?」

「逆よ、閻魔様。豹を捕らえるために私が動くと、豹の動きが読めなくなるわ。

豹が迎撃ではなく逃走に専念しているのは、我々八雲の後ろ盾があるからよ。この後ろ盾を失うと、豹が【幻想郷に迷惑をかけない】ことを放棄して動いてしまうわ。ここで豹の引き渡しを求めてきたように、魔界は豹を欲している。今の状況で八雲が豹を見捨ててしまえば、魔界と幻想郷で身柄の引き渡しに合意したと取られてしまう…そうなれば完全に幻想郷を敵として動いてしまう可能性が出てくるのよ」

「つまり、紫が中立を貫くことで豹の行動を制限すると。

ですが、今の状況となっても豹が逃走に専念し続けるというのは不透明ではないかしら」

「兄さんから先に手を出すことは絶対に無いよ。妹のわたしが断言してあげる」

「私もそう考えているわ。貴方たちほどではないのでしょうけれど、豹には長く助けられてきた…

私が豹を裏切らない限り、豹も私を裏切らないでいてくれる。それだけの信頼関係は築いて来たわ」

「…先輩を、丁重に扱ってくれていたのですね。

 魔界の重鎮として、御礼申し上げます」

 

映姫はまだ不満気ではあるけれど、これ以上は口を挟んでこない。茨華仙も紫の反応で信を置くことに決めたようで、これ以上は介入するつもりはないようね。となれば、後は私たち…

 

「―――藍、何かあったのね?」

 

と口を開こうとしたところで藍が戻って来たわ。本当に霊夢を神社に送り帰しただけみたいね。

 

「ここにいる全員が把握しておいた方が良いだろう。先程、魅魔と魔理沙が分散して行動していたカナと上海を襲撃したそうだ」

「「「なっ!?」」」

 

ユキと夢子と声が揃ってしまった。あの悪霊、早速やらかしてくれたわね…!!

 

「だが、豹が空間魔法で救出したらしい。問題なのは、橙ではどうやって遠距離から空間魔法を繋いだのか理解できなかったようでな…

そして救出した先でさらに空間魔法を用いて移動し、それ以上は追えなかったそうだ…私も探ってみたが見つけられていない。おそらく魔力遮断領域を展開した内部に移動している」

「そう…魅魔と交戦したわけではないのね?」

「はい、それに関しては橙だけでなくあうんも確認しています。そして豹を取り逃がした魅魔一派は分散し、魔理沙が神社に向かっていますが…今の交戦を理由に捕らえましょうか?」

「…いえ、霊夢に任せるわ。霊夢が魔理沙をどう扱うのかを見極める機会になる。

ただ…魔界側は彼女に対しての要望はあるかしら?助力してもらえるのであれば今ここで捕らえても良いけれど」

 

紫はもう魔理沙を切ることを前提に動いているよう…いえ、魔理沙と豹なら豹を取るということね。霊夢の動向によっては八雲直々に魔理沙と魅魔を敵に回すということ。

それは私たちにとって好都合。幽香は今のところ動く様子が無い以上、最も警戒すべきは魅魔の一派。それを抑えてくれるのであれば、豹捜索の時間稼ぎとして魔理沙は泳がせておくべき――夢子とアイコンタクトを取り、考えが一致してるのを確認。

 

「私たちも霊夢に任せておいてほしいわ。私はともかく夢子とユキは迎撃するわけにいかない立場…霊夢が排除するにせよ、行動を共にするにせよ最重要警戒対象が集合してる状況は理想的だわ。

なにより、今の時点で魔理沙を確保しても豹の居場所がわかるわけじゃないしね」

「そう。なら橙に任せておきましょう」

「紫、私は戻るわ。魅魔が次にどう動くかは把握しておくべき…私が動きましょう」

「あら、助かるわね。それならあうんか玄を連絡役として連れて行って構わないわ」

「それでは玄を連れて行かせてもらいます。藍、悪いけれど頼むわ」

「私も帰ります。これからどう転ぶにしろ、今の時点でこの場で得られる情報にそれほどの価値はありません。

幻想郷と魔界で戦争になるような行動を確認した場合、私も介入します。魔界からの客人は、努々お忘れなきよう」

「そう…お疲れさまでしたわ閻魔様」

 

茨華仙と映姫もここで退出するようね。それを引き留める必要は無い…そうなれば八雲と私たちだけでもう少し突っ込んだ話が出来る。中立を保つなんて言ってるけど、この胡散臭いスキマ妖怪がそれだけで済ませるとは考え辛い。

 

真意がどうであろうと、もう少し牽制だけでも入れておくべきだものね。

 

「では、こちらに」

 

茨華仙と映姫を連れて、藍が再度スキマに消える。

まだ、豹について大きな情報は引き出せてないわ。もう少し、粘らないとね。

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