寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第127話 賢者の介入

「失礼しますね」

「…あの、不法侵入しておいてそれはどうなのでしょう?」

 

人里の有力者とのことなので、守衛を避けるために上空から直接中庭に降り立ちました。真面目に門番をされてしまうと無駄な時間になってしまいますので。

幸いなことに、話に聞いていた稗田阿求は中庭から視認できる部屋で文机に向かっていました。ただ、もう一人人間の少女もいらっしゃいますね…あまり話を大きくはしたくないのですが、侵入者として自警団や例の巫女を呼ばれてしまうと面倒です。妙な動きをしたら軽く口封じしてしまいますか。

 

「…まさか竜宮の使いさんですか!?」

「ちょっと、小鈴!」

 

…なんて考えていると少女の方から私に話しかけてきてしまいました。随分と好奇心旺盛な少女のようですね。

下界に降りる同族なんて皆無ですし、私が目立ってしまうのは仕方のないことですが…何の躊躇いもなく人外と会話を試みようとするのはいけませんね。人間として危機感が足りていません…

―――そうですね、これを理由に大人しくしていてもらいましょうか。後々口封じに動く方が面倒ですし、ここで何も聞かせなければ良い話です。

 

「はい、いかにも私は竜宮の使いですが…貴方は不用意が過ぎますよ?

見慣れない妖怪に何の警戒心も持たずに話しかけてしまうなんて…攫われたり呪われたりしてからでは遅いのです」

「…へっ?え、なになに!?」

 

そういうわけで羽衣を操り目と耳を塞ぎ、そのまま座布団の上で拘束してしまいます。

 

「稗田阿求さんですね。この子に聞かせる必要は無い話をしたいのです。貴方が説得すればこの子は素直にここを離れて頂けるでしょうか?」

「え、その…たぶん興味本位で食い下がって来るんじゃないかと…」

「ちょっと、なんなのー!阿求、助けてー!」

「そうですか。では手短に終わらせましょう。

ヒョウという殿方のことをご存じでしょうか?」

「っ!?何処で、その名前を!?」

「姫海棠はたてという烏天狗の方から、メルランさんのライブを手伝ってくれていると聞きまして。

一言お礼申し上げようと思ったのですが」

「止めた方がいいです!!あの男は危険…天界の住人であるあなたであろうと敵視されてしまう可能性があります!」

「…それは、どういうことでしょうか?」

 

ルナサさんのお話よりもずっと、ヒョウという方を敵視していますね。すぐそばで助けを求めている少女のことなどすでに意識の外です。

 

「あの男は、自分の都合で脅迫や洗脳を行うような悪党なんです!

私は脅されていますし、人里に居た姉のような人も都合のいいように誑かされてしまっているんです」

「メルランさんがライブの準備を手伝ってもらうほど信頼なさっている方が、悪党だなんて思えませんが」

「騙されてるんですよ、絶対に…!あんな冷酷な目で脅しをかける奴が、善意だけで行動するはずがない…!」

「ライブの手伝いをしていたのでしたら、人里での目撃証言が他にも出ているはずです。そのような目をしていたのであれば、あなた個人ではなく人里全体から危険視されていなければおかしくないでしょうか?」

「う、それは…」

 

―――成程。あくまで稗田阿求個人が敵視しているだけで、人里全体から敵視されているわけではないようですね。口ごもったということは、逆に人里の関係者にも好意的な方がいるということ…おそらく、協力を断られた相手がいると見ていいでしょう。そうでなければ()()()()()()()ます。

人里の有力者である以上、幻想郷を管理する大妖怪と面識があるはずです。人里の支配層であるこの少女が、脅しをかけられただけでこうも一方的な思考になるとは考え辛い。すなわち、脅迫された後にますます立場が悪くなる出来事があったということです。

 

そして、有力者と言えど彼女は人間。対抗できるだけの力は持っていない。

戦力として期待していた存在に、味方に付いてもらえなかった…そう考えればこの余裕の無さも頷けます。

 

「ですが、その様子だとヒョウという殿方のことを詳しくは知らないということですか」

「………一つだけ、あの男に関連して知っていることはあります。

 幻想郷を管理する賢者の一人・摩多羅隠岐奈は、豹の追放もしくは粛正を目論んでいます」

「ッ!?―――それは…穏やかではないですね」

「私はこれに賛成ですが…そもそも豹の存在を知るのは大妖怪でも一握りなのだそうです。そのため、逆に賛同者が少なく見過ごされていると聞きました」

「それは、どなたから?」

「摩多羅隠岐奈に仕えているという二童子からです。人間である私に情報を渡したのですから、賛同者が少ないということは真実なのでしょう。

あらためて、忠告しておきます。豹は危険です…幻想郷の管理者からも睨まれているほどに。

天界で暮らしている貴方だからこそ、絶対に関わらない方がいいです。地上と天界で、余計な諍いを起こしてしまう可能性がありますから」

 

ひとつ、具体的な情報が得られましたね。これで十分でしょう。

 

「私も面倒なことは嫌いですので、そのお言葉は受け取っておきます。

 じゃ、私はこれで失礼しますね」

 

羽衣を手元に戻して飛び立ちます。雷鼓さんと合流して、ルナサさんの帰りを待ちましょう。

 

 

 

「な、なんだったのよー」

「…小鈴、悪いことは言わないわ。この一件には関わらない方がいいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだねえ龍、邪魔するよ」

「…勇儀様、今更地上に何の用でしょう」

 

勇儀様に追随して大天狗様の仕事場に入ります。私のような下っ端が連日入れるような場所ではないのですが、勇儀様が私を止めようとする方々に片っ端から喧嘩を売るのですでに飯綱丸様に報告が上がっていたようです。

…それはそうですよね。鬼の四天王である勇儀さんを相手にするのは『弾幕ごっこ』という手加減をして頂いたとしても、受けて立つ天狗はいないでしょう。それこそ、私のような若輩者より古参の皆様の方が勇儀様の強さを理解できているのですから。

 

要するに、皆が飯綱丸様に押し付けて通常業務に戻ったのでしょう。私も気持ちはよくわかります。

 

「なあに、逃げ切られちまった奴の生存確認が取れてねえ。再戦と洒落込みに来たのさ!

 それでこの椛が知り合いだってんでね。道案内役としてしばらく借りてくよ」

「犬走の知り合い…?

 ―――っ!?まさか!?」

「お、流石に昨日の今日じゃ思い当たっちまうかい。

 やらかしたのはその管狐だね?よくもまあ豹を見つけられたもんだ」

「………」

 

菅牧様が顔を青くして黙り込んでいますね…詳しい話を聞いた今となっては、菅牧様の反応も理解できてしまいます。魔界神の護衛という、本来であれば私などが師事出来るような方ではなかった豹さん…その事実を知らずに『豹さんに捕縛される』ような行動を取り、そのまま八雲紫の元に連れ去られてしまった。師事したことのある私だからこそ、豹さんの底知れない【本気】が凄まじいことを知っている…

私が同じ状況に置かれたとしたら、消えないトラウマになってしまうでしょう。

 

「ま、あんたらと豹のいざこざは私が知ったこっちゃない。勝手に動くといいさ。

ただし、私の喧嘩の邪魔したら容赦しないよ?決着(ケリ)が着く前に椛を連れ戻そうとするのも許さない…龍にとってもこれは悪くないだろ?案内役がいれば私が地上をうろつく時間も少なくなるんだからねえ」

「…そうですね。白狼天狗一人の欠員を防ぐことに対する代価が勇儀様のお相手というのは割に合わなさ過ぎます。

わかりました。犬走は好きにお使いください」

「まったく、天狗は相変わらずだ。少しは喧嘩に付き合ってほしいもんだがねえ…

ま、いいだろう。天魔にはこれから私が話を付けておいてやるよ」

「助かります」

 

…あっさり私の自由行動が認められてしまいました。地底に移ったとはいえ、やはり鬼の四天王である勇儀様の影響力は別格ということです。

 

「んじゃ、次は天魔だ。椛、付いて来な」

「はいっ!」

 

 

 

 

「………典。この展開も予想していたのか?」

「そんなはずないですよ!なんであんな大物が乗り込んでくるんですか!」

 

まあそうだろうな…どう考えても地底に引っ込んだ鬼の四天王を巻き込む必要なんぞない。協力を要請しても手に余るし、好きに動いてもらっても管理者からすればかつての部下である我々天狗に丸投げして来るであろう相手だ。要するに余計な仕事が増えたということである。人員不足な白狼天狗を一人引き抜かれた上で、だ。

 

「まあ、豹を敵として見てくれているのが幸いか…

典、しばらくは身の安全を優先しろ。私でもあれは止められん…部下への通達は私がしておく」

「…はーい」

 

やれやれ…本当に私にとって豹は厄介者だな。利用価値がわかるからこそ惜しい。

手駒として使えるのであれば、これ以上なく優秀なのが…敵にしたからこそわかるのだ。

 

すごすごと外へ向かう典の背中を視線に入れながら、私も増やされた仕事を片付けることにした。

 

 

 

(くうぅ…どうしてこんなことに。あのクソ野郎に痛い目は見せてくれるでしょうけど、私が暗躍してるのがバレたら矛先がこっちに向きかねない!これだから脳筋な鬼は面倒なんです!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう霊夢、ちょっと手を貸してくれ」

「素敵なお賽銭箱はそこよ」

 

まったく魔理沙は…しょっちゅう神社に来るくせにお賽銭箱に見向きもしない。

 

「霊夢にも関わる事件なんだよ、頼むぜ」

「知らないわよ。しばらく魔理沙は大人しくしてなさい。

 面倒なことになってるのはこっちもだわ」

 

そう返すと、魔理沙の表情が変わった。

―――あぁ、そういえばカナが言ってたわね。魅魔が動いてるって。

アリスの方が怪しかったし実際当たりだったわけだけど、魅魔も動いててこの反応ってことは。

 

「魔界人の豹、だな?」

「…どこまで聞いてるのよ」

 

本っ当に面倒なことになってるわね!私が動く前に動いてるじゃない!

 

「私が魔界との取引に使われるってことまで聞いてるぜ。ふざけた話だよな!

知らないところで勝手に話を進められてたまるか!だから私たちで豹を魔界に突き返す。それで済む話だろ?」

「魔理沙と魅魔はそうでも私はそうじゃないわ。私にこの件を言って来たのは紫に華扇と説教臭い閻魔よ?あいつらに続けて説教されるのはごめんだわ。だから魔理沙は大人しくしてなさい」

「うげ…なんだその組み合わせ。

 だけど霊夢はそれでいいのかよ!博麗の巫女が異変を放置するってのか!?」

「放置はしないわよ。

 魔理沙を大人しくさせてやるわ」

「――ちっ!

 やる気が無いのはよーくわかった、久しぶりに全力で相手してやるぜ!!」

 

ま、話を聞いてるなら魔理沙はこう動くわよね。

 

「ふん、私に敵うとでも思ってるの?返り討ちにしてやるわ!!」

「上等だ!」

 

 

 

「そうはいかんな。貴重な戦力の潰し合いはさせんよ」

 

 

 

「「っ!?」」

 

同時に背後に現れた扉へ、私と魔理沙は吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで動くか、摩多羅隠岐奈」

 

博麗神社に向かっていた霧雨魔理沙の魔力反応が、博麗霊夢と同時に感知できなくなった。これだけなら紫さんという線もあったのだが、少し遅れて魅魔の魔力反応も別の二つの魔力と同時に消失している。紫さんが魅魔に今の時点で情報提供をする必要性が無い以上、こんな芸当が出来る相手は限られるのだ。

 

(二童子に魅魔を迎えに出向かせ、異変の解決役を担う少女二人を自ら確保する、か。

皆はまだ夢幻館に辿り着いていないが…こうなっては俺の監視網がさらにキツくなる。幽玄魔眼の襲撃は無いことを祈るしかないか)

 

リリーは無事家に辿り着き、その護衛をしてくれていたらしい庭渡久侘歌も引き返している。どうやら監視小屋に戻って行くようだが…キクリ様なら誤魔化してくれるだろうし大丈夫だと思うしかないか。

つまり、移動するのであれば今はまたとない好機。

 

「行くか…リリーを誰に託すかも考えないとな」

 

麟の家を離れリリーの家に駆ける。魅魔と摩多羅隠岐奈が決裂してくれればだいぶ楽になるが、どうなるか…

 

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