寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第129話 問題の先送り

『聞こえてるわアリス。でも…予想外の状況になってしまったけれど』

 

スキマで送られた先は白玉楼の門前。中に入る前に人形で通信したいと伝えると、藍も上海とカナを救出した豹の動向が気になるようで通信に加わりたいと言って来たわ。なので中に入る前に通信を試みたのだけど…

 

『申し訳ありませんご主人様!先ほど魅魔さんと魔理沙さんに襲われてしまって…あの子を囮に使ったので回収できなかったんです!ご主人様が回収してもらえますか!?』

「え、つまり上海とカナもルナサと合流してるってこと?」

『…ええ、豹が戦力を集中させてくれたのよ。私の目的を果たしつつ、カナと上海も合流出来たわ』

「あれ?ルナサの目的って…なんだったっけ?」

「……思い出せない?これは…?」

『…やはり、ルナサさんだけが特別なのですね。

 はじめまして、私は冴月麟といいます』

「冴月、麟………ああっ!?」

 

また、忘れていた…!ルナサが単独行動していた理由。

豹の隠れ家を訪れたことのある、最後の一人…!

 

『麟の方から私に接触してくれたわ。そこに豹がカナと上海を送ってくれたのよ』

「ってことは、カナちゃん兄さんと会って来たんだよね!?」

『うん。助けてもらえたし、お家の想いもちゃんと受け止めてもらえたわ!

でも、敵を欺くにはまず味方からって…すぐにルナサと麟さんのところに送られちゃったわ』

『豹さんは、先走って単独行動してしまった私を気にかけてくれたようです。

私も、夢幻館に向かおうとしていましたから…』

「麟と言ったわね?つまり先輩が直接あなたのところへ空間魔法を繋ぐことが出来たということ?」

『はい、本来であれば緊急時に私のところへ脱出するための魔法具でカナさんと上海ちゃんを送っていただけたようです。魅魔さんからの救出と、私への援護を兼ねた判断だったのでしょう』

「そう…麟、あなたも豹の行き先は知らないということね?」

『…私では、豹さんの足を引っ張ってしまいますから。ただ、大怪我をしてしまったら私を頼るとは約束してくれました。癒すことだけは、豹さんよりも上手く出来ますので』

 

私たちが隔離されてる間に事態が大きく動いてしまったようね…次に何を聞くかを考えていると、先に藍が割って入って来た。

 

「…麟、その覚悟はもう揺るがないんだな?」

『ごめんなさい、藍様。私は…豹さんのために動きます』

「そうか。ならば…その想いのまま動くといい」

『…八雲藍。アリスと同行してるとはいっても、あなたたちの依頼は変わらないのよね?』

「ああ、豹を頼む。麟とうまく協調してやってくれ」

 

…成程ね。冴月麟は八雲の関係者だったということ。でも八雲より豹のことを優先したわけか。

それは中立を保つ必要がある八雲からの離反を意味する。麟がどれほどの相手かはまだわからないけど、今の話で治癒能力持ちということはわかった。豹からすれば、リスクを冒してでも守る価値のある相手だということ…上海とカナと直接顔を合わせてまでも。

 

『ご主人様。隠れ家さんの想いを伝えることは出来ましたが、私はやはり豹さんは幻想郷に留まっていてほしいのです。もう少し、別行動させてもらいます…!』

「上海の思うようにしなさい。ただ、魔力残量は大丈夫なの?」

『はい、豹さんがものすごい方法で補充してくれましたので…!

後で、問題が無いかをチェックしてもらいたいです。なので、夢幻館での用件が終わりましたらご主人様の家に一度帰ります。カナさんに付いてきてもらいますので、詳しいことはその時でよろしいでしょうか?』

「…夢子、ユキ。いいかしら?」

「そうだね…ここからカナちゃんたちの居場所は遠いのかな?」

『わたしたちは夢幻館に続く湖に入ってすぐよ。アリスたちは?』

「白玉楼の正門前よ。距離が離れすぎてるわね…

お互い、目的地での用件を済ませてから合流にしましょう。ただ、こっちは霊夢と魔理沙・魅魔に襲撃されると厄介なことになる。私の家まで来てもらう形でいいかしら?」

『…それがいいでしょうね。それならアリス、カナが持っていた通信人形(マトリョーシカ)をメルランとリリカに向かわせることってできるかしら?』

「不可能ではないけれど、ある程度の集中が必要になるからこれから会談することを考えると避けたいのよ。

だから後で合流した際に渡し直すわ。家までなら片手間で戻せるから」

『わかった!ごめんねアリス、手荒に扱っちゃって…』

「魅魔を相手にしたのでしょう?仕方ないわよ。

 悪く思ってるなら、後で何も隠さずに情報交換して頂戴」

『…それは、私も顔を出した方が良いでしょうか?』

「先輩が頼るほどの子なら、私たちも直接会いたいわ。魔界人として、感謝も伝えたいしね。

来てもらえるかしら、麟?」

『わかりました、お邪魔させてもらいますね』

「それじゃ、詳しい話はお互い次の目的を済ませてから。

 ルナサ、時間がかかっても構わないからメルランとリリカも連れて来なさい」

『…わかった。それじゃ、また後で』

 

ルナサの返答を最後に通信が切れる。結局のところ、霊夢・魔理沙・魅魔の動き次第で私たちが臨機応変に対応しなければならない…索敵だけは怠らないようにしないと。

 

 

 

(…カナとあの人形を上手く引き込んだようだな。流石は豹)

 

どこまでが真実かは判別できないが、麟とルナサも夢幻館に同行している以上こちら側に回ったと見ていいだろう。そして都合良く麟と我々が繋がっていることも示唆できた。これなら―――

 

「冴月麟って子のことも教えてもらえる?何かあるのよね?」

 

ユキが食いついてくれた。これで時間稼ぎが伸ばせる…麟のことは記憶することがほぼ不可能。それならば最大限に情報を与えることによって会話を引き延ばせるのだ。そして豹がカナと上海を麟に付けたということは、まだしばらくは単独行動するということ…つまり魔界人を長く拘束することが豹への効果的な援護になる。

 

「そうだな、幽々子様と会談する前に説明しておこうか…

麟が冥界を訪れるときに、希望を持たせてしまうのも酷だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ…なんとか乗り切れたかしら」

「そうですね…不自然な点は無かったとは思います。ただ、ご主人様と夢子さんがどこまで裏を読んでいるかにもよってしまいますが」

 

豹が細かい指示もなく離れたということにして、アリスたちからの追及を先延ばしにする。通信があった直後に麟がこの方針でと言ってきてくれたから、なんとか凌げたとは思いたい。

 

「でも、麟さんよく即座に反応できたね!わたしだったらもっと動揺しちゃってたと思う!」

「忘却の呪いは交渉や取引で逆に利用できますので、紫様と藍様からこういう状況で素早く対応できるように仕込まれていますから…もっとも、今回は人形越しだからこそ誤魔化せたのでしょう。

私はまだ小娘にすぎません。紫様や藍様が私を使者として使いたいような相手では、面と向かってしまうだけで私の本心なんて見抜かれてしまうでしょう」

「だとしても、今ここにいる中では一番冷静に対処できているわ。本番でも頼りにさせてもらうと思う」

「はい、私に出来る限りは」

「お願いしますね、麟さん……っ!」

 

上海の反応で私も…カナと麟も気付いたわ。こちらに向かってきてる魔力が、2つ!

 

「ルナサさん、いらっしゃってくれましたか」

「…え?なんか凄いことになってない?」

 

エリーとくるみが、夢幻館からここまで出向いてきてくれたわ。

 

「何かあったのかしら?迎えに来てくれたというわけじゃないのよね?」

「4人も同時に夢幻館に来るなんて滅多にないので、敵襲の可能性も考えた結果なのですが…

上海に何があったのでしょうか?」

「うん、魔力量が昨日と比べて桁が違うよね?外付けの魔力翼なんて、何処でもらったの?」

「豹さんが創造してくれました。私が魔力不足で行動不能になるリスクを少なくするためには、これぐらいの魔力は必要だろう、と」

「…本当に、豹さんは凄いですね。ですが、ご一緒ではないのですか?」

「そこも含めて説明するわ。ただ、いくつか解決しておかなくてはならない問題がある。

まず前提としてなのだけれど…豹は夢幻姉妹が夢幻館に戻っていると言っていたわ。これに間違いはない?」

「はい、もしも夢幻館に向かって来たのが皆さんでなければ私とくるみが足止めと救援要請に分かれるつもりでしたので」

「あ、それなら先に夢幻館で合流しちゃわない?人形の対策してくれるかもしれないし!」

「っ!昨日置いていくか聞かれた通信人形(マトリョーシカ)ね。そうしましょ、私たちが考えるより確実な方法を出してくれると思う!」

 

 

 

「壊しちゃダメなの?」

「その、私の妹でもあるんです。どうか優しく扱っていただけないでしょうか…!」

 

夢幻館に到着して早速エリーさんがアリスさんの人形に関して説明してくれたのですが、夢月さんの返答は身も蓋も無いものでした。それも即答です。

それに対して上海ちゃんが臆せずに説得を試みています。私と同じように、格上相手にも退かない覚悟が出来ているのですね…隠れ家だけではなく、アリスさんの人形すらもここまで夢中にさせている。やっぱり豹さんは罪作りですよね。

…完全に依存してしまっている私が言うことではないのでしょうけれど。

 

「それならこうしましょうか」

 

幻月さんが言葉と共に正六面体の結界を人形の周囲に展開してくれました。その内部は暗闇に包まれていて何も見えません…この様子だと音も遮断出来ているのでしょうね。

 

「それでは、あらためて挨拶を。私が幻月、夢月の姉ですわ」

「私が夢月。それにしても…本当にヒョウの周りは面白いね。他人が作った人形に外付けの魔力翼を取り付ける、か。

コツを教われば、私の翼も再現出来たりするのかな」

 

夢月さんが上海ちゃんの黒翼を眺めながら言葉を溢しています。豹さんなら夢月さんにもわかりやすく教えて、ますます夢月さんを好意的にしてしまうのでしょう。

 

(本当に、私では足元にも及ばない皆様も豹さんを慕っているんですね…

 紫様と藍様で理解はしていましたが)

 

ルナサさん、カナさん、上海ちゃん。エリーさんにくるみさん。幻月さんと夢月さん。私はどなたを相手にしても足止めとして食い下がることすら難しいでしょう。ですが、それだけ頼れる皆様が豹さんに力を貸して下さるのです。

私にも、出来ることはある。せめて、皆様の足を引っ張ることだけはしないように。

 

「軽く私たちも自己紹介しましょうか。私がルナサ・プリズムリバー。八雲の駒として動いていた内通者よ」

「わたしはカナだよ~、カナ・アナベラル。豹の隠れ家に取り憑いてるわ」

「豹さんと隠れ家さんのために、ご主人様から離れている上海です。よろしくお願いします」

「私とエリーは昨日話したから大丈夫だよね?」

「うん!死神さんがエリーで、ヴァンパイアがくるみよね」

「はい、見ての通りです」

「よろしくお願いしますね。

 ちなみに、時間に余裕はありますか?」

「今日はもうあなたたちと今後の予定を詰めたら、アリスたちと情報交換するだけよ。そっちを遅らせるから、ここで出来る限りの全てを済ませてしまいたいわ」

 

幻月さんの問いにルナサさんが答えると、夢月さんが想像以上のことを伝えてくれました。

 

「なら丁度いいわ。情報交換が終わってもしばらく夢幻館(ここ)に留まってよ。

 サリエルが夢幻世界に戻ってくることになってるから」

 

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