寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第130話 秘神との契約

「…あんたが何の用よ?」

「私たちは暇じゃないんだぜ?」

「豹の存在を知ったのだろう?情報を提供してやる…魅魔も迎えに行かせてるから、少し待て」

 

なんで紫以上に厄介なのが関わって来るのよ…魔理沙と魅魔を大人しくさせるってだけでも割と面倒なのに。

でも、豹とやらの情報を渡す気があるのであれば話を聞いてやってもいいわね。魔界から来た連中の言葉が本当なら、真正面からやり合うのはなるべく避けたいわ。

 

「…おい霊夢、一時休戦だ。豹って奴の話は聞いときたいからな」

「同感ね。正直無策で捕まえるのは苦労しそうな奴みたいだし」

「ん?豹のことを誰から聞いた?」

「ついさっき紫に拉致されて、紫と魔界から来た金髪二人に聞かされたわよ。知りたくもない魔界と月のことまでね」

「私は魅魔様と明羅から軽く聞いただけだぜ」

「ふーん、紫が博麗の巫女に伝えたの。どうやら思ってた以上に余裕が無いみたいね…でも、月とは」

「急に口調が切り替わった…その気持ち悪さはどうにかならないのか?」

「どうでもいいわよそんなこと。さっさと吐きなさい、どうせアンタは直接豹とやらとやり合う気は無いんでしょ?」

「その通りだけど、ちょっと待ってよ。魅魔も多少は豹のこと知ってるなら、私もそれを聞きたいわ」

「私の知ってることをアンタが知らないなんてことがあるのかい?」

「魅魔様!明羅はどうしたんです?」

「呪珠の護衛に回したよ。ちょっと見積もりが甘かったからね…呪珠の単独行動は危険だと思ったのさ」

 

…ボロボロになっている手下の二人を引き連れて魅魔が出てきた。まあ、あの二人が魅魔にケンカを売ったらこうなるわよね。

 

「このポンコツ二人組は…なんで迎えに行かせたのにズタボロにされてるんだい」

「僕達は悪くないですって…」

「話しかける前に先制攻撃されたんですよー…」

「私の後ろを取るのが悪い。目的を吐かせるために生かしてやっただけ感謝するんだね」

「成程、他の賢者も一目置くだけのことはあるわけか。まさか悪霊がここまでの力を持つとは」

「人間界は私のものだったのよ?相応の力を持つのは当たり前さ。

まあ、今はそんなことどうでもいい。豹に関して、何を知ってるんだい?」

「そうね、もたもたしてると紫が割って入ってくるでしょうし。

―――舞、里乃。紫の侵入を出来る限り妨害しろ。抜けられたら抵抗せずに私のところまで案内して」

「「おおせのままに、お師匠様!」」

 

そう言って二人が姿を消した。まあそれはどうでもいい――今、聞き捨てならない言葉が出た。

 

「紫を妨害?アンタ、何を企んでるのよ」

「紫の目を覚まそうとしてるわ。流石に今回は見過ごせないのよ。

 大事にされてる側の博麗の巫女には実感し辛いだろうけど、紫は身内に甘いからね」

「はあ?あの胡散臭いのが?」

「…ああ、そういうことかい。有力者内で豹の処分を意思統一できてないのね」

「その通り…まあ正確には、管理者で豹の存在を知っているのが私含めて3人しかいないせいで意思統一まで行かないんだが」

「は?あんなとんでもない空間魔法使いなのにお偉いさんが知らないってどういうことだよ?」

「紫が隠してたみたいよ。裏でコソコソ動く面倒な仕事をやらせてたらしいわ。

それで、魔界から迎えに来たって妹とメイドの話に付き合わされたのよ」

「―――迎えに来た、か。

まあ奴は八雲の隠者としての方がまだ知られてるわね。代替わりしてすぐの頃は、貴方の後始末もしていたのよ?」

「それをついさっき紫に聞かされたわよ。だから何?

とりあえず、魔界と戦争にならないように私がそいつをとっ捕まえる方法を教えなさい」

「へっ、やっぱ霊夢もそう思ってるんじゃないか。私とやり合うより優先すべきはこっちだぜ」

「うるさいわね、余計な事したら魔理沙を黙らせるのは本気よ」

「その時は私が霊夢を止めてやるよ。

ただ、今は少し黙ってな。時間はあまりないらしいからな」

「そうね。ただ、思ったよりも早く話が済むかもしれないわ…

 ねえ霊夢、豹と月に関係があるというの?」

「豹ってのは昔、月で永琳や依姫を相手にやり合ったことがあるとか言ってたわよ」

「なっ!?」

「うん?魔理沙、なに驚いてるんだい?」

「―――!これは重畳。霊夢がその話を聞かせてくれたことでいい策が浮かんだ…!」

 

うわ、悪巧みしてる紫みたいな顔になった。

 

「魅魔から話を聞く必要が無くなったわ。手短に終わらせて紫の相手を私がしましょう。

 貴方達に頼みたいのは二つだけ。まず一つが『豹を燻り出すまでは待機してくれ』よ」

 

…結局紫と同じことを言ってきた。異変なのに手を出すなってこと。

でも、まだ素直に頷ける理由にはなっているわ。

 

「燻り出した後なら豹とやらを実力行使で捕まえていいのね?」

「ええ、八意永琳を利用できるのであれば多少の無理が利くわ。

 だからもう一つは『私の合図が出たら迅速に豹を捕らえろ』。

 月の頭脳は、幻想郷では御しやすい方だからね」

「ほう、永遠亭だったかい?あそこの連中をアンタは上手く転がせると?」

「私は秘神よ?月の頭脳本人はともかく、その周囲を操るなど造作も無いわ。

 紫も八意永琳も、身内に甘いのが最大の欠点よ」

「そこが私には信じられないんだぜ。まあ、霊夢に肩入れしてるってのはわかるけどな」

「甘いのだ。少なくとも、幻想郷を創った賢者としてはな」

 

口調がまた変わったわね…ある意味紫よりも胡散臭いのよこの神。

 

「豹は空間魔法使いとして最上位だ。紫のスキマや、私の後戸さえもあっさり対策できるほどにな。

それだけの空間魔法使いであれば、魔界と繋ぐことなど簡単にこなすだろう。すなわち、奴一人が幻想郷に居るだけで、魔界の戦力を幻想郷に迎え入れることが出来る」

「「っ!?」」

「…だろうね。ま、私は幻想郷はどうでもいいんだが」

「だが、弟子は守るのだろう?悪霊とは思えない精神だ。まあ、それは勝手にするがよい。

しかし…紫がそれでは困るのだ。幻想郷の賢者として、これほど危険な存在を抱えること自体が論外なのさ。

今までは、私よりも古株という幻想郷の最古参として見逃していたが…魔界から追手が現れた時点で切り捨てるべき存在だ。奴がその気になれば、一日もかからず幻想郷は滅びの未来を迎えるのだからな。

奴の存在が魔界人に知られた時点で、紫は豹を捕らえ魔界との取引材料にすべきだったのだ。奴一人と幻想郷、これを天秤に掛けるなど管理者として問題外。だが…紫はそうしなかった。情が移った豹を切り捨てることが出来なかった。

紫に出来ないのであれば、私がやるまでだ。博麗大結界など紫無しで維持するのが面倒な案件はいくらでもあるというのに、永い付き合いの魔界人の男一人に惑わされるようじゃ困るのさ。強引にでも処理してしまえば、紫も幻想郷の賢者としての自覚を取り戻すだろう…私よりもずっと深く、紫は幻想郷を愛しているのだからな」

 

言葉にされて豹とやらの危険性をようやく理解できたわ。要は【豹が心変わりした時点で幻想郷は滅ぶかもしれない】ってこと。

それなら、一刻も早く奴を幻想郷から追い出すべき。

 

「そして魔界が『捕らえに来た』のではなく『迎えに来た』と言った以上、魔界に確保されるのも問題がある。処刑するために捕らえに来たのであれば、刑の執行を見届けさえすれば問題なかったのだが…

迎えに来たということは、魔界は奴を受け入れるということだ。その場合、幻想郷の詳細を知っている奴に侵略を企てられると手の打ちようがなくなる。つまり二度と幻想郷に関わることが出来ないよう幽閉させるなり、戻す前に記憶を消去するなり何らかの対策を立てなければ魔界に引き渡すのは危険すぎる。

これに対処するには、我々幻想郷側が豹を生きたまま捕える必要がある。奴を引き渡すのに代償を支払わせるのさ」

「先に始末した方が確実じゃないかい?」

「悪霊らしい意見だな。私も本音はそうすべきだと思っているが…妹が迎えに来たという以上、死体を差し出せばその場で全面戦争の火蓋が切られることになりかねん。先に話した通り、そうなると人里を守り切ることは不可能なのでな。

奴を魔界に引き渡すのであれば【幻想郷に手を出せない状態にする】という条件を付ける。これを呑ませるのが現実的な妥協点だろう」

 

…この辺は私が考えることじゃない。それこそ問題があれば紫が口を出してくるだろうし、任せとけばいい話。

 

「いいわ。この話、乗ってあげる。

 さっさと準備を済ませてちょうだい。そんな危険人物少しでも早く追い出さないと」

「おう、私も賛成だぜ!魅魔様もだよな?」

「正直、アンタを信用するのも危険な気がするが…

 私たちには情報が足りなさすぎる、なら手回しは丸投げすべきだろうね。

 いいだろう、合図までは大人しくしてやるわ」

「契約成立だな。では早速動こうか…

 博麗神社はこの扉の先だ。くれぐれも、余計な騒ぎを起こさないでくれよ?

 お前たちは幻想郷で有名なのだから」

 

…釘を刺された。まあ、今回ばかりは素直に従っておきましょ。

勘だけど、そうする方が手っ取り早そうだしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけだ。以後、豹に八雲の隠者として鍛えてもらっている」

「…これは兄さんがやらかしたわけじゃないなあ。でも兄さんを魔界に連れ帰るなら、その子も連れて行かないとマズそうだね」

「そうね…下手に引き離すより先輩の【都合のいい女】として侍らせる方が魔界にとっても幻想郷にとってもいいでしょう。先輩を見失ったらどう暴走するか知れたものじゃない」

「麟個人のためには、それが一番良いのは私も理解している。だが八雲の隠者としての情報を持っている以上、八雲としてはそう簡単に手放すわけにはいかなくてな…

麟を連れていく場合、幻想郷から魔界にいくつか条件を付けることになる。それを夢子が即決しても良いのか?」

「…神綺様が到着したら確認しておくわ。後で直接話せるだろうし、本人の希望も聞かなければならないしね」

「なんというか、ここまで依存しても仕方ないって思える状況はそうないわよ。最上位妖怪にすら作用する呪いだなんて…豹がリスクを冒してでも接触するわけだわ。絶対に裏切らない駒というだけで利用価値がある」

 

藍から聞かされた冴月麟の詳細は、人間の少女が受け止められるような状況ではなかった。友人どころか親にすら忘れられてゆく…そんな絶望の底で記憶し続けることが出来た存在に出会えば、全力で依存して当たり前。

何があろうと豹の側から離れようとはしないでしょう。なにより―――

 

「兄さんがその子を見捨てられるはずがない。その子が幻想郷に留まり続けたいと考えていれば、兄さんも魔界に帰るって選択は取れなくなる。

これは、サリエル様を頼るのも選択肢に入っちゃうかぁ」

「サリエル様に解呪を頼むということ?たしかに希望はありそうだけど…神綺様とサリエル様が同時に魔界を離れるのは避けたいわ。それをするならマイあたりに情報統制してもらわないと」

「いや待て…神綺だけでも情報共有などに手を焼いているのに、サリエルまで幻想郷に侵入されては他の管理者が動きかねないぞ。その場合であれば私か橙が付き添うから、麟を魔界に向かわせる方向で調整してくれ」

「それこそ付き添いは私でもいいわ。これ以上魔界の大物を侵入させるのは私も避けた方が無難だと思うわよ…」

 

豹の妹であるユキが言い切るということは、私の予想通りのようね。豹はそれだけ依存されている少女を見捨てられるような性格じゃないのでしょう。

 

「…それで、聞きたいならこちらに出てくればいいのに何をしてるのよ妖夢は」

「………気付いてたなら声掛けてよアリス」

 

門を開いて妖夢が顔を出す。まあ、突然正門前に現れたのに全く動かなければ様子を見に来るわよね。

まあ、ここにいる4人は全員気付いてたし、藍が呼び出さなかったから妖夢には詳しく聞かせたくなかったということでしょう。

 

「すまないな、妖夢。豹と隠岐奈様の因縁について話すことになったから、幽々子様にも聞いておいてもらいたい。取次ぎを頼む」

「連れて来てって言われてるから取次ぎはいらない。ついてきて」

「だ、そうだ。行こうか」

 

妖夢の先導で白玉楼に足を踏み入れる。ここでは何を知ることになるのかしらね…

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