隠形魔法を切るタイミングが早すぎたか!リリーを警戒させないために切ってからノックしたんだが、その短時間で俺を発見できるとはな…!
過信、慢心、油断。索敵魔法には自信があったし、俺の認識を阻害する方向性の魔法や能力は無効化出来る…実際、幻想郷において不意を打たれたことがある相手は紫さんに藍、摩多羅隠岐奈といった最上位の空間系能力持ちぐらい。直近だと幽玄魔眼にしてやられたが、これも空間系能力だ。そして空間魔法も俺の得意分野。彼女たちが再度俺を狙って来たとしても、逃げるだけであれば問題無いよう対策は立ててある。
だが、この二人は空間系の能力や魔法を使わずに俺にここまで接近して見せた。
「ひょ、豹さん…」
「リリー、俺から離れるなよ。しっかり掴まってろ」
「は、はいー」
左腕にしがみついてきたリリーをしっかり抱える。見つかったタイミングも最悪に近い…
この状況だとリリーを置いて逃げるわけにはいかない。守矢の風祝はともかく、地底の覚妖怪はリリーに危害を加えることを躊躇う理由が無いのだ。要するに今後は誰かしらにリリーを保護してもらう必要が出来てしまったということ。完全に俺の落ち度でリリーを危険に晒しちまった…!
それならまず試みるべきは、穏便に済ませる方向。
「ついて来いという理由を先に話してもらおう。連行されるようなことをした覚えはない…人違いじゃないのか?」
「残念ですがあなたの写真を貰ってるんです。言い逃れは出来ませんよ、『幻影の裏方』さん?」
「念写って言ってたから、その眼で振り返っちゃったんだね!
最初に話を聞きに行ったところの手掛かりだけで見つけられるなんて、運命の出会いってやつなのかな?」
「ッ!?飯綱丸か!」
味方してくれるとは思ってなかったが、こんな形で敵に回って来るか!念写による写真なんて撮影できる相手は限られる。おそらく、姫海棠はたて!
魔界と幻想郷での全面戦争は奴にとっても避けたいだろうから、八雲から釘を刺してもらえれば妖怪の山は手出しせず傍観すると踏んでたが…奴等は予想以上に俺を危険視してたようだな!
(だが、これでなぜ俺の索敵魔法に引っ掛からず接近してきたかはわかった。飯綱丸か菅牧が風祝に入れ知恵したってワケだ)
飯綱丸龍・菅牧典主従は数少ない俺の精神守護能力を知り、俺と敵対したことのある相手だ。だからこそ俺を相手にした対策を立てられる…俺が幻想郷でやらかした失態でも最上位なのがこれだ。雛が狙われていると勘違いして菅牧典の能力を
俺の能力はあくまで守護能力。要するに敵の強化系魔法や能力は無効化できない。この二人を組ませることによって、【古明地こいしのステルス能力】を【東風谷早苗による奇跡】で『至近距離に近付くまでは俺にも効果を発揮させた』ということだ。もし声を掛けずに不意打ちされてたらすでに決着が付いてたかもしれん…!
「だが、飯綱丸がなぜ今俺に報復する?君は俺を取り巻く状況をどこまで聞いているんだ?」
「へっ?霊夢さんと魔理沙さんがあなたとぶつかると大変なことになるから、替わりに動いてと依頼されたのですが」
「…都合よく利用されてるな。その二人が動かなければ幻想郷は何も変わらない、君が俺を追う必要もないぞ。守矢の風祝ともあろうものが、飯綱丸の掌の上で転がされるのを許容するのか?」
「むむ、言ってくれますね!ですが妖怪の山の住民たちは守矢神社を信仰してくれています。かつて妖怪の山で騒ぎを起こしたというあなたを捕まえてほしいと依頼されたのであれば、それに応えることが私の務めです!それに何か裏があるとしても!!」
「…立派だな。祭神すら知ろうとしない博麗の巫女とは大違いだ」
これは退いてはくれないか…!まだ幼いとも言える少女ながら、風祝としての責を自覚し、果たそうとしている。ここまで読んで利用したか。
「もういいかな~?私もあなたとお話ししたい!
豹っていうんだよね?いろいろ聞かせてよ!」
「…君は地底の妖怪だろう?相互不干渉は遵守してくれ」
「ぶ~、素っ気な~い。別にイタズラとかするつもりじゃないんだしい~じゃん!」
「あの、こいしさん?この人幻想郷から追い出さなきゃ危ないって説明しましたよね?仲良くしてもらうわけには…」
「え?だから私が地霊殿に連れて行けばいいんでしょ?相互不干渉なんだし♪」
…だが隙はあるな!この二人、目的が完全には一致していない。なら、同士討ちに持っていけば…
「ま、とりあえずは私と一緒に遊ぼうよ!悪いようにはしないからさ!!」
―――なんて甘い考えが通用する相手じゃなかった!!古明地こいしが何の躊躇もなく俺に向けて小手調べの光弾を撃ってきた…って、ちょっと待て!
「リリーの家を壊す気か!?場所を考えてくれ!!」
「豹さん!?そこを気にしてる場合じゃないと思うのですよー!」
「すごーい!避けるどころか家に一つも当てずに止めるなんて!」
「…これは!?話には聞いていましたけど、幻想郷では珍しい戦闘スタイルですね!」
ここで俺は二つ目のミスを犯す。リリーに突っ込まれた通りで、しばらくリリーの保護を求めなければならない以上、リリーの家は逃げ切った後で俺が修繕すれば済む話だったのだ。
それなのに反射で障壁魔法を行使して家まで守ってしまった。言い訳をすれば、上海と隠れ家に出会ったことで思わず守ってしまったのだが…悪手も悪手。事態の悪化を加速させることになる。
「悪いが俺は攻撃魔法がロクに使えなくてな!弾幕ごっこには付き合えねえ!」
「あんなすごいことできるなら、もっとすごいことできるでしょ!もっと私と遊んでよ♪」
流れ弾がリリーの家に向かわないように、地上を駆けて距離を取る…が、それがどう見えるかというと。
「逃がしませんよ!唯一の心当たりが大正解だった以上、もう一度あなたを見つけるのは難しそうですからね!」
「心当たりになってたのが信じられんがな!なんでここに向かって来たんだよ!?」
「春告精がこの季節に2日続けて目撃されるなんて、天狗や河童も初めてって言ってましたから!
妖精の棲み処なんて、潜伏するにはもってこいじゃないですか!」
「そんな、リリーのせいで…!?」
「その発想が出来るなんてな!幻想郷において新参だとはとても思えん!
リリーは悪くない。ここに来たのは俺、俺の判断ミスだ!」
東風谷早苗も俺が逃走を図ったと考えたのか進路を妨害して来る!そりゃ挟み撃ちされた時点でそのための布陣なんだから当たり前だが…ここでまたやらかしたことに気付く!
(―――ッ!?しまった、勇儀にも捉えられた!?)
リリーの家も妖怪の山に位置する。そして今の障壁魔法を俺の魔法だと判断したのか一直線に向かって来てやがる!探知魔法に長けてるワケじゃねえのに、なんで脇目も振らず俺の位置に向かえる!?
「…えっ!?この強大な妖気は!?」
「あ、勇儀さんだね。そういえば豹は勇儀さんとも知り合いなんでしょ?
やっぱり地底に来ても大丈夫じゃん!お姉ちゃんにも紹介するから、一緒に行こ♪」
「勇儀から逃げた身なんだよ俺は!絶対に再戦要求されるだろうが!!」
マズい、これは本気でマズい!!今の時点で脱出用の出口を持ってるのは紫さんと藍に麟。設置してあるのは隠れ家と麟の家。だが今の状況だとこの5つ全て脱出後のリスクが高過ぎる!
紫さんと藍はまだユキたちを相手してくれてるようだからそこに俺が飛び込むわけにはいかない。麟の家は魔力遮断領域を展開してあるからリリーを保護してもらうために動くと領域外に出たタイミングで位置がバレるだろうし、隠れ家は逆に出口として利用した場所としてすぐに特定されかねない――カナと上海は神綺様が来た後の潜伏策において核になるから、勇儀や風祝に位置を特定され余計な襲撃を受ける可能性を上げるわけにはいかない。古明地こいしに見つかった以上、麟の家も特定されるのは避けなければならない…貴重な回復役である麟を危険に晒すわけにはいかないのだから。
そして、今のタイミングで麟たちの元に脱出すると夢幻館との繋がりが天狗と地底に伝わっちまう。夢幻姉妹が滞在してくれてる限りは大丈夫だが、エリーとくるみだけの時に妖怪の山が攻撃を仕掛けたり、古明地こいしに襲撃されると守り切れないだろう。そしてそうなるとフラワーマスターがどう動くかわかったもんじゃない…!
(こんなところで手詰まりか!?こうなったら再戦を盾に勇儀を逆利用して風祝だけでも脱落させるってのも選択肢に…いや、それは下手すると守矢の二柱を出張らせるから逆効果だ。勇儀の接近まで時間がねえ、何か使える手は…!?)
「もう~!考え込まないで私と遊んでよ~!
死体にして飾るなんて言ってないよ?私をちゃんと見てくれる人なんてはじめてなんだから、仲良くおしゃべりとかしたいだけなのに~!」
「う、そういえばこいしさんはそうでしたね…!ですが私も身の安全は保障します!あなたが幻想郷にとっても魔界にとっても重要人物ということは理解できていますから!」
「それを理解してるなら見逃してほしいんだがな!!」
「「それとこれとは話が別!」」
クソ、生け捕るために手加減されてるとはいえ、リリーを抱えながらじゃ叩き落としきれねえ!勇儀が来る前に強行突破すべきか!?
「豹さん、リリーを置いて逃げてください!!足止めにすらならないですけど、足を引っ張ってしまうのは嫌ですよー!!」
「バカ言うな!!この状況で見捨てられるか!!」
ああクソ、リリーにここまで言わせちまうなんて情けねえ!リリーは優しいからここに来て俺が見つかったことを引き摺っちまうだろう。その心理的負担を最小限に抑えるためにはリリーと一緒に逃げ切る必要がある。
死という概念が無い妖精だからこそ、口を割らせるために容赦無い手段も取れるのだ。地底の妖怪は地上を敵視している…風祝の頼みで勇儀とこいしがリリーを丁重に扱ったとしても、地底に連れ去られると凄惨な目に遭わされる可能性が残るのだ。今ここでリリーを見捨てるわけにはいかない…!
「それなら…これくらいさせてください!!」
「あれ?」
「…えっ!?後ろ!?」
「っ!?なんて無茶をっ!?」
「うぅ、豹さん、後はお任せするのですよー…」
左腕から背中にしがみつく位置を変えつつ、リリーが
「へえ~、地上の妖精も少しはやるじゃん!」
「でも、それぐらいの距離ならまだ逃がしませんよ!」
それだけでこの二人を振り切れるはずもなく、勇儀もどんどん近付いている。
だが、攻撃を意識する方向が集中したことで…今まで見つけられなかった脱出経路に気付くことが出来た!!
(後のことはその時考えるしかねえな!今はここから脱出することが最優先…!!)
「リリー、絶対に離れるなよ!!」
「しっかり掴まってるのですよー!!」
『開けっ!!』
「「えっ!?」」
何故あんなところにあるのかはわからねえが、俺の悪運はまだ尽きてねえ様だな…!
創り出したワームホールに飛び込みながら、転移先での戦闘に備える。リリーのおかげで、窮地は脱したか…!
「―――それで、見失っちまったと」
「はい…空間魔法の使い手とは聞いていましたが、一瞬で探知範囲から外れるほどの距離を移動できるなんて思ってもいませんでした」
「ま、実際に戦ってみないことにはそこはわからないだろうしね。むしろ豹相手に待ち伏せを成功させたのは大したもんだよ!地底に関わろうとする神社の小娘だけはあるじゃないか!」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが、手掛かりを無くしてしまいましたね…」
「勇儀さんも豹がどこに行っちゃったかはわからないの?」
「さっきは懐かしい豹の魔力を感じたからここに来れたんだけどねえ。今は見つけられないよ。
ってか、なんで古明地の妹が地上に居るんだい?」
「昨日の宴会で豹のことを聞いてたからね!お姉ちゃんに許可貰って出てきちゃった♪」
「…私のせいかい。まったく、困った能力だよ。
それで、椛?豹の行き先に心当たりは?」
「リリーを連れて逃走したというのであれば、私の仲間と合流するということは無いと思います。こいしさんにリリーのことを知られてしまった以上、対処の出来ない私たちに豹さんがリリーを任せることは無いでしょう…少しでも手助けしたい身としては、情けないですが。
ですので、可能性としては―――リリーを保護してもらえそうな方のところ、でしょうか」
「でも、その言い方じゃ具体的な名前は出ないみたいだね。
それじゃ一度久侘歌と合流して、昨日豹が誰かと話してないか聞きに行くとするかい」