寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第133話 脱出先と少女の興味

「――よし!!」

 

脱出成功だ!隠れ家を離れることになった切っ掛け…アリスからの逃走と上海による追撃。あの時仕込みとして放り投げた指輪が何故か人里の外れ―――命蓮寺の位置に移動していたのだ。

リリーのテレポートのおかげで【脱出に使えそうなモノ】を探していた探知魔法の範囲を広げられたことにより気付けた。これで追手からの距離は取った、後はリリーを保護してもら―――

 

「………へっ!?」

「」

 

………出口を作って飛び出した先には、着替え中だったらしき半裸の少女がいた。

これは、今までと別の意味でまずい………

 

「ひゃあああっ!?」

 

「うおっ!?」

「キャッ!?」

 

巨大なアンカーを投げつけられた!!リリーが背中にしがみついてたのはラッキーだった、これは片手では受け止められん!

 

「ぐうっ…!!」

「ひょ、豹さん!?大丈夫ですか!?」

「へ?豹ってまさか!?」

 

まあ、不法侵入した挙句に着替えを覗いたとしか見えないから仕方ないとはいえ、一般人なら肉塊になってたぞこの攻撃…!受け止めることには成功したものの、嫌な音を上げながら床と壁がひしゃげていく。これじゃ、寺にいる一般人にも見つかっちまう!?

 

「ムラサ、何事!?―――って、何やってんの!?」

「どうしました!?って、ええぇ!?ムラサ、なんで室内でアンカーを投げつけているのですか!?」

「だ、だって覗きよ!?変質者に仏罰を与えて何が悪いのよ!」

「………ムラサ?後片付けのことも考えましたか?」

「「「ひっ!?」」」

 

笑顔とは本来攻撃的なもの。背後に般若のオーラが見えるような笑顔でこの寺の住職…聖白蓮が現れる。その声で真っ先にここに飛び込んできた2人と半裸の少女が竦み上がる。

だが、運がいいことに恩を売ることが出来るな。やはりまだ、俺の悪運は尽きていない…!

 

「ここの修繕は俺に任せろ。そのかわり、ここに君たち以外の人妖が来ないようにしてくれ」

「「「「は?」」」」

 

受け止めたアンカーを床が抜けないよう慎重に降ろし、修復魔法を行使して床と壁を修復する。里香が明羅の庵にブッ放していた熱線と違い、衝撃による破損だから問題なく完全修復できるだろう。破壊された直後であれば、細かく砕けた部分も修復魔法で拾える範囲に留まっているのだから。

 

「…これは、修復魔法!?」

「うそ…こんな簡単に元通りに」

「それと、ムラサと呼ばれていたな。着替え中に飛び込んでしまいすまなかった…俺が修復し終えるまでに着替えてくれ」

「…一輪、星。監視は着替えついでに聖と私でしとくから、ここの人払いに回って」

「―――わかりました」

 

…噂通り、争いを好まない妖怪が多いようだな。外からここに飛び込んできた妖怪二人が再度部屋を出て行った。リリーを連れて来てしまった以上、交戦の可能性が低いのは助かる。

ただ、後から潜むように入って来た妖怪には警戒が必要だな。どうやら同じ寺の仲間ですら把握できないように室内に入り込んできた。

 

「――え?豹さん?」

「――!?」

 

リリーを左腕に抱え直す。俺を抑えるためにリリーが狙われる可能性はゼロじゃない。

修復魔法を行使し終え、彼女たちに向き直る。

 

「無礼を許してほしい。この修繕で敵意が無いことの証明にはなるだろうか?」

「はい、私も荒事は好みません。

 …ですが、貴方のお話を聞かせてもらえないでしょうか?

 その子に…豹、と呼ばれていました。貴方が、魔界人の豹なのですね?」

 

ルナサから軽く話を聞いてはいたが、やはり俺の事は知りたがるか。

神綺様の教え子…俺と無関係とは言い切れない相手、聖白蓮。彼女とその仲間たちを、味方に付けられるよう上手く乗り切らなければ。

 

「俺の事を話すのであれば、敵対する意思を捨ててもらいたい。

…そこの黒い少女は気取られないよう入って来た。どういう立場なんだ?」

「…まさか、入り込む時点でバレてたなんてね。

 魔界の住人は、本当に甘く見ては駄目みたいだ」

「ぬえ!?いつから居たのよ!?」

「ムラサの可愛らしい悲鳴が聞こえた後からよ。今更着替えを覗かれて困るなんてこと無いでしょうに」

「ちょっとぬえ、それはどういう意味よ!?」

「ごめんなさい、ぬえは私たちのために初めてここを訪れる方を警戒してくれているのです。

私は人も妖怪も信じていますが、悪意を持って訪れる者がいることも理解していますから」

「そうだな、俺は怪しまれて当然か…ぬえと呼べばいいのか?」

「好きに呼べばいいさ。そもそも私を黒い少女と言い切れる時点でアンタが只者じゃないのはわかってる。

下手に敵に回す方がヤバそうだし、アンタにその気がないなら喧嘩売る気はないよ」

「助かる。なら…先程の二人が戻るまで待とうか。見られた以上、黙っていてもらうために聞きたいことには答えるべきだからな…」

 

東風谷早苗と古明地こいしよりは安全な相手であることを願おう。

俺だけでなく、リリーのためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と待たせたわねー。妖夢、お饅頭を食べ終えてしまったからおかわりをちょうだい」

「…幽々子様、昨日お話しした者たちなのですが」

「いや、少々長い話になる。妖夢、悪いが用意してあげてくれ…私も手伝おう」

 

…この亡霊は。私はほとんど接点が無いのだけれど、ある時期を境に人里にも顔を出すようになってから一部で名を轟かせている。主に飲食店界隈で、食材を根こそぎ食べつくすような勢いで食べることで一気に有名になったのよね。代金はしっかり払っていくので上客ではあるらしいけれど、彼女が来店した飲食店は翌日臨時休業することすらあるそうだわ。

 

まあ、藍と妖夢が離れているうちに挨拶だけ済ませておいてもらいましょうか。

 

「お邪魔するわ、西行寺幽々子。昨日妖夢が絡んできたから、少し話を聞かせてもらうわ」

「ええ、でも藍が戻るまで待ちましょう?いろいろ補足してもらいたいし。

 ――それで、後ろの二人が魔界人かしら?」

「はい。神綺様のメイドを務める、夢子と申します」

「アリスの姉の一人、ユキだよ。兄さんを迎えに幻想郷に来たわ」

「ええ、よろしく…私は西行寺幽々子。ここ白玉楼の主をしているわ」

 

この亡霊も八雲紫の親友というだけあって、一筋縄ではいかない相手。マイペースを崩さずに対話で情報を引き出すのが上手いタイプ…正直言って素直なユキは前面に出したくないのだけど。

豹に関してはユキが一番《何を聞くべきか》を理解してるのよね。私と夢子で上手くフォローしないと。

 

「藍の反応からすると、あなたも兄さんと面識があるんだよね?」

「顔を合わせたのは数えられる程度だけれど、彼が【紫の奥の手】であることは知っているわ。

藍から正確なところを聞かないと断言はできないけど…幻想郷で豹という名前とその素顔、紫との関係をすべて正確に把握している人妖の中であれば、彼にとっては私が紫と藍に次いで『安全』な相手になるんじゃないかしら」

「ッ!?それは、八雲と貴方以外にもそこまで正確に先輩の現状を知る者がいるということですか?」

「ええ、私が紫から聞いている限りだと私を含めて5人いるわ。

彼を完全に敵視してるのが3人、中立が1人。藍がわざわざ私にも聞かせようとする話となると、彼女たちのことぐらいしか思い当たらないわねー」

「4人も、と言うべきかしらね。隠棲していたのであれば、3人も敵視される相手を作るのは不用意だわ」

 

調べれば調べるほど、豹のことがよくわからなくなるわね。魔界から逃げるだけであれば、八雲紫の屋敷に匿ってもらい必要な時だけ幻想郷に出てくればいいだけ…紫も藍も豹のことを好ましく見ているのは今までの情報とさっきのやり取りでハッキリした。つまり豹はそうすることが出来たのにも関わらず、発見される危険が高くなるあの隠れ家で過ごしていたということ。

 

彼は、本当に逃げる気があったのかしら?なにか別に、目的があったようにも見えてくる。

そして、それは妹であるユキも察することが出来ないこと。幻想郷で果たすべき目的を、魔界のユキが知ることなんてできない。

だからこそ、この会談に価値はある。藍であれば、豹の幻想郷における目的を理解しているかもしれない。

 

「幽々子様、お待たせしました」

「一応、お茶請けも出しておくが…不要であれば幽々子様にあげてくれ。食べないのに置いておくと幽々子様の集中が散ってしまうのでな」

「藍も中々失礼になったわよねー…」

 

お茶と饅頭を人数分用意して藍と妖夢が戻って来た。不満気な反応をする幽々子だけど、さっそく饅頭を頬張っていたので否定はできないようね。

 

「それじゃ、わたしの分は食べちゃっていいよ。そのかわり、兄さんに関しては何も隠さず教えてほしい」

「あ、いただくわねー♡でも期待には沿えないと思うわ。最初に言ったけれど、彼と顔を合わせたのは数えられるぐらいで、直接言葉を交わしたのは片手で足りるぐらいなのよ。

それこそ、本気で手合わせした妖忌の方が彼のことは理解できていたかもしれないわ」

「えっ!?お爺様と手合わせですか!?」

 

…妖夢が思いっきり食い付いた。妖夢にもしっかり話を聞かせるため、先にこの話をした可能性すらあるのが幽々子なのよね。

 

「ええ、あの妖忌が珍しく紫に直談判したのだもの。よく覚えているわ…」

「そうでしたね…武人としての勘というものだったのでしょうが、豹もその慧眼に驚愕していましたから。

私も豹が隠していた強さを本当の意味で理解したのは…あの手合わせを間近で見たからですし」

「ゆ、紫様に直談判してまでお爺様が手合わせを求めたのですか!?その豹という方に!?」

「…その言葉からすると、先輩は幻想郷に来てしばらくは【空間魔法使い】としてしか力を見せなかったということ?」

「流石は夢子だな。これだけでそこまで読み取れるとは…

私は紫様の命で豹と肩を並べて戦うことも何度かあったが、豹は逃走という選択が大前提だった。護衛として染み付いたその性分のおかげで私は命じられた案件を完遂させることだけに集中できた。脱出経路は豹が確保してくれているのだからな。

私は妖忌との手合わせまで、【逃走という選択肢を棄てた豹】を知らなかったのだ」

「ああ、それは驚くよね。兄さんが戦闘だけに全力を注ぐなんて滅多にない…敵を倒さなきゃ護り切れない状況にならない限りは、兄さんは逃げる手段を探すから」

「私も驚いたわよー。剣術の手合わせだと思い込んだ彼が構えた両手剣を妖忌が一閃で弾き飛ばしたと思ったら、『貴殿の武器はその肉体であろう。使い慣れぬ剣など構えるな』って言い放ってね…

そうなって初めて彼の眼が変わった」

「言葉にするなら【幾多の死線を潜り抜けた猛者の眼】だった。徹底的に交戦を避けるように立ち回っていた豹が初めて見せた、闘争心にあふれた表情―――全力を出せることに歓喜していたのだろうな」

「それで、その手合わせの結果は!?」

「接近戦においては妖忌の剣が上回っていたわ。でも、彼の全力は格闘ではなく習得している魔法や技能全てを組み合わせたものだったから…妖忌が負けたのよ」

「そんな…!」

「…妹であるユキなら知っているだろうし、妖忌をフォローしておこうか。『射撃戦を行わない剣士相手に魔眼を使うことになったのは初めてだ』と豹に言わしめた。後で詳しく聞いてみたが『幻想郷に来てから魔眼を使ったのはこれで3回目』『肉体強化魔法だけでの純粋な接近戦だったら負けていた』だそうだ。

だが豹も妖忌も本気でのぶつかり合いに満足したようでな…終わった後で握手を交わしていたよ。私たちには理解できない、【漢の友情】というものだったのだろうな」

「…3回も兄さんが魔眼を使ったんだ。やっぱり幻想郷の大妖怪は強いんだね」

「あの手合わせ以降妖忌はますます剣に打ち込むようになったわ。『まだまだ高みを目指せる』ってね」

「そう、ですか…私では相手にもならないのかなあ」

「そうでもないわ。先輩は攻撃魔法が苦手だから、ユキを相手に出来た貴方であれば《負けない》ことは出来る…《勝つ》ことは出来ないけど」

 

夢子と藍が妖夢をフォローしているわ。妖夢の祖父のことは小耳にはさんだことがあるけれど、妖夢にとっては未だ超えられない師匠でもあると聞いてるわ。その師匠が敗北したということで、豹の強さが理解できたようね。

逆に言うと、夢子は豹が【攻撃魔法が使えない】ことを妖夢にも伝えることを選んだ…つまり今後は戦力の一人として数えるということ。

 

「昔話に時間をかけてしまったな…本題に入ろう。豹と隠岐奈様の因縁について説明しよう」

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