寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第134話 昨日の敵は今日の友

「私が紫様の式神として活動するようになる以前から、豹は紫様を陰から支援していた。決して存在が明るみに出ないよう、豹の成果を私の働きと偽装したりすることで我々も徹底的に秘匿していた。

直接の面識がある幽々子様にすら、豹に対する絶対の信頼を漏らさないように」

「そうね、私も話を持ってこられたときまずそこに驚いたものー」

「話を持ってきた。やっぱり妖夢が動いたのは八雲の指示だったのね?」

「ああ、これは別に隠す必要は無い。侵入した魔界人と霊夢たち魔界で暴れた4名が交戦するのだけは避けるべき…これは八雲だけでなく豹も同じ考えだった。だから我々が魔界と縁の無い妖夢に迎撃を依頼した…もっとも、豹の方からユキに接触した以上あまり意味のない援護になってしまったが」

「だろうね。兄さんがわたしたちを止めるために動かすなら、実直な武人じゃなくて狡猾な論客を雇うはず…わたしたちは情報が足りない以上、会話してくれるなら普通に対応するから」

「我々もそれは理解していたんだが、豹の身の上を伏せたまま動いてくれるような論客に心当たりが無くてな…

私も紫様も謀略家として見られている以上、別勢力からの信用は薄い。最低限の情報提供で動いてくれるのが幽々子様と妖夢しかいなかった。それだけの話だ」

「私は納得したわけじゃなかったんだけどね…でも、今幽々子様から話を聞いて豹って人と話してみたいと思えた。だから、もうあなたたちと敵対する気は無いよ。

そのかわり、一度私とも話をさせてほしいな。お師匠様のことを、直接聞いてみたい」

「それは構わないわ。私たちは、先輩を連行したいわけじゃない。連れ帰る前には先輩と幻想郷の皆を会わせることは約束する。先輩も、そうしないと割り切れないでしょうし」

 

ここに来て最低限必要な情報は得られたわね。要は八雲と白玉楼は協力関係…今はここに来ていなくても、今後豹がここを頼る可能性は十分にあるということ。豹の情報が完全に途絶えたらもう一度ここ…白玉楼を調べに来るべきでしょう。

 

「そんな豹だったが、2回だけ紫様に伝えた上で隠れ家を長期間離れて動くことがあった。博麗大結界を構築するよりもずっと昔のこと…まだ幻想郷が外界と隔離されていなかった頃の話だ。紫様も私も豹の隠密行動に全幅の信頼を寄せていたから、火急の用が出来た場合にすぐ呼び戻せるよう紫様との連絡手段を持たせてそのまま送り出した。

その片方で豹は隠岐奈様に睨まれることになった。だが、当時はまだ隠岐奈様が幻想郷の賢者の一人に数えられる前だったんだ…後に八雲の隠者の正体が豹だと隠岐奈様が確信し、粛清もしくは追放を要求してきた時は私どころか紫様も頭を抱えたよ。

それ以降、隠岐奈様は豹を警戒し続けている」

「…まず大前提として、その隠岐奈とやらのことを聞かせてもらえないかしら?幻想郷を管理する賢者の一人ということは理解できたけれど、私たちは何も知らないのよ」

「わたしも幻想郷の管理者は八雲紫しか知らない。夢子は?」

「私は名前を聞かされてはいる、ただ直接顔を合わせたことは無いわ。神綺様は面識があったようだけど」

「っ!そうか、魔界神が隠岐奈様のことを知っているのであれば多少の牽制にはなるか。夢子、いざとなればその繋がり、豹を逃がすために使わせてもらっても?」

「先輩を生かすためなら協力する。先輩を魔界からも逃がすつもりなら断らせてもらうわ」

「それだけでも助かる。紫様ならまだしも、私では隠岐奈様に対抗できないのでな…」

「あら、藍がそこまで言い切るのはめずらしいわねー」

「幽々子様、私は所詮式神です。紫様と同格の相手には太刀打ちできないですよ。

 それこそ、幽々子様も私に後れを取ることは無いでしょう?」

「まあそうねー。でも、紫は意図的に私と彼女に距離を取らせるようにしてるから…妖夢はともかく私は積極的に手出しは出来ないわ」

「それは仕方ありません。その分妖夢には少々重い負担をかけるかもしれんが…いいか?」

「覚悟は決めてるよ。お師匠様が勝てなかった相手が関わってる異変、簡単に済むなんて思ってない」

 

どうやら妖夢も夢子とユキを敵視することはもう無いようね。少しでも敵は減らしたいからありがたいわ。

 

「頼むぞ。それで、隠岐奈様は秘神…いくつもの表情を持つ神だ。その正体を知る者はいない…紫様でさえ見破ることが出来ていない。紫様自身が『渡り合うことは出来ても、滅ぼすことは難しい。お互いにね』と語っている」

「…八雲紫がそこまで言ったの。流石は先輩と言うべきか…あらゆる意味で大物を惹き付けてるのね」

「兄さんはホント…相変わらずだなあ。それで、実際何をやらかして兄さんはその秘神に睨まれちゃったの?」

「過程を省いて結果だけ言えば簡潔だ。アゲハ蝶の幼生を連れ帰り、その成長を見届けて野に放した」

「―――っ!?まさか、ラルバのこと!?」

「知っていたか。私もなぜ豹がこのようなことをしたのかは長年理解していなかったのだが、この逃亡によって得た情報でようやく答えを知ったよ。

―――豹は、ラルバが常夜神…月から地上に堕とされた神だと考え救出してきたのだ。そして、その予測は当たっていた。

おそらく、豹は月から追放された常夜神であれば信頼できる協力者に出来ると踏んだ。もしくは、月での過去を知られていることを警戒し懐柔しようとした。

だが豹にとって計算外だったのは…常夜神を祀っていた宗教を討伐したのが、隠岐奈様の一面である神だったこと。

その行動の結果、隠岐奈様が豹を敵視してしまったのだ。神とは、信仰によって力を得る存在…力を失い妖精に零落したラルバ本人より、ラルバに力を与える豹の方が隠岐奈様にとって危険な相手。常夜神を幾度隠岐奈様が討伐しても、信仰を向ける者がいれば甦る可能性がある。そして甦った常夜神が月への復讐を果たそうとすれば、幻想郷にも被害が及びかねない…そう判断しているのだろうな。

我々からすれば、豹が月に復讐を果たす時には【幻想郷を巻き込まないよう】動いてくれるという信頼がある。だが、隠岐奈様はそこまで豹を信じることが出来ないということだ」

 

まさか、ここまで繋がっているなんて。

ラルバのことを知ったのは今朝なのに、一日も経たずに推測が真実だと確定してしまったわ。そして、その事実が豹の確保において…途轍もない障害になろうとしている。

 

「だが、何故ラルバのことを魔界が知っている?」

「信じられないでしょうけど、今朝博麗神社に向かう前に成美が冬眠に入る前のラルバを連れて来てくれたのよ。私とユキは気付けなかったのだけれど…夢子が看破してくれたわ」

「先輩がいなくなってしまってからは、私が神綺様の護衛を務めることが多くなったから。相手のことを見抜く観察眼は鍛えてるわ」

「成程な…冬眠に入るのであれば放置しておいていいだろう。今のラルバであれば隠岐奈様が討伐することはあるまい」

「貴方達は納得してるけど、私には話が見えてこないわー。ちゃんと補足してちょうだい」

「あ、そうだね…簡単にまとめると、兄さんとわたしは月の奴らと戦ったことがあるんだ。そうなった理由がとても許せないものだったから、いつかあいつらは滅ぼすべきだと思ってる。だから、その時の戦力になるかもしれないラルバを兄さんは助けたんだと思う。

でもこうなっちゃった以上、隠岐奈ってのとはやり合うことになりそうだね…」

「…なんだかすごいこと言ってない?藍、こんなことまで私にも隠してたの?」

「これに関しては我々もついさっき知ったんです。豹からは『月の連中は俺の事を知っている可能性がある』としか伝えられておらず、月で戦闘になったことまでは私どころか紫様にすら豹自身が伏せていたので」

「本当に、豹って人は強いんですね…お爺様が握手を交わしたというのがよくわかりました」

 

…幽々子と妖夢も豹の強さを月と比べることで理解しているけど、何処で関わりがあったのかしら?

あまり冥界と永遠亭に交友は無いと思っていたけれど。まあ、今までの状況を顧みればこの二人が月側に与することは無いはず…それこそ八雲と親しいのだから。ここを深く聞いておく必要はないわよね。

 

「それで、その隠岐奈が絡んできた場合私たちはどう対応すればいいのかしら?」

「まず大前提として、隠岐奈様も魔界との全面戦争は望んでいない。霊夢たちを拉致したとはいえ、アリスはともかくスペルカードルールを理解しきれていない夢子とユキに差し向けるということはしないはずだ。

隠岐奈様からお前たちに接触してきたとしても、交戦になることは無いだろう。我々以上に魔界の情報を欲しているはず…情報交換に応じてもらえればいい。どこまで話すかはそちらの判断に任せる」

「でも、兄さんに巫女たちを差し向ける可能性はあるってことだよね?」

「ああ、それが問題だからこそ紫様が向かってくれた。

だが、豹と隠岐奈様の因縁を考えると簡単に退いてくれるとは思えない。そうなると…妖夢に頼らざるを得なくなる」

「え、私?」

「妖夢…どうして昨日紫が直々に回収したと思ってたのよー。

霊夢や魔理沙が彼を狙ってきても、夢子とユキが相手するわけにはいかないことは昨日までに教えた話でわかるわよね?」

「…あっ!?そういうことですね、アリス一人で相手しきれなくなっちゃうのか!」

「そういうことよ。霊夢と魔理沙の他に、魔理沙の師匠である悪霊の魅魔と、太陽の畑のフラワーマスター・風見幽香。この4人にタイミングを合わせて豹を狙われると、私一人では止めきれない。だから妖夢にはこの4人が動いた時、一人だけでもいいから足止めに回ってほしい。これは私たち魔界人と八雲で一致してる要望だわ」

「どうしようもなくなったら、私も足止めに回るが…私が動くともう一人豹の排除を狙っている者に介入する口実を与えてしまう。結果として豹を狙う者を増やしてしまう以上、私が4人を押さえに動くのはギリギリまで控えたい。

そのためにも、妖夢には即応遊撃を任せたいんだ。一人だけでもいい、戦力を豹に集中させないための足止めに動いてもらいたい…頼めるか?」

「うん、それぐらいなら大丈夫!任せて!」

「ありがとう、助かる!昨日いきなり手を出しちゃったわたしが言うのも図々しいけど、お願いね!」

「気にしないで。お爺様のことを少し聞けただけでも、私にとってはあなたたちに協力する理由になったから」

「私からもお礼を言わせて頂戴。ありがとう」

 

昨日の敵は今日の友、だったかしら?ここで最悪の事態における保険が一つ出来たのは大きい。

豹を例の4人が狙うことはカナたちも避けたいはず。私と妖夢で2人抑えれば、残りの2人を上海と同行してるカナやルナサたちも止めようと動いてくれるはずだからね。

 

「それじゃ、もう一つ気になったことを聞かせて頂戴。さっき、幽々子を含めて5人豹の正確な情報を持っていると言ったわよね?それが誰なのか教えて頂戴」

「教えるも何も、完全に敵対してる一人が今話した摩多羅隠岐奈よ。どうして彼を敵視してたのかは、私も今初めて聞いたのだけどねー」

「そしてもう1人は先ほど顔を合わせている。茨華仙がそうだ」

「あ、鬼の仙人ね!ということは中立の1人が彼女なの?」

「そうよー。というか、初見でそれを見抜いたの貴方?」

「…流石は豹の妹だな。だが、ごく一部を除いて茨華仙はそれを隠しているんだ、これは口外しないように頼む」

「え、そうだったの!?ごめん…というかこれは彼女に謝らないとね。また会う機会があったら謝っておくわ」

「そうしてくれ。そして、残りの二人は烏天狗の大将・飯綱丸龍とその腹心の管狐・菅牧典だ」

「…管狐?もしかして文を引き下がらせたあの狐かしら?」

 

雛を訪ねに出向いた時、あの文に伝令を伝えるだけで引き下がらせたから…ただの下っ端ではないと思っていたけれど。

 

「そうだな…白いアオザイのような衣装に身を包んでいたのであれば奴で間違いない。射命丸を引き下がらせることが出来るような管狐など、奴以外に思い付かないからな」

「当たりね。なら、あの時私たちを雛の元に誘導したのも思惑の内だったということかしら…」

「奴は警戒すべき相手ではあるが、こちらから手出しするのは避けた方がいい。今のところ、妖怪の山が魔界と全面戦争になるリスクを背負ってまで豹を狙う可能性は低いからだ。

なにより、私も足止めに回るのを避けたい理由がこの2名だ。この一件に介入しないよう八雲の使者として私が交渉した以上、私が介入すれば彼女たちが不介入を反故にする理由が出来てしまう…足止めに向かえる戦力に私を数える必要がある以上、余計な手出しをすることで早期に動かれる方が困る。

天狗勢力は数で押すことが出来るからな。絶対的な人員不足にある我々とお前たちにとって、敵に物量作戦で来られるのは最も避けたい展開だろう?」

「そうね。警戒はしておくけれど、なるべく不干渉を心掛けておくわ」

 

夢子はある程度幻想郷の状況を理解できてるから、話が早くて助かるわ。今の戦力で妖怪の山の戦力を相手取るのは厳しい…せめて母さんが合流するまでは避けるべきだものね。

 

「…伝えておくべき情報はこれぐらいだな。他に何かあるか?」

「いえ、ここまで情報提供してくれるとは思ってなかったわ。

先輩の保護に関しては相容れないけれど、全面戦争を避けることに協力してもらえるだけでも助かる。ここに関してだけはお互いに、今後も全ての情報を開示することにしましょう」

「ああ、私からもそれはお願いしたい。豹のためにも、幻想郷と魔界の決裂は避けなくてはならないからな」

 

夢子が会談の終わりを告げる。時間はかかったけれど、収穫は予想以上。

後は上海たちから情報を貰って、母さんの到着を待つべきかしらね。




出番に恵まれないのに独自設定ガッチガチなラルバ。
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