寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により134話の濁点ミスを修正してます。いつも迅速なご指摘ありがとうございます。
もう一件、捜索において紹介してくださった読者様がいらっしゃいました。ありがとうございます。


第135話 双子の悪魔が望むのは

「―――私たちの方にあった動きはこんなところよ。カナと上海が豹と会えたことで、豹は隠れ家に帰るという選択を取れるようになった」

「そうですか…話を聞く限り、ヒョウは私の目的を話していないということですね?」

「ええ…なにしろ私と麟のことも聞いておかなければならなかったし、アリスに勘付かれるリスクを考えて手短に済ませたから。だから、次はあなたたちの番」

「私から話そうとも思ったのですが、ここに向かう途中でアリスさんから通信が来てしまいまして…お伝えする時間がありませんでした。ごめんなさい」

「麟が謝る必要は無いよ。それこそ、その通信は私たちにとって都合が良いタイミング。

一度通信が繋がってるなら、その人形が繋がらなくなったのは私が警戒したってことに出来るでしょ?」

「あ、そういうことにしちゃっていいの?そうすると夢月さんをアリスたちが信用してくれなくなっちゃうかもしれないけど…」

「魔界人なら姉さんはともかく私は排他的って思ってる。ならその思い込みを利用するのが楽。

私なら夢子相手でも問題ないし」

「…ご主人様なら、私の反応で見破ってしまうかもしれませんが。私が下手に取り繕うようなことをするよりは誤魔化せると思います。夢月さん、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「いいよ。夢子とは何度か楽しませてもらってるし、アリスもエリー相手に手加減できるような使い手なんでしょ?期待できるわ」

「その、なるべく穏便に…」

「ごめんね上海、私もあの神綺が目をかけてる末の娘には興味があるんです。命までは取らないことは約束しますが、チャンスがあれば相手にさせます。

―――そのときは、上海も本気で抗ってくださいね♪」

「っ!………はい。全力を尽くします」

「フフ…本当に素敵な人形ね。

安心して、なるべく上海の姉妹も壊さないようにしてあげるよ。楽しめる相手は弱体化しないように相手する…そうすれば何度も遊べるんだし」

 

軽く話には聞いていたけど、恐ろしい悪魔だというのが私にも今のやり取りでよく理解できた。いわゆる戦闘狂と呼べる存在…闘うこと自体を楽しめるからこそ、強者は生かしておく。弱者を容赦なく始末するのは、再戦しても楽しめないからということ。

 

これは、噂でしか上位妖怪や高位の悪魔・天使を知ることが出来ない人間や低級妖怪からは恐怖の対象になるはずね。私も下手に刺激しないようにしないと…

 

「では、ルナサさん。これを…

 豹さんに頂いたものなので、手放すのは惜しいのですが」

「…私からエリーに何かお返しをするよう言っておくわ。大切に使わせてもらう」

 

エリーから麟ももらっているイヤリングを受け取り手早く身に着ける。後はくるみたちから魔界の情報を確認するだけ…もっとも、夢幻姉妹以上に規格外かもしれない堕天使(サリエル)を待たないといけないみたいだけれど。

 

「そういえば豹さんこのイヤリング回収しなかったんだよね…夢幻館を離れた後のことも考えてたんだ」

「豹さんだからこそ、一人では逃げ切れないということを誰よりも理解していたのでしょう。ルナサさんが持つことによって、私たちは今後3組までは分かれて動けるようになる…おそらく、今後そうなる可能性が高くなると予測しているのではないでしょうか」

「神綺がそろそろ幻想郷に向かってもおかしくないですからね。陽動として動くのであれば私たちも分散するべきでしょうし」

「ま、そのあたりはサリエルに聞きましょ。

で、姉さんが説明してくれるんだよね?」

「そうですね。それでは、私と夢月が魔界に出向いた理由を説明しましょうか。

前提として、ヒョウとサリエルの出会いについては聞いていますよね?」

「昨日、ユキと夢子さんがわたしたちにも軽く話してくれたけど…反乱の話がメインだったから、月での話は詳しく聞きたいな。その大天使さんが来るまで時間はあるんだよね~?」

「そうね。サリエルを豹・ユキ・魔界神で救ったとは聞いてるけど、サリエルがそれだけで魔界神ではなく豹の味方になってくれるというのは…本当に?と思ってしまう」

「私も一度だけご主人様に連れられてお会いしたことがありますが、本当に今に伝わる高位の天使そのものな方でした。ですからこそ、豹さん一人のために力を尽くしていただけるのかは…不安に感じてしまいます。

サリエル様でしたら、神綺様と同時に魔界を離れることは避けてしまうと思うのです。たった一度会っただけ、それも自立意識をもらえてすぐのころの私ですらそう感じた方なのですから」

 

時間があるのであれば、私たちにもサリエルのことは教えてほしい。昨日はどうしても情報交換を優先しなくてはならなかったから、豹のことを除く過去のことは必要最低限しか聞いていない…

そう、直接顔を合わせたユキと夢子はともかく、過去語りにおける他の登場人物…魔界神の神綺や堕天使サリエル、もう一人の首謀者カタマサや裏切り者を再度裏切ったマイといった面々のことは最低限のことしか伝えられていない。だからこそ、余裕のある時に足りていない情報は渡してほしい…!

 

「いいですよ、私どころか夢月ですら聞き入ることのできた昔話ですから、サリエルが戻るまでの時間つぶしには丁度いいでしょう。

もう一度聞くことになる麟とエリーにくるみは、ちょっと退屈かもしれないけど」

 

 

 

 

 

「―――というのがヒョウとサリエルの出会いだったそうです。これでサリエルが本気なのはわかりますよね?」

「………ええ、よくわかったわ。

 …豹はそんな大昔から、【妹】を増やし、守り続けていた…」

「いや…今になってわたし、物凄い人のお家に憑りついてたって実感したよ…

 まさか、月の支配者だった天使様まで恋させちゃってたなんてね」

「…神綺様が何の迷いもなく夢子さんを幻想郷に送るわけです。

 もし豹さんが反乱を起こさなければ、今の魔界で伝説になるようなお話でした…」

 

上海の反応に私も頷きそうになった。歌劇(オペラ)の題材に使われても不思議じゃないような救出劇…よほど捻くれた性格をしていなければ、サリエルと同じ状況に陥れば豹に恋してしまうでしょう。絶体絶命の危機に現れた王子様に救われたというハッピーエンドなストーリー。

 

その終章(エピローグ)で、王子様役(ヒョウ)が姿を消すことが無ければ。

 

「でも、豹は魔界の何を知りたがったの?どう考えてもサリエルが豹を魔界神に突き出すことは無い。そしてサリエルと魔界神は親しい仲と聞いたわ」

「どうしてヒョウという名前が今の魔界で伏せられているのか。この理由を先に調べてほしいと頼まれました」

「あっ!?」

「…魔界で過ごしていた上海だと、やはり不自然に感じるのですか?」

「はい、エリーさん…神綺様や夢子さんが豹さんのことをまだ信頼しているのであれば、豹さんの存在を消し去ってしまうのには絶対に理由があります。豹さんのことを大切に想っているのであれば、最初から居なかったことになんてしません。神綺様も夢子さんも、優しいですから」

「そうだね、わたしもそう思う。神綺様ってののことはアリスからも聞いてるし、夢子とは直接話したし。

でも、隠されてるんならそのまま魔界に帰っても問題なさそうな気がするけどな~」

「それについての理由は、ヒョウの言葉で纏めるなら『また俺が理由で魔界を戦場にしたくない』ですね。

ヒョウをサリエルが保護することで、神綺を引き摺り降ろそうとする野心家やサリエルを魔界から消し去りたい悪魔が騒ぎ出す可能性があるそうです」

「…そうですね。神綺様は魔界人を自由であるよう創り上げてくれました。だからこそ豹さんの反乱に協力した方がいた。今の魔界でも、支配者の座を狙う方々はいますから」

「サリエルに関しては私たちの方がよく知ってるしね。姉さんと私が夢幻世界で過ごしてるのも天使を嫌うふざけた悪魔共が原因だわ」

「それもあるから、豹さんはサリエルのところに行く前に反乱の結末を調べてほしいって幻月さんと夢月さんに頼んだの。今でも豹さんは、魔界のことを守ろうとしてる。切り捨てることが、出来てない」

「私も同じです…こんな状況になっても、私は豹さんのためと思い込んで先走ってしまいました。逃走しているのであれば、勝手に動いた私は真っ先に切り捨てるべきだったのに、見捨てずに次の機会を与えてくれたんです。

豹さんは私だけでなく、ここにいる皆様も見捨てることが出来なくなっているでしょう」

 

本当に、豹は何処であろうと、誰に対してであろうと芯がブレない。

守るべき存在…それが生物だろうと世界だろうと、護ると決めたら切り捨てることが出来ない。

それを貫き続けた結果が、誰からも求められているのに、誰も頼り切れないという現状。

 

「それで、その理由は私たちが聞いても大丈夫なのかしら?」

「はい、今となっては伏せる必要のないことでしょうし。

簡単に言えば『ヒョウの反乱によって出来てしまった男女格差を隠すため』でした。ヒョウの反乱が終結した後に起きた男性を中心とした人口流出、それにより必要になった移民の受け入れに際して反乱の原因を隠すために、ヒョウやカタマサの名前ごと伏せたそうです」

「…そういうこと、だったんですね。当時魔界へ移民してきてもらいたかったのは減ってしまった男性。それなのに男女格差で反乱が起きてしまったなんて正直に答えるわけにはいかない。

神綺様は魔界を守るために、豹さんの名前ごと反乱の詳細を隠した」

「ホントすごいね上海ちゃん…魔界に住んでたのもあるんだろうけど、こんな簡単に答えを出せちゃうなんて」

「うん、昨日の時点で人形なんて思えないと感じたけどさ…私なんかよりずっと頭の回転が速いよね」

「ご主人様と隠れ家さんのおかげです。私が知る知識は私が得たものではなく、ご主人様と隠れ家さんが与えてくれたものがほとんどですから」

「それを理解して言葉に出来るだけ凄いですよ。私が言うことではないと思いますが、アリスも隠れ家も与えた知識をしっかりと活用されるのは喜ぶと思います」

「はい、人間の私が上海ちゃんと同じように知識をもらえたとしても、それを整理して活用できるなんて思えません…思考能力の限界を超えてしまうでしょうから」

「エリーと麟の言う通りよ。もらったものは使い倒してこそ。

上海はもっと強く、賢くなれる。向上心を無くさないようにしなさい」

「はい、夢月さん。頑張ります」

 

上海はよく出来た子よね…なるべくアリスにぶつけるのは避けてあげたいぐらい。今後手を貸してくれるのであれば、夢幻姉妹のどちらかに同行してもらうのがいいかもしれない。

 

…今ここにいる中で、アリスと真正面からやり合えるのは夢幻姉妹だけでしょうから。

 

「―――ここまでは私たちも理解できた。それで、幻月の目的というのは?」

「ヒョウとサリエルの運命の再会を特等席で見ていたいんです!

 だから、ヒョウを一度ここまで呼び戻すのに手を貸してもらいますね。

 サリエルは、もうここまで来ることに同意してくれましたから!」

 

……うん、ここに来て幻月も実に悪魔らしい反応を見せてくれた。

サリエルの恋路を観察者として楽しみたいだけなのね。

 

「―――あっ!丁度サリエルが夢幻世界に戻って来てくれました!

夢月、迎えに行くわよ!」

「はいはい…それじゃ、少し待ってて。

心配しなくても、サリエルは優しいから危険は無いよ」

 

細かいことを聞き返す前に幻月が飛び出してしまったわ。皆と顔を見合わせるけど…誰も止めようがない。

 

「…今のうちに、サリエルさんたちの椅子も用意しておきましょう」

「あ、それならわたしが手伝うよ!今後ここで襲撃された時に戦力になるために、使っても大丈夫なモノをついでに教えてほしいわ」

「あ、それじゃカナにお願いしていい?私はもう少しルナサたちと話を詰めておくから!」

「わかったわ、それではカナさん、こちらにどうぞ」

「は~い」

 

そう言ってエリーがカナを連れ部屋を出ていく。

 

「…たち、と付けていたわね。サリエルの他にも来てるのかしら?」

「うん、魅魔ってのと繋がりがある堕天使のリィスさんが、豹さんの力を求めてる里香って戦車技師を連れて来てくれることになってる」

「戦車技師の里香!?ルナサさん、もしかして…!」

「…これは、予想外の収穫があるみたいね」

「そういえば、豹さんがここ―――夢幻館を離れた後に向かった明羅さんのところに居たという方の名前は!」

「そう、どういうことなのかは本人とリィスさんに聞かなきゃわからないんだけど。

これもあるから、待っててもらいたかったの」

 

豹が直接動いてまで、私たちを合流させたことが完全にプラスに働いてるわね…!

どうにかして、彼女たちも味方に引き入れないと。

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