寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第136話 妖怪の口にも戸は立てられない

「それで?霊夢はどう返したのよ」

「さっさと準備を済ませてちょうだいだとさ。博麗の巫女も、豹を幻想郷に置くのは危険と判断したわよ。

いい加減紫も諦めなさい?魔界が受け入れる気満々な以上、奴は幻想郷を崩壊に導く存在だわ」

「豹がそうなったら私が処分するわ。隠岐奈より余程効率良く豹を仕留められるもの。

余計な手出しをしないでほしいのだけれど?」

「豹に関しての紫は信じられないわ。処分したと見せかけて逃がすぐらい平然とやる。

長い付き合いなんだ、どれだけ豹に入れ込んでたのかは紫よりも私の方が理解してるさ。

だから選択の余地が無い手段を取ったまでよ。霊夢を見捨てて豹を取ることは出来ないでしょう?」

「相変わらず嫌らしい策を打って来るわね。要はこの機を逃さず豹を確実に排除すると」

「ああ、ようやく奴が見せた隙だ。今回ばかりは妥協しないよ。

 幻想郷と豹は二者択一だ。紫を完全に敵に回してでも、この異変で終わりにするわ」

「そう。なら私も手段を選ぶ必要は無いようね。

 友人一人すら守れないで幻想郷を守れるはずがない。それは隠岐奈もよく覚えておきなさい」

 

結局あのポンコツ二人組は妨害に失敗して紫が直接乗り込んできた。おまけに茨華仙まで連れて来ている…ま、彼女は分の悪い賭けには乗れない。この件に関しては味方には出来ずとも、敵対することは無い。管理者の中で有力な部下を従えずにいる茨華仙では、今となっては大勢に影響を与えられないのだ。最早、個人で動かせる事態など些末でしかないのだから。

何も口を挟まず私と紫のやり取りを聞いているのが、茨華仙自身も理解できている証拠だ。

 

「そうね、この件で少なくとも紫は守るわよ」

「有難迷惑よ。あまり豹を甘く見ないことね」

 

つれない言葉を返しながら、紫が茨華仙を連れてスキマに去る。まったく、妖怪の賢者ともあろう大妖怪がここまで絆されるとはねえ…

 

「ま、紫はあの様だ。だからお前たちが接触してきてくれて正直助かったよ」

「ここまで堂々と知らなかったフリするなんてねー。あのスキマ妖怪と並ぶだけはあるってワケ?」

「私は能楽の神でもあるのだぞ?表面を取り繕うことなど朝飯前さ」

「ヒョウの野郎、本っ当に女たらしだな…!何も考ないで周りに不幸を振り撒いてやがる」

 

紫と茨華仙が幻想郷へ帰ったのを確認して魔界からの協力者が戻ってくる。

しかし、月から堕ちた大天使の側近と使い魔だけはあるな。幻想郷の管理者という情報から後戸の国に自力で侵入しただけでなく、ここから近い異空間に潜んでいるのを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に隠れ切った。舞と里乃が結果的に陽動となったことと、会話だけ聞かせるための私の補助があったとはいえ大したものだ…舞と里乃より駒として使い出がある。

 

「エリスと幽玄魔眼と言ったな。今後は舞と里乃と協調して動け…永遠亭に対しての細かい詰めは後々指示を出す」

「はーい、幻想郷の案内役を付けてくれるのは助かる!

 ヒョウをぎゃふんと言わせてやりましょ!」

「ヒョウの野郎を確実に仕留めるには、援護の無い孤立状態にしなきゃならない…サリエル様のためにも頼りにさせてもらうぜ、秘神」

「ああ、上手く泳がせて見せるさ。

 こんな好機、二度と来ないだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「おかえり。思ったより早く帰って来れたみたいね」

「あ、雷鼓の方が早かったんだ。ってことは、あなたが衣玖さん?」

「はい、先ほど人形でお話しさせていただきましたね。あらためてよろしくお願いします、リリカさん」

「よろしく!でも、随分と大所帯じゃん。なんかあったの?」

 

家に帰ったら、雷鼓と衣玖さんが中で待っててくれたわ~。姉さんが鍵を渡してくれてたみたいね。

でも、予定外に数が増えてるわ。

 

「私たちは詳しいことまで聞いてないから、下手に動く方がまずいかなと思ったのよ」

「姉さんが妙な話を聞きつけて来てさ。ちょっと確認してもらいたいわ」

「わざわざありがとうね~!だいぶ事態は動いてるからこそ、情報はいくらでもほしいもの~。

なにがあったのかしら?」

 

九十九姉妹も来てくれてたわ。私たちと完全に別行動して得られた情報だから、とっても助かるわね~。

…なんて軽く考えてたら、思った以上にまずそうな話だったわ。

 

「夜雀のミスティアって知ってる?」

「え、鳥獣伎楽とか名乗ってる片割れのあいつ?」

「そう。もっとも、話の中身はもう一つ活動してる屋台の方なんだけど。

昨夜、あいつの屋台を襲って来た奴がいたんだってさ。清蘭屋っていう団子屋の店主が客として来てたんだけど、そいつが狙われたせいで巻き添えにあったそうよ」

「その店主ってのも兎だから、妖怪二人相手に一瞬で決着を付けるような実力者だったらしいんだけど…

そいつら、えりとくるみって呼び合ってたそうよ」

「「えっ!?」」

 

ちょっと待って、どういうこと!?

えりは、たぶんエリーのこと。くるみと一緒に名前が出てるんだから。

つまり、夢幻館に居たって二人が襲撃したってこと!?

 

「私も先に話を聞いといたんだけど、思った以上に面倒そうよこれ」

「そのえりとくるみという二人組ですが…一人が左頬に星を持つ金髪黒翼の悪魔。もう一人は背後に目玉を展開していたそうです」

「へっ!?それって衣玖さんが教えてくれた…!」

「そうです、つまりエリスと幽玄魔眼が()()()()()()()()()()()()()襲撃したということになります。

ですが、襲撃された屋台の店主も客の団子屋も気絶させられただけで所持品や売上金を奪われた形跡もなかったそうなので、おそらく彼女たちの狙いは情報。つまり団子屋の店主が何かしらの情報を持っていたということになりますが…」

「あっ!?兎って言ってたじゃん!

つまり、そいつらが求めてた情報ってのはもしかして!?」

「そう、おそらく永遠亭絡みのことだと思うわ。この前軽く説明された時に唯一口止めされたことだし、私と八橋は弾幕ごっこならともかく戦闘じゃ役に立てないからね。軽く流して退散したのよ」

「そのまま姉さんと私は合流したんだけどさ、雷鼓が留守だったからここに来てみたんだけど…その雷鼓がこの洋館に居たから説明したってわけよ」

 

これは私とリリカの判断で動くのは危ないわよね~。カナたちだけじゃなくアリスたちとも共有するべき情報だわ。

となると、衣玖さんの助力を隠したまま動くにはここで一度離れてもらわなきゃならないわ。なら、納得してもらうためにもちゃんと豹のことを今ここで説明しておくべきね。

 

「二人ともありがと~。ここまでしてくれた以上、衣玖さんだけじゃなくて弁々と八橋にも豹のことはちゃんと説明するわ」

「ハッキリ言って私はいざとなれば逃げたいぐらいヤバい。だからこれ以上の協力は無理強いしないからさ。

ちょっと長くなるけど豹のことを聞いてって」

 

 

 

 

 

「うっわぁ…正直言って私と姉さんじゃ完全に足を引っ張るじゃないの」

「この姿を取れるようになってようやく弾幕ごっこならある程度渡り合えるようにはなったけど、スペルカードルール無しの戦闘経験なんて私と八橋はほとんど無いわ。申し訳ないけど、これ以上深入りするのは遠慮させてもらっていいかしら?」

「うん、私もそうした方がいいと思う。っていうかそれこそ私がマズくなった時の逃げ場が欲しいのよ!

雷鼓は豹を連れ戻す気満々だからさ、弁々と八橋はしばらくこの件から離れててくれない?私がついていけなくなったら避難させて!」

「まったくリリカは…まあいかにもリリカだけどね~。

雷鼓はもう覚悟してくれてるみたいだけど、衣玖さんはどう?稗田に聞いてきてもらえた話だけ教えてもらえれば、これ以上踏み込まなくてもいいけど~…」

「出来れば、衣玖の日常に影響が出ない程度でいいから力を貸してほしい…だけど、もっと深入りしてるリリカでさえ逃げたがってるから無理は言えないわ。どうする、衣玖?」

「…そうですね。私が深入りするべきではないのでしょう。

―――ですが、私が天界経由で彼女たちの侵入を見逃したことが天界の住人や地上の有力者に確認されてしまっている場合は、深入りせずとも面倒に巻き込まれそうなんですよね。

…そもそも、昨日の時点で総領娘様が気付いている可能性があるのです」

「え、あのお騒がせ天人が?」

「はい、私は昨日の仕事帰りに問題の2名と鉢合わせたのですが。私が家に帰り着いたぐらいに総領娘様が侵入地点近くを徘徊していたのです。いくらあの総領娘様でもあんな夜更けに目的もなくふらつくとは思えませんので、少なくとも天界に侵入者がいたということには気付かれています。私が見逃したことまでは把握していないと信じたいですが…今日一人で色々調べた上で手掛かりなしだった場合、まず間違いなく私のところに来てしまうのですよね…

天界の住人で、定期的に地上に降りる者なんて私ぐらいですので」

 

うわ~…なんだかものすごく厄介なことになりそうな情報が出てきちゃったわね~。博麗神社を地震で倒壊させるなんて暴挙に出たあの天人に情報を掴まれたら絶対に首を突っ込んでくるわ。余計なことをされるのが目に見えるわよ~。

 

「ですので、乗り掛かった船です。私もこの一件に協力させてください―――というより、総領娘様が無駄に騒ぎを大きくしないようにするために情報を貰いたいのです…そうしないとまた私の仕事が増えてしまいます。私が総領娘様に誤情報を流すことで足止めになりますので」

「衣玖さん、ありがとう!でも、本当に危なくなったら無理はしないでね~?」

「はい、そこは空気を読ませてもらいます」

 

これは本当に助かるわ!【魔界と繋がっていない】協力者が出来たのは大きい…それにあのお騒がせ天人の動きをある程度操縦するなんて衣玖さんにしか無理。豹の名前がこれ以上広まらないように動いてもらえるだけでも大助かりだわ!

 

「それじゃ、私と八橋はここで失礼していいかな?リリカが私たちのところに来ない限りは動かないってことで」

「OK!夜雀襲撃のこと教えてくれただけでも超助かったもん!

今の状況で弁々と八橋が狙われることはないとは思うけど、気を付けてよ!」

「ええ、いざとなったら人里の自警団を頼るわ。この前のライブが上手くいったおかげで、人里に紛れ込んでも排除されることはなさそうだからさ」

「それがいいでしょうね~。今のところ、人里を巻き込むことは全員が避けたがってるもの~。

機会があれば、私から慧音にもお願いしておくわ~」

「ありがと、助かるわ。

それじゃ、あなた達も気を付けなさいよ?」

 

ここまでなら、九十九姉妹が狙われることはまずないはず…可能性としてはアリスから関与を聞ける魔界神だけど、話を聞く限り《フリーダムだけど穏健派》ってイメージなのよね。アリスから説明してもらえれば攻撃することは無い気がする。

 

そして九十九姉妹が家を出て行ってから、衣玖さんが口を開いたわ。

 

「それでは、稗田阿求から聞き出した情報ですが…まず前提として【あくまで稗田阿求個人が敵視しているだけで、人里全体から敵視されているわけではない】のは間違いないでしょう。おそらく、脅迫された後に討伐を持ちかけて断られたことがあると見ました」

「そうなのね~…ある意味一番不安なのはファン達が豹を探しに動いちゃうことだったけど、それは心配しなくてよさそうだわ~」

「あー…言われてみればそうなったら詰みだったわね。豹の認識阻害魔法を破れるようなファンの熱意が敵に回っちゃうと、人海戦術で豹が身動き取れなくなってたのか」

「あの豹が本気でビックリした表情(かお)してたもんね。いろいろ聞いた後だと、私たちのファンすごいじゃん!!ってなるわー」

 

リリカに言われて私はそこに気付いたわ…私たちのファンは魔界神の護衛が行使していた魔法を打ち破ったということになるのね。

…豹が大慌てで逃げたわけだわ~。今思えばあの天狗のブン屋よりファンに認識されたときの方がず~っとびっくりしてたもの~。

 

「メルランさんたちのライブには人妖問わず大勢の方が集まりますものね。幻想郷全体をくまなく調べることも不可能ではないでしょうし…そういう意味では、豹さんが裏方として皆様の信頼を得ていたのは幸運だったのでしょう。それこそ皆様が敵に回っていましたらあっさり魔界に帰ってしまったのかもしれません」

「そうね~。でもそうはならなかったわ。私も姉さんも、豹を幻想郷に引き留めたいんだから」

「…あのさ、もしかしてメル姉も結構本気?」

「何を今さら~。私は最初から豹を本気で探してるわよ~!」

「いやそっちじゃなくて…あー今はいいや。衣玖さん、続きお願いしていい?」

「やれやれ…メルランがある意味一番鈍いんだよなあ」

「ふふ、今は空気を読んで、話を戻しましょう。稗田阿求から得た情報で、大きなものが一つだけあります。

摩多羅隠岐奈という賢者の一人は、豹さんの追放もしくは粛正を目論んでいるそうです」

「「「ええっ!?」」」

 

衣玖さんが平然と、大きすぎる爆弾を投下して来ちゃったわ…

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