寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第137話 姉の真意を見透かして

「ちょっとちょっと!?賢者の一人ってどういうことなの!?」

「落ち着いてくださいメルランさん。私は竜宮の使い、龍神様からのお言葉を伝える役目を果たす者。

ですので幻想郷の上層部に関してもそれなりの情報を持っています。私の知る範囲にはなりますがしっかり説明しますので、まずは私からお話しさせてもらえませんか?」

 

慌てて反応しちゃったけれど、衣玖さんは冷静に私を抑えてくれたわ。でも、何気なくすごいこと言ってるわよね~…

 

「ちょい待ち。衣玖が龍神様に仕えてるのは知ってたけど、管理者たちとも面識があるの?」

「全員というわけではないのですが、今問題になっている隠岐奈さんとはありますよ。ただ、初めて顔を合わせたのはつい最近ですので…詳しいことは知らないのですが」

「…いや、もしかして衣玖さんって凄く偉かったりする?」

「そんなことはありませんよ、私はあくまで竜宮の使い。龍神様のお言葉を伝える使者でしかないのですから。

管理者の元を訪ねることはあっても、私的な付き合いが出来るような立場も実力もありません」

「それでもビックリよ~…でもよく考えれば、龍神様の使者として働いてるんなら管理者のところにも行くわよね~」

 

地上で言うと八雲藍や紅魔館のメイドあたりの立場だものね。使者として勢力の長の元に向かうのなんて。

 

「話を戻します。その隠岐奈さんですが、私が訪ねることになった理由は四季異変を引き起こした存在だったからです。流石に龍神様からのお言葉を皆さんに漏らすことは出来ませんが…あれだけの異変を引き起こせる賢者の一人ということになります」

「って、管理者が異変の元凶だったっての!?」

「はい、だからこそ私が派遣されたわけですし…

総領娘様のせいで地上に伝手が出来てしまったので、地上への使いはだいたい私に命じられるようになってしまったんです。以前は同僚と持ち回りだったのですが、私ばかり地上に降りるせいで婚期を焦る同僚に紹介を頼まれたりするようになって余計なストレスが溜まる一方なんですよ…

それを解消するためにも、メルランさんのライブと雷鼓さんたちとの飲み会がなくなってしまうのは困ります!ただでさえ面倒臭い総領娘様に目を付けられてしまっているのですから、私には安らぎが必要なんです!!」

「うん、衣玖さんも大変なんだね~…ひと段落したら私たちで奢るから、頑張って」

「お気遣いありがとうございます…でも割り勘で大丈夫ですよ」

 

悪い言い方をすると使者って使い走りだものね~。天界で暮らしてる衣玖さんが地上へのお仕事ばかり向けられちゃったら疲れるのは当たり前。私のライブでハッピーになってもらえてるんだから、豹のことで手伝ってもらえる分はちゃんとお返ししないとダメよね。

 

「後継者を探す、というのが異変を引き起こした理由だそうですが…おそらく本来の目的は別にあり、それも果たされたからこそ私に詳しく結果を話し龍神様のお言葉を素直に受け取ったのだと思います。

もっとも、豹さんには無関係な話でしょうからこの異変に関しては気にしなくて大丈夫です。問題になるのは【目的のために異変を起こすような賢者が、豹さんを敵視している】という点です」

「…つまりは、豹を幻想郷から追い出すためだけでも大掛かりなことを仕掛けてくる可能性があるのね?」

「そういうことになります。稗田阿求さんは有力者とは言っても人間…()()()()()()()()()()()豹さんの追放もしくは排除の協力を要請したということです。明らかな格下すら味方に付けるべく手を回しているところを考えますと、アリスさんが豹さんを見つけた日よりずっと前から動いていたのでしょう」

「ちょっ、それってかなりマズいじゃん!豹は八雲紫のところで働いてたのに、別の管理者から狙われてたってことだよね!?」

「…あっ!今はもう八雲は表立って豹を助けられなくなってる、つまりそいつが大きく動いても豹を守ろうとする管理者はいないってこと!?」

「おそらくは。ですが『豹さんの存在を知るのは大妖怪でも一握りなので、逆に賛同者が少なく見過ごされている』と稗田阿求さんは言っていました。ですので今はまだ大丈夫だとは思いますが…豹さんを幻想郷に留めるとしても、魔界の方々とは協調するべきだと思います。隠岐奈さんが幻想郷の有力者達の支持を集めてしまうととても戦力が足りません…そのためには、豹さんが幻想郷に留まることを魔界の皆様に認めてもらうことが必須になります」

「…困ったわね~。そんな危険な状況なら魔界に帰らせるって絶対に言ってきちゃうわ」

 

思っていた以上に豹の状況は悪い…いえ、想像以上に豹は重要人物だったと言うべきかしら。まさか管理者から人間に協力を頼む必要があるほどなんて想像できなかったわ。

そしてそれは、私たちだけで豹を守るのはまず無理ということ。そして魔界も頼れないとなれば…

 

「…夢幻姉妹が、頼みの綱になるかしら」

「夢幻世界の双子悪魔ですか。今夢幻館に向かっているルナサさんたちが上手く説得してもらえれば助けてもらえるかもしれませんが…」

「悪魔との取引になるのよね…正直に言って、私も怖いわ」

「雷鼓も私の気持ちわかってくれた?いやホンット豹の周りスケールでか過ぎんのよ!

魔界神とか幻想郷の管理者とか異世界を創った悪魔とか、私ら場違いとしか思えない戦力差あるっての!!」

「リリカ、その考え方は変えないでね。私と姉さんはもう覚悟を決めてるから。

 いざとなったとき、止めに入るのは任せるわ」

「「「…っ!?」」」

 

リリカだけじゃなく雷鼓と衣玖さんも私に驚いた視線を向ける。

…まあ、そうなるわよね。姉さんが()()()()()()()()()のに確信を持ってたのは私だけでしょうし。

衣玖さんの話を聞いて、ようやく姉さんが頑なに私にも隠して、なるべく距離を置こうとしてたのかがわかったわ。

 

姉さんは、自分が舞台から振り落とされたとき…私が代役として這い上がろうとすることをわかってて。

それが本当に危険だったら、リリカに止めさせるつもりだった。リリカは、一人になることは絶対に避けるから。

 

たぶん、姉さんは八雲紫から大半の情報を貰ってたんだと思う。表立って動けない、八雲の駒として。

そして、捨て駒として切られた時のために…私に最低限の情報を与えつつ距離を取らせていた。

姉さんと私が、同時に脱落することを避けるために。

 

「とりあえず、衣玖さんは例の天人を遠ざけるために後なんの情報が必要かしら?

今はまだ、衣玖さんの関与をアリスたちには隠しておきたいから。今日のところは情報交換が終わったら一度天界で天人の対処を優先してほしいの。それが済んでから…雷鼓ともう一度合流してもらいたいわ」

 

姉さんを豹のことで煽ったのは私も同じ。だからこそ、姉さんが決めた覚悟を私が揺らがせるわけにはいかないから。

姉さんが最後まで舞台に立てるように、私は裏方として支えてあげないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

守矢神社の風祝は一度帰り二柱に報告と助言を求めてくるとのことで別行動になりました。

…守矢の風祝は。

 

「―――黒い怪人が昨日あの小屋に来てたなんてねえ。

そういうことかい…私も平和ボケしてたってわけだ」

「私があの小屋に着いたときにはもう誰もいなかったしー、そうとしか考えられないよね?」

 

地底の有力者である古明地さとり…その妹である古明地こいしと名乗る覚妖怪は勇儀様についてくることになりました。話によると昨日監視小屋に【黒い怪人】と名乗っていた八雲の関係者が来ていたそうで、こいしさんはその方に挨拶するよう言われているそうなのですが…

 

「その方が本当に豹さんだったのかどうかは、庭渡様が確認してくれているかもしれません…こいしさんがリリーの家に着いた時には、もう庭渡様は引き返していたのですよね?」

「うん、早苗はあの妖精の家を突き止めた後に監視用のカメラを河童から買ったって言ってた。それで豹が映ったから2人で全速力で向かったけど、あのおねーさんはもういなかったよ。今日私が神社に行って話を聞いてからは人里で色々聞いてたんだけど、あの妖精の家に上がり込む前に呼び止めるのはかなりギリギリだったなー」

「河童は相変わらず妙なもんを作ってんだねえ。豹をどうやって待ち伏せしたのかと思ってたが、そんな方法で遠距離を飛んできたとは思わなかったよ」

 

風祝だけでなく守矢の二柱も、河童が熱を上げている科学技術による機械・家電製品の知識を持っています。隔離された幻想郷の外で発達した技術の知識を持つがゆえに、河童の大多数は守矢神社の信徒扱いされても嫌な顔一つしません。それどころか比較的神社の外でも活動する風祝は頻繁に玄武の沢を訪れています。流れ着いた機械・家電製品についての操作説明などを行うために。

 

その縁が豹さんの発見につながったということです。なにより、これで気にしなければならなくなったのは…!

 

「こいしさん、その豹さんが映っていた映像は…河童たちにも見られているのでしょうか?」

「どうなんだろー?聞いてないわ。

 ただ、それを買った相手はにとりっていう河童だって言ってたよ」

「河城にとりだな。久侘歌と合流した帰りにでも寄って聞いておこうか」

 

勇儀様もにとりさんのことを知っていたんですね。にとりさんは河童の中では比較的他種族とも交友があるので、そこそこ知られているのかもしれません。自発的に他者と関わることを控えている雛さんとすら面識がありますから。

 

そして監視小屋に戻ってきました。本当にあっさり飯綱丸様と天魔様から自由行動の許可が下りてしまいました。豹さんを無事に保護することが出来たら、迷惑をかけた皆にお詫びの品を用意しないと。私の欠員に補充人員なんて回してくれないでしょうから。

中に居るのは庭渡様で間違いないですが、念のために私が扉を開いて勇儀様が即座に反応できる位置に付いてもらいます。

 

「庭渡様、戻りました」

「お疲れ様です皆さん…って、古明地さん!?」

「あれ、おねーさん私のこと知ってるの?うふふ、嬉しいな!

お姉ちゃんがいるからこいしでいいよ!えっと、あなたが久侘歌さんなんだよね?」

「はい、庭渡久侘歌です。これは、運が良かったと言えるのでしょうか」

「あん?どういうことだい?」

 

小屋の中に居た庭渡様の言葉に、勇儀様が反応しましたが。

久侘歌さんが返す前に、奥の通信具から声が返されてきました。

 

『ああ、あんたも戻って来たの。丁度いいわ、勇儀さんも含めて少し話をさせてもらうわよ』

「あれ、お姉ちゃん?」

「!?」

 

地霊殿の主、古明地さとり…彼女が私たちを呼び止めました。

 

「お、さとりと繋がってるなら丁度いい。こっちも確認したいことがあってねえ」

『久侘歌から聞いています。黒い怪人のことですね。

通信具越しだと声に出されなければ把握できなくて手間です。手短に済ませましょう』

 

…下手に私が口を挟まない方が良さそうですね。勇儀様はともかく、地底の住人に余計な情報を渡す必要はありません。聞かれたことに最低限答えるだけにしておきましょう。

 

「おう、それでお前さんの妹がこっちに乗り込んだ時間からすると《黒い怪人が豹だった》ってことになるんだが。さとりはそれを知ってたのかい?」

『知りませんよそんなこと。そもそも豹という名前すら昨日こいしから聞いたのが初めてです。

昨夜黒い怪人の相手をしたのはキクリさんです。今も変わらずその小屋との応対はしてくれたようですね』

「ああ、そうなのかい。ならなんで今キクリさんと繋がってないんだ?」

『珍しく留守にしているようで。お燐を向かわせたのですが…』

『コンガラ様のところに出かけたそうですよ。あたいじゃ辿り着けないんで帰って来ちゃいました』

「へえ、キクリさんのとこまでは行けたのかい。地霊殿からの距離自体は近いとはいえ、やるじゃないか!

帰ったら少し付き合いな?」

『ひえっ!?無茶言わないでください!

 あたいが勇儀様にかなうわけないじゃないですか!」

『勇儀さん、喧嘩の相手は例の豹とやらにしてください。私のペットを再起不能にする気ですか?』

「つれないねえ、手加減ぐらいしてやるのにさ。

だが、コンガラさんとこか…私よりここの通信具使ってないんだよなあ。悪いがさとり、キクリさんが帰って来たらこのことを確認しといてくれるかい?まあ間違いはないだろうから、答えはそっちと繋がってる守矢神社に伝えといてくれ。明日にでもこっちで確認しとくよ」

『わかりました。どうやらまだ久侘歌が知る以上の情報は無いようですね』

「見つけて少し遊んでもらったんだけどねー、逃げられちゃった」

『…は?あんたが逃がしたの?』

「うん、素敵な出会いが待ってた♪

だからしばらく帰らないよ。お空にも言っておいて!」

『え、ちょっとこいし様!?』

 

…返事を待たずに通信を切ってしまいました。いいのでしょうか…

 

「…あの、こいしさん?勝手に切られてしまうと」

「いーの!どうせ余計なことするなとか帰って来いとかうるさくなるから!

 私をちゃんと見つけてくれる豹を連れ帰るまでは地上で過ごすもん!」

「ハッ、その意気だ!それぐらいの覚悟はなきゃ豹には届かないさ!

 それじゃ、集合場所だけ決めておこうか。こいしはどうせふらつくんだろう?」

「うん、たぶん一緒に居てもそのうち離れちゃうと私も思うしね。

 でも、私地上のことあんまり知らないよ?」

「さっき言っただろ?明日一度守矢神社に来な。キクリさんの答えを聞きに私たちも向かう。そこで合流だ」

「はーい!」

 

私が一言もしゃべれずに決まってしまいました。庭渡様も困惑の表情ですが…勇儀様が決めてしまった以上、仕方ありませんね。

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