寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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誤字報告により137話の接続詞ミスと『茨歌仙』の見落としていたところを修正しています。
細かいところまでいつもありがとうございます。


第138話 頼れる相手はもう少ない

本当に俺の悪運も捨てたもんじゃない。一昨日の雨雲が昨日ですっかり晴れたというのに、昼過ぎから急に広がり始めた雲から初雪がちらつき始めた。これ幸いと信徒たちに『今日は早めに帰り冬支度を』と人払いして、今この寺に残った全員が俺の話を聞くため勢揃いしている。

 

(冬になった途端に初雪なんて何年ぶりだったか…こうなると麟が既に備蓄を揃えてたのがありがたいな。

何人かで手分けしてもらえば、麟の家経由で隠れ家に備蓄を輸送できる)

 

ま、こんなことを考える余裕が出来ただけ命蓮寺への脱出は正解だったのだろう。これから彼女たちを上手く誘導すればいいだけ―――ここに集まる妖怪は二ッ岩マミゾウを除いて聖白蓮に心酔している。つまり聖白蓮(トップ)さえ押さえればなし崩しに味方に付けられるのだ。少なくとも敵に回ることは無くなる。

幻想郷における勢力のトップでは群を抜いて善人であるこの住職の不興を買わない程度に策を講じればいいだけだ…!

 

「―――この寺の妖怪が揃った今、俺から条件を先に出させてもらいたい。それが受け入れられないのであれば何も語らず俺は逃げる」

「…お聞かせください」

「俺の話を聞き終えたら、リリーをとある人物の元に送ってもらうこと。寅丸星、君にだ」

「ふえっ!?」

「え!?豹さんどういうことなのですかー!?」

 

名指しされた毘沙門天代理と急に別れを告げられたリリーがすぐさま反応する。だが個別に返すのは時間が惜しい。

 

「見ての通りリリーに無理をさせてしまったからな…今後また俺への襲撃は避けられない以上、離れてもらわなきゃならない。俺単独とリリーを連れてでは逃走難度が桁違いだ。

ゆえに、彼女の元までリリーを守るという誓約はしてもらう。それが出来ない相手を信用することは出来ない」

「うぅ、そうだったのですよー。

 リリーからもお願いするのですよー」

 

ここで素直に引いてくれるリリーがありがたい…!己の弱さを自覚し、死という概念の無いことによる無茶を自重することが出来る。これだけでもリリーは妖精として最上位だ。いくら力が強かろうと、引き際を見定められない存在は囮にしか使えないのだから。

 

「星を指名したのはどうしてよ?言っちゃ悪いけど、直接戦闘はともかく搦手には滅法弱いよ星」

「うっ…」

 

ムラサの遠慮ない指摘に自覚しているらしき星が反応する。だが、こういう面を持つからこそここにいる中では彼女が適任なのだ。

 

「これは護衛というより隠密行動になる。要は余計なことをせずに目的地に向かうだけだから搦手への警戒は不要、搦手を打たれる前に辿り着ける距離だからな。そして…星は毘沙門天の代理を問題なく務めているという実績がある。初対面の俺でも信用できるんだ。

というか、全員と初対面である以上ここでしか判断できないんだよ。ハッキリ言ってしまえば、俺は今ここにいる中で聖白蓮と寅丸星、二ッ岩マミゾウ以外は名前と種族ぐらいしか情報を持っていないからな。寺の代表をこのタイミングで動かせば有力者に疑念を与えるし、化け狸の大将は信用し切れない…俺は八雲藍と親しいからな」

「それは仕方ないのう。儂も狐と親しい奴は信用し切れんわ」

「とはいえ、協力してくれるのであればお前とぬえには手を貸してもらいたいんだがな…

ぬえはどうだ?」

「ああん?内容次第で答えが変わるよ」

「大したことじゃない。俺には効かなかったが、何かしら隠密行動向きの能力を持ってるんだろ?

リリーにそれを作用させられるかを聞きたい」

「それぐらいなら構わない、というか頼まれなくてもやるつもりだったわよ。

 アンタみたいな厄介者との繋がりなんて知られたくないしね」

「助かる。それで、返答はいかに?

 これは星に答えてもらおう」

「その誓約、毘沙門天代理の名の下に果たしましょう。

 聖だけでなく、私も貴方の話は聞きたいので。リリー…その妖精を、どなたに預ければ?」

「迷いの竹林の入口に焼き鳥屋がある。そこの店主、藤原妹紅に預けてくれ。

リリー、妹紅には知っていることをすべて話して構わない。そうすれば妹紅はリリーを守ってくれる」

「わかったのですよー!」

「それじゃ、頼むぞ星。

リリーを預けたらここに戻って構わないが、妹紅から話を聞きたければ好きにしてくれていい。リリーが俺の状況を伝えれば、妹紅も情報を渡してくれるだろうからな」

「わかりました。聖、そういうことですので…後ほど私は動きますね」

「ええ、私からもお願いします」

 

ここで俺の奥の手と呼べる妹紅を切るのは最善策ではないだろうが…今の時点でリリーを任せられる相手が妹紅だけなのだ。

紫さんはもう頼れないし、人里に匿ってもらうのは稗田のせいで不可能。ルナサと雛はこれからメインで動いてもらうことになるし、エリーとくるみは夢幻館までの距離が遠過ぎる。明羅と里香は魅魔側で、リリーを守るためだけに最後の手段を頼るわけにはいかない。

問題は永遠亭の関係者がリリーがいるタイミングで妹紅の家を訪ねるという可能性だが…妹紅には隠れ家の位置を教えていない。そこを考えればリリーが隠れ家の位置を知っていることを伝えれば妹紅も行きたがるはず…つまりリリーを連れて隠れ家に向かうのにそれほど時間はかからないという判断だ。そこまで動いてくれればカナと上海が合流できるし、上海の動向次第で神綺様もリリーを保護してくれるだろう。

 

そしてそう推移すれば神綺様の行き先にここ…命蓮寺が追加されるだろう。俺の足取りを追う貴重な情報源として。

ここで俺がリリーに行き先を伏せて動けば、神綺様に無駄足を踏ませることが出来る。ユキ・神綺様・夢子が合流してからは短距離の移動ですらハイリスクになる…ユキとの繋がりを神綺様が利用し探知された上で、夢子が退路を断つように動かれるとどうにもならなくなる。俺自身の魔力反応はまだしも、空間魔法の行使による魔力反応は隠しようがないのだからな。

 

「なら始めよう。俺に何を聞きたい?時間制限は俺の索敵魔法に追手と判断している連中が引っ掛かるまでだ」

「…貴方は、その状態で索敵魔法を行使していると?

 さっきの修復魔法もですが、どうやって…!?」

「それが質問でいいのか?まあ、隠すほどのことじゃないが…」

「あっ、それは…」

 

一輪と呼ばれていた尼僧姿の少女が思わず反応してしまったらしく口を押さえる。ぬえが完全に警戒態勢に入っている以上、俺の力はなるべく大きく見せておくべきか。

 

「これこそ俺が幻想郷に潜伏できている理由だ。俺自身の魔力を封じた上で最上位魔法を行使する…長年の研究の成果だよ。

なんなら、魔界から逃げ切れれば伝授してやってもいい。使いこなせるかどうかは君次第だが」

「そ、それほどの魔界人の方が何故幻想郷に隠れているのですか!?」

 

今度は聖白蓮が驚いた表情で質問を返してくる。まあ、これは核心を突いている問いだから悪くは無いんだが…

組織のトップとしては腹芸に疎いな。まあ、元は人間でしばらく魔界に封印されていた存在がこういった状況の経験を重ねられるはずもないだろう。俺としてはやりやすくて助かる。

 

「俺が神綺様に刃向かい、追放された反逆者だからだ。

 どうやら、魔界で神綺様に聞いていなかったようだな」

「「「「「えっ…!?」」」」」

「…へえ、そういうこと。そりゃとんでもない相手なわけだ」

「成程のう。妹紅殿やスキマ妖怪が一目置いてしかるべきじゃ」

 

…流石は伝説の一つに数えられる大妖怪と化け狸の大将。この程度じゃなんの脅しにもならないか。

となると現状の問題は二ッ岩マミゾウか。狐を敵視している彼女は俺を敵に回す可能性が残る相手、何かしら牽制を入れておきたいところだが…

 

「し、神綺様に反逆して生き延びたのですか!?いったいどうやって…!?」

「生き延びたんじゃない、追放されたと言ったぞ。

 空間転移魔法で魔界からここ…幻想郷に飛ばされただけだ。

 そのまま、俺は魔界から逃げ続けている」

 

どうやら、聖白蓮は思っていた以上に神綺様に気に入られていたようだな。反逆者の生存にここまで驚愕するということは、神綺様の本気をある程度理解しているということだ。

間違いなく、神綺様にとっての愛弟子になるんだろう。

 

「私たちはその魔界神のこともほとんど知らないのですが…なぜ、反乱など?」

「…神綺様は理想を貫こうとしていたが、それを理解できない同胞(いもうとたち)が暴走する予兆があった。

神綺様も魔界も同胞(いもうとたち)も、まとめて守るために…反逆という手段を取った」

「む?まさかお主のその言い方…未だに魔界を守る気でおるのか?」

 

星の質問への返しで、化け狸が上手く乗ってくれた。ここは話を聞いている全員に理解しておいてもらいたいところ―――魔界と敵対する気は無いという点。

これを明確にしておかなければ、魔界と幻想郷の全面戦争は避けたいということに説得力が無くなるのだ。

 

「俺は反逆者だぞ?侵略者じゃない。

魔界を守るために反逆したんだ。それが失敗に終わったといって魔界を見捨てる理由になるわけがないだろう。

俺にはもう魔界で過ごす資格は無いが、魔界を滅ぼそうとする相手は全力で潰す…それは逃亡者に堕ちた今でも変わらん」

 

だからこそ、俺は月を敵視しているであろうキクリ様やラルバと繋がりを持ったのだからな。

サリエル様を迎え入れた魔界を月が狙う可能性は十分にあるのだ。そして、ここ幻想郷には魔界へと通じる扉があり、月の賢者が駐屯している…奴らが魔界へ向かったら俺が即座に背後から襲う。時間稼ぎしている間に神綺様とサリエル様に態勢を整えてもらえれば守り切れるはず。

 

―――その時は、俺が魔界のために命を捨てられる。悪くない最期だろう。

 

「へえ、大した覚悟じゃない。なら魔界が幻想郷にアンタの処刑を求めてきたらどうする気なのよ?」

「どうもしない。魔界と幻想郷双方が俺を捕らえるべく動いたとしても、俺はただ逃げるだけだ。

生き汚く逃げ延びて、それでも捕まったならば…大人しく裁きを受けるさ。もっとも、追手は『発見し次第即処刑』って命じられている可能性もあるがな」

「豹さん、リリーはそんなのイヤですよ!

 絶対に逃げ切ってください!!」

「わかってる。俺の潜伏に力を貸してくれた皆のためにも、俺から処刑台に登る気はまだ無い…最後まで足掻くさ」

 

ぬえへの返答にリリーが反応する。今の状況でリリーが俺を取り巻く状況を喋ってしまったのはマズいとはいえ、ここを誤魔化すと俺への不信感が増す。紫さんが一度交渉してくれている以上、俺に協力者がいることはバレているだろうしな。

 

「『まだ』、なのですね。そこまで魔界のことを考えている貴方が、何故…」

「これ以上は俺じゃなく神綺様に聞いてくれ。俺は最後まで戦場に立っていられなかった…結末を見届けることすら出来なかったんだからな」

 

腹芸には疎いが言葉の意味は正確に理解できているか…甘く見てはならないな、聖白蓮も。

ここで、ずっと黙っていた幽谷響子が声を出す。

 

「ここまでと全っ然関係ない話なんですけど、いいですか?」

「なんだ?」

 

…たしかこの山彦は妖怪の山に住んでいるはず。さっき帰らなかったのか。

そう頭の中で情報を整理していると、完全に予想外な情報が彼女から手に入ることになる。

 

「私の相方にミスティアってのが居るんですけど、昨日『えりとくるみ』ってのに屋台で襲われたって言ってるんですよ。

もしかして、あなたと一緒に名前の出てた『エリー』とくるみだったりします?」

「なんだと…?」

 

おかしい、エリーとくるみが昨日の時点で夢幻館を離れるハズがない。動くのであれば幻月か夢月が護衛に付く…エリーとくるみだけだと幽玄魔眼に襲撃されると異空間に閉じ込められてしまうからだ。

 

「逆に聞かせてくれ。その二人の外見は聞いているか?」

「金髪黒翼で左頬に星を持つ少女と、目玉をたくさん背負ったのって言ってましたよ」

(――ッ!?アイツ等、何を考えてる…?)

 

エリスと幽玄魔眼がエリーとくるみを騙ったのか?何のために…?

エリーとくるみに何かあれば、フラワーマスターと夢幻姉妹が敵に回る。それが理解できない程幼稚じゃないはずだが。

 

「たしか君は響子だったか?俺から言えるのは、その二人はエリーとくるみじゃない。

エリーとくるみも金髪ではあるが、エリーは死神でくるみはヴァンパイアだ。だから別人なんだが…エリーとくるみは風見幽香に仕えてる。下手に関わらない方がいい」

「風見幽香じゃと!?」

「…アンタ、太陽の畑のフラワーマスターとまで繋がってるっての?」

「いや、エリーとくるみとは面識があるが、フラワーマスターとは顔を合わせたことが無い。要するに風見幽香に目を付けられても俺からは庇えん…余程の覚悟が無い限り、エリーとくるみを探るのは止めておけ。

下手を打てばこの寺の人間の信徒まで巻き添えを喰う」

 

流石は最強格の大妖怪、ぬえと化け狸の大将ですら驚いている。だが、これはどうにかして夢幻館に伝えておくべきだが…今ここでリリーに伝言は頼めない。どう伝達する…?

 

「ひ、ひええ…教えてくれてありがとうございます!ミスティアにも教えときます!」

「私たちもそうさせていただきますね…皆を危険に晒すわけにはいきません」

「賢明だな…そして悪いがここまでにさせてくれ。追手が動いた」

 

守矢神社から東風谷早苗が人里に向かっている。次の潜伏場所にさっさと向かわねえと。

 

 

 

―――この時、響子に【襲われたのはミスティア一人だけだったのか】を確認しなかったことが…取り返しの付かないミスだった。

 

 

 

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