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「とりあえず、俺が逃亡している理由は理解してもらえたか?」
「…はい。貴方の人となりも含めて、十分に理解できました。
ですが、神綺様であれば貴方をお許しになるはずです。逃げる必要など、無いのでは?」
「神綺様の考えは関係ない。俺自身が魔界で過ごすことを許せない。
反逆者となる前の俺は処刑人だった。処刑人が大罪を犯しておいて、命乞いなんざお笑いだ。
俺が粛正した皆にケジメを付けるためにも、俺の処刑は必須なんだよ…神綺様が、魔界神である限りはな」
隣に座っていたリリーを抱えて立ち上がる―――ここ命蓮寺は頼り切れない。神綺様はともかく、紫さんや摩多羅隠岐奈、八意永琳といった面々による暗闘にはついていけないだろう。敵に回ることさえなければいい…
皆に散々言われたように、これ以上抱え込んでも俺は守り切れない。
切り捨てることが出来ないなら、最初から抱え込まなければいい。今ならまだ、彼女たちとは顔見知りでしかないのだから。
「時間が惜しい、星に頼みたいことを伝えるぞ。
俺の名…豹は伏せてくれ。妹紅には『プリズムリバーの裏方からの依頼』と伝えてくれればいい。
そう伝えれば、妹紅にはある程度状況が理解できる」
「……今は、深く問わず誓約を果たしましょう。
ですが、その子…リリーと妹紅さんにも貴方のことを聞きます。その後、機会があればで構いません。もう一度、お話をさせてください。
私を信じてくれた豹さんを、何もせずに見送るだけなんて…それこそ毘沙門天代理の名折れです」
「機会があれば、な。
今の俺に関われば星だけじゃなく、ここ命蓮寺全体に悪影響を及ぼす。護るべき者を間違えるなよ…俺のような無様を晒したくなければな」
「――っ!?」
ここ命蓮寺に集う妖怪の中で…マミゾウともう一人、星は俺もある程度の事情を聞いている。今は博麗大結界が展開されているため、幻想郷に入る時点で紫さんか藍がある程度の事情を聞き出すのだ。そしてそれは俺にも伝わっている…見慣れない実力者を俺が警戒しなくて済むよう情報を流してくれていた。
星は、護るべき存在を護り切れなかった者―――俺にも有り得たキツい状況、それこそ今の俺よりずっとキツい過去を持つのが星だ。
己の選択で護るべき者を失った点が似ているのだが、俺は自身の完敗という結果に終わったからこそ…振り返らずに逃げることが出来たのだ。後悔が無かったとはとても言えないが、俺の過信と身の程知らずを思い知らされたからこそ引き摺らずに逃げられたのだ。
俺と違い、星は完敗ではなく成果もあったがゆえに後悔を背負い続けることになった。
しかし、護り切れた彼らは敗北したと理解すると…星から離れていった。己の責務を果たした結果が護りたかった全ての喪失…星の無力感と後悔は俺とは比べ物にならなかったはずだ。
だからこそ、過去を思い出させるような言葉を向ける。これだけで、俺を切り捨てるべき理由になるのだから。
「…本当に、何故貴方のような方が」
「一輪、そこまで。私たちは距離を保つべきよ…聖と星がこうなってる以上、止める側に回らなきゃ」
雲居一輪もなんでか俺を好意的に見ていたようだが、ムラサが現実的な視点から説得してくれてるのは助かるな。これは覗き疑惑が良い方向に作用したらしい…聖白蓮と星が予想以上にお人好しな善人だったことで、俺に対し警戒心より同情を向けられるのは想定外だった。住職と本尊代理という勢力のトップ2人が俺寄りに動こうとするなら、勢力内で多数派を作らないと止めきれない可能性がある。
下手に動かれて俺の行動が制限される可能性を低くするには、周囲は俺を警戒してもらわなければならない。ムラサが一輪を警戒側に留めてもらえれば単純に人数比が2:4。ぬえとマミゾウが入ることも考慮すれば、聖白蓮と星の行動でも止められるだろう。
「リリー、妹紅が家に入れてくれるまでは何があろうと喋るな。魔力が枯渇してる以上、ぬえの協力があれば見つかる可能性は低い…頼めるんだな、ぬえ?」
「言ったでしょ?アンタとの関わりは知られたくないわよ。
星、解除していい状況になったらこれ壊して。それを合図に解除するわ」
「わかりました。それではリリー…こちらに」
「わかったのですよー」
抱えていたリリーを星に預ける。幸いなことに妹紅の反応は人里にある…永遠亭や迷いの竹林内にいたらハイリスクだったが、星が妹紅の家に近付けば気付いて戻ってくれるはずだ。人里の面々であればリリーの存在を把握できてもそれほど危険はない…向かってきている東風谷早苗にさえ気付かれなければ。
「それと、二ッ岩マミゾウ。お前が妹紅とそれなりの付き合いなのは知っている…だからこそ、お前から妹紅を訪ねるのはしばらく避けてくれ。この寺に向かう理由は作れても、妹紅の家に向かう理由を誤魔化すのは難しいだろ?」
「…言い返したいが良い返しが出来ぬのう。いいじゃろう、少なくとも明日一日は大人しくしておいてやるわい」
「助かる。それじゃ星、リリーを頼んだぞ。
リリー、あんな無茶はもうするなよ…魔力が回復するまでは、大人しく守られていてくれ」
「わかってるのですよー、しばらくは無理したくてもできませんし…
豹さんも気を付けてください!信じて待ってますので!!」
「ああ…」
確約は出来ない、と。リリーにそう伝えることは出来なかった。
妖精としては精神が成長しているとはいえ、まだ幼いことに変わりは無い。不安になるような言葉を伝えてリリーが不安定になるのは困るし、俺はリリーには素直で明るいままでいてほしかったから。
「…貴方は、何処に向かうつもりなのでしょうか?
八雲紫さんと、この寺の地下―――夢殿大祀廟を潜伏先として提供するよう取引を行いましたが」
「紫さんには世話になりっぱなしだな…だが、今の状況でここの地下を使うことはない。使うとするなら神綺様がこの寺を訪れて帰った後だ。
正直に言えば決まっていない。だが、ここで考え込むのは迷惑だろ?場所を変えて考えるさ」
「そう、ですか…」
―――これは、思ってたより聖白蓮は面倒かもしれん。ここまで残念がるとは…神綺様を予想以上に信頼しているらしいな。
この状況で俺の行き先を知ることに【命蓮寺】にはなんのメリットもない。メリットがあるのは【神綺様に情報を伝える気がある聖白蓮】だけだ。俺が言えたガラじゃないが、勢力のトップとしては感情的過ぎる。
「星に言ったことを君にも言っておく。
神綺様と幻想郷、どちらに付くにしろ護るべき者は間違えるな。
少なくとも、神綺様と紫さんは異界間戦争は望んでいない。
俺はその引き金になりかねん。余計なことだけはするなよ」
「………はい、その言葉はしっかり受け止めます」
「それでいい。
―――リリー、元気でな」
そのまま隠形魔法を行使し、うっすらと雪が積もり始めた命蓮寺を離れる。行使した時点で俺の姿を見失った者は驚愕しているが、気にするべきはそちらじゃない。
(聖白蓮・ぬえ・二ッ岩マミゾウは視認状態からじゃ騙せないか。となると、多少は大回りしないとな)
次の行き先は夢殿大祀廟。至近に来れたこの機会ぐらいしか利用できないからだ。問題は隠れ家と同じで、命蓮寺に神綺様が来たら見つかるだろう点。つまり一晩休息に使ったら次の行き先にすぐ向かわなければならない。
(おそらく今日は星が妹紅から得た俺の情報を共有することを優先する…俺の言葉を信じていなくても地下の様子を見に来ることはないだろう。となれば寺の面々が起きる前に離れるべきか。
なるべく早く次の行き場を決めねえと…)
そして、ここでまたも俺は平和ボケをやらかす。寺の中にいた面々をチェックしただけで、寺の外の反応は索敵魔法で感知していても【命蓮寺とは無関係】と思い込み放置した。
ある程度離れていたにもかかわらず、俺を視認できていた大物がいたのだ。雪が降り始めたことで、黒服の俺は目立っていた…それを完全に失念していた。
「……?」
「こころさん?どうしました?」
「小傘、気付いてないの?」
「へ?」
「そうかー。なら気にしないでいい」
墓場近くにいた面霊気は、俺の姿を捉えていた。
「それで、どうするのじゃ?口約束である以上、星を追うのもありだと思うがの?」
「―――いえ、彼の言う通りにします。星が帰ったら皆で話を聞きましょう。
神綺様に詳しい話を聞いてから、私たちの行動指針を決めさせてください。彼と直接話して、一つ確信できたことがありますから」
「聖様、それは?」
「彼…豹さんの話が真実であれば、神綺様は本気で豹さんを迎えに来ます。
―――八雲紫を敵に回してでも」
「…冗談じゃないんだね?」
「はい。神綺様の優しさと、豹さんの言葉を合わせれば。
あれだけ魔界のことを守ろうとしている豹さんを、神綺様が見捨てることはありません」
豹さんが隠形魔法を行使した途端、私とぬえ・マミゾウさん以外の皆はその姿を見失ってしまいました。視認できている状態から完全に隠れるなんて、私が再現できるか自信がありません。豹さんが最後に行使したその隠形魔法で、私は神綺様に反逆したという過去が真実だと言い切れるようになりました。
「ふむ…ならば儂は別口から話を聞きに行くとするかの。
響子よ、結局姫海棠はたてとやらには会えなかったんじゃな?」
「私みたいな弱い妖怪じゃ天狗を名指しで呼んでも相手にしてくれませんよ!
昨日の時点で無理ですって言いましたよね!?」
「仕方ないのう、今日は儂が山まで送ってやるわい。監視の天狗が儂のところに来るまで付き合ってもらうぞ」
「うわーん!山に居辛くなっちゃう!
聖様、困ったことになったら寝泊まりさせてくださーい!」
「はい、それは構いません。
ですが…マミゾウさん。慎重に動いてくださいね?」
「誰に物を言うておる。心配など無用じゃよ。
ぬえ、守りは任せるぞ」
「はいよ、いってらっしゃい」
マミゾウさんが響子を連れて退出します。正直に言うと、響子を一人で帰らせるのは不安になっていましたので、山まで付いていてもらえるのは助かりました。
「それじゃ、私と一輪で夕飯の支度しちゃいますか。聖様とぬえはお風呂お願いしていいですか?
雪が降るほど急に寒くなるなんて思わなかったですし」
「そうですね。ムラサ、一輪、お願いします」
「はい!」
「やれやれ…思ってた以上に面倒そうだし、私もゆっくり風呂に浸かって疲れを取ろうかねえ。
全力を出せる状態にしておいた方が良さそうだし」
ぬえが率先して手伝ってくれるなんて、珍しいです。ですが、言葉通り…豹さんのこの一件は荒れることになるでしょう。
忠告して頂けたように…私も護るべき者を間違えないよう。
体調も精神も、今のうちにしっかりと休ませておきましょう。
「―――私より隠岐奈を信じるというの?」
「んなワケないでしょ。あの神は紫より胡散臭いわよ。
ただ、豹とやらが誰よりも信用できないわ。私に直接会いに来ない時点でね」
「それだけで豹を排除すべく動くと」
「そうよ。少なくとも魔界に追い返すまではやるわ」
「紫、これはもう遅いですよ。彼を秘匿し過ぎた貴方の失態でもあります」
「…その通りね。私の失態は私が取り返さなければならない、か」
魅魔の動きを追って後戸の国へ向かっていた華扇を拾って隠岐奈に文句を言ったのだけれど、霊夢は豹より隠岐奈を信じてしまったわ…
華扇の言う通り、豹の希望を優先して霊夢に会わせなかったのがここに来て裏目に出てしまったわね。『隠者として活動する以上、表に出る博麗の巫女との面識は無い方がいい。面識があると、博麗の巫女が俺を頼る可能性が出てくる』という豹の要望を受け入れて、豹は歴代の博麗の巫女の誰一人とも顔を合わせることは無かった。
…私にとって最悪な結末が、近付いている。
「華扇、こうなった以上私に肩入れしないでいいわ。貴方が最善とする方向に動いて頂戴」
「そうさせてもらうわ。もっとも…ここまで来たら私に出来ることなんてない気もするけれど」
そう返して華扇が立ち去る。少なくとも、私よりは冷静に動いてくれる…ここから先、私と藍は感情的に判断してしまう可能性が捨てきれない。
一番大切な霊夢と、一番長い付き合いの豹。この二人の両立が、難しくなってしまったから。
「もういいわね?雪の中立ち話は寒いのよ」
「…霊夢、一つだけ言わせて。
豹を絶対に甘く見ないで。生半可な覚悟で相手に出来るとは絶対に思わないで」
「わかってるわよ。さっきの話でとんでもない奴ってのは理解したわ」
そのまま霊夢が神社の中に戻っていく。
…雪が降り始めているけれど、私の心は雨模様。
「…出来ることだけでも、しないとね」
本当に…妖怪の賢者らしくもない。結局私は、豹を切り捨てざるを得ない方向に向かってしまっている。
冬の寒さを、今年はいつもより厳しく感じる気がした。