寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第140話 堕天使が与える希望

「なんなのです?聞いていたより人数が多すぎるのです」

「サリエルが出た後に麟たちが来たのよ。とりあえず席に座って」

「すまないな」

 

サリエル、リィス、里香。事前に名前を聞いていただけでも、誰がそうなのかは即座に判別できた。サリエルはその姿と魔力、佇まいから一目瞭然。そうなればもう一人の天使がリィス、小柄な人間の少女が里香よね。

 

「一応、挨拶はしておこう。私がサリエルだ」

「サリエル様に仕えているリィスです」

「あたいは戦車技師の里香なのです。

 それで、あんたらも豹を狙ってるのです?」

「里香よ、少し落ち着け。

 君たちの名も教えてくれ」

 

人間なのに一番ふてぶてしく話を進めようとした里香をサリエルが遮った。里香ってのは凄い度胸してるのね…

 

「ルナサ・プリズムリバー。八雲紫の駒として動いているわ」

「カナだよ~、カナ・アナベラル。豹のお家に取り憑いてるわ」

「その隠れ家さんの意識と記憶を預かりました、上海です」

「八雲の隠者候補として豹さんにお世話になっている、冴月麟です」

「私たちはいらないかな?興味ないみたいだし」

「…悪かったのです。名前だけでも教えるのです」

 

私たちが自己紹介し終えると、くるみが意地の悪い表情で話を切り上げようとしたわ。これで里香も情報交換の必要性をあらためて理解したらしく、謝罪と共に話を聞く気になったようね。

 

「あはは!ただの人間じゃないみたいだけど、少しは周りを見てよね!豹さんに迷惑をかけないためにも、迂闊に動くわけにはいかないんだから。

ま、そういうわけで私がくるみです」

「エリーです。よろしくお願いします」

「私と夢月はいいですね。それでは、さっそく始めましょうか」

「いや、一つ先に確認したいことがある。

 麟と言ったな。その呪いは、豹を救う上で足枷になる類か?」

「っ!?わかるのですか!?」

 

…驚いたわ。あまり詳しくはないのだけれど…たしかサリエルは癒しの天使とされていたはず。それが真実であることを証明するように、自己紹介した麟を一目見ただけ―――情報ゼロの初対面で麟の忘却の呪いを看破したということ。規格外にも程がある…!

 

「私とヒョウのことはある程度聞いているのだろう?私はユキの呪いを解呪した後も、あらゆる呪いに関して調べていたからな。余るほどあった時間で、何かヒョウと繋がっていることをしようとしていただけさ…本当にヒョウに関わる者の役に立つとは思わなかったが」

「も、もしかして…私の忘却の呪いをとけるのですか!?」

「忘却の呪い…言葉の意味からすると精神干渉系か。成程、ヒョウには作用しなかったがゆえに麟はヒョウの傍に居たのだな」

「…大したものですね。私も夢月も作用してから実感したのに、一目で察せるのですか」

「夢幻姉妹にすら作用しただと?相当強い呪いだなそれは…

皆、悪いが少し時間を貰えるか?麟の呪いを見ているうちに、情報を整理しておいてくれ。リィス、里香。頼む」

「かしこまりました」

 

そう言って席に付かずサリエルは麟の傍に立ち、右手をかざして集中し始める。邪魔するのも悪いでしょうし、言われた通り私たちは先に状況を整理しておきましょう。

 

「それじゃ、まずわたしから里香に聞きたいんだけど…魅魔とソーサラーはどうしたのよ?」

「―――ああっ!?なんか見たことあると思いましたが、あんた魅魔様と魔理沙が襲ったやつなのです!

あの後私はリィスと合流しろって言われたのでそのまま幻夢界に戻ったのです。魅魔様もあたいとリィスが裏切ってるのは察してただろうし、襲撃も豹がカナの救出に成功した挙句協力者も誰一人釣れなかったという結果なのです。こうなった時点であたいとリィスはサリエル側に付くと判断し、切り捨てたということなのです」

「…は?裏切ったのを気付かれてるのに魅魔と同行してたということ?」

「たしかあんたはルナサなのです?あたいはあんたらと違って豹の情報が全くない状況だったのです。なので強硬手段で情報を得るために協調しただけなのです。

()()()()()()()()()()()だし。完全に敵対するまでは、お互いに利害が一致する以上協力するのが当たり前なのです」

「フフフ…人間にしては面白い考え方をするじゃない。そこまで割り切れるのは素直に凄いよ」

「あたいも魅魔様の弟子だし。人間より悪霊の考え方に近くなってるだけなのです」

「それに躊躇いや恐れが全く無いのですね…こちら側に引っ張られないように気を付けた方がいいですよ?」

「エリーさん、里香さんはもう手遅れですので…

 今はお気になさらず、ヒョウ様のことをお願いします」

「豹()、ですか?リィスさんも、豹さんになにか恩があったりするのでしょうか?」

「私も月にいた天使だったので。ヒョウ様がいなければ、月で研究材料にされてしまっていたでしょう…

ヒョウ様が私のことを知るはずもありませんが、今度は私がヒョウ様をお救いすることで恩を返さなければなりません。そのためにも、皆様のお力をお貸しください…!」

 

…なんというか、麟とは違う方向で豹に依存してるようね。人間や妖怪、同郷の魔界人に悪魔だけでなく天使まで…本当に、豹はどれだけ妹を惹かせているのかしら。

 

「話を戻しますよ。つまりカナと上海が豹に助けられてからの魅魔の動向は知らないということですね?」

「そうなのです。ただ、魅魔様の指示で魔理沙はあの巫女に協力要請しに向かったのです」

「ッ!?マズいわね、八雲紫がある程度抑えてくれるとは言ってたけど、あの巫女が大人しくしていられるなんて思えない…!」

「うう~、あと一日か二日粘れてれば豹に帰って来てもらえそうだったのに…靈夢が動くとなると安心とはならないなぁ。勘だけで隠れ家に辿り着きかねないし…」

「ハッキリ言って、上海を囮に使うとしてもヒョウを隠れ家に帰すのはまだ危ないと思うよ。接近を感知したら空間魔法で脱出って言ってるけど、神綺ならその魔法も探知できるでしょ?

一度は通用しても、二度目は転移先を予測して先回りするぐらい神綺はやる。ヒョウがそれに気付いてないとは思えないから、何か考えはあるんだろうけど」

「そこを含めてもやはりヒョウに夢幻館へ戻って来てもらう必要がありますね。サリエルとの再会の後で、しっかり打ち合わせをしないと」

「豹をどこで匿おうとあたいは構いませんが、戦車を置くスペースは確保してもらうのです。ここだけは譲れないのです」

「え、え~っと…まあ夢幻館(ここ)なら大丈夫ですけど。豹さんの隠れ家にそんな場所あります?」

「…庭なんて言えないですけれど、それなりに開けたスペースはあります。

ですが…里香さんの戦車は森の中に入り込めるのでしょうか?」

「無理なのです!なので豹に空間魔法で運ばせるのです!」

「そんな大掛かりな魔法を使ってしまったらすぐ見つかってしまいます!!何を言っているのですか里香は!?」

「あ、エリーがさん付け忘れてる…里香、諦めて。エリーの暴走は死人が出るとシャレにならないから」

「そ、そういえば物腰が柔らかいから気にしていませんでしたが。死神のエリーさんに首を落とされてしまったら…」

「あんた死神なのです?その態度で?」

「…鎌をお持ちしましょうか?」

「ひっ!?悪かったのです!!

…でもその場合豹を幻夢界の要塞にも回すべきなのです。わたしの戦車を動かさずに手伝わせるならあそこしかないのです」

 

…慌てて謝罪した後の一人称がわたしになってるわ。流石はフラワーマスターの関係者だけあって、エリーも怒らせない方がいいようね。カナと上海もちょっと驚いてる…

 

「幻夢界、ですか。どこなのでしょう?」

「私が隠棲している世界です。ですが、先にお聞かせいただきたいのですが…

豹さんに救出されたと仰っていましたよね?そこを私とサリエル様にも教えてくださいませんか?」

「「「あっ」」」

 

そうだった。里香が好き勝手に話を進めるから忘れてたけど、ここをまず話さないと。

 

 

 

「―――厄介な呪いだな。この呪いは強大な相手の断末魔か?」

「そ、そこまでわかるんですね…私が未熟だったせいで、このようなことになってしまいました。

豹さんどころか紫様でさえ解呪できず、手の施しようがなくなってしまっていたのですが…」

「妖怪の賢者も、他種族の呪いに関しては未だ知識不足だったか…かつての私を思い出す。

もう一人、同じ呪いを受けた者がいるはずだ。その者は仲間ではないということか?」

「―――っ!?どうして、それを!?」

 

ほ、本当に物凄い大天使様なんですね…!駆けつけてくれた豹さんどころか当事者の私すら正確に覚えていない《呪われてしまった瞬間》をここまで正確に推測してくれています。それも私を一目見ただけで…!

 

「私の推察が合っているのか確認したい。麟の受けている呪いと、もう一人の受けている呪いの差異を教えてくれ」

「驚いてばかりでは時間がもったいないですね…

私は【他者から忘れられる】呪いを受けています。もう一人…霧雨魔理沙は【記憶を失う】呪いだと聞いています」

「霧雨魔理沙?魔界との取引に使われるという魔法使いと同一人物か?」

「はい…」

「そうか…すまない、これはすぐに解呪というのは難しそうだ。

 理由を説明するのであれば里香の話も合わせて聞いておきたい。皆の話に加わるぞ」

 

 

 

「―――待たせたな。リィス、状況を教えてくれ」

「…丁度いいタイミングね。カナと上海が豹に救出された後から説明するわ。

豹が私と麟のところに戻ってくれたあと、上海は目的を果たした。でもそのままアリスとの別行動を続けるって覚悟してたから、豹がこの黒翼を創って『囮役』にする作戦を立てたのよ」

「でも『上海に少しでも負担が出るのであれば、この策は中止する』って言い切ってさ~。まず上海ちゃんに問題が無いかアリスに確認させなきゃダメなのよ」

「あー…相変わらずですねヒョウ。上海も切り捨てられなくなりましたか」

「はい…それに、絶対に神綺様も隠れ家さんを見に来ると豹さんは予想しています。これは私たちもそう思いますので…豹さんはまだしばらく単独行動を取るそうです。今日の深夜に4つあるイヤリングを使って集合場所を伝えてくれるそうですので、そこでサリエル様のことを私たちがお伝えできると思います」

「通信手段があるのだな。誰が持っている?」

「私とルナサさんとくるみさんです。残りの一つは鍵山雛さんという厄神様が持っているそうです」

「雛も豹を最優先で動いてくれてるのだけれど、厄神という種族の関係で単独行動してるわ」

「…そういうことですか。今の状況、私たちの誰か一人でも厄に塗れてしまうのは危険…!」

「うん、雛さんもそれを理解してるから明日合流しても無理に同行しようとはしないでくれると思う」

「いや、直接会えれば私が皆を厄から守る手段を編み出せる。今後のことを考えると、その雛には一度私の元に来てもらいたい。そうすれば人手がもう一人増える」

「…本当に白魔導士系の魔法はなんでもできるのね。味方としては頼りになり過ぎよ」

「逆に黒魔導士系の魔法は神綺に敵わないのだがな。

 ―――だが、私にも不可能なことはある。麟の呪いのように…

 里香、霧雨魔理沙が受けたという忘却の呪いについて知っている限りを教えよ」

「へ?わたしはほとんど知らないし。魅魔様の弟子だから耐性が付いていたようなのです。

あの呪いで魔理沙が変わったのは服装ぐらいなのです。『記憶を取り戻すまでは、魅魔様が見繕ってくれたこのローブを纏う資格はない!』とか言ってたぐらいなのです。

細かいところは忘れてるところもあったみたいですが、少なくとも魅魔様に明羅、あたいとリィスに呪珠のことは普通に覚えてたし。ほとんど影響はなかったはずなのです」

「そうか。麟は呪いを受けた後、霧雨魔理沙と会っているか?」

「……三回だけありますが、私のことは何も覚えていませんでした。

それどころか、一度別れれば次の日にはもう忘れている…いろいろと耐えられなかったので、もう会おうともしていません」

「やはりな…麟の呪いについて、解呪の方法から先に言おう。

 麟と霧雨魔理沙を私の下に連れて来てもらえれば解呪できる。

 この呪いは、二人同時にかけられたことで双方に距離を取らせているのが厄介なところだ」




夢幻館に集まった人数、実に11人。
その結果、驚異の会話文率。
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