寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第141話 帰還

「…すぐには解呪できないというのは、そういう意味なんですね…」

「ああ、今の状況で霧雨魔理沙とやらを我々の元に連行するのは事態を悪化させる。ヒョウの潜伏に目途が立ってからにしなければならん。

簡単に説明しておこう。この忘却の呪い、対象となった二人を同時に解呪することで消え去る。片方だけ解呪しようと残る片方によって再発する仕組みだ。

なにより【他人から忘れられる】麟の呪いを解呪することに必要な【霧雨魔理沙(もう一人)】の記憶を消すことで《同時に解呪する必要がある双方》に距離が出来るよう仕向けられている…麟に関して霧雨魔理沙は二重に忘却の呪いをかけられているわけだ。

それこそ、呪いの対象である2人が親しいのであれば妖怪の賢者あたりにあっさり解呪されていたのだろうが…」

「麟と魔理沙ってのが一時的な協力者だったことで、最大限に効果を発揮したということね」

「そういうことになるのだろう。断末魔でそこまで理解した呪いを残せたとは思えない以上、偶然だとは思うが。親しい2人であっても解呪の魔法や術が扱えなければ、忘れられる側が孤独になり…世界から消し去られていく。

―――恐ろしく、悪趣味な呪いだ。ヒョウが麟の傍に居たことは幸運だったとしか言えない」

 

世界から消し去られる…私が本当に幸運だったのをサリエル様の言葉であらためて実感します。あの日人里で目覚めたとき、私の世界は暗転してしまいました。私のことを忘れていたけれど、様子を見に来てくれた阿求のおかげでお父さんは思い出してくれましたが…その阿求すら理解できていなかったあの状況。

友人と呼べる人里の皆は思い出すことすら出来ず、妹紅さんすら一瞬忘れてしまっていた。何が起きているのかわからないまま家に帰ると、お父さんはまた忘れてしまっていた。

 

とても耐えられなくて、阿求のお屋敷に駆け込もうとしたところで…魔理沙に会いました。

共闘したことすら忘れた魔理沙は、()()()()()()()()()()()()()()()を元凶と思い込んで攻撃を仕掛けてきました。幸いなことにまだお屋敷に残ってくれていた慧音さんが仲裁に入ってくれたので、麒麟の加護で癒せる程度で済みましたが…次の日顔を合わせると、魔理沙は再び私を捕まえようとしました。

そう、また忘れていたのです。もう一度説明したら、また原因扱いされて。とても耐えられなかった。

 

 

 

どうして私だけ、忘れられてしまっているの?

どうして魔理沙は、覚えていてもらえているの?

 

 

 

このときは妹紅さんが助けてくれましたが、私を覚えていて助けてくれたわけではなく。人里で騒ぎを起こそうとした魔理沙を止めただけで…私からあらためて名乗ることでようやく思い出してもらえて。

師匠の一人である妹紅さんですらこの状況の人里に、私は絶望してしまい…おぼつかない足取りで家に帰ろうとしたところを、豹さんに保護されました。

 

この時は状況の説明をしてくれただけなのですが、最初から私の名前を呼んでくれたことだけで私は縋りついてしまった。お父さんや妹紅さんですら忘れてしまった私を、初対面の豹さんがはっきりと名前を呼んでくれたのですから。

 

事情を私からも説明した後、その日はお父さんに説明するために家まで送ってもらって。

次の日…やはり忘れてしまったお父さんにお別れを告げて。私は紫様の庇護下に入りました。

 

しばらくして…レミリアさんが起こしたもう一つの異変の少し後に、一度だけ《白黒の魔法使い》と呼ばれるようになった魔理沙と会いました。吸血鬼異変の裏で起きたことすら忘れていたのか、私の顔を見ても何も反応することなく…私から軽く会釈してそのまま立ち去りました。私では、魔理沙にはかないませんから。

 

豹さんが私の癒しの力を当てにしてくれるようになった以上、魔理沙なんかに私の命はあげられませんから。

 

「だが、一時的に効力を弱めることぐらいなら出来る…三日ほどなら麟のことをしっかりと記憶できるはずだ。今から一人一人私が加護を与えていく…話はそのまま続けてくれ」

「…私は麟の作った二胡のおかげで、麟のことを忘れずにいられるわ。だからその加護は必要ないと思うけれど…二胡を見せた方がいいかしら?」

「――!

頼めるか?それ次第では加護の続く時間を延ばせるかもしれん」

 

ルナサさんがサリエル様に特別な状況なのを先に説明してくれました。私の呪い(祈り)が忘却の呪いへの対抗手段となるのであれば、ぜひ使っていただきたいです。

もう名前すら覚えていない、あの魔法使いへの意趣返しになります…もっとも、自己満足でしかないですが。

 

「それでは、私たちは話を戻しましょう。エリスと幽玄魔眼のことは聞いていますか?」

「うん、わたしたちもそこが一番の問題だと思ってるわ。単なる戦闘であればみんなそれなりではあるんだけど、異空間に閉じ込められちゃうとどうしようもないからね…」

「それに、一度ご主人様のところに戻るときにどこまでお話しして、何を隠し通すかということも決めていただきたいのです。豹さんは私がご主人様に隠し事が出来ないことを見越して行き先を隠しています。なので魔界の皆様に豹さんの居場所を知られてしまうという事態にはならないのですが」

「そうですね…私たちとしてもサリエルさんのことは伏せて貰う必要がありますし、そこから繋がるリィスと里香のことも伏せておきたいところです」

「少なくとも、今まで教えてくれた話で豹がサリエルと再会することに際しての不安要素は無くなっているわ。だから私たちが豹に伝えれば明日にも豹はここ…夢幻館に戻って来ると思う。

そうなると、問題になるのはエリスと幽玄魔眼が私たちを狙ってくる可能性なのだけれど…」

「なら決まりじゃない、私が送ってあげるよ。姉さんはサリエルから離れた位置にいる気は無いんでしょ?」

「いえ、今のタイミングで夢月さんが幻想郷に出向いてしまうと夢幻館が霊夢たちの警戒対象に入ってしまいます。ですので、今日だけは襲撃のリスクを覚悟して私たち4人だけでアリスさんのところに向かう方がいいと思います」

「うん、麟の言う通りじゃないかな。私とエリーならともかく、幻月さんか夢月さんは幻想郷に入り込むだけで管理者が動きそうだし…

だから今日のところはアリスたちにむしろ『どこまで話すか』を考えない?」

「そうですね…となるとリィスと里香は夢幻館に泊まってもらうことになりますね。カナたちについて幻想郷に戻られると魅魔にまで狙われることになります」

「むぅ…帰るつもりでしたが仕方ないのですぅ。豹を捕まえるためにもそうするのです」

「いえ、私はサリエル様の元にいようと思います。今日だけで何度も魔界を飛び回ってしまったので…おそらく天使を嫌う魔界の住人がサリエル様の神殿に何かしらの干渉をしているでしょう。

その片付けぐらいなら、私にもできますから」

「…気を遣わせてすまないなリィス。

そういうことだ。話した通り、おそらく明日には神綺が幻想郷へ向かう。私はそれを見届けてからリィスと共に夢幻世界に移動する…それでいいか?」

「そうするしかなさそう。下手に動く方が問題になるというのも面倒なものね…

 

―――って、幽香?何の用かしら」

 

その言葉で、私たち4人は飛び上がるように反応してしまいました。

 

 

 

「幽香!?まさかフラワーマスターが動いたの!?」

「―――あ、本当ですね。相も変わらずゆっくりとここに向かってます。

…でも、随分と不機嫌ですね。何かあったのでしょうか」

「…あっ!?幻月さん!幽香じゃ結界を問答無用で壊しちゃいますよ!!」

「ッ!?姉さん、私が強化して時間稼ぎする!!」

「夢月お願い!

サリエル!皆を魔界経由で幻想郷に逃がしてください!!幽香には何言おうと口止めにならない!!」

「…成程、あの魔界の大惨事の主犯か。

夢幻姉妹とエリー・くるみには後で麟の呪いを避ける加護を授けに戻ろう。こちらだ」

 

なんでこんなタイミングで…!ようやく私たちも豹さんの助けになれると思ったのに、幽香が夢幻館に戻るのであれば先に説得が必要になってしまいます。

それに、夢月さんの言葉の後に私も探知魔法を行使したのですが、幻月さんの言う通り凄まじく不機嫌なのが漏れ出ている妖気でわかってしまいます…!これは私とくるみの言葉なんてまともに取り合ってもらえません。説得どころではなさそうです!

 

「な、なんなのです?そんなにヤバい奴なのです?」

「魔界で暴れたから豹やユキと会わせちゃダメな奴!つまりわたしたちが襲われたって豹に知られて、敵視されると困っちゃうのよ!」

「それに、異変を起こした大妖怪でもあるので管理者や有力勢力も放置は出来ない方なんです!

ここに私たちがいることを把握されてしまうと、私たちまで幻想郷の実力者に興味を持たれてしまいます!【隠居していたフラワーマスターが直々に動いた相手】と見られてしまうので!!」

「ですので元々夢幻館に縁のある私たちで対応します!落ち着いたと判断したらエリーかくるみをルナサの家に向かわせて、結果を伝えましょう!」

「上海!アリスにどこまで伝えるかは任せる!

 隠し事が出来ないなら、上海が決めなさい!!」

「わ、わかりました!」

「魔界から幻夢界に抜ければ幻想郷に戻れます!私が案内します!!」

 

皆様がお忘れになっているようなので、私からお渡ししませんと…!

正六面体の結界ごと、アリスさんの通信人形(マトリョーシカ)を回収します!

 

「幻月さん!夢幻世界に皆様が入ったらこの結界を解除してあげてください!

 異世界までは通信できないでしょうから!サリエルさん、皆様にこれを!」

「わかった!思い出してくれてありがとエリー!」

「ああ、渡しておく」

 

案内しつつも殿としてゲート前で待ってくれていたサリエルさんに通信人形(マトリョーシカ)をお渡しして、私も鎌を持ち出します!何とか間に合ったようで、幽香が湖の結界を壊す前に皆様が夢幻世界に移動できました。それを確認して夢月さんが結界の強化を止めます―――後は、幽香の説得ですが…!

 

「エリーとくるみは聞かれたことだけに答えて。やり合うことになったら私がやる。

 幽香とやり合うなんて久しぶりだし!」

 

…心底楽しそうな表情で夢月さんが戦闘態勢に入ってしまいました。

どうしましょう…これでは説得どころか話すら出来ない可能性もあります…

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ!?風見幽香が動いた!?」

「えっ…!?」

「風見、幽香?―――まさか、あの傘持ちの大妖怪!?」

 

真っ先に反応したのは藍。それに反応して私も探査魔法の範囲を広げたのだけれど、向かっている先は私たちにとって最悪に近い位置…!

 

「…夢幻館に向かってる!?ルナサ!応答できる!?」

 

慌てて通信人形(マトリョーシカ)を取り出して呼び掛けるけれど…駄目。反応が無いどころか繋がらない。つまり、さっきの私たちと同様に幻想郷から離れてしまっているということ…!

 

「応答がないということは、夢幻館にルナサたちはもういないということ?」

「そうなるわ。でもいったい何処に…?」

「…おそらくは夢幻世界だろう。夢幻館から最も近い異界だからな。だが、そうなると夢幻姉妹がルナサたちをそこまで連れて行ったということだが…その理由がわからん」

 

藍も理解できないのなら私たちが状況を知ることは出来ないでしょうね。

 

「…今は無事を祈るしかないわ。幽香を夢子とユキに相手させるわけにはいかないし、私が向かうにしても距離が遠過ぎる」

「そうだね…無事でいてよ、みんな」

「妖夢を向かわせた方がいいかしら?」

「いや、今の状況で妖夢がアリス達と繋がっていることが露見するのも避けたい」

「そうなの…ごめんね、役に立てなくて」

「気にしないでいいわよ。今はまだ、私たちも動きようがないのだしね」

「そうね…逆に、アリスの家に帰りやすくなったと考えましょう。

 あの凶暴な大妖怪なら、有力者の目はそちらに向くはずよ」

 

夢子の言う通りではあるわ。フラワーマスターが夢幻館に向かったというのは、幻想郷の実力者からすると無視はできない状況でしょう。幽香はかつてあの館を中心に異変を起こした…それを知る者にとっては特に。

 

「…あ、そうだったわー。彼が手合わせの見返りとして要求してきたから、あの手合わせで使っていた剣をここで保管しているのだけれど。見せた方がいいかしら?」

「え、そうなの?兄さんのならわたしは見たいな!アリス、夢子、いい?」

「そうね、私も気になるわ」

「それぐらいならいいわよ、見ていきましょう」

「そう。妖夢、あの抜身の洋剣を持ってきてちょうだい」

「あ、あの剣はそういういきさつで白玉楼にあったんですね!

みんな、ちょっと待ってて!」

 

そう言って妖夢が会談した部屋を出て行き、すぐにその剣を持ってきたのだけれど。

 

 

 

「これは…私のツヴァイハンダー…」

「…兄さんらしいね。時間固定魔法で朽ちないようにしてあるなんて」

 

妖夢が持ってきた両手剣を見て、夢子とユキが予想外の反応を見せたわ。それを見て、夢子とユキから聞いた魔界における豹の末路を思い出す。

 

「夢子、これが彼の足を刺し貫いた剣かしら?」

「ええ…修復魔法も行使してあるから、私が使っていた頃とほとんど変わってない。

 本当に、先輩は気を使いすぎよ…」

「兄さんのことだし、ここに預ける方が安全だと考えたんだろうね…

 たとえ自分が倒れても、八雲紫の関係者ならいつか魔界に渡してくれるって」

 

…豹は、本当に割り切るのが下手なのね。生きて魔界で過ごすことは考えていない。それなのに、魔界への未練をすべて断ち切れているわけでもない。

本当に…こんな中途半端な隠棲でよく今まで逃げ切れていたものだわ。

 

「このツヴァイハンダー、返して頂いても?」

「構わないわよー。妖忌が出て行っちゃってからはただ武具庫に飾られているだけだったもの」

「私が扱うには重過ぎますので、傷まないよう定期的に手入れするぐらいでしたから。

…それこそ、手入れなんてほとんど必要ない状態だったのが何故かすら初めて私は知りましたし。魔法で剣の時間を固定して傷まないように保管するなんて…私どころかお師匠様でも出来ないでしょう。

豹さんは、本当に物凄い魔法使いなんですね…」

「うん、わたしの自慢の兄さん。

 だからこそ、もう逃がさない。次に会えたら、もう兄さんの傍から離れないよ」

 

ユキも魔界を捨てそうな勢いだわ…これ、母さんもこのノリだったりしないわよね?

なんだか余計頭が痛くなった気がするけど、今日はもう白玉楼に用は無い。

 

「それじゃ、今日はこれで失礼させてもらうわ。夢子、ユキ、帰りましょう」

 

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