寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第143話 雪下の会話

博麗神社を後にして門番の元へ向かう。橙を先に状況説明へ向かわせておいたのは正解だったわ。

ここに来て最大の問題となる風見幽香が動いてしまった。止めるために実力行使が必須となる唯我独尊なあの大妖怪は、幻想郷の都合なんてお構いなしに動く。今の状況ではどう転がっても爆弾にしかならない…こうなると豹が夢幻姉妹を友好的にしてくれたのはこれ以上ない援護。

 

(一度私直々に交渉に向かうべきね…フラワーマスターを抑えてもらうには最適だわ。かなり高くつく条件を出されるでしょうけど、背に腹はかえられない)

 

生半可な手駒では返り討ちにされるのが目に見えている以上、迂闊に手を出すわけにはいかないのが風見幽香。正直なところ藍でもちょっと荷が重いぐらい…私直々に出向くか幽々子に骨を折ってもらうぐらいじゃないと確実には止められない相手。それを盤外の駒で抑えられるのは大き過ぎるわ。

 

神綺が来る前に済ませられるかはギリギリでしょうけれど、隠岐奈が本格的に動いている以上これは最優先で処理すべき事案。それこそ、隠岐奈の手引きで動いた可能性すらあるのだから。

 

「―――あ、紫さま!お疲れ様です!」

「ええ、どうやら説明は終わらせてくれたようね」

「はい、僕らも理解しました。

 お久しぶりです、紫様」

「お久しぶりです、紫様。

 私らからもお伝えしなければならないことがありますが、先に命令をお聞かせ下さい」

「久しぶりね、シンギョク。余裕が無いから、手短に伝えさせてもらうわ」

 

地獄・魔界とのゲートの門番、シンギョク。幻想郷に点在する異界への出入り口の中で、最も簡単に到達できる位置…博麗神社にほど近いこのゲートは実力者でなくとも事前知識なしで辿り着ける地点。木っ端妖怪ならまだしも、幻想郷内の人間を不用意に減らすのは避けたいことから門番を配置している。

 

あくまで人間の逃亡防止のために配置している存在だから、シンギョクは異変に際しての戦力には数えられない。けれど、監視役としては非常に優秀だわ。特に、異世界からの侵入者に対しては。

 

「遠くないうちに魔界神…神綺が侵入して来る予定だそうよ。私が直接相手するけれど、後続が時間差で侵入して来るようであれば即座に藍か橙に伝えて。

これ以上魔界における高位の存在が増えると、事態の収拾に向かえる人員が不足する状況に陥るわ。後手に回らないためにも迅速な対応が必要になる…頼んだわよ」

「はっ!お言葉のままに!」

「承りました。

それでは私らからも報告です。昨夜、天界経由で幻想郷に侵入した悪魔らしき存在を2名確認しています」

「天界経由ですって?随分と回りくどい…

 その言い方だと、すでに地上に降りているということね?」

「はい、交戦を避けるよう降下した後に再度異空間に隠れるという行動も確認しました。

おそらくは隠密行動する理由がある相手ということかと」

「隠れた後に幻想郷内に再度戻ったことも確認しています。

悪魔という点も考慮すると、この2名も魔界関係者だと思われます」

「そうでしょうね。これも調査しておくべきか…

ご苦労様シンギョク、こちらで対応しておくわ。橙、一度藍と合流するわよ」

「わかりました!!」

「「紫様、お疲れ様です。我らは引き続き命を果たします」」

 

考えてもいなかった可能性だけれど、魔界人と直接話したことで警戒すべき相手が増えてしまったわ。

堕天使サリエル…神綺に続いて彼女にまで幻想郷に侵入されると、魔界に対して不要な対抗心が生まれかねない。今の幻想郷には、自己顕示欲の強い有力者も増えてきているのだから。

 

(どうにかして私達の手が届く範囲での異変に収めたいのだけれど…

 隠岐奈が動いた時点で無理な話。せめて被害は最小限にしないとね)

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という状況でな。神綺様から逃げ切るのが俺の目標なわけだが…」

「…私に手伝えることなんて無いと思うわよ。いくらこれから力の強まる冬だと言っても、私はただの末端妖怪。魔界神だとか幻想郷の管理者を相手にしたら蹴散らされるのが目に見えてるわ。

豹の頼みなら聞いてあげたいところだけど…下手に関わると逆に私が足を引っ張るわよ」

 

手短に状況説明したが、レティは困った顔だ。ま、そりゃそうだよな…どう考えても組織に属さない妖怪が関わるような案件ではない。俺と同居してるカナはともかく、ルナサや雛あたりは協力してくれているだけでも相当なリスクを負っている。ハッキリ言って、頼まれても関わりたくないと言われるのが当然だ。

 

「別に直接的に手を貸してくれと言ってるわけじゃない。当面の問題は、潜伏先候補が軒並み潰されてることでな…一晩風雨を凌げるぐらいでいい、レティが使ってた場所で、今でも俺が一休みできるような場所があれば教えてくれないか?」

「ああ、だからこんなところに姿を隠してまで来てたのね。それぐらいならたしかに私でも力になれるわ。

…でも、地図なんて持ってないわよ。口頭で説明するだけで見つけられる?」

「俺は攻撃魔法以外は最上級だぞ?これに位置を加えるだけだ」

 

八雲の隠者として博麗大結界により隔離された範囲の地図は紫さんの許可を貰った上で自作し、それを魔力で複製することで即座に展開・解除できるよう簡易術式に封じてある。ちなみに原本は紫さんと藍の確認の元焼却済みだ。出回るといくらでも悪用できるからな。

展開された魔力地図を見てレティが軽く驚きながらも、状況を理解してくれているのですぐさま話を進めてくれる。

 

「とりあえずここに来る前に使ったのはここだけど」

「…位置的には輝針城の真下あたりか?」

「その通りよ。あの逆さ城があるせいで日当たりが悪いから太陽を嫌う連中が集まっているけど、名実ともに日陰者だから各自で共存なんて出来ないのが大半。だから崩れた小屋や使い捨てられた洞窟が点在してるわ。

豹ならさっきみたいに隠れて訪ねれば、誰にも気付かれず一晩休むぐらいなら簡単だと思うわよ。それこそ何度か場所を変えれば数日は誤魔化せるんじゃないかしら」

「成程な…そういった連中が集まってるのは把握してたが、内輪揉めで意外と安全ってのは知らなかった。たしかにこの辺りは使えそうだな」

 

輝針城の周辺で動向に注意すべき実力者は少名針妙丸に鬼人正邪、九十九姉妹あたりだが、あの天邪鬼は俺同様逃走中の身ということを考えれば定住していることはまず無い。小人の姫も城に帰っているのであれば日陰者の溜まり場に向かうことは止められるだろうし、九十九姉妹はむしろ人里に馴染もうと活動してる以上輝針城に用はないはずだ。

ここでレティに会えたのは本気で僥倖だな…!いい潜伏先を教えてもらった!

 

「あと、間欠泉地下センターは知ってるわよね?」

「妖怪の山の麓の研究施設か?話してなかったが、俺は烏天狗の大将と因縁持ちでな…妖怪の山には向かいたくないんだが」

「あら、そうだったの…でも一応教えておくわ。ここ、主に守矢神社に協力してる河童が集まってるけど知っての通り研究優先だから警備はかなり薄い。それで中に管理者らしい守矢の関係者が寝泊りできるような、研究室から離れた位置の部屋があるけど。そこはほとんど無人だからゆっくり休めるわよ。

豹なら侵入も脱出も簡単にできるわ。私でも出来たのだから」

「不法侵入した上で居付いてたのか…レティは本当に肝が据わってるな」

 

こっちは立地的に近寄りたくない場所だが…雛か椛の協力があれば使えなくはないか。ハイリスクだが侵入に成功すればしっかりとした室内で休めるということだ。戦闘を避けられなかった場合、切り抜けた後の休息場所としては候補に入れておこう。

…麟に『ちゃんと私を頼ってください!!』と泣かれそうな気もするが。

 

「後は…ここも使えるかしら」

「…無名の丘か?鈴蘭畑しかないよなこの辺り」

「鈴蘭畑をさらに進むと小屋があるのよ。軽く調べてみたけど、かつて人間が間引きにあの鈴蘭畑を利用してたらしいわ。当時それを生業にしていた人間が使っていたんじゃないかしら?

今となっては怨念や負のオーラも消え失せてただの廃屋になってるから、毒人形が見回りに来なければ普通に安全な場所だと思うわよ」

「メディスン・メランコリーか…精神が幼いからこそ口止めが困難なのが問題だが、逆に言えば彼女にさえ気を付ければ比較的安全ということだな」

 

レティに言われてあの小屋の存在を思い出した。博麗大結界により幻想郷が隔離される以前に行われていた、貧困層による不要な人間の間引き…人間同士で数を減らすのであれば食人妖怪に回せと言いたかったが、潜伏中の俺が一般人相手にそんなことを言いに出向く余裕なんざあるわけがない。放置せざるを得なかったが…妖怪が存亡の危機に瀕することを避けるために、管理者たちが人里の人間を存続させるようになってからは人間の手による間引きは絶えた。

罪を犯した人間は、人里から追放するだけで妖怪に処理されるようになっているのだから。

 

「ここも候補に入れておこう。ありがとうレティ、これは本気で助かった」

「それなら良かったわ。豹のピンチに何もできなかったら私は恩知らずになってしまったもの。

他に危険のないことであれば手伝ってあげるけど、何かあるかしら?」

「…俺の逃走に手を貸してくれている協力者もいるんだが、交戦のリスクを理解した上で力を貸してくれてる。レティ自身が足を引っ張ると判断した以上、無理は言えない。気持ちだけ受け取っておく」

「…そう返されると私がヘタレみたいで悔しくなるわ。なにか危険が少ないことは無いの?」

「いや無理にとは「気が変わったの。簡単なことだけでもいいから手伝わせなさい」

 

…レティにしては随分と熱くなってるな。冬が始まったばかりだから高揚してるのだろうか?

なら、物資調達を頼んでしまうか。

 

「わかった、それなら一つお願いさせてくれ。

妖怪の山付近に豪徳寺ミケという招き猫の妖怪がいる。そいつに魔法具を調達してもらってくれないか?

俺の名前を出せばどういったものが必要なのかは理解できるからな…これだけ支払えば文句は言わないはずだ」

「…随分と羽振りがいいじゃない」

「この逃亡に失敗すれば幻想郷に残れないんだぞ?金を出し惜しむ状況じゃないだろ」

 

しかも八割方藍の金だ。女に貢がせて逃亡資金に使うとか本格的にクズムーブだな…反逆者に堕ちた時点で格好良くなんかいられない以上は今更だが。

 

「そうだったわね…受け取った魔法具は何処に持っていけばいいの?」

「霧の湖近くにプリズムリバー邸があるのは知ってるか?ライブの裏方として彼女たちを手伝っていたから、俺の名前を出せば預かってもらえる。機を見計らって回収に出向くさ…今日はここで凌ぐが、長居するつもりは無いからな。俺の居場所に持ってこようとはしないでくれ」

「その方が危険も少ないってわけね。わかった、これぐらいやらせなさい。

 落ち着いたら私の相手もしなさいよ?ただでさえあまり構ってくれないんだから」

「逃亡者に深く関わることのリスクを考えてくれ…今の状況ならなおさらだ。

 レティも気を付けてくれよ?今回は俺が守れない可能性の方が高いんだからな」

「安心しなさい、私は弱者としての視点も持っているわ。

 命の危険からはすぐ逃げるわよ」

 

レティのこういうところは本当に信頼できる。側で守れない相手が【逃げるという選択を優先できる】というのは…護衛(おれ)にとって最も安心できる考え方なのだ。

 

「ああ、頼むぞ」

「任せて。豹もちゃんと逃げ切りなさいよ」

 

雪に紛れてレティが飛び去る。

ここまで悪い状況であっても、力になってくれる友がいる。今はそれに感謝しよう。

 

立ち話で積もった雪を払い落としながら、俺も夢殿大祀廟に続く地下洞窟に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あら。今になって大祀廟にこれほどの客人がいらっしゃいましたか」

「む?青娥殿よ、何かあったのか?」

「ええ、少々仙界を離れますわ。

 興味深い殿方を見つけましたので」

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