サリエル様とリィスさんの案内で夢幻世界を真っ直ぐ飛びます。化け化けに羽目玉、黒球に霊魂といった敵がわらわらと私たちに撃ってくるのですが…
「じゃまっ!」
「…数だけなら私でも十分」
「足を止めた相手ならっ!」
ルナサさんが広範囲の乱射で数を減らし、撃ち漏らしを麟さんが雷撃魔法で仕留め、至近弾はカナさんが道路標識で叩き落とすという役割分担によって皆様無傷で進めています。皆さまが共闘するのはこれが初めてと言っていたのですが、息の合い方が凄いです…ご主人様の指揮に従うばかりの私では、打ち合わせもなしにこんなすごい連携なんて取れません。ご主人様や夢子さん、ユキさんにはとてもかなわないとルナサさんたちは言っていましたが、このような多対一に持ち込めば普通に渡り合えます。
決して、皆様が力不足なんてことは無いことがよくわかりました。
「でも、どうして帰りだけ雑魚が湧いて出てるのです?さっき来た時は襲われるどころか姿すら見なかったし、どういうことなのです?」
「おそらく、私を敵視する悪魔の差し金だろう。私は今日だけで既に二回夢幻世界に移動している…そして夢幻姉妹が不在なのを確認したのだろうな。幻月が天使を嫌うことは魔界では周知の事実、つまり私が複数回出入りしたことで夢幻世界に干渉しても即座に夢幻姉妹から報復されないと判断した。
そして夢幻世界に潜んでいた低級生物を操り私にけしかけたのだろう。私を消耗させて叩く腹積もりなのだろうが…この程度で私が消耗するはずもない。考え無しの愚かな若い悪魔が無駄死にしに来たらしいな」
「ではやはり…魔界に出た時点で襲撃があるのでしょうか?」
「間違いないだろう。そこまでの覚悟を決めなければ夢幻世界に干渉することはあるまい」
「私たちの出番は、それからですね…!」
夢幻世界に皆様が移動してすぐにサリエル様が異常に気付き、全員で迎撃態勢を取ったのですが…麟さんが交戦に入る前に大切なことを思い出してくれました。
『魔界に入ってから私たちが戦闘するのは問題になります!お荷物になってしまいますので、この世界では私たちが戦います!サリエル様とリィスさんは魔力を温存してください!!』
その結果、私も元は魔界で作られた人形なので魔力を温存することになりました。カナさん・ルナサさん・麟さんだけで支えきれなくなったら私も迎撃に回ることになっていましたが…その必要は無さそうですね。
「それじゃ、もう2枚ずつ羽毟らせてもらうのです。魔界に入ったら再展開する方が良さそうなのです」
「む、毟るですか…里香さん、私はともかくサリエル様の羽は舞い落ちたものを使ってもらえないでしょうか?」
「リィス、そこまで気にしなくて構わん。それこそ幻想郷に出向いてからは頼ることになるのだからな」
そして里香さんはというと「戦車無しのあたいは戦力外だし。ただ、何か使えそうなのをよこせば力になれるのです」と言って私たちと同じく後方に下がっています。豹さんほどではないそうですが、攻撃魔法は得意ではないので足を引っ張るだけ…そう思っていたのは里香さんだけでした。
「先に渡しておこう。魔界に入って迎撃役を交代しても、維持させるのは引き続きカナで良いのか?」
「魔力の消耗を考慮すればそうなるのです。あたいが思ってたよりルナサも麟も戦えてるし、カナの消耗はほとんどないはずなのです」
サリエル様が羽ばたいて舞い落ちた羽根を里香さんに渡したところ、リィスさんにもよこせと続けました。そして4枚の舞い落ちた羽根を核に
戦車の魔力主砲のような《魔力と相性の良い物質から派生させる魔法》に関しては魅魔さんをも凌ぐほどで、かつて魅魔さんが博麗神社を襲撃した際に一般兵として扱う戦力は全て里香さんが造ったそうです…ご主人様は私の姉妹を一人一人丁寧に時間をかけて作り上げることで強力な戦力に仕上げていますが、里香さんは最低限の戦力しか持たない化け化けを短時間で多数造り出せる―――方向性が真逆だからこそ、ご主人様も里香さんに興味を持つと思います。
ゼロから兵士を創り出すという点は、共通していますので。
その里香さんが目の前でいとも簡単に防壁魔法を編み出した上、その維持には
ゼロから魔法を編み出せる里香さんと、魔法使いとしての本格的な修行をしていないカナさんでは【魔法使いとしての
おそらく、この防壁を盾にすれば中級魔法までは止められるでしょう。破壊するとなると上級魔法数発は必要になります。少なくとも夢幻世界を抜けるまでは背後からの追撃は気にしないでも大丈夫でしょう。
「―――ッ!サリエル様、あのゲートが魔界行きかしら?」
「そうだ、私が一番手で入る。上海とリィスが続いた後、一拍置いてから麟たちが来てくれ…
―――待ち伏せされているだろうからな。初手で私がある程度は殲滅しておく」
ルナサさんに応えてサリエル様が前に出ていきます。夢幻世界での私の出番は結局ありませんでしたね…ゲートまでの進路上にもう敵はいません。それこそ防御に徹していたカナさんも後方の防壁魔法以外に魔力を使わないで済んでいます。ルナサさんと麟さんでほとんど撃ち落としてしまっていますね。
ですが、ここから先…悪魔が相手となると油断は出来ません。それこそ私は戦闘経験不足。簡単に踊らされてしまう可能性もありますし。
ただ、流石に魔界までは隠れ家さんも夜叉を送れないと思いますので、射撃戦で対処することになります。迂闊に距離を詰められなければ、射撃と回避に徹するだけで乗り切れるはず―――サリエル様とリィスさんに力を貸して頂けるのですから。
今思えば、メディと氷精相手に私一人で魔法を試し撃ち出来ているのは幸運でした。メディにはすべてが終わったらしっかりお礼をしませんと!
そんな事を考えているうちに、出口はもう目の前です。
「うん、このままゲートに入れそうだね!わたしたちは一度下がっちゃうわ!」
「はい!ここから先はサリエル様と私たちにお任せください!」
「お願いします!魔界では、私たちは何もできませんので!!」
サリエル様と入れ替わってカナさん、ルナサさん、麟さんが後衛に下がって来ました。そしてリィスさんも前に出て行き…私もそれに続きます。
久し振りの魔界―――ご主人様に連れられてではなく、私の意思で。
私を友達と認めてくださった皆様と一緒に乗り込みます!!
「攻撃は私が引き付ける。カナ、防壁魔法を張り直す位置だけ注意してくれ」
「OK!お願いねサリエルさん!」
サリエル様に続いて、私も魔界へのゲートに飛び込みます!
「―――出て来たな!魔界に天使は不よ」
言い終わる前にレーザーで貫き黙らせる。愚かだな…総司令官が先頭に立つのは士気高揚という点でメリットもあるが、このような烏合の衆ではデメリットしかない。上級悪魔は一人もおらず、中級悪魔も今葬った首謀者らしき悪魔以外には2・3名。下級悪魔と数合わせにしかならない使い魔や霊魂、魔物がほとんどだ。この戦力で私を仕留められると思うはずがない。つまり陰で糸を引く者がいる…
(―――む、ゲートに細工をしたのか?ここは氷雪世界の手前…ゲートの出口になるような地点ではない。何故ここに私を誘き寄せた?)
だが、私の前に立ち塞がるのは明らかに捨て駒としか思えない陣容…まともな情報を渡されてはいるまい。それこそ捨て駒にしては数が多いのが不可解だが、今の私には交戦させられない後続がいるのだ。容赦することなど出来ない。
「ギャッ!」
「ぐえっ!」
「ひいっ!」
問答無用でレーザーを連射して残りの中級悪魔を片付ける。この時点で生存本能が働いた下級悪魔数名は逃走を図るものの、恐慌状態に陥った使い魔や魔物は私に向け突っ込んでくる――が。
「サリエル様の邪魔はさせません!!」
「《模倣・白の魔法》!!」
続いて飛び込んできたリィスと上海が多数の光弾を連射し撃ち落としていく。この時点で抵抗の意思を見せていた下級悪魔も逃走を選んだ。であれば、奴等は後々神綺に調べさせるために生かしておくべき。
「リィス、上海。逃走した者の追撃は不要だ。向かってくる者だけ確実に仕留めろ」
「「はいっ!!」」
何も聞かずに私の指示に従ってくれるのは助かる…リィスはともかく、上海にとって私はほぼ初対面。それもヒョウの保護に関してまだ細かく決められていないのに全幅の信頼を置いてくれているのだ。時間に余裕があれば、ゆっくり話したいものだが…麟たちも私の背後に飛び出したので眼前の敵に集中する。
「防壁魔法、張ったよ!」
「あたいはここで終わるまで待機するのです」
「…手は出せないけど、援護は出来そうね。
サリエル様、背後の霊魂は私が対応しておく。正面を先に排除して」
「…っ!?ルナサさん、もしかして私たちは耳を塞いでいた方がいいでしょうか!?」
「大丈夫よ、皆を巻き込まないよう工夫するから」
「ならルナサ、任せる。リィスと上海は手薄な左手から背後に向かい殲滅しろ。私は残存戦力の多い正面を潰してから右手側を一掃する」
「仰せのままに!」
「お任せください!」
先ほど見せてもらった楽器から察するに、ルナサは音を用いた能力を持っているということだろう。音による妨害なら
ルナサの妨害は実体無き霊魂に効果覿面らしく、背後だけでなく正面の霊魂も攻撃が止まっている。それを理解したリィスと上海は統制を失った魔物から片付け始める。
(援護は不要、ならば私もただ敵を蹴散らすまで)
残存戦力は我らに傷一つ付けることが出来ず、ほどなく壊滅したのだった。
戦闘を終えた時点で一度集まり、ほとんど消耗が無いことを確認できた。しかし、ヒョウと無関係な小物による足止めを食った時点で…魔界から何事もなく皆を脱出させることが不可能になっていた。
―――それに気付くのはもう少し後だが。
「…不可解な点はいくつかあるが、無事である以上脱出を急ぐぞ。幻夢界へのゲートは――?」
「うん?今になってこっちに向かってきてるのが一ついるみたいなのです」
私が気付くとほぼ同時に、索敵魔法を展開していた里香も彼女の反応をキャッチする。
彼女のことを思い出したことで、私はようやくミスを犯したことに気付いたのだ。
「ツララだな…
―――っ!?しまった…!」
「サリエル様?どうかなさいましたか?」
ツララは、ヒョウによって氷雪世界の守護者として顕現された存在…すなわちツララにとってヒョウは主と呼べる。私同様に永くヒョウの帰りを待つ時間を過ごしていたのだ。
ヒョウの魔力を感じれば、すぐに向かってくるのは当たり前。
そして、上海の持つ黒翼…ヒョウによって創造されたらしき魔力翼。
その魔力は、
「すまない!ここは本来夢幻世界のゲートが繋がっている場所ではない…!
この位置だと、感知されてしまう!」
「ああっ!?」
魔界出身の上海だけが、それに気付いたが…時すでに遅く。
「―――サリエル!?ヒョウくんを連れ帰ってくれたの!?」
神綺が空間魔法で、私の目の前に飛び出してきた。