寂しがりやな魔界人の幻想郷逃亡録   作:影就

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第147話 一休みにはまだ早い

「あ!やっと帰ってきた!」

 

白玉楼から私の家に帰り着くと、メルランとリリカが待っていたわ。念のために露西亜人形(マトリョーシカ)は来訪者に見つけられないよう入り口から死角になる位置に待機させておいたのだけれど…メルランとリリカから来てくれるならむしろドア付近に置いておくべきだったわね。

 

「待たせたようね、悪かったわ。でも、わざわざここまで出向いてくれるなんて…何かあったのね?」

「そうなのよ~!ちょっと魔界のことに詳しいみんなに確認するべき情報が出て来たの!少し時間を貸してちょうだい!」

「とりあえず中に入ってもいいかなアリス?あまりわたしと夢子が襲われやすい位置にいるのは避けたいし」

「そうね。話は中でしましょう…お互い情報交換もしたいしね」

 

そのままドアを開いてメルランとリリカ、ユキが先に家に入るけれど。

 

「…夢子?どうかした?」

「巫女と魔法使い、悪霊が人里に向かってるのはアリスも把握できてるわよね?先輩が人里を潜伏先に選ぶとは思えないけれど…風見幽香も人里方面に向かってるのよ。最悪な事態になるのも覚悟しないといけないわ」

「ッ!?…ニアミスだけで済めばいいけれど、しばらく魔力反応を見失わないようにするべきね」

「理想は潰し合ってくれること。でも共闘されるぐらいなら最初から鉢合わせないでもらいたいわ…

上手く入れ違いになることを祈っておきましょう」

 

流石は夢子、私は博麗神社の動きは押さえてたけど、エリー達と交戦せずに引き返した幽香の行き先が太陽の畑だと理解した時点で警戒を緩めてたわ。でもいつの間にか幽香も太陽の畑に向かう途中で進行方向を人里方面に変えている。あのフラワーマスターの行動予測なんて出来ないから夢子の言う通り祈るしかない…悪い方向に進まなければいいのだけれど。

 

 

 

 

 

「それで、メルランとリリカは何を確認したいのよ?」

 

リビングに集まって情報交換。今になって気付いたけど、ここに全員集まるとなると流石に狭くなるわよね…昨日みたいにルナサ達には浮いてもらうことになるかしら。

そんな事を考えてしまったけれど、メルランから伝えられた話は思った以上に厄介になりそうで。私達は後手に回りかけているということを思い知らされることになったわ。

 

「昨日、サリエルの使い魔の幽玄魔眼のことは軽く話したわよね~?まずこれを確認したいのだけれど…

この使い魔の姿って、名前通り目玉をいっぱい引き連れてたりする?」

「そうだよ、5つの魔眼の視線の先に金髪の人型を展開する使い魔が幽玄魔眼」

「やっぱり当たりかー…

 アリスさ、ミスティアっていう夜雀妖怪知ってる?」

「え?焼き鳥撲滅をスローガンに屋台を出してるミスティアのこと?」

「そうよ~。昨夜、その屋台を襲撃した悪魔がいたっていうのを弁々と八橋が教えてくれたんだけど…

一人が左頬に星を持つ金髪黒翼の悪魔。もう一人は背後に目玉を展開していたそうなの」

「――ッ!?つまりエリスと幽玄魔眼が襲撃者!?」

「それだけじゃなくてさ、その二人『えりとくるみ』って名乗ってたんだって」

「なっ…!?エリーとくるみの名前を騙って動いてたってこと!?」

「…あっ!?それじゃもしかしてあの傘持ち妖怪が夢幻館に向かったのって!!」

「って、ちょっと待って!?フラワーマスターが夢幻館に行ってるの!?」

「皆、落ち着きなさい。ここで私たちが動揺しても状況は変わらないわ。

 一つずつ情報を整理しましょう。少なくとも夢幻館で戦闘が起きなかったのは確認してるわ」

 

連鎖的に出てくる不都合な状況に私たちとメルランとリリカ双方が動揺してしまったけれど、夢子がそれを落ち着かせてくれた。このあたりは流石魔界のNo.2ね。

 

「夢子の言う通りよ。私も幽香が夢幻館に向かったのは確認したけれど、そのまま引き返してるわ。

それに、幽香が夢幻館に辿り着く前にルナサ達は逃がしてくれてた。気付いた時はまだ藍と話してた途中だったのだけれど、夢幻世界に逃がしてくれたんじゃないかって予測してた。そして幽香と本気でやり合えそうな魔力が二つ、エリーとくるみの他に夢幻館に残ってたから…夢幻姉妹はルナサ達を逃がした上で幽香を説得してくれたと考えていいはずだわ」

「そ、そうなのね~」

「ただ、夢幻世界から戻ってくる様子が無いわ。だから無事なのかどうかは夢幻館にいる誰かに聞かないとわからない…メルランとリリカがまだ動く気があるのなら、私達で夢幻館に向かうのも選択肢の一つよ」

「って、ちょっと待って!ルナサ達って言った?ルナ姉も夢幻館にいたの!?」

「あ、メルランとリリカはそこ聞いてないんだっけ!

 上海とカナが魅魔に襲われたのって二人は確認できた?」

「それはキャッチしてるわ。でも援護に向かうより先にカナと上海がいなくなっちゃったのよ~。

 あれやったの、豹なのよね?」

「ええ、それは間違いないわ。上海とカナを豹が救出した後、次の行き先を言わないまま…

 ええと…」

「――っ!また忘れていた…これは本当に厄介な呪いのようね…!

先輩は上海とカナを救出して冴月麟のところに送ったそうよ。その時点でルナサは彼女と合流出来てたようね」

「…夢子は流石だね。わたし言われて思い出した…

わたしたちは八雲紫と話し終えた後で一度通信したの。そのタイミングでルナサと麟、上海とカナは合流してたから、そのまま全員で夢幻館に向かったはず」

「…それってさ、冴月麟は豹がいざという時に空間魔法で飛ぶぐらい当てにしてたってこと?」

「そういうことになるわね…私も忘れてたから、予想にしかならないけど。

ただ、通信した位置が私達が白玉楼でルナサ達が夢幻館に続く湖だったのよ。距離が遠すぎるからお互い目的地の用件を済ませてから私の家に来るよう頼んでおいたから、無事に幻想郷に戻り次第ここに来てくれるとは思うけど…」

「それがいつになるか全然予想がつかないってことね。

 アリス、これから私と一緒に夢幻館まで付き合ってくれないかしら?」

 

メルランが真剣な表情で私に協力を求めてきた。この言い方だと…

 

「…メル姉、私はお留守番ってこと?」

「仕方ないでしょ~。私とリリカじゃ2対1でも厳しいのが相手になるかもしれないんだから。

それに、ユキと夢子だけにするのも問題あるじゃない。スペルカードルールで相手出来るのが一人はいないと、喧嘩を売られた時が大変だもの~」

「そっか、夢幻館に向かうなら絡まれた時にどっちの対応でも迎撃できるアリスは確定。逆に幻想郷のルールを理解できてるのがここに1人はいないと、誰か来ちゃったら荒れないように対応できなくなっちゃうのね」

「そうなるわ。だからまずアリスが動いてくれるか。次に私とリリカどっちがここに残るかを決めなくちゃならないのよ。

…で、リリカは夢幻姉妹と直接会う気はあるの~?」

「パス!!だからメル姉で決まり。

 アリス、お願いしていいかな?相変わらず私は勝手で悪いんだけどさ」

「気にしないでいいわよ。どちらにしても入れ違いになる可能性もゼロじゃないのだし、むしろこの状況で二人揃ってここに来てくれただけでも助かってるわ。

私も動くわメルラン。幽香の動向は把握しておかないと…問題の4人で一番動きをコントロールできないのが幽香よ。動かれた以上、後手に回ることだけは避けなくてはならないわ。そのためにも、エリー達との打ち合わせは必要―――幽玄魔眼とやらは夢幻姉妹が撃退したって言ってたから、今の情報を使えば交戦を避けられるかもしれないしね」

「上海たちが先にここへ戻って来たら、あの露西亜人形(マトリョーシカ)で呼び戻せばいいのね?」

「お願いね夢子。この時間にこの天気だから、ここに誰か来ることは無いとは思うけど…

リリカじゃ手に負えないようなのが来ちゃったら対応は任せるわ。少なくとも、魔界に関しては握り潰せるわよね?」

「ふふ、そういう手段が選択肢に入るようになっただけでも、幻想郷に移住した成果はあるわ。

 任せなさい。夢幻姉妹が何か要求してきたら、それも私に回して構わないわよ」

「そうさせてもらうわ。行きましょうメルラン」

「ええ、こちらこそ頼むわ!」

 

返事とほぼ同時にメルランが外に飛び出す。手遅れじゃ無ければいいのだけれど…!

 

 

 

「それで、エリスと幽玄魔眼がその屋台を狙った理由はわかってるのかな?」

「それが一番の問題っぽいのよ。

私も聞いただけだから正確なとこは分かんないんだけどさ、どうも店主のミスティアが狙いじゃなかったみたい。客として来てた奴が目的だったみたいなんだけど…その客ってのが兎妖怪なんだって」

「兎妖怪…?

 ―――っ!?まさか、月の玉兎!?」

「詳しくは知らないんだけど、その可能性は高いと思うよ。

だからこそ、下手に動くわけにはいかないし…ユキたちに急いで伝えなきゃマズいって思ったのよ」

「八意永琳ね…!

 神綺様が来てくれたら、真っ先にエリスと幽玄魔眼を探してもらうべきかな…!」

「アリスと夢幻館のメンツにもメル姉が伝えてくれるとは思うけど、永遠亭って幻想郷の中でも情報が出てこないところだからさ…どう動くか全然わかんない。

だから、どう動くべきか決まったらすぐ私たちにも教えてよ?幻想郷と魔界の全面戦争なんて、豹が妹扱いしてるみんなは誰も望んでないもん」

「ええ、約束するわ。先輩にとって【妹】なのは私たちも同じ…絶対に阻止するわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ここが、夢殿大祀廟か)

 

命蓮寺の地下にこれほどの廃墟が残っているとはな…調査するという行動自体が察知されるリスクを伴う。それゆえに豊聡耳神子を徹底的に避けていた俺とは無縁の場所だった。奴らがここを去ってからは無人と聞いていたが、思っていたより荒れている…すなわち財宝や資材目的で侵入した者もそれなりの数がいたということだろう。

 

(だからこそ、潜伏場所として使える。主が去ってそれなりの時間が経っている以上、価値のある遺物はすでに持ち出されたはず…盗掘目的でここを訪れる者はもうほとんどいないってワケだ)

 

…だとしても、荒れ過ぎな気もするが。どう考えても発掘作業で出来るような位置じゃない、高所の壁面などにも損傷がある。まるで、弾幕ごっこの流れ弾が着弾したような…

 

(―――って、そういえば何度か決闘場として使われてたか。宗教ブーム騒ぎの時と完全憑依異変…どっちも観客が出るような、俺が関わるべきじゃない異変。前者に関しちゃ俺には全く影響が出なかったせいで異変だって気付かないでいたら、紫さん直々に出歩くなって教えてくれたんだよなあ)

 

完全憑依異変に関してはある意味俺も当事者だった。なにしろルナサ達のライブの裏方として活動してたのだからな…もっとも紫さんとしては俺が【ライブのスタッフ】という立ち位置にいたおかげで『直々に動きやすかった』そうだが。保険として動ける俺が近場にいたのは大きかったらしい。

 

だが宗教ブーム騒ぎに関しては精神守護能力によって無効化していたことで異変を把握できなかったのだ。なので俺は変わらずルナサを手伝ったり、リリーとノエルに魔法を教えたりしていた。要は紫さんの忠告が無ければ本格的に幻想郷で活動を始める豊聡耳神子一派と鉢合わせていた可能性があったのである。かなりギリギリのタイミングで隠れ家に引き籠ることになったわけだ。

 

(ま、今はそんな異変が起きているわけでもない。今日一晩ぐらいなら一休み出来るだろ)

 

そう軽く考えていたのが間違いだった。

…言い訳をさせてもらえるなら、紫さんと藍が手配してくれた潜伏先だから安心していたという点もあるんだが。

 

ここ、夢殿大祀廟の関係者には―――俺並に空間魔法を扱える存在が1人いたのだ。

 

 

「―――!?」

「あら、先に見つかってしまうなんて。

 これは丁重におもてなししなければなりませんね」

 

しまった…!レティが何も言わず通してくれたから、無人だと思い込んだのが油断だった!

彼女ほどの手練れなら、探知・索敵魔法を行使していようが意味が無い。紫さんや藍のように、一足飛びで接近できるのだ。

 

「ウフフ…このようなところに、何の御用でしょう?」

 

悪意無き邪仙―――霍青娥。

今の幻想郷において屈指の要注意人物に、遭ってしまった。

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