魔界神の残していったゲートから飛び降りると、そこに待っていたのは。
「へっ!?こんなに大所帯なんですか!?」
「すまないな…本来は夢幻世界へのゲートからリィスの整えてくれたゲートに向かう予定だったのだ。だが愚か者の干渉で氷雪世界の近くに出てしまい、神綺が動いてしまった」
「ごめんなさいサラさん。ですが皆様魔界と幻想郷の危ういバランスは理解してくれていますので…!」
「ヒョウさんの魔力翼…本当に凄いですね、ヒョウさんは…」
先に飛び込んだサリエル様と上海以外に部屋にいたのは2人。上海がサラと呼んだ少女と、白い水玉模様の赤いスカートの金髪少女。
「うーん、これは会議室使った方がいいかな?ルビー、会議室の用意お願いしていい?わたしはマイを呼んでくるから」
「わかったわ。サリエル様、申し訳ありませんが神綺様が戻るまでお待ちいただけますか?
マイが腰を上げるより神綺様がお帰りになる方が早いと思いますので…」
「ああ、私は部外者だからな。そのあたりは任せる。
ただ、神綺がツララを連れてくるのも数に入れておいてくれ」
「あ、わかりました!
じゃ、お客さんたちはちょっと待っててね!」
そう言ってサラと呼ばれた少女とルビーと呼ばれた少女が部屋を出ていく。
…ここ、屋内だと思ってたけど中庭かしら?
「お待たせ―!」
「………」
「へっ!?はやっ!!」
出て行ったと思ったら新しく開かれたゲートから魔界神が出てきて、隣にいたカナが思わず反応しちゃってるわね。連れて来たのは…亡霊かしら?
ツララと呼ばれていたのがこの子でしょうけど、わざわざ連れてきた理由は私でも理解できた。この子、存在を維持するための核に豹の魔力が使われてる…つまり、豹が魔界にいた頃から大切に豹の魔力を維持し続けていたということになる。
この亡霊も、豹に依存している一人ということね。
「サラとルビーが会議室を用意してくれている。私も何か手伝うか?」
「気を使わなくていいわよー、今日は会議室使う子いなかったはずだし。ツララちゃんは大丈夫?」
「…違和感はあるけど、平気」
「なら良かったわー。それじゃ、みんなついてきて!
お互いの紹介は揃ってからにしましょ!」
「それじゃ、あらためて…私が神綺。魔界の神をやってるわ」
「サラだよ。本業は幻想郷と繋がる扉の門番だから、少しは幻想郷のことも理解してるわ」
「ルビーです。ヒョウさんにお世話になった妹の一人です」
「私は大丈夫…じゃないのね。ルイズです、こんなに早く再会できるなんて驚きだわー」
「…ツララ。ヒョウとユキのために、氷雪世界を守ってる」
「……………マイよ。ここパンデモニウムの管理者の一人」
魔界は幻想郷と違って、家屋の造りは幻想郷で言う西洋に近いようね。テーブルを囲んで椅子に座る…魔界神側に今紹介された6名。
「…ルナサ・プリズムリバー。豹にはライブのスタッフとして助けられてるわ」
「わたしはカナ・アナベラル。豹のお家に取り憑いてる騒霊よ」
「あたいは戦車技師の里香なのです」
「豹さんに弟子扱いしてもらっている、冴月麟です」
魔界に初めて訪れたのが私を含めて4人。これに上海とサリエル様、リィスを加えて7人。
お互いに敵意は無いから良かったけれど…サリエル様が私たちを庇ってくれたとしても、決裂した場合に無事逃げ切るのは難しい人数ね。会談だけで済めばいいのだけれど…
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、まずはこれからかなー?
みんなはどうして魔界に来たの?」
「…ルイズから私たちと豹のことはどこまで聞いてる?」
「私からはアリスと上海のことしか話してないわよ。それ以外はここに来てない雷鼓や椛のことぐらいかしら?ルナサとカナとはあまりゆっくりお話しできなかったもの」
「う~ん…それなら状況だけ伝えた方がいいのかな?
わたしたちは豹に頼まれて、夢幻姉妹と顔を合わせに夢幻館に行ったのよ。そしたらサリエル様が里香を連れて来てくれたんだけど、そこに風見幽香が向かって来ちゃって」
「ルナサさんとカナさんはまだしも、私は足を引っ張ってしまいますから…夢月さんが時間稼ぎしてくれている間に、幻月さんから魔界経由で脱出するよう指示されたのです」
「私は護衛として幻夢界へのゲートまで送るつもりだったのだが。夢幻世界から魔界へのゲートに細工されていたようでな…問題なく返り討ちにしたところに神綺が飛んできた」
「風見幽香…!あいつ、また好き勝手暴れてるわけ?」
どうやら魔界にもあのフラワーマスターの悪名は轟いてるようね。サラが嫌悪感を隠そうともせずに吐き捨てた。
…これを軸に話を進めれば、私と八雲紫の関係までは詰められないで済むかもしれない。
(上海の黒翼に注目されている以上、豹との繋がりは隠しようがない。そして、麟と里香の立ち位置は間違いなく聞かれる…麟が八雲紫と繋がっていることも。
でも、私が八雲の駒ということだけは皆が口に出さない限りまだ伏せられる。豹を間接的に援護してもらうための繋がりをゼロにしないためにも、せめてこれだけは隠し通さないと…!)
おそらくサリエル様はここまで理解して話を進めてくれる。麟もさっき自分が前面に出ると言い出した以上、私を伏せ札として話すはず。カナは最初から余計なことは喋らない気でいるし、リィスは幻想郷の情報に疎いはず。
つまり、口を滑らせる可能性があるのは上海と里香。特に里香は私ともほぼ初対面、夢幻館の自己紹介で名乗ったからあっさり話してしまう可能性がある。それを防ぐためには、里香の立ち位置を話し終えたら即座に違和感なく話題をすり替えること…!
里香も「説明は任せる」って言ってるから、会話の主導権を一度戻せば黙ってくれるはず。自信はないけど、上手くやらないとね。
「いいえ…彼女は今、幻想郷で隠居同然の日々を送っていました。そもそも豹さんが夢幻館のエリーさんとくるみさんに慕われている理由が【風見幽香が出て行った後で夢幻館の修復を手伝っていた】からなのだそうです」
「私も詳しいわけではないのだけれど…あのフラワーマスターは花を粗末に扱う者には容赦しない。逆に言うと、花に手を出さなければここしばらく騒ぎを起こすことは無かったのよ。だからこそ、今日になって夢幻館に戻って来た理由がわからない」
「ゆえに夢幻姉妹は皆を魔界経由で逃がすことにしたのだろう。あの凶暴な大妖怪から目的を聞き出せ、かつ戦闘となっても渡り合えるのだからな」
「…幻月さんがサリエル様どころかリィスさんまで送り出したということですか。
ヒョウさんは変わっていないんですね…妹と見た相手には、簡単に影響を与えてしまう」
…まあ、さっきの自己紹介でわかってはいたけれど。ルビーは完全に豹の妹なのね…そのうち幻想郷に乗り込んで来そうな雰囲気を醸し出してるわ。
「うーん…幽香ちゃんに関しては幻月ちゃんと夢月ちゃんに任せるしかないかなー」
「ゆ、幽香ちゃんですか…あの残虐な妖怪を神綺様はなぜそんなフレンドリーに…」
「フレンドリーなんかじゃないわよー、ちゃん付けで呼ばれるのが一番悔しそうだったんだもん!
流石の私でもあれだけ
「あんた本当に魔界神なのです?子供っぽい仕返しなのですぅ」
「はうっ!?」
「り、里香さん…神綺様にそれは言わないでもらえないでしょうか」
リィスの反応に随分と子供っぽい返しをしたと思ったら、里香はハッキリ口に出したわ…それにわかりやすくショックを受ける魔界神と、微妙に追い討ちにもなっている上海のフォロー。
なんだか、アリスが母親の話になるとよく頭を抱えていた理由がわかった気がする…
「…話を戻すぞ。ここで問題になるのが、私を嫌う愚かな悪魔共だけではゲートの転移先を変えることなど出来ないということだ。夢幻世界に潜んでいた低級生物を操り私を襲撃させるだけであれば、死の覚悟さえ決めれば難しいことではない。だが異界と繋がるゲートに干渉するのは捨て駒にしかならない者だけでは不可能―――陰で糸を引いている者がいるということだ」
「それを探す必要は無いわ。その黒幕は私だから」
「はあっ!?どういうことよマイ!?」
サラが真っ先に反応したけれど、これにはここにいる全員が驚いたようで魔界神すらも驚きの表情で白翼の少女…マイを見る。でもそれをわかり切っていたというように何も感情を変えず語り出す。
「どういうことも何も、神綺様だけじゃなくサリエル様まで魔界を離れるのであれば手回しが必要よ。ただ夢子さん抜きで情報操作は面倒だし、明日にも幻想郷に向かうのなら時間も足りないわ。
だから即効性のある手段を取ったのよ。あのシスコンがどう動こうが、幻想郷がまた攻撃してくる可能性を潰す方向にね。
ただ、あのバカ共が半日もせずに準備を整えて実行に移したのは私にとっても計算外だったのよ。己の実力すら測れないのに、行動だけは早い。正直言って、あんたら幻想郷の住人が手出ししてたら逆効果になるところだったわ。サリエル様とリィス、上海だけで撃退してくれて助かったわよ」
「―――まさか、強硬派を利用したの!?」
「そうよ。サリエル様が夢幻世界に出入りしてることと、夢幻姉妹が幻想郷と繋がったこと。これを強硬派にわざと流して『幻想郷と繋がった夢幻姉妹にサリエル様が協力した』と認識させただけ。
強硬派のバカ共ならこれだけでこじつけてくる。【幻想郷に与したサリエル様が、罪無き悪魔を滅ぼした】という口実が出来る―――サリエル様を嫌う悪魔をけしかけて、返り討ちに遭わせることでね。
幻想郷による攻撃と取れる事案が一つでも見つかれば、それを理由にすぐにでも攻撃を仕掛ける気でいる
「…えーっと、マイちゃん?もしかして、これから粛清しに向かうのって」
「夢幻姉妹に押し付けるつもりだったんですが、連中の暴走が早過ぎましたので神綺様かサリエル様どちらかは手伝ってください。ヒョウがよりによって幻想郷に居やがったのが悪い。
あの護衛厨なら魔界だけじゃなく幻想郷も守ろうとする。どう転がろうと絶対に厄介なことになるんで、幻想郷相手の戦争の火種になる連中を先に片付けてから行ってきてください」
「…神綺、私が行こう。乗せられて先に手を出したのは私だからな」
「サリエル様、私もお手伝いします。幻夢界に先に帰るより、ずっとサリエル様とヒョウ様のお役に立てますから…!」
「サラとルビーも片方は手伝いなさい。ヒョウを連れ帰る気なら、この粛正は必要よ」
「わたしが行く。ルビーは早くヒョウさんに会いたいでしょ?」
「ありがとうサラ。お言葉に甘えるわ」
…私たちを置いてけぼりにして魔界の物騒な話が進められていくわ。口を挟みようがないし、どう反応すればいいかもわからない…魔界出身の上海さえ何も言えずにいる。
でも、これがマイなのね。豹の反乱において誰よりも上手く立ち回り、魔界の上層部に居座った策士…私なんかでは簡単に掌の上で踊らされかねない。隙を見せないように気を付けないと。
「マイちゃん…任せちゃっていいのかな?」
「私の八つ当たりに丁度いいですから。この話が終わったらさっさと片付けます。
ただ、本気でヒョウを連れ帰る気でしたら割り切ってくださいよ?
今でも必要な粛正に躊躇いがあるなんて知られたら、流石のヒョウも呆れると思いますから」
「…うん。私の甘さが一番悪かったんだものね」
…カナと麟、上海と目が合ってお互いに同じことを考えたのがわかった。
―――豹は、呆れる資格無いわよね。
「…そっちの話は終わりなのです?
用件が済んだならあたいは早く帰りたいのです」
「あ、ごめんね!もういくつか聞かせてほしいことがあるの!
みんながヒョウくんとどういう日々を過ごしてたのか、簡単にでいいから教えてちょうだい!」
…そう簡単には解放してくれないようね。まあわかっていたことだけれど。